ここ数年、副業・兼業人材の採用に注目が集まっています。豊富な知識や即戦力化が見込める魅力的な人材ではありますが、実際に雇用するなら何に気を付ければいいのか、不安を感じてなかなか踏み切れない…というような方も多いのではないでしょうか?

今回は、副業・兼業人材を雇い入れる際に把握しておくべきポイントをまとめました。

注目されている背景

副業・兼業という言葉は最近多く耳にするようになってきましたが、なぜ今、注目が集まっているのでしょうか?

「働き方改革」による副業・兼業の推進

従業員を10人以上雇用する使用者には就業規則の作成・届出が義務付けられており、多くの就業規則は、厚生労働省が提示する「モデル就業規則」を参考にして作成されています。日本では長い間、ほとんどの企業で終身雇用=「1つの会社に従事する」働き方が主流で、このモデル就業規則にも副業・兼業禁止を意味する「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という一文が記載されていました。このため、国内の多くの企業の就業規則ではこれにならって副業禁止が定められ、副業禁止はこれまでのスタンダードとなっていました。

そんななか、人口減少による労働力の減少、働き手のニーズの多様化などの課題を解決するため、2017年に新たな働き方を提案する「働き方改革実行計画」が閣議決定されました。これまで本ブログでも紹介してきた「同一労働同一賃金」、副業・兼業やテレワークの推進・普及を含む「柔軟な働き方がしやすい環境整備」などが盛り込まれました。これを受けて翌2018年には、「モデル就業規則」から上述の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」が削除、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という副業・兼業を「原則容認」とする文言へと変更され、副業・兼業を推進する政府の方針が明確化されました。

さらに2020年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発表されたことでこの流れが決定的となり、副業・兼業を「原則禁止」としていた就業規則を改定し、「原則容認」とする企業が増えてきています。

「働き方改革」の実現に向けて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
厚生労働省 副業・兼業
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf

コロナ禍による労働者意識の変化

新型コロナ感染症の影響による収入減少や生活費の高騰など、労働者にとって不安要素の多い状況のなか、テレワークなどオンラインでできる仕事が増えたことにより、細かい空き時間を有効に使える副業・兼業への注目が一層高まってきています。

公益財団法人日本生産性本部の『働く人の意識調査(2022年1月)』では「現在副業を行っている」が10%、「将来的には行ってみたい」が36.7%となり、働く人の半数近くが副業・兼業に関心を持っていることが伺えます。

また、求人情報検索サイト『求人ボックス』における「副業」を含むキーワードの検索回数は、2019年1月から2021年7月で5倍以上となっており、労働者の興味や意識が2年半の間に大きく変化していることがわかります。

副業・兼業人材を雇用するメリット

採用活動でのメリット

①スキルの高い人材を探せる

二つ以上の仕事をこなす意欲のある労働者は高いスキルを持っていることも多く、優秀な人材を獲得できる可能性があります。パーソル総合研究所『第二回 副業の実態・意識に関する定量調査(2021年8月)』では、副業人材の受け入れ理由の上位に「高度なスキルを持った人材確保が可能だから」「希少スキルを保有した人材確保が可能だから」が挙がっており、ハイスキル人材の獲得が期待できることがわかります。

②採用ターゲットを広げられる

副業・兼業人材を採用の対象にすることで、転職希望・求職中の状態でなくとも、今の会社を辞めるつもりのない人にもアプローチすることができます。

採用後のメリット

①既存従業員のスキルアップ

多様なスキルを持つ人材から刺激を受けることで、従業員にほどよい競争意識が芽生えることが期待でき、既存従業員のスキルアップが期待できます。

②新たなアイデアの創出

メンバーが固定され、経験の共有がある程度進んでしまっている職場は、新しいアイデアが生まれづらい環境になりがちです。副業人材は既存従業員と違う視点・経験を持っているため、自社内だけでは得られない発想が出てくる可能性が高く、新たな業務戦略を考える際の戦力としても期待できます。

