採用マーケティングという言葉を聞いたことがあるものの、「具体的にどういった手法なのかは知らない」という方もいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事では、採用マーケティングの概要や従来の採用活動との違いなどを踏まえつつ、メリットや取り組みのステップ、ポイントなどをわかりやすくご紹介します。
最後に企業の成功事例もご紹介しているため、ぜひご一読ください。
採用マーケティングの概要
まずは採用マーケティングの基本的な意味や従来の採用活動との違いなどについて解説します。
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、マーケティングの考え方や手法を取り入れた採用手法です。
マーケティングとは「誰の」「どういったニーズに対して」「どのような価値を」「どのように提供するのか」といった、4つの要素を決める取り組みを指します。
採用競争が激化した状況において、上記の4要素は採用活動においても重要なポイントとして考えられるようになり、それに伴いマーケティングの仕組みや手法も採用活動に取り入れられるようになりました。
採用マーケティングでは、現在選考中の候補者だけでなく、退職者(アルムナイ)や過去の選考参加者、既存の従業員などを含めた幅広い人材を対象とします。
採用マーケティングと従来の採用活動の違い
採用マーケティングは、退職者(アルムナイ)や内定辞退者などを含めた様々な対象者とコミュニケーションを図り、採用候補者のデータベースである採用プールを構築します。
今すぐ採用しない人材であっても、定期的にコミュニケーションを図って関係性を構築することで、採用の必要性が生じた際に、スムーズに雇用できる状態を構築することに特徴があります。
対して従来の採用活動は、選考に参加中の人材を主な対象としており、選考が終了した後は内定者以外とのコミュニケーションを図ることはなく、データベースを構築して管理することもありません。
採用マーケティングが注目される背景
採用マーケティングが注目されている背景としては以下の点が挙げられます。
背景①:採用母数の減少
日本は1995年以降生産年齢人口が減少し続けており、その分採用母数自体も縮小しています。
そういった状況下で人材を効果的に採用するには、採用マーケティングによって採用プールを構築し、候補者となる人材層を厚くしなければなりません。
背景②:労働者の多様化
現代の労働者は様々な価値観や志向を持っているため、訴求すべき点や適切なアプローチはそれぞれ異なります。
そのためマーケティングの考え方に基づき、ターゲットとする求職者を定め、ニーズや志向性などを分析することで、個別最適化されたアプローチを実現する必要があります。
背景③:採用手法の複雑化
採用競争の激化に伴い、従来の求人媒体を用いた手法だけに留まらず、ダイレクトリクルーティングやリファラル採用など、様々な採用手法が登場しています。
これらの手法の効果を最大化するには、採用にマーケティングの考え方を取り入れ、採用ターゲットに合わせて適切に組み合わせていく必要があるでしょう。
採用マーケティングに取り組むメリット
ここで採用マーケティングに取り組むメリットをご紹介します。
メリット①:採用の母集団を拡大できる
採用マーケティングに取り組むことで、転職・求職顕在層だけでなく、まだ転職などを考えていない潜在層に対してもアプローチできます。
そのため、将来的な採用候補となる人材との接点も構築でき、母集団を拡大できるでしょう。
メリット②:採用施策の精度が高まる
採用マーケティングでは採用ターゲットを明確にし、そのニーズを細かく分析した上で、アプローチを実施します。
そのため従来の採用施策よりも、各候補者にパーソナライズされた精度の高いアプローチが実現可能です。
メリット③:採用コストの最適化
採用マーケティングでは採用ターゲットやニーズを分析した上でアプローチするため、結果に繋がらない無駄な施策を展開するリスクを抑えられます。
その結果、採用にかける費用や工数といった各種コストを最適化でき、余分な出費も削減できるでしょう。
採用マーケティングのデメリット
次に採用マーケティングのデメリットについてもご紹介します。
デメリット①:マーケティングのノウハウが必要
採用マーケティングに取り組むには、当然マーケティングに関するノウハウや知見などが必要となります。
