「アルバイトの労務管理上の注意点を知りたい」

この記事は上記のような思いを持たれている方に向けて、労務管理の概要や役割をおさらいしつつ、アルバイトの労務管理上の注意点を12個ご紹介します。

外国人アルバイトの労務管理の注意点も併せて解説していますので、ぜひ最後までご確認ください。

労務管理とは

まずはそもそも労務管理とは何かについて、概要や法定帳簿などを簡単におさらいしておきましょう。

労務管理の概要

労務管理とは従業員の勤怠や福利厚生、賃金などの労働条件といった、労働に関する様々な事項を管理する業務の総称で、多くの場合人事部門が担っている業務になります。

企業において従業員は資産の一つとして扱われます。その従業員の労働環境や条件などを整備して、パフォーマンスを最大化させることが労務管理の目的と言えるでしょう。

昨今、人的資本経営が注目される中で、労務管理の重要性も改めて認識され始めました。

労務管理の法定四帳簿

労働基準法では労務管理上の四帳簿が規定されており、作成から5年間保管することが義務付けられています。

適切に管理していない場合、30万円以下の罰金が科されるため、しっかりと管理する必要があると言えるでしょう。

帳簿①:賃金台帳

一つ目の帳簿が賃金台帳です。賃金台帳は従業員の氏名・性別は勿論、基本給及び手当額や賃金計算期間、労働時間数などが記載されている書類で、事業場ごとに作成することが求められます。

雇用形態を問わず給与を支払った全ての従業員が対象となるため、アルバイトやパート従業員も管理対象となる点は留意しておきましょう。

帳簿②:労働者名簿

続いてご紹介するのは労働者名簿です。労働者ごとに作成する必要がある帳簿で、氏名や生年月日、履歴や従事している業務、雇入年月日などを記載しています。

こちらも事業場ごとに作成して管理しなければなりません。

帳簿③:出勤簿

次にご紹介するのは出勤簿です。出勤簿は労働時間を記録した帳簿であり、労働者の氏名や出勤日、始業・終業時間、休憩時間などを管理することになります。

勤怠管理表やタイムカードで出勤簿を兼ねることはできますが、必要項目などはあらかじめ確認しておく必要があるでしょう。

帳簿④:年次有給休暇管理簿

法定帳簿の最後にご紹介するのは年次有給休暇管理簿です。

2019年4月から新たに追加された帳簿で、労働者ごとに年次有給休暇の付与日や付与日数、取得日を管理するために作成します。

まだ法定帳簿に加入してから年数が浅く、現時点で本帳簿のみ罰則規定はありませんが、こちらも忘れずに作成し管理しましょう。

労務管理の6つの役割

労務管理の概要や法定帳簿を押さえていただいたところで、ここからは労務管理の主な役割を6つご紹介していきます。

役割①:就業規則の整備・管理

労務管理の役割としてまずご紹介するのは、就業規則の整備や管理です。

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する企業は就業規則を作成しなければならないと定めています。