副業・兼業人材を採用する場合の注意点と対策

①労働時間と割増賃金の管理
②情報漏洩リスクへの管理
③健康管理
④各種保険の管理

①労働時間と割増賃金の管理

法定労働時間はもともと1日8時間、1週間40時間と決まっているため、それを超える労働は原則できません。労使間で36協定を締結している場合は協定で定めた上限まで時間外労働をさせることができますが、これも単月では100時間未満、複数月平均80時間以内に収める必要があります。

本業・副業の労働時間を通算し法定労働時間を超える場合は、企業規模により25~50%の割増で賃金を支払う義務が生じますが、どちらの会社が割増賃金を支払うか、原則的な管理方法では「所定労働時間」と「所定外労働時間」で考え方が異なるため注意が必要です。

所定労働時間の場合

まず本業・副業の所定労働時間を通算し、法定労働時間を超える部分があるか、を確認しましょう。時間外労働となる部分がある場合は、時間的に後に労働契約を締結した会社が割増賃金を支払います。

例えば、同じ日の所定労働時間が、先に労働契約を締結していたA社で5時間、後に締結したB社で4時間の場合、2社の所定労働時間の合計が9時間となるため1時間分が法定時間外労働となり、1時間分の割増賃金はB社が支払います。これはたとえ勤務時間帯がB社のほうが早く、午前にB社→午後にA社、の順で勤務していたとしても変わりません。

所定外労働時間の場合

予定なく突発的に発生した所定外労働については、2社の所定労働時間を通算してから所定外労働を通算し、時間的に後に労働した会社が割増賃金を支払います。

例えば、先に労働契約を締結したA社で所定労働3時間+所定外労働2時間働き、後から労働契約を締結したB社で所定労働3時間+所定外労働1時間働く場合を考えます。

2社の所定労働時間の合計が6時間、所定外労働時間の合計が3時間となるため、所定外労働3時間のうち1時間分は法定時間外労働となります。

午前中にA社、同日午後にB社で働いた場合、1時間分の割増賃金は午後に働いたB社が支払います。

ただし、もしその日の勤務の順序が逆で、午前にB社→午後にA社、の順だった場合は、労働契約の締結時期に関係なく、午後に働いたA社が1時間分の割増賃金を支払います。

対策:簡便な管理方法(管理モデル)の導入

兼業の日数が多かったり、所定外労働の頻度が高いうえに労働順が日によって違うことが想定される場合、日によってどちらの企業が割増賃金を支払うかをいちいち確認して処理するのは現実的ではありません。また、法定外となる労働時間が80時間を超えないように、2社がお互いの労働時間をリアルタイムで共有するのも無理があります。

そこで、法律の遵守を最優先にしながら管理負荷を軽くする方法として「管理モデル」を用いた管理方法も紹介されています。労働時間の通算・管理方法は、労働者ごとに前述の原則的な管理方法か、管理モデルを用いた管理方法かのどちらかを採用することになります。

<管理モデルを用いた例>

例えばA社で日中フルタイム7時間、日によって所定外労働1~2時間で働いている労働者が、新たに所定労働2時間のB社で副業を始めるとします。

これまでA社では、残業があったとしても法定労働時間である8時間を超えた分だけ割増賃金を支払っていましたが、先ほどの原則的な管理方法の考え方を採用すると、B社の所定労働2時間が入ることでA社での残業はすべて法定時間外として扱われることになり、A社はこれまでより多くの割増賃金を支払わなければならなくなります。

またA社・B社ともに、この労働者の法定外労働時間が80時間(36協定を締結したうえでの複数月平均の上限)を絶対に超えないよう、自社以外での労働時間数を常に把握しながら管理する手間が発生します。

そこでA社・B社・労働者、三者の事前合意のうえで、A社の賃金支払いについてはこれまでどおり8時間を超えた分だけ割増賃金とし、B社と労働者は前もって、B社の全労働時間を法定外労働時間として扱い、B社の全賃金を割増賃金で支払う労働契約を締結します。

さらに法定外労働時間について、A社は上限30時間、全労働時間が法定外扱いとなるB社は上限50時間、というように会社ごとの上限枠を合計80時間以内で取り決めておきます。