マーケティングに関連したノウハウが社内で不足している場合、採用マーケティングの取り組みは難しくなるでしょう。
デメリット②:中長期的な運用工数が必要
従来の採用活動では、選考などのタイミングで一次的に工数が増大しますが、選考が終わりさえすれば、それほど工数は発生しません。
一方採用マーケティングの場合は、選考中以外にも採用候補者と定期的な接点を持つ必要があるため、中長期的な工数が生じます。
デメリット③:すぐに効果が現れるとは限らない
リファラル採用やオウンドメディアの運用など、採用マーケティングの手法によっては、中長期的に取り組むことで、ようやく成果として現れるものもあります。
また潜在的な候補者に対してもアプローチするため、実際の採用成果が出るまでに、時間がかかるケースも多くなる点は留意しましょう。
採用マーケティングの基本ステップ
ここからは採用マーケティングの流れを、いくつかのステップに分けてご紹介します。
ステップ①:現状分析
まずは自社独自の強みや特徴といった点を分析し、採用候補者に対して打ち出すメッセージなどの方向性を見極めます。
自社を単独で分析するだけでなく、採用競合となる企業の強みや特徴などを踏まえて相対的に分析することで、より効果的な示唆を得られるでしょう。
ステップ②:採用ターゲット設定
次に実施するのは採用ターゲットの設定です。
- 自社と相性のよい人材とはどのようなタイプなのか
- どんなスキルを持った人材に入社してほしいのか
上記のような点を、社内の採用関係者および現場社員で整理しましょう。
さらに採用ターゲットをより深く分析するために、詳細な人物像である採用ペルソナを策定します。
年齢や性別といった基本的なプロフィールだけでなく、仕事のスタンスや就職・転職において重視しているポイント、現状の悩みといった点まで網羅して策定することで、より精度の高いアプローチに繋げられるでしょう。
ステップ③:採用プールの構築
続いて採用プールを構築します。
採用プールとは、採用候補者の情報を蓄積したデータベースであり、先のステップで策定した採用ターゲットに該当する対象者のデータを集約します。
また日頃の企業活動において採用ターゲットに合致する人材と接触した際は、新たな候補者として採用プールに情報を追加することになるでしょう。
ステップ④:求職者版カスタマージャーニーの策定
採用プールの構築と併せて、求職者版のカスタマージャーニーを策定します。
マーケティングにおけるカスタマージャーニーとは、ターゲットが製品・サービスを購買するまでの各プロセスにおいて、どのようなニーズや悩みを抱えているのかなどを整理した資料です。
このカスタマージャーニーを流用し、採用ターゲットが各採用ファネル(認知⇒情報収集⇒応募⇒選考⇒内定⇒入社)で抱える情報ニーズなどを分析し、提供すべき情報などをまとめましょう。
ステップ⑤:訴求ポイントの絞り込み
採用ターゲットと求職者版カスタマージャーニーの策定を通じて分析したニーズを踏まえ、自社の強みや特徴のうち、どの要素が候補者に対して最も高い訴求力を発揮するのかを見極めましょう。
訴求ポイントを策定する際は、年収などのスペックはなるべく含めず、自社独自の価値観やビジョンといった模倣可能性が低い要素を含めることがポイントとなります。
ステップ⑥:各施策の企画
訴求ポイントが定まった後は、候補者に対してのアプローチ施策を検討します。
カスタマージャーニーの内容をベースにしつつ、具体的な手法や提供するコンテンツなどを設計しましょう。
採用マーケティングに用いられる代表的な手法
ここで採用マーケティングに用いられる代表的な手法について、簡単にご紹介します。
採用オウンドメディア | 採用に特化したオウンドメディアを運用し、採用候補者の役に立つ情報やコンテンツを提供する |
---|---|
採用リスティング | 採用候補者をターゲットとして、検索結果に表示されるリスティング広告を運用し、認知拡大や採用オウンドメディア流入を図る |
リファラル採用 | 既存従業員との良好な関係性を構築し、満足度やエンゲージメントを高めた上で、知り合いや知人を採用候補として紹介してもらう |
SNS運用 | X(旧Twitter)やInstagramなどを用いて、求職者向けコンテンツを投稿し、認知獲得やオウンドメディア流入などを図る |
ステップ⑦:施策実行とデータ蓄積
