平成30年度税制改正で基礎控除・給与所得控除などの見直しが行われ、令和2年(2020年)1月から改正が適用されたことにより、今年度分の年末調整からは、提出する控除申告書の様式が大幅に変更されます。

この変更により年末調整手続が煩雑になるため、国を挙げて電子化が推進されます。

企業の人事労務担当者は、年末調整業務に向けた準備のため、変更点をきちんと押さえておく必要がありますよね。そこで今回は、税制改正の内容と年末調整の変更点、手続の電子化について解説していきます。

税制改正による変更点は?

基礎控除の見直し

基礎控除とは、所得税や住民税の対象となる「課税所得金額」を算出する際、課税の対象外として引き去ることのできる「所得控除」の1つです。

今回は個人の合計所得金額が2,400万円以下の場合、基礎控除額が一律10万円引き上げられ減税されます。対して、2,400万円を超える高所得層は、合計所得金額に応じて基礎控除額が減額またはゼロとなり、増税となります。

参考:【国税庁】No.1199 基礎控除

給与所得控除の見直し

給与所得控除も「所得控除」の1つで、給与所得者の収入金額に応じた一定額を「経費」とみなして課税対象外にします。

「給与等の収入金額」が850万円以下の場合、給与所得控除は一律で10万円引き下げられますが、先ほどの基礎控除の10万円引き上げと相殺され、基礎控除と給与所得控除の合計額はプラスマイナスゼロとなります。

給与所得控除が適用される「給与等の収入金額」の上限額は、1,000万円超から850万円超に変更され、上限額は220万円から195万円に引き下げられます。つまり、「給与等の収入金額」が850万円を超える場合は、給与所得控除が195万円(給与等の収入金額が850万円の場合と同額)に固定されます。そのため、給与所得控除の引き下げ額が基礎控除の引き上げ額(10万円)を上回ることになり、増税となります。

参考:【国税庁】No.1410 給与所得控除

所得金額調整控除の創設

前項のとおり「給与等の収入金額」が850万円を超えている場合、改正後の給与所得控除額は一律195万円となるため、改正前と比較すると給与所得控除が最大で25万円引き下がります。そこで、子育て・介護世帯の負担が増えないよう、控除額を調整する「所得金額調整控除」が創設されました。

適用されると、給与所得控除との合計引き下げ額が実質10万円となるように最大15万円が調整控除されるため、基礎控除10万円の引き上げと相殺でき、改正前と比較しても税負担はプラスマイナスゼロとなります。

(例)「給与等の収入金額」が950万円の場合の基礎控除と給与所得控除

「給与等の収入金額」が850万円超で所得金額調整控除の適用を受けるには、以下のいずれかの条件に該当し、年末調整の際に「所得金額調整控除申告書」を提出する必要があります。

所得金額調整控除 適用対象者
  • 本人が特別障害者
  • 23歳未満の扶養親族がいる
  • 特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる

参考:【国税庁】所得金額調整控除に関するFAQ(源泉所得税関係)

配偶者控除などの要件見直し

基礎控除・給与所得控除の見直しにより、各種控除の対象となる扶養親族等(配偶者、勤労学生など)の合計所得金額の要件も見直され、一律で10万円の引き上げとなります。

ただし給与所得控除が10万円引き下げられているため、給与収入金額の要件に変更はありません。

参考:【国税庁】各種控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正(令和2年分以降)

年末調整の控除申告書の様式変更

以上の変更により、給与所得者は令和2年分の年末調整を申告する際に、基礎控除・所得金額調整控除の適用を受ける場合は、それぞれの控除申告書を提出しなければならなくなりました。

この改正に伴い、書類が増えないよう従来年末調整で使用されていた「給与所得者の配偶者控除等申告書」に、2種の申告書を追加し「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という様式へ変更されました。

参考:【国税庁】[手続名]給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除の申告

年末調整手続の電子化への取り組み

3種の申告書が1つになった兼用様式への変更に伴い、従業員が記入すべき項目や記入欄も変わることになります。特に紙ベースで年末調整手続を行っている場合、各書類を作成・記入する従業員はもちろん、各従業員が記入すべき項目を把握し確認する人事労務担当者の業務負担も、より一層重くなってしまいます。

これを踏まえ、従業員・人事労務担当双方の負担軽減のため、年末調整手続の電子化に向けた取り組みが推進されています。

政府による取り組み

令和2年分の年末調整からは、従来保険会社等から書面(ハガキなど)で交付されていた控除証明書は、電子データで取得・提出ができるようになります。

さらに、控除証明書の電子データをインポートすることにより、従業員が提出する年末調整の控除申告書データを簡単に作成できる「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」が国税庁から無償で提供されることになっており、国を挙げて電子化の促進が行われています。

企業による電子申告や電子提出の一部も義務化

同じく平成30年度税制改正により「電子情報処理組織による申告の特例」が創設され、資本金の額等が1億円を超える大規模法人等が行う法人税・消費税に関わる申告について、令和2年4月1日以後に開始する事業年度からはe-Tax(国税電子申告・納税システム)の利用が義務づけられました。

また、企業が税務署に提出する「給与所得の源泉徴収票」などの法定調書についても、令和3年(2021年)1月1日以降の提出分から、前々年の当該法定調書の提出枚数が100枚以上だった場合、e-Tax又はCD・DVDなど光ディスクによる電子提出が義務化されます。こちらの判定基準はこれまでの1,000枚から100枚へと大幅に引き下げられたため、来年に向けて電子化対応を進めていく必要のある企業も多いのではないでしょうか。

