人事労務に携わっている方にとって、年末調整は年末の一大イベントであり、はじめて対応する方には不安の多い業務になっていることでしょう。
そこでこの記事では年末調整の定義や対象となる従業員の条件、罰則などについてわかりやすく解説していきます。
年末調整のスケジュールや必要書類についてもご紹介していますので、年末調整の基本を押さえたい方は是非ご一読ください。
年末調整とは
はじめに年末調整の概要や対象者などについて、簡単におさらいしていきましょう。
年末調整は雇用主の義務である
年末調整とはすでに従業員の給与から源泉徴収している所得税と、年間で納めるべき正確な所得税の差を清算するための手続きです。
所得税法190条を根拠として、雇用主の義務とされています。
従業員に毎月支払っている給与から源泉徴収している所得税は、正確に計算して算出したものではなく、あくまで概算した金額となっています。
そのため年末調整にてその差額を計算し、多く徴収している場合は還付し、足りない場合は追加で徴収するといった対応を行わなければなりません。
年末調整と確定申告の違い
年末調整と類似する手続きとして確定申告というものがあります。
確定申告とは毎年2月16日~3月15日までの間に、前年の1月から12月の所得を申告し、所得税を納付する手続きのことを指します。
年末調整と同じく所得税の納付を目的とした制度ですが、確定申告は主に個人事業主やフリーランスが実施する手続きです。
企業側が実施する年末調整とは、実施主体が異なる点において大きく違うと言えるでしょう。
年末調整の対象と対象外となる従業員
ここまで年末調整の概要をお伝えしてきましたが、ここから年末調整の対象となる従業員と、対象外となる従業員について確認していきます。
年末調整の対象となる従業員
年末調整は企業に勤めている従業員が対象となりますが、全ての従業員が対象となるわけではありません。
年末調整の対象となるのは以下の条件を満たしている従業員に限ります。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出している
- 12月31日時点で企業に在籍している
上記の条件を満たしていれば、雇用形態に問わず年末調整の対象となります。
そのためアルバイトやパート、派遣労働者などの非正規雇用労働者も年末調整の対象となる可能性がある点は留意しておきましょう。
また以下の条件に当てはまる従業員は、年の中途で年末調整を実施することになります。
- 海外支店への転勤などによって非居住者となった人
- 死亡により退職した人
- 著しい心身障害のために退職した人
- 12月に支給されるべき給与などの支払いを受けた後に退職した人
- いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人
年末調整の対象外となる従業員
雇用している従業員であっても、以下のような方については年末調整の対象にはなりません。
- 給与収入が年間合計で2,000万円を超える従業員
- 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税および復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた従業員
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書を提出していない従業員
年末調整を行わない場合の罰則
年末調整は冒頭でもお伝えした通り、所得税法190条によって企業の義務とされており、正しく対応しない場合は懲役や罰金が科されることになります。
具体的には以下の2つのケースが挙げられるでしょう。
1年以下の懲役または50万円以下の罰金となるケース
まずご紹介するのは1年以下の懲役または50万年以下の罰金となるケースです。
こちらの罰則は、年末調整を行わずに従業員から正しい税額を徴収しなかった場合に該当します。
こちらの罰則は所得税法242条によって定められています。
10年以下の懲役または200万円以下の罰金となるケース
続いてご紹介するのは、10年以下の懲役または200万円以下の罰金となるケースです。
先ほどよりも懲役年数が長く、罰金額も高くなっており、それだけ重い罰則となっています。
こちらは、年末調整を行い従業員からは所得税を徴収したにもかかわらず、所得税を納付しなかった場合に課されることになります。