前ステップで設計した施策を実際に展開しつつ、各候補者へのアプローチ状況や効果などのデータを回収し、採用プールへと蓄積します。
ここで候補者に関するデータを適切に蓄積し、継続的に更新できるかが、採用マーケティングの成否を分けることになるため、しっかりと取り組みましょう。
ステップ⑧:データの検証と改善
採用プールに蓄積されたデータを定期的に検証し、その内容に応じて各施策やアプローチの改善に取り組みます。
施策実施とデータ検証、改善までのサイクルを継続的に回すことで、精度の高い採用マーケティングを実現できるでしょう。
採用マーケティングで活用できるフレームワーク
続いて採用マーケティングで活用できるフレームワークをご紹介します。
3C分析:自社の状況を相対的に分析する
3C分析とは、自社を取り巻く環境を「Customer:顧客」「Competitor:競合」「Company:自社」の3つのCに分類して、分析するフレームワークです。
3C分析を応用することで、競合他社の強みや特徴、採用候補者のニーズなども踏まえた上で、自社の強みや特徴を整理できます。
各Cに該当する情報を列挙しながら、かけ合わせて考えていくことで、採用候補者に訴求すべきポイントを抽出できるでしょう。
SWOT分析:アプローチの方向性を考える
SWOT分析とは、内部環境と外部環境を「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」「Threat:脅威」の4つの要素に整理して、分析するフレームワークです。
3C分析で抽出した情報を整理でき、以下のようにまとめることができます。
Strength:強み | ⚫️ 自社独自の強みや特徴 ⚫️ 候補者に提供できる独自の価値 |
---|---|
Weakness:弱み | ⚫️ 自社の弱み ⚫️ 競合他社に比べて劣っている領域 |
Opportunity:機会 | ⚫️ 求職者のニーズのうち、自社の強みを発揮できる領域 ⚫️ 競合他社が訴求していない要素で自社が訴求できるもの |
Threat:脅威 | ⚫️ 競合他社の強みや特徴 ⚫️ 競合他社が提供している価値で、自社が提供できないもの |
上記のようにそれぞれの領域に該当する情報をまとめた上で、「Strength×Opportunity」や「Strength×Threat」といったように、各要素をかけ合わせることでアプローチの方向性を考えましょう。
STP分析:採用ターゲットと訴求点を絞り込む
STP分析とは、以下の3つの取り組みをまとめたものであり、採用ターゲットと訴求点の絞り込みに役立ちます。
Segmentation (セグメンテーション) | 母集団に含まれる候補者を、特定の属性(年齢や性別、志向や価値観など)を基にいくつかのセグメントに分類する |
---|---|
Targeting (ターゲティング) | 分類したセグメントの中から、採用ターゲットとすべきセグメントを選定する |
Positioning (ポジショニング) | 選定したターゲットセグメントに対して、自社がどのようなポジション(訴求ポイント)を確立すれば、採用競争に勝てるのかを検討する |
ターゲットセグメントに含まれる属性をベースに情報を肉付けしていくことで、採用ペルソナの策定も効率的に行えるでしょう。
顧客行動モデル:採用ファネルの整理に活用する
顧客行動モデルとは、顧客が製品・サービスを購買するまでに辿る行動を整理したモデルです。
たとえば以下のようなモデルが代表例として挙げられます。
AIDMA | AISAS |
---|---|
⚫️ Attention:注意 ⚫️ Interest:興味 ⚫️ Desire:欲求 ⚫️ Memory:記憶 ⚫️ Action:行動 | ⚫️ Attention:注意 ⚫️ Interest:興味 ⚫️ Search:検索 ⚫️ Action:行動 ⚫️ Share:共有 |
これらの顧客行動モデルは採用ファネルを整理する際に役立ち、候補者が採用に至るまでに辿るプロセスをシンプルに分析できるでしょう。
採用マーケティングを成功させるためのポイント
次に採用マーケティングを成功させるためのポイントをご紹介します。
ポイント①:採用ブランディングに取り組む
採用ブランディングとは、自社が候補者に対して提供する価値を採用コンセプトとして明確にし、そのコンセプトを軸として採用活動を行う手法です。
