労働者派遣事業を適正に運営するうえで欠かせないのが、「派遣元責任者」の選任です。派遣元責任者は、派遣スタッフの雇用管理や苦情対応を引き受け、派遣スタッフが安心して働ける環境を整えるという重要な役割を担います。
法令によって事業所ごとの配置が義務付けられているため、派遣元事業主や労務担当者は正しい知識を身につけておくことが大切です。
本記事では、派遣元責任者の定義から選任ルール、具体的な10の職務内容まで解説します。派遣元責任者に関するよくある質問もまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
派遣元責任者とは?役割と選任の目的

派遣元責任者とは、派遣元事業主が自社の役員や従業員の中から選任する、派遣スタッフの雇用管理の責任者のことです。労働者派遣事業を行う場合、事業所ごとに必ず配置することが義務付けられています。
ここでは、派遣元責任者の主な役割や選任が義務付けられている目的、製造業に特有の「製造業務専門派遣元責任者」との違いについて解説します。
派遣元責任者の主な役割
派遣元責任者の主な役割は、派遣スタッフを保護し、適切な雇用管理を一元的に担うことです。具体的には、派遣先との連絡調整や苦情処理、安全衛生に関する助言などの業務が含まれます。
労働者派遣法第36条に基づき、派遣元事業主は、一定の要件を満たす自社の役員や従業員の中から派遣元責任者を選任しなければなりません。現場の責任者として、派遣スタッフが派遣先で安心して働ける環境を整備することが求められます。
派遣元責任者を選任する目的
派遣元責任者を選任する目的は、労働者の権利保護と適切な労務管理の徹底です。
労働者派遣の特殊な点として、雇用主である「派遣元」と、実際に業務の指揮命令を出す「派遣先」が分離していることが挙げられます。このように指揮命令系統が分かれていると、雇用管理の責任の所在が曖昧になりがちです。
そこで、派遣元責任者を事業所に設置して雇用管理の責任の所在を明確にすることで、派遣スタッフが不利益を被るような事態を未然に防ぐ狙いがあります。
製造業務専門派遣元責任者との違い
製造業務に派遣スタッフを従事させる場合、通常の派遣元責任者とは別に「製造業務専門派遣元責任者」を選任する必要があります。製造業務は労働災害のリスクが高く、より専門的な安全衛生管理が求められるためです。
通常の派遣元責任者と製造業務専門派遣元責任者の主な違いは、以下の表のとおりです。
| 派遣元責任者 | 製造業務専門派遣元責任者 | |
|---|---|---|
| 対象の派遣スタッフ | 製造業務以外の業務に従事する労働者 | 製造業務に従事する労働者 |
| 選任の目的 | 適切な雇用管理・労働者の保護 | 労働災害の防止・安全衛生管理 |
| 選任人数の基準 | 事業所に所属する派遣スタッフ100人ごとに1人以上 | 製造業務に従事する派遣スタッフ100人ごとに1人以上 |
なお、選任要件に特別な違いはありません。また、一定の条件を満たせば、製造業務専門派遣元責任者のうち1人は、製造業務以外の派遣スタッフを担当する通常の派遣元責任者と兼任することが可能です。
派遣元責任者になるための3つの要件

派遣元責任者として選任されるためには、法令で定められた要件を満たす必要があります。以下で、派遣元責任者になるための3つの要件を見ていきましょう。
1.派遣元責任者講習の受講
1つ目の要件は、派遣元責任者講習を受講していることです。具体的には、選任される時点で、過去3年以内に厚生労働省が指定する講習機関で「派遣元責任者講習」を受講し、修了している必要があります。
また、労働者派遣法や関係法令は頻繁に改正されるため、選任後も在任中は3年ごとに更新受講する義務があります。講習の受講漏れは行政指導の対象となる可能性があるため、事業所ごとの計画的な受講管理が不可欠です。
2.3年以上の雇用管理経験
2つ目の要件は、成年到達後に3年以上の雇用管理経験があることです。派遣事業を適正に運営するためには、労務管理に関する実務的な知識が求められます。対象となる経験には、人事や労務担当者としての職務経験、派遣事業運営担当のほか、職業安定行政や労働基準行政での経験などが含まれます。
