過去に自社で働いていた従業員を、派遣スタッフとして受け入れたいと考える企業もあるのではないでしょうか。

ただし、自社で直接雇用していた人を離職後1年以内に派遣で受け入れることは、原則として禁止されています。いわゆる「派遣の1年ルール」であり、派遣就業が1年以上になる場合の雇用安定措置などとは異なる制度です。

本記事では、派遣の1年ルールの対象者や例外、違反した場合のリスクを解説します。派遣元・派遣先それぞれの義務や、受け入れ前の確認ポイントも紹介するので、元従業員の受け入れ可否を判断し、適切な管理体制を整えるための参考にしていただけますと幸いです。

派遣の1年ルールとは?離職後1年以内の受け入れ禁止

派遣の1年ルールは、以前自社で直接雇用していた従業員を、派遣スタッフとして再び受け入れる際に関係する制度です。判断の基準となるのは、派遣での就業期間ではなく、自社を離職してからの経過日数です。

一方、派遣就業の見込みに応じた雇用安定措置や、原則3年の派遣期間制限は、それぞれ目的や対象が異なります。まずは、1年ルールの基本的な仕組みと、混同しやすい制度との違いを整理しましょう。

元従業員の派遣による再受け入れを制限する制度

自社で直接雇用していた従業員を、離職後1年以内に派遣スタッフとして受け入れることは、原則として禁止されています。直接雇用から派遣への切り替えによって、労働条件が引き下げられることを防ぐための制度です。

例えば、退職した従業員が派遣会社に雇用されても、禁止期間中は元の勤務先で派遣スタッフとして働けません。本人が希望する場合でも、原則として制度の対象になります。

また、派遣先による受け入れだけでなく、派遣元が対象者を元の勤務先へ派遣することも禁止されています。受け入れを検討する際は、双方で過去の雇用歴や離職日を確認することが重要です。

参照:離職後1年以内の労働者派遣の禁止について|厚生労働省

雇用安定措置や3年ルールとは目的・対象が異なる制度

離職後1年以内の受け入れ禁止は、雇用安定措置や3年ルールとは別の制度です。それぞれ、目的や対象、期間を判断する基準が異なります。

制度の概要目的・対象期間の基準
離職後1年以内の
受け入れ禁止
元従業員の派遣への切り替えによる労働条件の引き下げなどを防止自社を離職してからの期間
雇用安定措置一定の要件を満たす有期雇用派遣スタッフの派遣終了後の雇用継続を支援同じ組織単位での派遣就業の見込み派遣元での雇用実績 など
3年ルール派遣による正社員などの雇用の置き換えを防止事業所単位・個人単位の派遣受け入れ期間

「退職から1年」と「派遣就業の見込みが1年以上」を混同せず、自社が確認すべき制度を整理しましょう。

関連記事:派遣の抵触日とは?延長手続きの3ステップと就業継続時の注意点

離職後1年ルールの適用を判断する3つの基準

元従業員を派遣スタッフとして受け入れられるかは、過去の雇用関係や離職後の経過期間などから判断します。確認すべき基準は、以下の3つです。

  • 自社で直接雇用していた従業員か
  • 離職日から1年を経過しているか
  • 60歳以上の定年退職者に該当するか

雇用形態や退職理由だけで判断せず、それぞれの条件を確認しましょう。

1.自社で直接雇用していた従業員か

離職後の1年ルールは、自社で直接雇用していた従業員が対象です。正社員に限らず、契約社員やパート・アルバイトなども、雇用形態を問わず対象になります。

また、受け入れの可否は事業所単位ではなく、事業者単位で判断します。例えば、自社の工場を退職した人を、同じ企業の別工場や支店で派遣スタッフとして受け入れる場合も、禁止規定の対象です。

一方、以前は派遣スタッフとして自社で就業していただけで、直接雇用したことがない人は、この規定の対象ではありません。過去に自社で働いていた事実だけでなく、誰と雇用契約を結んでいたかを確認する必要があります。

