2019年12月18日の国家戦略特区諮問会議において、2020年度内の「デジタルマネーによる給与支払い」の実現が「重点的に進めるべき事項」として確認されました。この規制改革については2018年頃から議論が進められてきましたが、当初の想定よりも制度化に向けた課題が多く、実現が遅れて現在に至っています。

今回は「デジタルマネーによる給与支払い」の実現に向けた課題点や、規制改革が進められようとしている背景について解説します。

デジタルマネーとは?

電子マネーはよく聞くけど、デジタルマネーって聞き慣れないな…と感じる方も多いのではないでしょうか。デジタルマネーとは、実物の貨幣を使わずに電子情報のみで決済ができるお金のことです。主な種類として以下の5つが挙げられます。

デジタルマネーの主な種類

  • クレジットカード
  • デビットカード
  • 電子マネー
  • スマートフォン決済
  • 仮想通貨

電子マネーはSuica・PASMOに代表される交通系ICカードや、nanako・WAON・楽天Edyといった流通系ICカードなどを指します。一方、スマートフォン決済はPayPayやLINE Payなど、スマートフォン端末を用いてバーコード・QRコードを表示または読み取ることで決済を行うサービスを指しています。これらの他に、ビットコインやモナコインなどの仮想通貨もデジタルマネーに含まれます。

給与支払いに使われるデジタルマネーはどれ?

「デジタルマネーによる給与支払い」といっても、上に挙げたすべてのデジタルマネーが対象という訳ではないようです。

今回新たな給与支払いの方法として検討されているのは、銀行口座ではなく資金移動業者の口座を通じてデジタルマネーを労働者へ支払う、というものです。具体的にはペイロールカードや一部のスマホ決済など、資金移動業者として登録している事業者が提供するサービスが対象とされています。

デジタルマネーで給与を受け取った労働者は、デジタルマネーでそのまま直接決済を行ったり、現金として引き出すことも可能、ということです。

ペイロールカード とは?

さて、ここまで何回か登場した「ペイロールカード」とは何なのでしょうか?私達にはまだ馴染みがない言葉ですよね。

ペイロールカードは給与の支払い・受け取りに用いられるプリペイドカードのことで、アメリカなど海外では銀行口座の要らない給与支払いの仕組みとして普及し始めているそうです。日本で導入された場合も銀行口座不要で作成でき、プリペイドカードとしてそのまま決済にも使え、必要な場合はATM等から現金を引き出すこともできる、とされています。

給与支払いのデジタル化における課題点

1.「通貨払いの原則」

労働基準法 第24条において、給与は通貨での支払いが義務付けられています。

(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない

引用元:【厚生労働省】賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。

また現金支払い以外の手段としては、労働基準法施行規則 第7条の2 第1項により、例外として口座振込が認められています。

第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。

一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み

引用元:【総務省】電子政府の総合窓口 e-gov 労働基準法施行規則 第七条の二 第一項

デジタルマネーなど現金・口座振込以外で給与を支払うことは、現時点では認められていません。この例外規定を見直すことが、今回の「デジタルマネーでの給与支払い」を実現するためのポイントの1つとなっています。

「賃金の支払いに関連する法律」について、詳しくはこちら
給与前払いサービスに関連する法律とは?導入前に知っておきたい基礎知識

2.給与が安全に扱われるための仕組みづくり

即時現金化できるか

現在の貨幣経済では通貨が最も有利な交換手段であるため、価格が不明瞭であったり換価が不便なものは給与として適さない、とされています。逆を言えば、簡単に現金化できないデジタルマネーは給与支払い方法として認められない、ということです。

仮想通貨は、日本円や米ドルのような法定通貨と異なり、国家などの管理者によって価値が保証されておらず、価格変動も激しいことが懸念されるため、給与支払いの方法として適切とは考えられません。また現在の交通系・流通系ICカードなど簡便に現金化できない仕組みのデジタルマネーも、給与支払いの方法として適していないと考えられます。

給与の安全性の確保

最も調整が難航しているのが「安全性」です。給与が経由する資金移動業者に何かあった時に、労働者が長期間給与を引き出せなくなるようなことは避けなければなりません。どんな場合でも滞りなく給与支払いが行われる体制と仕組みづくりが求められます。

「デジタルマネーによる給与支払い」の実現が重要視される背景

キャッシュレス化の推進

海外と日本のキャッシュレス決済比率を比較すると、海外の主要各国では40%〜60%台であるのに対し、日本はスマホ決済ブームによる後押しがあってなお、約20%にとどまっています。

政府はこのキャッシュレス決済比率を2025年6月までに40%まで引き上げることを目標として掲げています。デジタルマネーによる給与支払いを解禁することで、キャッシュレス化のさらなる推進を期待しているようです。

参照:【経済産業省】キャッシュレスの現状及び意義

現金流通のコスト削減

金融機関の窓口業務にかかる人件費やATM機器の固定費など、現金流通には様々なコストがかかっています。給与支払いをデジタルマネー化しキャッシュレス化が進めば、現金流通にかかっているコストを削減することができます。

雇用主にとってのメリットも!

外国人労働者の雇用確保と生活環境改善

日本では人材不足の影響で外国人労働者の雇用が増加していますが、外国人が日本の銀行で口座開設することが「意外と難しい」のはご存知でしょうか?実は口座開設には以下の条件があり、満たしていないと銀行口座を持つことはできないのです。

外国人の銀行口座開設の条件

  • 仕事や留学などで日本に6ヶ月以上滞在している
  • 住民票を取得している

銀行口座がないと、企業によってはそもそも給与の受け渡しが困難で雇用が難しかったり、労働者本人の生活も不便なものとなってしまいます。近年は条件的に口座開設ができていない外国人労働者も増加していることから、デジタルマネーによる給与支払いが実現すれば、このような外国人労働者の雇用確保や、生活の質の向上につながります。

振込手数料を削減できる

雇用主にとって最大のメリットとなるのは経費削減です。銀行振込と比較すると、振込手数料を約半分に抑えることができます。従業員数が多い企業ほど、デジタルマネーによる給与支払いが実現すれば削減できるコストは非常に大きなものになりそうです。

まとめ

いかがでしたか?今回は「デジタルマネーによる給与支払い」の実現に向けた課題点や、規制改革が進められようとしている背景について解説しました。

給与を受け取る側の利便性が上がるのはもちろんですが、労働者の確保や経費削減ができる点は、雇う側にとっても大きなメリットではないでしょうか。安全性などまだまだ議論の余地は残っていますが、より便利で働きやすく、暮らしやすい社会になっていくと良いですね。