人材派遣会社の営業や現場の担当者にとって、派遣先企業の要望に応えることは重要です。しかし、契約形態を誤ると「二重派遣」になるおそれがあります。二重派遣とは、派遣先企業が受け入れた派遣労働者を、さらに別の企業へ派遣して労働させる違法行為のことです。

本記事では、二重派遣の定義や違法となる基準について図解を用いてわかりやすく解説します。現場で陥りがちなNG事例から二重派遣を防ぐための回避策まで、実践的なノウハウをまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

二重派遣とは?違法性を図解でわかりやすく解説

二重派遣を防ぐためには、具体的にどのような状態が違法となるのかを正しく理解しておく必要があります。まずは、二重派遣の定義や禁止されている法的根拠について解説します。

二重派遣の定義と指揮命令権の構造

二重派遣とは、派遣元から派遣された労働者を受け入れた派遣先企業が、その労働者をさらに別の企業(第二の派遣先)に派遣し、そこで指揮命令を受けさせて労働させる行為のことです。

厚生労働省は、通常の労働者派遣では、派遣元と労働者に「雇用関係」があり、派遣先と労働者に「指揮命令関係」があると定義されています。しかし、二重派遣の状態になると、派遣労働者は、雇用関係も派遣契約もない第三の企業(第二の派遣先)から直接指揮命令を受けることになります。

引用:Q6二重派遣は派遣法違反ですか|厚生労働省

派遣契約を結んでいない派遣先以外の企業が指揮命令を行うことは「労働者供給事業」に該当し、違法行為になるため注意が必要です。

参照:平成21年度「労働者派遣事業雇用管理等援助事業」派遣相談事例集|厚生労働省

二重派遣が法律で禁止されている理由

二重派遣が法律で禁止されているのには、労働者を守るための明確な理由があります。

禁止されている理由詳細法的根拠
労働条件の悪化契約外の過酷な業務を強いられたり、労働条件が守られなくなったりするなど、労働者が不利益を被るリスクがあるため職業安定法第44条
中間搾取の防止仲介する企業が増えることで、派遣料金から手数料が二重に抜かれ、労働者の賃金が不当に低くなるリスクがあるため労働基準法第6条
責任の所在の不明確化業務中に労働災害等が発生した場合に、派遣元・派遣先・第二の派遣先のどこが責任を負うのかが曖昧になり、労働者の安全が守られなくなるリスクがあるためなし

二重派遣は、職業安定法で禁止されている「労働者供給事業」に該当し、労働者が不利益を被るリスクが高いことから固く禁じられています。加えて、派遣契約も雇用契約もない企業の指揮命令下で働くことになるため、業務中に労働災害等が発生した際の責任の所在が曖昧になりかねない点も大きな問題です。

参照:労働基準法|e-GOV法令検索

参照:職業安定法|e-GOV法令検索

偽装請負や業務委託との違い

二重派遣と混同されやすい契約形態に「偽装請負」があります。偽装請負とは、形式上は成果物の完成を目的とする業務委託契約(請負契約)になっているものの、実態としては発注者が受託側の労働者に直接指揮命令を行っている状態のことです。

二重派遣と偽装請負の共通点は、「雇用関係のない企業が労働者に直接指示を行っている」という点です。契約の名称が「派遣」であれ「請負」であれ、実態として指揮命令権がどこにあるかによって違法性が問われます。一方で、二重派遣と偽装請負には以下のような違いがあります。

二重派遣偽装請負
契約構造と実態派遣先が労働者をさらに別の企業(第二の派遣先)へ再派遣している状態契約上は請負になっているものの、実態としては派遣として労働している状態
実際の指揮命令者第二の派遣先請負先の発注者
主な法的根拠職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)労働基準法第6条(中間搾取の排除) 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)労働者派遣法第5条(無許可派遣の禁止)労働基準法第6条(中間搾取の排除)

なお、二重派遣は責任の所在や労働者の不利益といった問題が核心ですが、偽装請負は契約の名目と実態の不一致が処罰の根拠になる点を押さえておきましょう。

二重派遣が発覚した場合の罰則とリスク

二重派遣は重大なコンプライアンス違反であり、発覚した場合には罰則が科せられます。以下で、二重派遣が発覚した場合の罰則とリスクについて解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