参照:改正に関するQ&A|厚生労働省

2.離職日から1年を経過しているか

元従業員の受け入れを検討する際は、離職日から1年を経過しているかを確認しましょう。法律では、離職の日から起算して1年を経過する日まで、派遣による受け入れが禁止されています。

基準になるのは、雇用関係が終了した離職日です。例えば、退職前に有給休暇を取得していた場合、最終出勤日と離職日は異なります。また、派遣会社への登録日を基準にするわけではありません。

本人の希望による自己都合退職でも、原則として禁止規定の対象です。人事記録などで離職日を確認し、派遣での受け入れ開始予定日と照合して判断することが重要です。

参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

3.60歳以上の定年退職者に該当するか

60歳以上で定年退職した人は、離職後1年以内でも、派遣による受け入れ禁止の対象から除外されます。ただし、年齢だけでなく、定年退職であることも条件です。

例えば、65歳定年の企業を62歳で自己都合退職した人は、60歳以上であっても、この例外には該当しません。「60歳以上なら退職理由を問わず受け入れられる」と判断しないよう注意が必要です。

例外を適用する際は、退職時の年齢と退職理由を、人事記録や就業規則などで確認しましょう。定年退職に該当するか判断が難しい場合は、派遣元や労働局へ確認したうえで受け入れを検討することが重要です。

参照:離職後1年以内の労働者派遣の禁止について|厚生労働省

派遣の1年ルールに違反した場合の企業のリスク

離職後1年以内の受け入れ禁止に違反すると、行政による指導や是正の対象になります。派遣先が是正の勧告に従わない場合には、その旨が公表される可能性もあるため、事前の確認が重要です。

違反が判明すると、受け入れ計画の見直しや派遣元との調整などが必要になります。現場の人員配置にも影響するため、対象者や禁止期間を就業開始前に照合できる体制を整えましょう。

なお、1年ルールへの違反だけを理由に、直ちに刑事罰が科されたり、派遣先との直接雇用が成立したりするわけではありません。違法派遣の際に適用される「労働契約申込みみなし制度」とも区別する必要があります。すでに受け入れている場合は、自社だけで対応を決めず、派遣元や労働局と是正方法を確認することが大切です。

参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

1年以上の派遣に関係する派遣元・派遣先の義務

派遣就業の見込みや実績が1年以上になる場合には、離職後の受け入れ禁止とは別に、一定の条件で対応が求められます。ここでは、派遣元の雇用安定措置と、派遣先の直接雇用の努力義務・募集情報の周知義務について解説します。

【派遣元】就業見込みに応じた雇用安定措置

雇用安定措置は、派遣終了後もスタッフの雇用継続を図るために、派遣元が講じる措置です。同じ組織単位での派遣が見込まれる有期雇用派遣スタッフについて、就業継続の希望など一定の要件のもと、以下の対応が求められます。

派遣就業の見込み派遣元の対応
1年以上3年未満雇用安定措置を講じる努力義務
3年間雇用安定措置を講じる義務

措置には、派遣先への直接雇用の依頼や新たな派遣先の提供などがあります。実際に1年や3年が経過してからではなく、見込みに応じて対応する点がポイントです。なお、派遣元で無期雇用されている人や60歳以上の人などは対象外です。

参照:派遣で働く皆様へ|厚生労働省

【派遣先】一定の条件に該当する場合の直接雇用の努力義務

派遣先には、一定の条件を満たす有期雇用派遣スタッフを、直接雇用するよう努める義務があります。主な条件は、以下のとおりです。

  • 同一の組織単位・業務で、対象スタッフを1年以上継続して受け入れている
  • 就業継続を希望する本人について、派遣元から直接雇用の依頼がある
  • 派遣終了後も同じ業務に従事する従業員を雇い入れようとしている

1年以上受け入れたスタッフ全員を、必ず直接雇用する制度ではありません。採用予定と対象者の希望を確認し、派遣元と連携して雇い入れを検討しましょう。

参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

【派遣先】正社員募集時の対象スタッフへの周知義務

同一の事業所で同じ派遣スタッフを1年以上継続して受け入れている場合は、募集情報の周知義務に注意が必要です。その事業所で正社員などの通常の労働者を募集する際は、対象スタッフに募集内容を知らせなければなりません。

