テレワークの普及やデータでのやりとりの増加に加え、電子帳簿保存法の改正など、効率面だけでなく法律面でも『ペーパーレス化』は多くの企業の課題となってきています。どの書類がデータ化できるのか、どのような方法があるのか、など、どこから手をつけていいかわからずお悩みの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、紙書類を無くしたいと思っている方に向けて、ペーパーレス化の効果や手順をまとめました。
ペーパーレス化とは?
『ペーパーレス化』とは文字どおり、紙資料を減らし、生産性向上を図る取り組みです。働き方改革で働き方が多様化し、コロナ禍でテレワークが普及するなど、紙を使い続けるよりもデータ化するほうが効率的に思える状況も増えてきました。2005年に「e-文書法」が施行されて以降は法定文書であっても電子保存を容認する流れが進み、2022年に改正・施行された電子帳簿保存法でも大幅な要件緩和がおこなわれています。
こうした背景から、多くの企業でペーパーレス化実現の取り組みがおこなわれていますが、設備不足や部署ごとのITリテラシーの差などに阻まれて思うように進まず、完全なペーパーレス化への道のりはまだまだ遠い、というのが大方の実情のようです。
ペーパーレス化の効果とは?
コスト削減
書類を印刷すると紙代やインク代がかかり、その他にも保存場所や印刷機器の維持費、郵送や廃棄をするならその費用が必要となります。データのやりとりであればこれらの費用は削減でき、さらに印刷や郵送の作業、手渡しを目的とした移動にかかる人的コストも削減できます。
業務効率の向上
書類の中身がデータ化されることで、必要な情報を素早く見つけることが可能となります。これまで印刷や郵送の作業、手渡しを目的とした移動に費やされていた時間も、他の業務に充てることができます。
オフィスの活用効率アップ
書類をデータ化すると保管スペースが不要になるため、オフィスの空間をより有効に活用できます。少し小さいオフィスに移転してランニングコストを抑える、といった検討も可能となります。
セキュリティ面の強化
データ化した資料や保管場所にアクセス権限を設定することで、「棚に鍵をかける」といったアナログな手法よりも強固なセキュリティを確保できます。誰が・いつ資料にアクセスしたか、ダウンロードしたか記録や管理ができ、仮に情報漏洩が発生した場合も原因を特定しやすくなります。ただし、IDやパスワードの管理を徹底する必要があります。
企業活動PRの強化
既に広く知られているSDGsをはじめ、現代の企業には環境保護への取り組みも求められています。資源やエネルギーの浪費を抑制し、環境問題に配慮した取り組みを進めることで、自社のPRやブランディングにつなげていくこともできます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/index.html
ペーパーレス化を進める手順
① 社内の紙資料と、紙が発生する業務フローをリストアップする
まずは現在、社内の紙資料や書類にはどのようなものがあり、どのような過程で発生しているのかを整理します。社内共有が目的の資料、取引先とやり取りしている書類など、いったんすべてリストアップしていきましょう。
② 電子化できる資料・業務フローを把握する
① でリストアップした書類と業務フローのうち、どれを電子化し、ペーパーレスにするのかを決めていきます。法律で保管方法が決まっている書類もありますので、まずはこれらを取り除きましょう。
<電子化できない書類>
e-文書法で紙で保管するように定められているもの |
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免許証、営業許可証、建築業許可証、船舶に備える安全手引書、など |
参考:e-文書法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000149
電子化できない書類を取り除いたら、さらに”保存義務があるもの”と、”保存義務がないもの”(=社内で自由に運用が決められるもの)に分けておきましょう。
<電子化が可能な書類>
保存義務があるもの |
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年末調整、源泉徴収票、扶養控除申請書、雇用契約書、給与明細書、経費精算書 など |
保存義務がないもの(=社内で自由に運用が決められるもの) |
社内マニュアル、会議資料、就業規則、研修資料、営業資料 など |
一度にすべてのペーパーレス化が難しい場合は、社内でペーパーレス化する優先順位を決めていきましょう。保存場所などを社内周知するだけで可能なものから、システムを利用しないと難しいものもあるため、何をどうやって実現するかを大まかにでも決めておきましょう。
③ 順番と方法を決める
一度にすべての電子化を進めるのは難しいので、電子化したファイルの保存場所を社内周知するだけで終えられるもの、専用のシステムを導入したり、複数の部署と連携しないと難しいものなど、書類や業務ごとの電子化方法と難易度を大まかに掴んで順番を決めます。
電子化方法の例
スキャナ保存
電子ファイル等が存在しない過去の紙資料などは、スキャンしてデータ化し、保存します。必要な人が探しやすいように、ファイルサーバーなどの設定や保存場所のルールなどを整理しておきましょう。
