2020年10月、正社員と非正規労働者の間の不合理な待遇差の解消を目的とする「同一労働同一賃金」に関連した、5つの事件(訴訟)について、最高裁の判断が示されました。
様々な理由から非正規雇用で働く労働者が多く存在するなか、株式会社エーピーシーズは『アルバイト・パートで働く人々を支える会社でありたい』という想いから、この「同一労働同一賃金」にも強い関心を持っています。今回はこの最高裁の判断について、事件(訴訟)ごとにまとめてみました。
5つの事件(訴訟)に共通する争点
5つの事件(訴訟)とは、10月13日に判決の出た「大阪医科薬科大学事件」「メトロコマース事件」と、10月15日に判決の出た、東京・大阪・佐賀の各地裁で争われた3件の「日本郵便事件」を指します。
この5つの事件(訴訟)では、契約社員やアルバイトといった非正規労働者と、正社員(無期雇用フルタイム労働者)の間での待遇差を禁止する労働契約法 旧第20条の解釈が争点となっていました。
労働契約法(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
旧第二十条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
引用:【厚生労働省】労働契約法のあらまし 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止(第20条)
労働契約法 旧第20条の内容は、2020年4月1日に施行されたパートタイム・有期雇用労働法(中小企業への適用は2021年4月1日から)の第8条に引き継がれています。
パートタイム・有期雇用労働法(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
引用:【総務省】電子政府の総合窓口 e-gov パートタイム・有期雇用労働法 第八条
この内容に基づいて、不合理な待遇差であるか否かの判断には、以下の3つの要素を考慮します。
- 業務の内容及び責任の程度
- 職務内容・配置の変更の範囲
- その他の事情
各事件(訴訟)の判決のポイント
それぞれの事件(訴訟)について、判決のポイントをみていきましょう。
大阪医科薬科大学事件
この事件(訴訟)は、大学に勤務していたフルタイムのアルバイト職員が、正社員との待遇差について訴えたものです。
今回、審理の対象となったのは賞与と私傷病欠勤補償で、どちらも13日の判決では「不合理とはいえない」とされました。
ここでは賞与の判決について、先ほどの3つの要素で見ていきます。
業務の内容及び責任の程度
アルバイト職員の業務内容は「相当に軽易」である一方で、正社員は英文学術誌の編集事務や病理解剖に関する遺族等への対応、毒劇物等の試薬の管理業務などの業務があり、業務内容・責任の程度について同じ内容とはいえません。
職務内容・配置の変更の範囲
アルバイト職員については原則として業務命令により配置の変更がされることはないのに対し、正社員は就業規則上人事異動を命じられる可能性がありました。
その他の事情
アルバイト職員には、アルバイト職員から契約社員及び正社員へ職種変更するための段階的な試験による登用制度が設けられていたことが考慮されました。
参考:【裁判所】最高裁判例 令和1(受)1055 地位確認等請求事件 令和2年10月13日
メトロコマース事件
この事件(訴訟)は、東京メトロの売店販売員であった契約社員が、正社員と契約社員の賃金格差※について訴えたものです。
※基本給・賞与の格差。資格手当又は成果手当、住宅手当及び家族手当、永年勤続褒賞、退職金の有無。早出残業手当の割増率の違い。
審理の対象となった「退職金の請求」について、13日の判決で「不合理とはいえない」とされました。
この判決についても、3つの要素で見ていきましょう。
業務の内容及び責任の程度
売店での販売という点では同じ業務ですが、休暇や欠勤による欠員の補充として出勤する、という代務業務は正社員のみの業務内容であり、相違がありました。
職務内容・配置の変更の範囲
正社員は配置転換があり、契約社員は勤務場所の変更はあっても業務内容が変わることがない、という点に相違がありました。
その他の事情
契約社員として階級をあげる措置や正社員への登用制度があり、相当数の登用が実際にある、という点が考慮されました。
参考:【裁判所】最高裁判例 令和1(受)1190 損害賠償等請求事件 令和2年10月13日
日本郵便事件
東京・大阪・佐賀の3件とも、各地域で郵便配達業務などを担当する契約社員が、正社員との手当や休暇制度の待遇差ついて訴えたものです。
今回の最高裁では、この3件をまとめて年末年始勤務手当、病気休暇、夏期休暇・冬期休暇、年始期間の勤務に対する祝日給、扶養手当に係る労働条件の相違について審理が行われ、これらは「不合理な格差である」とされました。
手当・休暇の趣旨や目的が考慮された
このケースは上の2つの事件(訴訟)と違い「業務内容が異なる」など3つの要素において、相違があると認められた上で、各種手当や休暇の本来の目的が考慮されました。
病気休暇や扶養手当の支給が「継続的な雇用を確保する」という目的であれば、契約社員であっても「継続的な勤務が見込まれる」のであれば支給されるべきと判断されました。また年末年始勤務手当や年始期間の勤務に対する祝日給が「多くの人が休日として過ごす期間に勤務した対価として」、夏期・冬期休暇が「心身の回復を図るために」与えられるのであれば、契約社員にも正社員と同じように与えられるべきである、ということです。
▽参考
【裁判所】最高裁判例 令和1(受)777 地位確認等請求事件 令和2年10月15日
【裁判所】最高裁判例 令和1(受)794 地位確認等請求事件 令和2年10月15日
【裁判所】最高裁判例 平成30(受)1519 未払時間外手当金等請求控訴,同附帯控訴事件 令和2年10月15日
まとめ
いかがでしたか?今回は「同一労働同一賃金」に関連する5つの事件(訴訟)について、最高裁の判決のポイントをまとめました。
法律の定めがある以上、「非正規労働者だから」という単純な考え方で、待遇に差をつけることはできません。今回の判例も参考にしながら、非正規労働者として働く従業員も安心して働き続けられるように、自社の待遇差は不合理なところはでないのか改めて確認してみてください。