例えば、事業所内の掲示板や、対象スタッフが閲覧できる社内システムなどで、業務内容や賃金、労働時間などを知らせます。派遣スタッフにも募集内容が伝わる方法を整えることが重要です。

ただし、募集情報の周知は、採用そのものを義務付ける制度ではありません。直接雇用の努力義務とは区別し、正社員の募集時に周知漏れがないか確認しましょう。

派遣の1年ルールを守る4つの確認ポイント

派遣の1年ルールを守るには、受け入れ前に退職者情報を照合し、禁止期間や例外への該当状況を確認する体制が必要です。確認漏れを防ぐため、以下の4つのポイントを押さえましょう。

  • 派遣スタッフの情報と自社の退職者情報を照合する
  • 離職日・受け入れ予定日・例外の条件を確認する
  • 禁止対象とわかった場合は速やかに派遣元へ通知する
  • 継続就業時に必要な対応を派遣元と確認する

それぞれの対応を解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

1.派遣スタッフの情報と自社の退職者情報を照合する

受け入れ前に、派遣元から通知された氏名などを退職者情報と照合し、過去の直接雇用歴を確認しましょう。別工場・別支店の退職者も対象となるため、企業全体で確認できる体制が必要です。

確認担当者と実施時期を決め、照合結果を記録します。個人情報は確認に必要な範囲で取り扱い、閲覧権限や管理方法も定めておくことが重要です。

関連記事:アルムナイ採用で退職後の個人情報を利用するのはNG?条件やステップを解説

2.離職日・受け入れ予定日・例外の条件を確認する

過去の直接雇用歴がある場合は、離職日と受け入れ開始予定日を照合し、禁止期間に該当しないかを確認します。例外を適用する際も、年齢だけで判断せず、60歳以上で定年退職した事実を確かめましょう。

例えば、確認表に離職日・受け入れ開始予定日・退職時の年齢・退職理由をまとめると、条件を照合しやすくなります。判断の根拠も記録し、不明な点は派遣元や労働局へ確認してから受け入れを進めることがポイントです。

3.禁止対象とわかった場合は速やかに派遣元へ通知する

派遣元から氏名などの通知を受け、受け入れ禁止に抵触するとわかった場合は、速やかにその旨を派遣元へ通知する必要があります。確認結果を社内で共有するだけで終わらせないことが重要です。

受け入れ前なら開始予定を見直し、すでに就業している場合は、派遣元や労働局と是正対応を確認しましょう。同じ企業内で部署・工場を変えたり、派遣会社を変えたりしても禁止規定は回避できないため、企業全体で対応を統一する必要があります。

参照:離職後1年以内の労働者派遣の禁止について|厚生労働省

4.継続就業時に必要な対応を派遣元と確認する

受け入れ後は、離職後の禁止期間とは別に、派遣就業の実績と今後の見込みを管理しましょう。雇用安定措置の対象者については、派遣元と必要な対応や直接雇用の検討予定を共有します。

また、派遣先の雇用努力義務や募集情報の周知義務も確認が必要です。契約更新時には就業期間と適用条件を、採用募集時には対象スタッフへの周知状況を点検するなど、確認の時期と担当者を決めて対応漏れを防ぎましょう。

まとめ

派遣の1年ルールは、自社で直接雇用していた従業員を、離職後1年以内に派遣スタッフとして受け入れることを原則禁止する制度です。雇用形態や自己都合退職かどうかを問わず対象となりますが、60歳以上の定年退職者は例外です。

受け入れ前には、企業全体の退職者情報と照合し、離職日や受け入れ開始予定日、例外の条件を確認しましょう。禁止対象と判明した場合は、速やかに派遣元へ通知する必要があります。

また、派遣就業の継続に伴う雇用安定措置や募集情報の周知義務とは区別し、人事・現場・派遣元で確認手順を共有して、適切な受け入れと継続管理につなげましょう。

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