近年、労働力不足を背景に外国人従業員を雇用する企業が増加しています。しかし、自然災害が多い日本において、外国人従業員に対する安否確認体制が十分に整っていないことに危機感を抱いている担当者も多いのではないでしょうか。

外国人従業員の中には言葉や知識の壁を抱えている人も多く、緊急時に指示や確認内容が伝わらなければ、企業の安全配慮義務を果たせません。

本記事では、外国人従業員が災害時に直面する壁や既存の安否確認フローに潜むリスクを解説します。多言語対応システムの導入や「やさしい日本語」の活用など、確実な安否確認を行うための対策もまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

外国人従業員の安否確認が企業に求められる背景

多くの企業にとって、外国人従業員の安全を確保するための体制構築は重要な課題の一つです。ここでは、外国人従業員の安否確認が求められる背景について解説します。

増加する外国人労働者

厚生労働省の最新データによると、日本で働く外国人労働者の数は年々増え続けており、2025年10月末時点では過去最多となる2,571,037人に達しました。少子高齢化や労働力不足を背景に、この増加傾向は今後も続くと予想されています。

近年は英語圏だけでなく、ベトナムやミャンマー、ネパールなど非英語圏からの就労者も急増しています。職場の言語環境が多様化するなか、日本語や英語だけの画一的な対応には限界があるでしょう。企業として外国人従業員を守るためにも、確実に情報を届ける安否確認体制の整備が不可欠です。

参照:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)|厚生労働省

関連記事:【2026年最新】外国人労働者数の国別ランキング!採用のポイントも解説

企業の安全配慮義務

企業には、雇用する従業員が安全で健康に働けるよう配慮する責任があります。

企業に求められる義務は国籍を問わずすべての従業員に適用されます。そのため、外国人従業員に対しても日本人と同じレベルで安全を確保する体制を整えることが大切です。

安否確認に法的な義務はないものの、労働契約法第5条に規定される安全配慮義務の一環として位置付けられています。企業は「現場の誰かが助けてくれるだろう」といった属人的な対応から脱却し、確実に外国人従業員の安否を確認できる体制を整える必要があります。

関連記事:企業の安否確認とは?必要性や確認事項、ポイントまでわかりやすく解説

外国人従業員が直面する3つの壁

災害時に外国人スタッフを守るためには、彼らが抱える特有のリスクを正しく理解し、しっかりとしたサポート体制を築いておくことが欠かせません。

外国人従業員の多くは、災害時に、「言葉・知識・心理」の3つの壁に直面しやすく、いざというときに適切な避難行動をとれない可能性があります。外国人従業員が直面する3つの壁と、具体的に生じるリスクは以下のとおりです。

3つの壁具体的なリスクや状況
「言葉」の壁日本語能力が十分でないため、緊急時の避難指示や安否確認メールの意味を正確に理解できず、逃げ遅れるおそれがある
「知識」の壁母国で大地震や津波を経験したことがない人が多く、災害発生時の正しい行動を知らない
「心理」の壁知識がないためにパニックに陥りやすく、二次災害を引き起こすリスクがある

企業は組織全体で3つの壁について理解し、単にマニュアルを用意するだけでなく、日頃のコミュニケーションや教育を通じたサポート体制を整えておくことが大切です。

安否確認フローに潜む「伝わらない」リスク

現在社内で運用している安否確認のルールが、外国人従業員に対して確実に機能するとは限りません。いざというときに「内容が伝わらなかった」という事態を防ぐため、既存のフローに潜むリスクをあらためてチェックしておく必要があります。

既存の安否確認フローに潜むリスクについて解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

日本語主体のマニュアルやシステムの限界

既存の安否確認システムやマニュアルが日本語主体の場合、外国人従業員へ迅速かつ確実に情報を届けることが難しくなります。

外国人従業員の多くは、日本語で書かれている緊急通知の内容を理解するのに時間がかかります。この場合、命を守るための初動対応の遅れに直結してしまうため注意が必要です。また、英語表記の整備は重要ですが、近年は非英語圏出身の外国人従業員も多いため、英語対応だけですべての従業員に情報を伝えきれるわけではありません。

言葉の壁による情報伝達の遅れを防ぐため、誰もが直感的に理解できるマニュアルやシステムに見直す必要があります。

属人的な運用による限界

「いざとなれば現場の日本人従業員が助けるだろう」という属人的な安否確認体制にはリスクがあります。夜間や休日、あるいは大規模な災害で現場が大混乱している状況では、特定の個人の対応力に依存する仕組みはすぐに機能不全に陥ってしまうからです。

例えば、現場の日本人スタッフに外国人従業員のサポートを任せきりにしていると、担当者が不在のタイミングには対応しきれません。また、緊急時に担当者がメールで安否確認の連絡する体制の場合、通信障害でそもそも届かなかったり、災害直後の混乱で見落とされたりして、未読放置になる不安が残ります。