労働局で許可申請や更新手続きをする際には、雇用管理経験を証明するために在籍証明書などの根拠資料の提示が求められる点に注意しましょう。
3.欠格事由に該当しないこと
3つ目の要件は、労働者派遣法第6条などに定められた欠格事由に該当しないことです。代表的な欠格事由は以下のとおりです。
- 禁固以上の刑や罰金刑を受け、その執行から5年を経過していない者
- 復権を得ていない破産者
- 暴力団員
- 心身の故障等により職務を適切に行えない者
欠格事由に該当する者は、適切な雇用管理ができないとみなされます。企業は事前に派遣元責任者の候補者がこれらの条件に該当していないか、しっかりと確認する必要があります。
派遣元責任者の選任ルール

派遣元責任者を選任する際は、個人の要件を満たすだけでなく、事業所ごとの人数規定やほかの職務との兼任に関する法令のルールを遵守しなければなりません。違反すると許可の取り消し等につながるリスクがあるため、ルールを正しく理解しておきましょう。
事業所ごとの選任人数
派遣元責任者は、労働者派遣事業を行う事業所ごとに、専属の者を選任する必要があります。
派遣元責任者は、事業所の規模に応じて必要な人数が決まっています。具体的には、事業所に所属する派遣労働者が100人以下の場合は1人以上の選任が必要です。100人を超える場合は、100人を超え200人以下で2人以上となり、以降も派遣労働者100人ごとに1人を追加で選任するルールとなっています。
事業が拡大して派遣労働者が増えた際には、追加選任の漏れがないよう注意しましょう。
職業紹介責任者などとの兼任も可能
一定の条件下において、派遣元責任者はほかの職務や責任者との兼任が認められています。
例えば、自社で有料職業紹介事業も行っている場合、業務量に支障がなく十分に職務を果たせる体制があれば、法律上は職業紹介責任者との兼任が可能です。また、法人の代表取締役や役員による兼任も認められています。
ただし、事業所ごとの専属が要件であるため、ほかの事業所の派遣元責任者との兼任はできません。
派遣元責任者が担う10の職務内容

労働者派遣法に基づき、派遣元責任者が担うべき具体的な10の職務内容について解説します。
1.派遣労働者であることの明示
派遣元責任者は、労働者を雇い入れる際、あらかじめ「派遣スタッフとして雇用する旨」を明示する義務があります。これは、労働者が自身の雇用形態を正しく理解し、認識のズレを防ぐためです。
派遣スタッフとして雇用する旨は、書面の交付などを通じて明確に伝えなければなりません。なお、紹介予定派遣(派遣先に直接雇用されることを前提とした派遣)の場合は、その旨も併せて明示が必要です。
2.就業条件の明示
派遣元責任者には、派遣就業を開始する前に、派遣スタッフに対して就業条件の詳細を明示する義務があります。派遣スタッフが安心して働けるよう、事前に以下のような条件を伝えます。
- 業務の内容
- 派遣先事業所の名称や所在地
- 派遣期間
- 就業日
- 就業時間 など
口頭で伝えるだけではなく、書面や電子メールなどの確実な方法で明示し、双方で条件の認識を合わせておくことが大切です。
3.派遣先への通知と連絡調整
派遣元責任者は派遣スタッフを送り出す際、派遣先企業に対して必要な情報を通知する業務を担います。
- 派遣スタッフの氏名
- 性別
- 無期雇用か有期雇用か など
また、就業に関して何らかの問題やトラブルが生じた場合には、派遣先企業と密に連絡を取り合い、調整する窓口としての役割も求められます。
4.派遣停止(抵触日)の通知
派遣の受け入れ可能期間(原則3年)が満了する翌日である「抵触日」の通知も、派遣元責任者の職務の一つです。
派遣停止の通知は、期間制限を超えた違法な派遣を防ぐための重要な手続きです。通知のタイミングは、抵触日を迎える1か月前から前日までの間に行うよう法令で定められています。派遣先企業および派遣スタッフの双方に対して、書面等により確実に通知を行わなければなりません。
5.派遣元管理台帳の作成・記録・保存
派遣元責任者には、派遣スタッフごとに法定の項目を記録した「派遣元管理台帳」の作成義務があります。
記録項目は、氏名、派遣先事業所名、就業日、労働時間など18項目に及びます。派遣元管理台帳は、派遣スタッフの就労実態を正確に把握するための基本資料です。作成した派遣元管理台帳は、労働者派遣が終了した日から3年間保存することが義務付けられています。