アルバイトやパート従業員も含めて10人以上雇用している場合、就業規則を作成した上で厚生労働省へ届け、その後も適切に管理する必要があります。

これらの対応は労務管理の基本と言えるでしょう。

役割②:労働契約の締結

労働契約の締結も労務管理の重要な役割となります。

従業員を雇用する際、契約期間や就業場所、従事することになる業務内容など、労働条件を明示しなければなりません。

そのために労働条件通知書や雇用契約書などを作成して、従業員と取り交わす業務なども労務管理の重要な業務の一つと言えるでしょう。

役割③:労働条件の管理

続いて紹介する役割は労働条件の管理です。

従業員を雇用した後、会社の状況や方針に従い配置転換などを行うことになりますが、その場合労働条件も変更する可能性があります。

労働条件を変更する場合、強制するのではなく従業員の合意を得る必要があり、そういった従業員への通知や話し合いなども労務管理における重要な役割になるでしょう。

役割④:勤怠管理・給与計算

次にご紹介する役割は勤怠管理・給与計算です。

労務管理と言えば、勤怠管理や給与計算をイメージされる方も多いでしょう。

先にご紹介した賃金台帳や出勤簿などを基に、雇用している従業員の勤怠管理や給与計算を行うことも労務管理における主な役割の一つとなります。

役割⑤:福利厚生の管理

従業員を雇用する際、一定条件を満たす場合、健康保険や厚生年金、雇用保険といった社会保険への加入が必要となります。

これらの法定福利とは別に、通勤手当や資格取得支援、給与前払いといった法定外福利などを運用していることもあるでしょう。

これら福利厚生制度の整備や管理も労務管理における役割の一つです。

役割⑥:安全衛生管理

労務管理の役割として最後にご紹介するのは、安全衛生管理です。

安全衛生管理には従業員の健康診断やメンタルヘルスチェックの実施を始め、様々なハラスメントへの防止対策検討なども含まれます。

これらの業務も労務管理における大きな役割と言えるでしょう。

アルバイトの労務管理における12の注意点

労務管理の役割を確認いただいたところで、アルバイトの労務管理における12の注意点についてご紹介していきます。

注意点①:労働条件は必ず明示する

まず挙げられる注意点は、労働条件は必ず書面で明示するという点です。

先にも触れましたが従業員を雇い入れる場合、必ず労働条件を明示しなければなりません。

アルバイトの場合、口頭での説明で終わらせてしまう企業もありますが、本来雇用形態に関係なく労働条件は明示しなければならないので、その点は留意しておきましょう。

注意点②:扶養控除の要件を認識しておく

アルバイトで働く従業員の中には、配偶者や保護者の扶養に入っている人もいるでしょう。

しかし雇用条件次第で扶養枠から外れてしまうため、扶養控除の要件を認識しておく必要があります。

具体的には以下の条件を満たした場合、扶養控除が適用されます。

  • 健康保険における扶養:年収が130万円未満
  • 税法上の扶養:年収が103万円以下

上記を超えるような雇用契約を締結すると扶養枠から外れることになるので、扶養内での就業を希望しているアルバイトの雇用を検討する際はその点を注意しましょう。

注意点③:最低賃金を下回る給与設定はできない

アルバイトであっても最低賃金を下回る給与設定は無効です。

最低賃金は最低賃金法によって定められており、仮に最低賃金よりも低い金額で本人が同意した上で契約をしたとしても違法となります。

最低賃金を下回る賃金を支払った場合、50万円(地域別最低賃金)もしくは30万円(産業別最低賃金)の罰金が科されますので注意しましょう。

注意点④:損害賠償額を予定する契約は無効

続いて紹介するのは、あらかじめ損害賠償額を設定することはできない点です。

労働基準法第16条では、労使契約においてあらかじめ違約金や賠償金などを規定することを禁止しています。

そのため雇用契約書を作成する際は、こういった規定を含めないように注意しましょう。

注意点⑤:雇用条件次第で各種保険が適用される

アルバイトでも条件を満たせば保険が適用される点にも注意する必要があります。

例えば社会保険の加入条件は、「1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上」となっており、これを満たす場合雇用形態に関係なく加入させなければなりません。

また上記の条件を満たさない場合でも、以下の点に該当する場合加入が義務付けられています。

  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 2か月を超える雇用の見込みがある
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 学生以外
  • 従業員が101人以上の事業所に勤めている(2024年10月以降は51人以上)

注意点⑥:時間外労働に対する割増賃金支払いは必要

続いてご紹介するのは割増賃金に関する注意点です。

たとえアルバイトであっても時間外労働に従事させた場合、当然割増賃金が適用されます。

もしアルバイトに時間外労働をさせたにもかかわらず、割増賃金を支払わなかった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

注意点⑦:掛け持ちアルバイトの割増賃金の考え方を理解する

アルバイトに対して割増賃金を支払う場合、アルバイトが掛け持ちで働いていないかを確認する必要があります。

アルバイトが掛け持ちしており、その合計所定労働時間が法定労働時間を超える場合、後から雇用契約を締結した会社が割増賃金を支払います。

所定労働時間の合計が法定労働時間を超えない場合は、所定労働時間の合計に時間外労働時間を足し、法定労働時間を超えたところから割増賃金が発生します。

この場合、実際に法定労働時間を超えて労働をさせた会社が支払い義務を負います。

注意点⑧:労働時間次第で休憩時間も付与する

またアルバイトであっても労働時間次第で休憩時間を付与しなければなりません。

労働時間が6時間を超える場合は45分の付与が義務付けられており、また8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与える必要があります。