参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf

A社にはこれまでより法定外労働時間を抑える管理努力が求められ、B社の割増賃金の負担は原則的な管理方法に比べると多くなりますが、自社以外での労働時間数の管理に手間をかけることなく確実に法律を遵守でき、副業人材を安全に雇用できます。

注意

2010年に施行された改正労働基準法に基づき、これまで大企業のみが対象だった『月60時間を超える時間外労働の賃金割増率引上げ(25%以上→50%以上)』が、2023年4月からは中小企業にも適用されます。

この場合も「A社での法定外労働のうち20時間を超えた分」「B社での労働時間のうち40時間を超えた分」を50%割増で支払う、というような取り決めをしておくことで、安全に対応できます。

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」パンフレット
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000695150.pdf

②情報漏洩リスクへの管理

複数の企業と職場を行き来する副業・兼業人材は意図的でなくなとも情報を漏洩させてしまうリスクが高いといえます。万が一自社と競合するような会社との兼職だった場合は漏洩時の被害も図り知れません。副業先の申出をきちんと確認する、社内データのアクセス権を細かく設定する、どの情報が漏洩に当たるか指導する、など事前の対策をしっかりとおこなっておきましょう。

③健康管理

自社外での働き方まで把握することはなかなかできませんが、労働者の健康に関してもできる限り注意を払いましょう。体調が悪いときに言い出しやすい環境をつくる。一定期間ごとにカウンセリングの時間を作る、などの配慮を心がけます。

また、2020年9月1日「雇用保険法等の一部を改正する法律」が施行され、労災保険・雇用保険について変更があるため確認が必要です。

労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihukugyou.html

④各種保険の管理

雇用保険

主たる勤務先ですでに加入済であれば副業先での加入手続きは必要ありませんが、自社での1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用を予定していて、他の勤務先ではその条件を満たさず未加入だった場合は、通常どおり雇用保険の加入手続きが必要となります。

例外として、労働者が65歳以上で、所定労働時間が自社で週5時間以上、かつ他社との合計が週20時間以上の場合は、2022年1月に新設された「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を利用して労働者が自主的に雇用保険に加入し、保険料の支払いが発生する可能性があります。加入があった場合は通常の雇用保険と同じように源泉徴収・年度更新を実施し保険料を納付しましょう。

社会保険(厚生年金保険・健康保険)

副業労働者が自社の社会保険の加入条件を満たす場合は、必ず社会保険料の支払いが発生します。どの会社の保険に加入するかは労働者が決めるため、別の会社の社会保険に加入していれば加入手続きは必要ありませんが、自社の社会保険へ加入したい旨の申告があったら通常通り手続きを行いましょう。労働者が年金事務所へ複数就業の届出をすると、社会保険料は加入条件を満たすそれぞれの会社の報酬額で按分され、複数の会社で分け合って支払います。自社で加入していなくても、社会保険料の通知がきたら通常通り納付しましょう。

注意

社会保険の加入条件は2022年10月・2024年10月の2段階で拡大される予定となっています。
令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

労災保険

2020年9月に施行された「雇用保険法等の一部を改正する法律」で、複数の会社に雇用されている労働者の労災保険給付額の算定方法や、負荷(労働時間・ストレス等)の評価方法が変更されています。こちらも念のため確認しておきましょう。

労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousaihukugyou.html

難しければ潔く別の手段を

副業・兼業人材の雇用はやはりハードルが高く、管理業務が増やせない、という場合には、業務委託契約や人材派遣に頼る方法もあります。さまざまな義務を負わずに済む反面、培ったスキルを自社へ還元してもらえる保証はありませんので、強固な信頼関係を構築できるように努めましょう。

まとめ

副業・兼業人材の採用は企業にとってメリットも大きいものの、法律への理解や複雑な管理が要求されるため、限られた労働力を管理業務に回すことができず尻込みしている企業が多いように思います。しかし「労働機会の減少による副業希望者の増加」や、「生活スタイルに合わせられる柔軟な働き方を求める流れ」から、副業・兼業を求める労働者は今後も増えていくと予想されます。採用戦略の選択肢のひとつとして、検討してみてもいいのではないでしょうか。

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