6.派遣労働者への助言・指導
派遣スタッフへの助言や指導も、派遣元責任者の職務の一つです。
派遣スタッフが派遣先で円滑に就労できるよう、派遣元および派遣先が講ずべき措置や、労働関係法令の適用について説明します。また、苦情の申出方法を伝達したり、関連法令に改正があった際に説明会や文書を通じて周知したりすることも職務に含まれます。
7.派遣労働者から申出を受けた苦情の処理
派遣元責任者は、派遣スタッフから就労環境や労働条件などに関する苦情の申し出を受けた場合、遅滞なく誠意をもって対応・処理する責任があります。
苦情の多くは派遣先における問題であるため、単独で解決しようとせず、派遣先企業(派遣先責任者)と連携して解決を図ることが大切です。派遣元責任者は、苦情の内容、対応の経過、および結果を適切に記録し、派遣スタッフの保護に努めなければなりません。
8.派遣労働者の個人情報の管理
派遣元責任者は、派遣スタッフの個人情報を適切に管理し、プライバシーを保護する責任があります。
具体的には、個人情報が正確であるか、紛失や改ざんがないかを確認し、部外者が閲覧できないように管理するなどです。また、保管期間を過ぎて不要になった個人情報は、漏洩のリスクがない適切な方法で破棄する措置を講じる必要があります。
9.教育訓練およびキャリアコンサルティングの実施
派遣スタッフに対する教育訓練およびキャリアコンサルティングの実施も、派遣元責任者の職務の一つです。
具体的には、派遣スタッフが就業に必要な知識やスキルを習得し、キャリアアップを図れるよう、段階的かつ体系的な教育訓練を実施します。あわせて、職業生活設計に関する相談に応じるキャリアコンサルティングの機会を確保し、派遣スタッフの長期的なキャリア構築をサポートする役割を担います。
10.安全衛生に関する連絡・調整
派遣スタッフが安全かつ衛生的に働ける環境を確保するために派遣先と連携を図ることも、派遣元責任者の職務です。
具体的には、派遣先の責任者と連携して健康診断や安全衛生教育の日程調整を行います。また、万が一労働災害や事故などが発生した際には、内容の確認や対応状況のすり合わせなどを行い、被害の最小限化と再発防止に向けた連絡・調整をする役割を担います。
派遣元責任者に関するよくある質問
派遣元責任者の選任や実務に関するよくある質問をまとめました。
役職なしの平社員でも派遣元責任者に選任できますか?
要件を満たせば、役職のない平社員でも派遣元責任者に選任できます。
労働者派遣法において、選任対象は自社の「役員または従業員」と規定されています。したがって、役職の有無は問われません。派遣元責任者講習の受講、3年以上の雇用管理経験、欠格事由に該当しないことなど法定の要件をすべて満たしていれば、平社員であっても適法に選任できます。
複数の事業所の派遣元責任者を兼任できますか?
ほかの事業所の派遣元責任者と兼任はできません。労働者派遣法により、派遣元責任者は労働者派遣事業を行う事業所ごとに専属で選任・配置しなければならないと定められているためです。
当然ながら、名義貸しによる許可申請も固く禁じられています。さらに、派遣スタッフからの苦情処理などに迅速に対応できるよう、派遣元責任者は日帰りで往復できる地域にある事業所に配置されていることが求められます。
派遣元責任者自身も派遣労働者として働けますか?
派遣元責任者自身が派遣スタッフとして他社で就業することは認められません。派遣元責任者は、派遣元事業所に常駐(または専属で配置)し、雇用管理や苦情処理、派遣先との連絡調整など、責任者としての職務を遂行する義務があります。
自身が派遣スタッフとして出向いてしまうと、本来果たすべき職務を遂行できなくなるため、兼務は不可とされています。
まとめ
派遣元責任者は、指揮命令系統が分離する労働者派遣において、派遣スタッフの権利を保護し、適正な労務管理を行うための重要な役割を担います。選任にあたっては、「講習の受講」「3年以上の雇用管理経験」「欠格事由に該当しないこと」など、3つの要件を満たさなければなりません。
本記事では、派遣元責任者とはどのような役割なのか、選任ルールや具体的な職務内容について解説しました。事業を安定して運営するためにも、法令を正しく理解し、適切な管理体制を構築しましょう。