参考:【国税庁】大法人の電子申告の義務化について

   【国税庁】法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要について

   【国税庁】e-Tax又は光ディスク等による提出義務基準の引き下げについて

電子化によるメリット

各種控除証明書の電子データ化や年調ソフトなど、年末調整手続を電子化することで従業員・人事労務担当にはそれぞれどのようなメリットが考えられるでしょうか。

従業員側のメリット

これまでの手書きでの申告書の記入や、各種控除証明書の書面での提出を省くことができます。

また、各種控除証明書が電子データとなることで書面の保管も不要となり、紛失した場合の、保険会社等への再発行依頼の手間もなくなります。

勤務先・人事労務担当側のメリット

従来の紙ベースでは、申告書の提出を催促したり、記載内容や計算に誤りがないか確認したり、添付書類を確認したのち、入力作業まで行う必要があります。提出された申告書に抜け漏れ・ミスがあった場合は、従業員本人への差し戻し、再確認の手間も発生してしまいます。

申告書を電子化すれば、手書きによる記載ミスを低減することができ、数値計算は年調ソフトが自動で行うため、検算の必要もありません。さらに、システムへの入力作業や、提出された書類の保管コストも削減することができます。

参考:【国税庁】年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)

業務フローの見直しも!電子化に必要となる準備とは

業務フローの再確認

従来の紙ベースでの手続と電子化した手続とでは、必然的に業務フローが異なってきます。年末調整を電子化する場合は業務フローを見直しておく必要があるでしょう。

従来の紙ベースの場合

紙ベースの場合、申告書の内容確認や控除額の検算は欠かせません。そのため、従業員数の多い企業ほど、年末調整を行う時期は人事労務の業務負担が重くなりがちです。

また、今回は控除申告書の様式変更に伴い、記入方法や必要な項目なども再指導する必要があります。

紙ベースの業務フロー
  1. 人事労務担当:手渡しや郵便で申告書を配布
  2. 人事労務担当:従業員へ申告方法などの説明
  3. 従業員   :申告書の記入・提出と各種控除証明書の原本提出
  4. 人事労務担当:申告書の内容確認・差し戻し・再確認
  5. 人事労務担当:申告書の控除額等の数値を検算
  6. 人事労務担当:給与システムに手入力し年末調整の計算
  7. 人事労務担当:翌年1月31日までに各種法定調書を税務署に提出

電子化した場合

電子化する場合は「年調ソフト」など申告書データ作成に使用するソフトを準備し、従業員へ使い方の説明・不明点の問い合わせ対応が必要になるでしょう。また、各種控除証明書も電子データで取得してもらう必要があるため、電子化する旨は早目に周知しておくように心がけた方が良さそうです。

電子化する場合の業務フロー
  1. 全社員   :「年調ソフト」のインストール
  2. 人事労務担当:従業員へ申告方法などの説明
  3. 従業員   :年末調整申告書・各種控除証明書をデータ提出
  4. 人事労務担当:申告書の内容確認・差し戻し・再確認
  5. 人事労務担当:給与システムにデータを読み込み年末調整の計算
  6. 人事労務担当:翌年1月31日までに各種法定調書を税務署に提出

申告書データ作成ソフトの選定

業務フローでも触れましたが、年末調整手続を電子化する場合は使用する申告書データ作成ソフトを選定し、準備しておく必要があります。

国税庁から提供される「年調ソフト」ももちろん使用できますが、出力される「年末調整申告書XMLデータ」の仕様は政府から公開されているため、申告書データは「年調ソフト」に限らず、同様の仕組みを取り込んだ民間企業のソフトウェアを利用して作成することもできます。

企業によっては、現在すでに利用している給与システムの提供会社が申告書作成ソフトの提供を開始する可能性もありますので、ぜひ事前に確認してみてください。

参考:【国税庁】年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)

税務署へ電子化の事前申請

従業員の年末調整申告書を電子データで受け取ることにした場合、あらかじめ所轄の税務署長に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。

従業員からデータ提供を受ける前々月末日までに申請を行えば、税務署から承認しないことの決定通知がない限り、翌月末日には承認があったもの、とすることができます。

具体的には、従業員からの年末調整申告書データを令和2年10月1日から受け付けたい場合、同8月31日までに申請を行い、税務署から承認しないことの決定通知がなければ、同9月30日には承認があったものとみなされます。

ちなみにこの承認を受けた後、従業員が申告書を電子データではなく書面で提出してきたとしても、特に問題はありません。

参考:【国税庁】[手続名]源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請

従業員への周知

年末調整手続を電子化するにあたり、従業員からの事前承諾は特に必要はありませんが、各種控除証明書を電子データで受領・提出してもらう必要があるため、事前周知は十分に行っておきましょう。

各種控除証明書の電子データは契約している保険会社等のホームページ等から取得できますが、政府が推奨する「マイナポータル連携」を活用すれば、複数の控除証明書等データを一括取得でき、各種申告書への自動入力も可能になります。

「マイナポータル連携」自体は必須ではありませんが、従業員の手間を確実に軽減できます。従業員がマイナンバーカードを持っていない場合には、マイナンバーカードの発行には1ヶ月ほどかかるため、書類作成の2ヶ月ほど前から準備を進める必要があります。「マイナポータル連携」について、早い段階から従業員に周知してあげると良いかもしれません。

参考:【国税庁】マイナポータルを活用した年末調整及び所得税確定申告の簡便化

まとめ

いかがでしたか?今回は、税制改正による変更点と、年末調整手続の電子化について解説しました。

毎年行っている年末調整も、紙ベースのままでは従業員・企業担当者双方の作業負担が大きくなります。政府から提供される「年調ソフト」や「マイナポータル連携」などもうまく活用しながら、電子化準備を進めてみてはいかがでしょうか。

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