2020年4月から同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法)が施行されました。先日、当ブログでも取りあげた5つの訴訟の最高裁判決も話題になりましたね。(中小企業における「パートタイム・有期雇用労働法」の適用は2021年4月から)

【同一労働同一賃金】最高裁の最新判例をまとめて紹介!「不合理な待遇差」とは?

さて、この同一労働同一賃金には「行政による裁判外紛争解決手続(行政ADR)を整備する」という内容が含まれており、非正規雇用労働者の均衡待遇待遇差の内容・理由に関する説明についても、行政ADRの対象となりました。

今後万が一、同一労働同一賃金関連で労働者とトラブルになった際に、裁判ではなく行政ADRによって解決を図るという選択もできます。

今回はこの「裁判外紛争解決手続」「行政ADR」について、聞いたことはあるけどよくわからない…という方のために、裁判外紛争解決手続(ADR)の概要を説明していきます。

裁判外紛争解決手続(ADR)とは

裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution、略してADR)は、文字通り裁判以外の方法で紛争を解決する手続きのことです。当事者同士での話し合いと裁判の中間に位置づけられ、専門的な知識を持った利害関係のない第三者を交えてトラブルの解決を図ります。

労働者-事業主間の労働関連トラブルだけでなく民事の幅広い分野で利用されていて、ADRの1つである「調停」という言葉なら、聞き覚えのある方も多いかもしれませんね。

裁判外紛争解決手続(ADR)の分類

①提供主体(機関)による分類

ADRを取り扱う機関は大まかに分けて3タイプあり、それぞれの機関が行うADRのことを「○○型ADR」と分類します。

■ 司法機関

簡易裁判所などの裁判所

■ 行政機関

全国の消費生活センターや国民生活センター・公害等調整委員会・都道府県労働局など独立の行政委員会や行政機関

■民間機関

弁護士会仲裁センター・各種PLセンターなど、法務大臣による認証を受けた、弁護士会・消費者団体・業界団体などが運営する機関

②手続の種類による分類

手続の種類は、以下の2つに分類されます。

■ 調整型

当事者間の合意によってトラブルの解決を図ろうとするもの

■ 裁断型

あらかじめ第三者の審理・判断に従うという一般的な合意の下に手続を開始するもの

参考:【厚生労働省】ADRにはどんなタイプのものがあるのですか?

裁判外紛争解決手続(ADR)の種類

ADR機関によって様々な紛争の解決方法が用意されていますが、一般的には「あっせん」「調停」「仲裁」の3つの解決方法をADRと呼びます。

①あっせん(調整型)

「あっせん」は第三者としてあっせん人が間に入り、当事者双方の考えを客観的にまとめるなど、話し合いが円滑に進むように補助します。あっせん人が解決案を提示する場合もありますが、基本的には当事者同士による自発的な解決を図ります。

②調停(調整型)

「調停」も当事者同士での解決を補助する手続ですが、第三者として間に入る調停人によって解決案(調停案)が作成・提示されます。解決案に当事者が同意すれば解決となりますが、解決案に納得がいかなければ拒否することもできます。

「調停」と「あっせん」は似ていますが、第三者が解決案を積極的に提示するかどうかに違いがあります。(ADR機関によっては「あっせん」でも解決案を提示するところもあるようです。)

③仲裁(裁断型)

「仲裁」は、事前に当事者同士の合意(仲裁合意)によって解決を第三者である仲裁人に委ね、仲裁人の判断に従うことで紛争を解決します。仲裁人による判断には、裁判の判決と同じように強制力があります。

一見「裁判」と似た仕組みですが、事前に合意を行うことと、仲裁合意した紛争については裁判を受けられなくなってしまう点には注意が必要です。裁判の「上訴」に相当する制度がないため、仲裁判断に不服を申し立てることはできません。 

参考:【厚生労働省】ADRによる解決方法にはどんなものがあるのですか? 

裁判外紛争解決手続(ADR)のメリット・デメリット

メリット

ADRは裁判と比較して手続が簡単・迅速であるため、時間や費用を抑えてトラブルの解決を図ることができます。

また、裁判は内容が公開されますがADRは非公開のため、関係者以外にトラブルの内容や調整結果などの情報を知られることはありません。

デメリット

ADRでの解決には、あくまでお互いの合意が必要です。あっせん・調停の場合には解決案に強制力がないため、当事者の片方が解決に向けて消極的であれば、解決することができません。結果的に裁判へ移行することとなった場合、時間と費用が余計にかかってしまいます。

また間に入る第三者について、公的な認証を受けた機関であったとしても、裁判官と比較すると公正さや中立性は劣る可能性があります。

裁判かADRかの選択は、解決にかかる時間や費用だけで判断せず、トラブルの内容を踏まえて判断することが重要といえます。

参考:【厚生労働省】ADRを利用するメリットは? 

労働問題を解決する裁判外紛争解決手続(ADR)はどれ?

労働問題を解決するのは、主に都道府県労働局が行う「行政ADR」です。紛争調整委員会による「あっせん」での解決もありますが、同一労働同一賃金に関連する労働問題の場合には、基本的に調停委員会による「調停」で解決を図ります。

まとめ

いかがでしたか?今回は裁判外紛争解決手続(ADR)の概要を説明しました。

同一労働同一賃金の実現に向かっていく中で、「待遇差」を巡って労働者とトラブルになってしまうことあるかもしれません。こういった場合には、冒頭の5つの事件(訴訟)のような裁判ではなく、行政ADRを活用して紛争解決を図る選択もできます。

ADRでのトラブル解決は第三者が間に入ってくれるため、当事者同士の直接的な話し合いに比べて冷静で、円満な解決を期待できそうです。片方がトラブル解決に消極的な場合は活用が難しくなりますが、裁判以外にもこんな手段がある、という事を、ぜひ覚えておいてください。