2026年4月から、食事補助の非課税枠上限が大幅に引き上げられました。物価高騰が続くなか、この税制改正は従業員の実質的な手取りを増やす「第3の賃上げ」として注目されています。しかし、非課税の恩恵を受けるためには国税庁が定める条件を満たす必要があり、誤った運用は給与課税のリスクを伴うため注意が必要です。

本記事では、2026年4月の税制改正の内容から、非課税となる2つの必須条件や実務で役立つ計算ルールを解説します。社会保険への影響についてもまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

【2026年4月】食事補助の非課税枠上限引き上げ

2026年4月1日に施行された法令解釈通達の改正により、企業が従業員に支給する食事補助および深夜勤務者向けの夜食手当の非課税枠が大幅に拡大されました。この改正は、企業が従業員の食事環境をより手厚く支援するための転換点になります。

以下で、食事補助の非課税枠上限引き上げについて詳しく見ていきましょう。

参照:食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて|国税庁

上限額が月額3,500円から7,500円に倍増

2026年4月1日以後に支給される食事から、企業負担額の非課税上限がこれまでの月額3,500円(税抜)から7,500円(税抜)に引き上げられました。

約40年ぶりに限度額が見直されたことで、企業はより手厚い食事補助を提供できるようになります。これまでの限度額の3,500円をベースにして制度設計を行っている企業は、上限枠の拡大に伴い、社内規程の改定や給与システムの上限設定を見直す必要があります。

深夜勤務時の夜食手当の上限も1回650円へ拡大

通常の食事補助は現物支給が原則ですが、深夜勤務者(午後10時から翌午前5時)などで現物支給が難しい場合に限り認められる現金支給(夜食手当)についても、非課税上限が引き上げられました。2026年4月からは非課税上限がこれまでの1回あたり300円から650円(税抜)へと拡大されています。

実務上、夜食手当を非課税とするためには以下の4つの適用条件をすべて満たす必要があります。

  • 深夜帯のため現物支給が難しいこと
  • 基本給などとは別に「手当」として明確に区分していること
  • 勤務1回ごとの定額支給であること
  • 1回あたり650円以下(税抜)であること

これらの条件を満たさない現金支給は、原則として全額が給与課税の対象になるため注意が必要です。医療や警備、運送など深夜勤務が頻繁に発生する業種では、自社の支給ルールが条件に沿っているか、就業規則をあらためて確認しておきましょう。

食事補助の非課税枠上限引き上げの背景とメリット

食事補助の非課税枠上限引き上げの背景には、近年の著しい物価上昇に伴う昼食代の高騰があります。長年据え置かれてきた限度額では実態に合わなくなっていたため、現代の相場に合わせた見直しが行われました。この改正は、企業・従業員の双方に以下のようなメリットをもたらします。

企業にとっては、基本給のベースアップを行う場合と比べ、所得税や社会保険料などの法定福利費の負担増を抑えながら従業員への経済的支援を手厚くできる点がメリットです。従業員にとっても、補助額に対して税金や社会保険料が引かれないため、実質的な手取り額を減らすことなく恩恵を受けられます。

食事補助の非課税枠上限引き上げは、結果として企業へのエンゲージメントや定着率の向上にもつながります。

食事補助が非課税になる2つの必須条件

税制改正により食事補助の非課税枠が月額7,500円に引き上げられましたが、無条件で非課税になるわけではありません。食事補助が非課税になるには、2つの必須条件を満たす必要があります。

参照:No.2594 食事を支給したとき|国税庁

1.役員や使用人が食事の価額の半分以上を負担していること

1つ目の条件は、従業員が食事価額の「50%相当額以上」を実際に負担していることです。単にルールとして決められているだけではなく、給与天引きなどで実際に費用を徴収している状態でなければなりません。

特に、アルバイトやパート従業員の場合、出勤日数や利用日数の変動によって50%相当額以上の負担という判定が月ごとに崩れやすくなります。この場合、月額固定の負担金として徴収するか、実際の利用実績に連動させて、確実に50%以上を徴収する仕組みを設計する必要があります。

2.会社負担額が月額7,500円(税抜)以下であること

2つ目の条件は、従業員1人あたりの会社負担額が、消費税等を除いた金額で月額7,500円以下であることです。

注意すべき点は、会社負担額が上限の7,500円を1円でも超過した場合です。この場合、超過分だけが課税されるのではなく、会社負担額の全額が給与として課税され、源泉徴収の対象となってしまうリスクがあります。

食事補助を非課税にするための注意点

食事補助を非課税として適正に運用するためには、2つの必須条件に加えて、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。以下で、食事補助を非課税にするための注意点を解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

原則として現物支給すること

税務上において、食事補助が非課税と認められるためには、原則として現物支給でなければなりません。使途が自由な「昼食手当」といった現金支給は、原則として全額が給与課税の対象となるためです。

現物支給として認められるのは、社内に設けた社員食堂での食事提供や弁当の支給などです。そのほか、全国の飲食店やコンビニエンスストアなどで使える、用途が食事に限定された電子決済カードやアプリ、チケットレストランなどを活用した補助も現物支給として認められます。