注意点⑨:満18歳に満たない人に深夜残業させることは不可

また満18歳に満たない人は原則深夜残業ができないことも留意しておくべきでしょう。

18歳未満のアルバイトを雇う場合、原則22時~5時の深夜残業に従事させることは違法となっています。

ただし、交代制によって雇用する満16歳以上の男性の場合は可能です。

注意点⑩:年次有給休暇は忘れずに付与する

続いてご紹介する注意点は、年次有給休暇を忘れずに付与するという点です。

具体的には以下の条件を満たした場合、年次有給休暇の付与対象となります。

  • 雇い入れの日から6か月経過している
  • その期間の全労働日の8割以上出勤している

ただし所定労働日数が少ない場合、付与日数は少なくなりますので、その点も押さえておきましょう。

注意点⑪:法定休日の不足に注意する

法定休日とは雇用主が従業員に対して必ず与えなければならない休日で、毎週1回もしくは4週間の間に4日以上の休日を与えることが求められています。

シフト勤務であることも多いアルバイトの場合、勤怠管理を適切に行わなければ法定休日が不足してしまう可能性もあるため、注意しましょう。

注意点⑫:予告や手当支給が無い解雇は違法

最後の注意点は、解雇予告や手当がない解雇は違法であるということです。

正社員とは異なり、アルバイトは簡単に解雇できると考えてしまう方もいるかもしれませんが、アルバイトを解雇する場合も労働基準法などに則った形で対応しなければなりません。

具体的には少なくとも30日前に解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。

【補足】外国人アルバイトの労務管理における注意点

最後に外国人アルバイトの労務管理上の注意点についても、併せて確認しておきましょう。

注意点①:労働条件通知書は簡単な日本語か母国語で作成する

まず挙げられるのは、労働条件通知書を簡単な日本語か母国語で作成すべきという点です。

日本で在留資格を取得している外国人は、日常会話レベルの日本語を話すことができますが、読み書きは難しい場合が多くなります。

そのため外国人アルバイトを雇用する際は、簡単な日本語か母国語で記載した労働条件通知書を作成し、契約内容が正しく伝わるようにする必要があるでしょう。

注意点②:在留資格と業務内容は一致させる

在留資格と業務内容を一致させる必要がある点も押さえておくべきです。

在留資格にはそれぞれ従事できる活動範囲が規定されており、それを超過した活動をすることは禁じられています。

そのためアルバイトであっても在留資格と従事できる業務を確認し、実際に任せようと思っている業務と一致させる必要があります。

注意点③:在留期間を把握しておく

続いてご紹介する注意点は、在留期間を把握しておくという点です。

永住者などの一部の在留資格を持つ外国人を除き、ほとんどの外国人の在留期間には定めがあります。

在留期間が迫ってきた場合、必要に応じて更新手続きを実施しなければ、不法就労助長罪などに該当する恐れがあるので注意しましょう。

注意点④:資格外活動許可の上限時間を把握しておく

また留学生をアルバイトとして雇用する場合、資格外活動許可が必要となるため、在留カードと合わせて資格外活動許可を得ているか確認しましょう。

また資格外活動許可による就労は上限時間が設けられており、全てのアルバイトの就労時間を合わせて週28時間までとなっています。

他にアルバイト先がある場合は、そちらの就労時間と合算することになるので、そのあたりも留意しておかなければなりません。

まとめ

今回はアルバイトの労務管理をテーマに解説してきましたが、いかがでしたか。

本記事でもご紹介してきた通り、アルバイトであっても原則労働基準法を中心とした労働関連法規は適用されることになります。

そのためアルバイトの労務管理は、基本的に正社員と同じように対応する必要があり、外国人アルバイトの場合は特有の注意点もあります。

ぜひこの記事を参考に、アルバイトの労務管理に臨んでいただければ幸いです。

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