法令違反によって科される刑事罰

二重派遣と認められた場合、関連法令に基づいて刑事罰が科されるおそれがあります。

雇用関係のない労働者を他社の指揮命令下で働かせる行為は、職業安定法第44条が禁じる「労働者供給事業の禁止」に抵触し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる違法行為です。

また、再派遣によって派遣料金などから中間的に手数料等の利益を得ていた場合は、労働基準法第6条の「中間搾取の排除」に違反することになり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象になります。

参照:職業安定法|e-GOV法令検索

参照:労働基準法|e-GOV法令検索

罰則の対象となる企業

職業安定法違反(労働者供給事業の禁止)に該当する場合、罰則を受けるのは再派遣を行った派遣先企業だけではありません。再派遣を受け入れた企業(第二の派遣先)も罰則の対象になるケースが一般的です。再派遣先が二重派遣の事実を知らずに受け入れていた場合は対象外になりますが、違法性に気づきながら継続して就業させていた場合は罰則が適用されます。

一方で、労働基準法違反(中間搾取)に該当する場合は、再派遣を行って利益を得た派遣先企業のみが罰則の対象となります。なお、いずれの場合でも、派遣された労働者本人に対する罰則規定は定められていません。

行政処分や企業名公表による社会的信用の失墜

二重派遣が発覚した場合は、刑事罰に加えて、行政処分と社会的信用の失墜というリスクも負うことになります。厚生労働大臣からの改善命令等に従わない場合は、業務停止命令や派遣事業許可の取消しといった処分が下される可能性があるためです。

また、違法行為を行ったとして企業名が公表されるリスクも伴います。企業名が公表されれば、ブランドイメージや社会的信用は大きく失墜します。二重派遣などのコンプライアンス違反は、既存の取引先との関係悪化に直結するだけでなく、新たな人材採用活動にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

二重派遣は目先の利益と引き換えに、企業の存続基盤そのものを揺るがしかねない危険な行為であると認識しておく必要があります。

【営業・現場向け】二重派遣に陥りやすいNG事例

二重派遣が発生するのは、必ずしも意図的な行為とは限りません。派遣先企業がグループ会社や取引先の要望に応えようとするあまり、気づかないうちに二重派遣になってしまうケースもあります。

ここでは、二重派遣に陥りやすいNG事例を3つ紹介します。

事例1:派遣社員が子会社やグループ会社に出向いて働く

派遣社員が派遣先企業から「繁忙期で人手が足りない」「同じグループだから子会社の現場を手伝ってほしい」と要望され、実際に出向いて働くケースです。

たとえ親会社と子会社といった資本関係のあるグループ企業内であったとしても、法人が異なればまったく別企業として扱われます。したがって、派遣先企業として労働者と契約を結んでいない子会社の社員が、派遣社員に対して直接作業の指示を出すことは、雇用契約のない企業からの指揮命令となり二重派遣に該当します。

事例2:派遣社員が取引先の現場で直接指示を受ける

派遣社員が派遣先企業の取引先で、直接業務の指示を受けるケースです。

派遣先企業が自社の取引先の現場に派遣社員を向かわせる場合であっても、取引先の担当者には派遣社員に対する指揮命令権がありません。そのため、雇用契約も派遣契約も締結していない企業の担当者から指示を受けて働く行為は違法になります。

なお、この形態を適法にするためには、派遣先企業の社員も現場に同行し、派遣社員に対して直接指示を出す体制を整える必要があります。

事例3:多重下請け構造で指揮命令系統が曖昧になる

IT業界や建設業界などでよく見られる「元請け・一次請け・二次請け」といった多重下請け構造により、指揮命令系統が曖昧になってしまうケースです。

多数の企業が関係する現場では、日々の業務の中で実際に誰が指揮命令を出しているのかが不明確になりやすく、二重派遣や偽装請負のリスクが高まります。例えば、契約上は「一次請け企業の管理下」で働くことになっていても、実際の現場では「発注者」や「二次請け企業の担当者」が直接作業指示を出してしまう状況が挙げられます。