全従業員を対象にした公平な制度にすること

食事補助を非課税にするためには、全従業員を対象にした公平な制度にすることが求められます。福利厚生の基本は、平等な機会の提供であるためです。

役員のみ、あるいは一部の部署の従業員のみなど、対象を限定して食事補助を行うと特別な利益の供与とみなされ、福利厚生性が否定されて給与課税の対象となる可能性があります。雇用形態やリモートワークや外回りなどの勤務地を問わず、就業規則や福利厚生規程において、合理的な基準と公平な利用条件を明文化しておくことが大切です。

常識的な内容・金額であること

食事補助を非課税にするためには、支給される食事が社会通念上、常識的な内容・金額であることも重要です。一般的な昼食の相場を著しく超えるような豪華な食事や、酒類を含む接待に近いような内容は、福利厚生として認められずに給与課税される可能性が高くなります。

なお、残業や宿日直の際に支給する食事については、例外的に従業員の負担がゼロでも非課税となります。ただし、この場合も常識的な金額の範囲内で現物支給されることが条件です。

食事補助に関する実務でつまずきやすい計算ルール

食事補助の非課税判定において実務上でつまずきやすいポイントは、主に税抜計算と端数処理です。計算を誤って意図せず課税対象となるリスクを防ぐためにも、正確なルールを押さえておきましょう。

消費税率によって計算式が変わる

会社負担額が月額7,500円の上限内に収まっているかどうかの判定は、「税抜(消費税および地方消費税を除いた額)」を基準に行います。そのため、適用される消費税率によって税抜換算の計算式が変わる点に注意が必要です。

提供形態適用税率税抜換算の計算式
弁当などのテイクアウト軽減税率(8%)会社負担額÷1.08
社員食堂や外食でのイートイン標準税率(10%)会社負担額÷1.1

税率が混在する運用を行う場合は、月次で計算した税抜きでの企業負担額が確実に上限内に収まるよう、余裕を持った単価設計をしておく必要があります。

計算で10円未満の端数が出た場合は切り捨てる

税抜換算を行った結果、計算上10円未満の端数が生じた場合は「切り捨て」として処理することが国税庁のルールで定められています。ここでは、1か月の食事価額15,000円(税込)、従業員負担10,000円(会社負担額5,000円)の場合の計算例を見ていきましょう。

提供形態適用税率税抜換算の計算式端数処理後の
会社負担額
弁当などのテイクアウト軽減税率(8%)会社負担額5,000円÷1.08=4,629.62…円4,620円
社員食堂や外食での
イートイン
標準税率(10%)会社負担額5,000円÷1.1=4,545.45…円4,540円

このように、税抜換算の過程で生じた10円未満の端数はすべて切り捨てて計算します。なお、同じ税込の会社負担額であっても、適用される消費税率の違いによって端数処理後の金額が変わるため注意が必要です。

食事補助が社会保険料に影響するケース

食事補助の制度設計において見落しがちなのが、社会保険への影響です。税務上は非課税の条件を満たしていても、社会保険上は扱いが異なり、標準報酬月額に影響して結果的に保険料が上がってしまう可能性があります。

以下で、食事補助が社会保険料に影響するケースについて解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

所得税の非課税条件と社会保険の現物給与は基準が異なる

税務上は非課税となる食事補助であっても、社会保険上は報酬とみなされて保険料に影響する可能性があります。所得税の非課税条件と社会保険の現物給与は基準が異なるためです。

具体的には、弁当や社員食堂などで継続的に現物支給している場合、社会保険の算定基礎において「現物給与」として扱われ、労働の対償としての報酬の一部とみなされる可能性があります。また、食事手当などの「現金支給」は全額が報酬扱いとなり、そのまま社会保険料の算定対象となります。

社会保険の現物給与とみなされないための条件

社会保険において現物給与とみなされないためには、従業員が標準価額の「3分の2以上」を負担する必要があります。これは、社会保険における報酬の判断基準が、所得税の非課税条件である「50%以上の負担」とは異なるためです。

例えば、従業員が食事価額の50%を負担している場合、税務上は非課税であっても、社会保険上は現物給与とみなされます。その結果、年金事務所への申告が必要となり、標準報酬月額に影響して保険料が上がってしまう可能性があります。

所得税の非課税と社会保険料の増加防止を両立させるためにも、税務と労務の両面から食事補助の制度設計を行いましょう。

参照:令和8年4月から現物給与の価額が改正されます|日本年金機構

まとめ

2026年4月から食事補助の非課税上限枠が月額7,500円に引き上げられたことは、企業が従業員の待遇を改善する後押しになります。しかし、非課税メリットを享受するためには、従業員の負担割合や現物支給といった条件を遵守しつつ、社会保険への影響も考慮するなど、多角的な視点での制度設計が不可欠です。

本記事では、食事補助の非課税枠上限引き上げについて、実務上押さえておきたいポイントを解説しました。自社の運用をあらためて見直し、効果的な食事補助制度を通じて従業員満足度の向上につなげましょう。

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