企業には、属人的な対応や単一の連絡手段を見直し、いかなる状況下でも確実に安否確認できる体制を構築することが求められています。

外国人従業員の安否確認を確実にする3つの対策

外国人従業員を情報難民にさせないためには、システムの「ハード面」と、日頃のコミュニケーションといった「ソフト面」の両方からのアプローチが必要です。ここでは、外国人従業員の安否確認体制を強化するための3つの対策を紹介します。

1. 多言語・英語対応の安否確認システムの導入

外国人従業員の安否確認を確実にするためには、英語をはじめとする多言語に対応した安否確認システムの導入が有効です。災害時には、言葉の壁によるコミュニケーションのタイムロスが命取りになるため、母国語で直感的に操作できるシステム環境を整えることが大切です。

多言語システムの導入には、具体的に以下のようなメリットがあります。

直感的な操作と
回答率の向上
「無事」「軽傷」「避難中」などの選択肢が母国語で表示されるため、外国人従業員が迷わず簡単に回答できる
迅速な状況把握と支援回答率の向上により企業が素早く全員の状況を把握し、適切な支援に動き出せる
事業継続への貢献災害時の混乱を最小限に抑えられるため、業務への影響を減らせる

誰もが使いやすいシステムを整えることは、いざというときの迅速な初動対応につながります。

2. やさしい日本語を用いたマニュアル作成と情報発信

日頃のマニュアルや掲示物において「やさしい日本語」を活用することも対策のポイントです。

さまざまな国の外国人従業員が働いている職場では、全員の母国語に対応するのは難しいケースがあります。この場合、安否確認の際は一文を短くしたり、曖昧な表現や敬語を避けたりして、やさしい日本語を活用すると効果的です。

具体的には、以下のように言い換えることで伝わりやすくなります。

通常の表現やさしい日本語への言い換え例
高台に避難してください高いところへ逃げてください
断水しています水が出ません
記入願います書いてください

また、ピクトグラム(図記号)を併用して視覚的にわかりやすい方法で情報を発信することも工夫の一つです。小学校低学年でもわかるようなシンプルな言葉に言い換えるだけで、情報の伝わりやすさが向上します。

3. 防災教育と防災アプリの活用

安否確認体制を機能させるためには、平時からの防災教育が欠かせません。どれほど優れた仕組みを構築しても、外国人従業員が事前にルールを把握していなかったり、操作に慣れていなかったりすると、災害時に正しい行動をとれないリスクがあります。

具体的には、以下のような教育や準備をしておきましょう。

  • 避難場所や待ち合わせ場所を事前に決める
  • 日本人従業員も一緒に定期的な避難訓練を実施する
  • 多言語対応防災アプリ「Safety tips」をスマートフォンにインストールさせる

「Safety tips」とは、観光庁監修の多言語対応防災アプリです。地震や津波の警報を15言語でプッシュ通知してくれるため、日本語がわからなくてもリアルタイムで情報を受け取れます。

日頃から実践的な教育や訓練を重ねることが、結果として外国人従業員の命を守ることにつながります。

参照:訪日外国人旅行者用災害時に役立つツール|観光庁

外国人従業員の安否確認をスムーズに行うための例文

災害時は、誰もが慌ててしまうものです。いざというときに外国人従業員とスムーズにコミュニケーションが取れるよう、便利な定型文を用意しておきましょう。

英語での安否確認連絡のフレーズ例

メールやチャットですぐに使える英語のフレーズは以下のとおりです。

伝えたい内容英語のフレーズ
全員無事です“We’re all safe.”
無事ですか“Are you OK?”
私たちのオフィスは安全ですか“Is our office safe?”
時間があるときに知らせてください“Please let me know when you can.”

状況を確認する際は、相手の安全を気遣いつつ簡潔に返信を促すひと言を添えると、思いやりのあるコミュニケーションになります。

やさしい日本語での声かけ例

災害直後に現場で声をかけるときは、短く、はっきりと行動を指示することがポイントです。緊急時に使えるやさしい日本語を意識した声かけ例は、以下のとおりです。

  • 「地震です」
  • 「頭を守ってください」
  • 「ついてきて」

敬語や曖昧な言い回し、和製英語はかえって伝わりにくくなるため、できるだけ避けましょう。

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まとめ

全社的な安否確認を確実に行うには、まず外国人従業員が直面する「言葉・知識・心理」の壁を理解し、情報難民になりやすいリスクを認識することが大切です。そのうえで、属人的な対応から脱却し、多言語・英語対応の安否確認システムの導入を検討しましょう。また、やさしい日本語での情報発信や相手を気遣ったコミュニケーションを心がけることもポイントです。

本記事では、安否確認が求められる背景や外国人従業員にも配慮した具体的な対策について解説しました。安否確認体制の強化を通じて、会社全体で誰もが安心して働ける仕組みづくりを進めていきましょう。