所得税法240条により定められており、懲役と罰金が併科される可能性もあるので注意しましょう。
【補足】追加で課税されるケース
懲役や罰金といった罰則ではありませんが、追加で課税されるケースもあります。
例えば年末調整を実施したものの、期日までに所得税が納付できなかった場合は「延滞税」が生じます。
納付期日の翌日から自動的に課税され、納付期日の翌日から2か月超過するまでは年「7.4%」、2か月を経過した日以後は「14.6%」の割合の延滞税が課される形になります。
また本来納付すべき所得税よりも納付した所得税が少なく、かつ税務署の調査によりその事実が発覚したり、申告税額の更生を受けたりすると、過少申告加算税が課されることになるでしょう。
過小申告加算税は、新たに納めることになった税金の10%相当となることが多くなります。
年末調整の手続きの流れ
最後に年末調整の手続きの流れについて解説していきます。
年末調整の大まかなスケジュール
年末調整の全体スケジュールとしては以下のようになります。
- 10月下旬~11月中旬:従業員から必要書類を回収
- 11月下旬~12月:差額計算や清算の実施、源泉徴収票の発行
- 翌年1月10日まで:源泉徴収税の納付
- 翌年1月31日まで:法定調書の提出
ここからは上記のスケジュールについて、それぞれ確認していきましょう。
ステップ①:従業員から年末調整に必要な書類を回収する
年末調整は、従業員から年末調整に必要な書類を回収するところから始まります。
10月下旬頃より、年末調整の対象となる従業員に対して必要書類を配布し、準備してもらうことになるでしょう。
必要な書類としては以下の通りです。
【全対象者共通】
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
【該当者のみ】
- 生命保険料の控除書
- 地震保険料の控除書
- 小規模企業共済等掛金払込証明書
- 国民年金の控除証明書などの社会保険料を証明する書類
- 住宅ローン控除に必要な借入金の年末残高等証明書
これら書類について従業員に必要事項を記入・準備してもらい、11月中旬までに提出してもらうことになります。
ステップ②:源泉徴収額と実際の所得税の差額を確認
続いて、源泉徴収額と実際の所得税の差額を確認していきます。
各従業員から書類を回収するとともに、年間給与の計算と確定を行い、毎月の給与から徴収した金額と実際の所得税の差額を計算していくことになるでしょう。
ステップ③:源泉徴収票の発行と差額の清算
源泉徴収額と実際の所得税の差額計算が終われば、源泉徴収票の発行を行います。
またこの時点で従業員ごとに過剰に徴収していた場合は還付、徴収した所得税が足りなかった場合は追加徴収の対応を実施し、差額の清算を実施しなければなりません。
ステップ④:源泉徴収税の納付
続いてのステップは源泉徴収税の納付です。
12月までに清算して過不足なく所得税を徴収した後は、源泉徴収税を税務署に納付しましょう。
期日は1月10日となっており、ここを過ぎてしまえば先にご紹介した延滞税が発生してしまうので注意が必要です。
ステップ⑤:法定調書の提出
年末調整の最後のステップは法定調書の提出です。税務署に対しては以下の書類を提出します。
- 源泉徴収票
- 支払調書
- 源泉徴収票などの法定調書合計表
それと合わせて市区町村の役所に給与支払報告書とその総括表を提出しましょう。
それぞれ1月31日までに提出する必要があります。
【補足】もし従業員から書類が提出されない場合の対応
ここまで年末調整の流れについて説明してきましたが、補足として従業員から書類が提出されない場合の対応についてご紹介します。
年末調整の対象者であるにもかかわらず、従業員から書類が提出されない場合、その従業員には確定申告をしてもらう必要があります。
そのため源泉徴収票を発行して、確定申告をする必要がある旨を説明し、対応漏れがないようにフォローしましょう。
まとめ
今回は年末調整をテーマに義務である旨や、怠った場合の罰則などについてお話してきましたが、いかがでしたか。
本文でもご紹介した通り、年末調整は所得税法により規定されている企業の義務です。
そのため対応を怠った場合や正しく対応しなかった場合は、罰金や懲役などが科されてしまい、必要以上にコストがかかってしまう可能性もあります。
ぜひこの記事を参考に、正しい年末調整に取り組んでいただければ幸いです。
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