採用マーケティングの前提として、まず採用ブランディングに取り組むことで、ブレのない一貫したアプローチを実現でき、自社の価値観に強く共感した人材を集めることができるでしょう。
ポイント②:マーケティングに関する教育を実施する
採用マーケティングでは、採用活動における様々なシーンで、マーケティング的な発想や手法構築が必要となります。
そのため、効果的な採用マーケティングを実現するには、採用関係者にマーケティングに関する教育を実施し、ノウハウや知見を高めていくことが求められるでしょう。
ポイント③:マーケターを採用チームに参画させる
採用関係者に対してマーケティングに関する教育を実施しても、ノウハウやスキルが身に付くまでには相応の時間がかかります。
そのため社内教育と並行して、現役マーケターを採用あるいは異動させて、採用チームへ参画させることも、一つの方法となるでしょう。
ポイント④:ツールを積極的に活用する
採用マーケティングを成功させるには、各作業を効率化させることは勿論、施策効果なども正確に把握することが求められます。
そこで役に立つのがマーケティング関連のツールです。
以下のようなツールを活用することで、採用マーケティングの効果的な運用を実現できるでしょう。
Web解析ツール | 採用オウンドメディア(Webサイト)への流入数やページの閲覧状況、流入キーワードなどを把握できるツール |
---|---|
コンテンツマネジメントシステム(CMS) | 採用オウンドメディアの構築やコンテンツの投稿・編集、閲覧状況の確認などを行えるツール |
マーケティングオートメーション(MA) | 採用候補者の情報を管理しつつ、メールの自動配信などを実施できるツール |
採用マーケティングの成功事例
最後に採用マーケティングの成功事例をご紹介します。
成功事例①:株式会社二トリ
ニトリは新卒採用の一環として採用サイトを運営し、事業内容は勿論、実際の働き方や先輩従業員がなぜ入社を決めたのかといった情報を提供しています。
またニトリにまつわる数字やデータを、インフォグラフィックスのように視覚的にわかりやすくまとめることで、採用候補者のニトリに対する理解を促進しています。
採用メッセージとして「君の夢は、君を創る」を掲げることで、採用ブランディングに繋げている点も見逃せません。
<参考:「君の夢は、君を創る。」株式会社ニトリ 新卒採用サイト>
成功事例②:任天堂株式会社
任天堂は採用候補者に向けて、「仕事を読み解くキーワード」というコンテンツをWebサイト上で展開しています。
具体的には、現場社員がゲームやハードを開発する際にこだわっているポイントや、どのように開発されているのかといった情報を提供することで、採用候補者に自社の価値観などを浸透させています。
入社前から任天堂の価値観や大切にしている哲学などを体感できるようになっており、これらの要素に共感した質の高い候補者の獲得に繋げている事例と言えるでしょう。
成功事例③:株式会社SmartHR
SmartHRは採用専門サイトを運営し、採用候補者に有益な情報を提供する形で、採用マーケティングに取り組んでいます。
具体的には企業活動を通じて実現したいことや大切にしているバリュー、各職種における働き方やキャリアパスといったコンテンツが提供されています。
また同サイト内でカジュアル面談のページを設け、気軽に企業へ問い合わせができるように導線を設けている点も見逃せません。
これらの取り組みを通じて優秀な人材を獲得し、企業の成長に繋げていると言えるでしょう。
<参考:株式会社SmartHR 採用サイト>
まとめ
今回は採用マーケティングの概要やメリット、具体的なステップなどをまとめて解説しましたが、いかがでしたか。
現代の日本は人口減少が加速したことに伴い採用競争が激化しており、今後もその流れが継続することが見込まれます。
こういった状況においては、採用マーケティングに取り組み、良質な採用プールを構築することが重要になることは言うまでもありません。
ぜひこの記事を参考に採用マーケティングに取り組んでいただければ幸いです。
人材派遣・業務請負に特化した
apseedsの決定版アプリ
貴社専用のスタッフマイページを管理画面から簡単に作成できます。メニューアイコンも事業所ごとに出し分けたりと自由自在。
貴社のスタッフはアプリをインストールしたら本人認証するだけで、社内のさまざまな情報やツールにアクセスできます。
さあ、貴社のDXの第一歩を無料ではじめましょう。