システム導入
コストはかかりますが、効率的にペーパーレス化を実現できます。業務フローごとに複数の異なるシステムを導入するよりも、1つで広い範囲をカバーできるシステムのほうが後の管理がしやすく、従業員も操作に慣れやすいため、扱いやすいことが多いはずです。1つ1つの業務をバラバラに考えず、できるだけ全体を見るようにしながらシステムを選定していくことをおすすめします。
例1『タイムカードの電子化』
タイムカードなど「紙」の打刻システムを使っている場合、勤怠管理システムを導入することで集計などの業務にかかる時間を削減でき、人的ミスを減らすことも期待できます。
例2『年末調整の電子化』
年末調整は2020年10月より電子化への対応がスタートしています。控除申告書だけでなく、添付書類である保険の控除証明書等も電子提出が可能になっていて、控除額の計算や確認作業の軽減が見込めます。
例3『給与明細の電子化』
毎月全員に発行するものだからこそ、印刷・郵送・手渡しなどの費用や作業が発生している場合は、電子化すれば劇的なコスト削減や業務改善が見込めます。
例4『営業資料の電子化』
テレワーク等の普及により、対面に限らずweb会議ツールなどを用いた営業活動も定着してきました。営業資料もPDFなどの電子ファイルで用意し、クラウドサービスでいつでも最新版を取り出せるようにしておけば、営業先のニーズに合わせた資料をすぐに提供することも可能となり、営業の成果や業務効率の向上が期待できます。
④運用ルールを決定する
業務フローを電子化する場合は、運用ルールと切替日をしっかりと決めておきましょう。例えばシフト表を電子化したとしても、印刷して変更を書き加える人がいるようでは正しく運用できなくなってしまいます。申請・編集のルールや操作方法、運用変更スケジュールを事前に十分に共有し、周知しておきましょう。
上の②で仕分けた”保存義務があるもの” を電子データで保存する場合はe-文書法と電子帳簿保存法で保存要件が定められているため、これらに沿って管理ルールを決めていきます。
e-文書法の保存要件
細かい保存要件はその書類が関連する法律などによって異なりますが、おおむね見読性、完全性、機密性、検索性の一部または全部を確保することが求められます。
見読性 | 電子保存したデータを表示や印刷でき、情報を明瞭に読み取ることが可能なこと。 |
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完全性 | 電子データが改ざん・削除されないこと、もしされた場合はその事実がわかること。電子署名やタイムスタンプなどを利用します。 |
機密性 | アクセス制限や暗号化が施され、いつ誰がどのデータにアクセスしたかが管理され、盗難や漏洩を防止する対策がされていること。 |
検索性 | 必要な情報を速やかに引き出せるように整備されていること。データ量が増えても検索がしやすいように、保存場所や命名ルール等に配慮が必要です。 |
e-文書法によって電磁的記録による保存が可能となった規定
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10955906/www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/syourei.pdf
電子帳簿保存法の保存要件
電子帳簿保存法での保存要件では「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データの保存」の3種類の保存区分に分けられます。
<電子帳簿保存>
会計ソフト等を使い電子的に作成した帳簿や書類を「データのまま」で保存することを指しています。これは「データで保存しなくてはならない」ということではなく、紙で保存するかデータで保存するかは選択でき、データで保存する場合は以下の要件を満たす必要があります。
<スキャナ保存>
紙で受領・作成した書類をスキャ二ングして画像データで保存することを指します。こちらも「データで保存しなくてはならない」というものではなく、これまで通り紙で保存することも可能です。
<電子取引データの保存>
請求書や領収書等を、メールなどで電子的に受け取った場合は電子取引となり、そのデータは「オリジナルデータのまま」で保存しておく必要があります。電子取引データを保存する際は、真実性と可視性を確保するため、以下のような要件を満たすようにします。
参考:国税庁 電子帳簿保存法が改正されました(令和3年12月改訂)ほか
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/08.htm
⑤振り返り、改善する
実際に運用を始めると、必ず想定していなかった問題が発生します。実務担当にしかわからないことや、管理者が俯瞰して気付くことなど、さまざまな目線からの意見を定期的に収集し、どうすればその問題が解決するかを継続的に話し合っていきましょう。
まとめ
いかがでしたか?
ペーパーレス化は業務効率の向上やコスト削減をはじめ、大きなメリットが期待できる取り組みです。道のりは長いかもしれませんが、できそうなところから少しずつでも、始めてみてはいかがでしょうか?
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