このように、契約上の管理者と実際の指示者が食い違って実態が伴っていない場合には、二重派遣や偽装請負と判断されかねないため注意が必要です。

二重派遣を防ぐための適法な提案と回避策

派遣先企業からの要望が二重派遣などの違法なスキームに該当する場合、人材派遣会社の担当者は単に「できません」と断るだけでなく、適法に課題を解決できる代替案を提示する必要があります。

ここでは、二重派遣のリスクを回避しながら派遣先企業のニーズを満たすための具体的な提案方法を解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

契約時に書面で指揮命令系統を明確にする

二重派遣の回避策の基本は、労働者派遣契約において「誰が指揮命令を出すのか」を明確にすることです。指揮命令者が曖昧なまま現場が動いてしまうと、実態として契約外の企業から指示を受けるリスクが高まります。

具体的には、以下のポイントを押さえて対策しましょう。

  • 契約書に指揮命令者を明記する
  • 必ず該当する担当者から指示を出すよう派遣先企業に体制構築を求める
  • 営業担当者が定期的に就業場所を巡回して派遣社員へのヒアリングを実施する

派遣社員にヒアリングする際は、「実際に誰から指示を受けているか」「契約外の業務を任されていないか」を確認することがポイントです。書面での明確化と定期的な現場確認を徹底することで、契約内容と実態の乖離を防げます。

業務委託(請負・準委任)への切り替えを提案する

派遣先企業の希望によっては、「請負契約」や「準委任契約」といった業務委託契約への切り替えを提案しましょう。業務委託契約は労働力の提供ではなく、成果物の完成(請負)や業務の遂行(準委任)を目的とするため、派遣先企業が外部の責任者を通じて業務を回したい場合に有効な選択肢です。

ただし、提案時には顧客に以下の運用ルールを理解してもらうことが重要です。

  • 発注者から直接作業指示を出してしまうと「偽装請負」という違法行為になる
  • 業務の指示はすべて、受託側(自社)の責任者を通じて行う体制にする

労働者派遣契約と業務委託契約について仕組みをしっかりと説明し、正しい理解を得たうえで適法な選択をしてもらう必要があります。

二重派遣に関するよくある質問

ここでは、二重派遣に関するよくある質問と回答をまとめました。

二重派遣の抜け道はありますか?

二重派遣に抜け道は存在しません。「契約上は業務委託にしておこう」「書類の体裁だけ整えよう」と契約を偽装したとしても、違法性はあくまで「誰が実際に指揮命令を出しているか」という実態に基づいて判断されます。

安易な偽装は社会的信用を損ない事業の継続に大きく影響するため、適法な契約形態を正しく運用するしか選択肢はありません。

在籍型出向なら二重派遣を回避できますか?

二重派遣の回避策として、2つの企業と雇用関係を維持する在籍型出向を用いるケースがあります。

出向であれば形式上は二重派遣を回避できるものの、営利目的で反復継続すると、職業安定法で禁止されている「労働者供給事業」に該当し、違法となるリスクがあるため注意が必要です。

二重派遣が疑われる場合の相談窓口はありますか?

二重派遣が疑われる場合は、立場にかかわらず自己判断をせず、まずは自社のコンプライアンス窓口や法務部門に速やかに相談してください。

外部の公的な相談窓口としては、各都道府県の労働局に設置されている「需給調整事業部(または需給調整事業課など)」があります。契約内容や労働環境の実態について、専門家に相談し、正しい法的見解や是正に向けたアドバイスを受けましょう。

まとめ

二重派遣は雇用関係のない企業が指揮命令を行う違法な労働者供給事業であり、発覚すれば派遣先企業と第二の派遣先の双方に刑事罰が科されるおそれがあります。特に、グループ会社間の人材移動や多重下請け構造では無自覚に発生しやすいため注意が必要です。

本記事では、二重派遣の定義から違法となる理由、現場で陥りやすいNG事例と回避策まで解説しました。人材派遣会社として顧客の要望に応えるだけでなく、指揮命令権の所在を正しく理解し、コンプライアンスを遵守した適法な提案を行うことが大切です。

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