年次有給休暇の運用における基本的なルールや注意点を押さえたい。
この記事は上記のような方に向けて、年次有給休暇の概要や種類などを踏まえつつ、基本となるルールをわかりやすく解説します。
運用における注意点や年次有給休暇の取得を促進するポイントも併せてご紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。
年次有給休暇とは
まずは年次有給休暇の概要や平均取得率などについてご紹介します。
年次有給休暇の概要
年次有給休暇とは、厚生労働省の定義によると「一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇」となっています。
労働基準法39条を根拠としており、従業員から年次有給休暇の取得希望があった場合は必ず取得させなければなりません。
また付与条件を満たした従業員に対しては、雇用形態に関わらず付与する必要があります。
年次有給休暇の平均取得率
ここで年次有給休暇の平均取得率を見てみましょう。
以下のグラフは「令和5年就労条件総合調査の概況」に掲載されたデータです。
グラフを見ていただくと、2023年(令和5年)における年休取得率は62.1%であることがわかります。
過去30年間を見ても最も高い取得率となっており、特に2019年(平成31年)から取得率が大きく伸びていることも読み取れるでしょう。
2019年から年次有給休暇取得は義務化
平均取得率が伸びている背景には、2019年4月に行われた労働基準法改正があります。
本改正によって、年に10日以上年次有給休暇を付与されている従業員には、基準日(付与日)から1年以内に時季を指定して5日分の休暇を取得させることが義務化されました。
これまで取得時季は従業員の任意でしたが、本改正における義務化対象の5日については、企業側で時季を指定します。
この義務化規定によって、企業の年休への意識が高まり、取得率も増加していると言えるでしょう。
年次有給休暇関連の法律違反による罰則
年次有給休暇は労働基準法で定められた制度であり、2019年以降は取得が義務化されたため、これらの法律や義務に違反した場合の罰則が設けられています。
たとえば従業員が取得希望を出したにも関わらず取得させなかった場合、労働基準法119条の規定によって、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科されます。
また5日取得の義務に違反した場合、同法120条の規定によって30万円以下の罰金が科される点も留意してください。
年次有給休暇の種類
次に基本的な形で取得される年次有給休暇の他に、特殊な形で付与する年次有給休暇の種類についてご紹介します。
計画年休
計画年休とは、あらかじめ取得する日を企業と従業員側で計画的に定め、その規定に応じて付与する年次有給休暇です。
計画年休制度を用いることで年休取得が滞る状況を解消できますが、従業員側が自分で請求・取得できる年次有給休暇を最低5日は残さなければなりません。
計画年休制度を活用するには、労使協定を締結する必要がある点も留意しましょう。
半日単位・時間単位年休
半日・時間単位年休とは、半日や時間単位で付与する年次有給休暇です。
通常の年次有給休暇は1日単位となっていますが、本制度を利用することで半日や時間単位で付与することが可能となります。
時間単位年休を導入するには労使協定を締結する必要があり、年5日までが限度となっている点にも注意してください。
特別休暇
特別休暇とは、会社独自で設ける休暇制度のことです。
通常の年次有給休暇に加えて、バースデー休暇やリフレッシュ休暇など企業が任意で設定できます。
福利厚生の一種として設けることで、従業員の満足度向上にも繋げられるでしょう。
年次有給休暇の基本ルール
ここからは年次有給休暇の基本的なルールを解説します。
ルール①:年次有給休暇の付与要件
年次有給休暇は無条件で付与されるものではなく、以下の要件を満たした従業員に対して付与されます。
- 雇入日から6ヶ月以上継続して雇用している
- 全労働日の8割以上出勤している
上記要件を満たしている場合、雇用形態に変わらず付与しなければなりません。
アルバイトやパート従業員については、勤務シフトにおける全労働日数の8割が基準となる点は留意しましょう。
【補足】出勤日として扱う項目について
年次有給休暇の取得要件における出勤日としては、以下のような項目が含まれます。
- 年次有給休暇を取得した日
- 産前産後休業日
- 育児休業日
- 介護休業日
- 業務上の負傷や疾病に起因して療養のために休業した日
一方で以下の日数は出勤日から除外されます。
- 使用者の責に帰すべき事由によって休業させた日
- ストライキなどの正当な争議行為によって労務がなされなかった日
- 休日労働させた日
- 法定外休日で労働させた日
ルール②:年次有給休暇の付与日
年次有給休暇の付与日は原則雇用してから6ヶ月のタイミングとなります。
たとえば4月1日入社の従業員に対しては、10月1日に付与されることになるでしょう。
また付与日を前倒しして入社日に全日付与したり、入社日に5日、6ヶ月後に5日といった形で付与したりすることも可能です。
ルール③:年次有給休暇の付与日数
年次有給休暇の付与日数は、正社員などのフルタイム勤務者と、アルバイトやパートといった所定労働日数が少ない労働者によって異なります。
まずフルタイム勤務者を対象とした原則の付与日数は以下のとおりです。
アルバイトやパートはその勤務日数によって、以下のように比例付与されます。
ルール④:5日取得の基準日について
2019年の労働基準法改正によって10日以上付与した場合は、基準日から1年以内に5日取得させることが義務付けられています。
基準日は付与するタイミングによって異なり、大きく以下の3つのパターンに分かれます。
付与タイミング | 基準日(例) | 5日の取得期限(例) |
---|---|---|
パターン1:法定どおりに付与 (例)2024年4月1日に入社した従業員に対して10月1日に付与 | 10月1日 | 2025年9月30日 |
パターン2:入社日に前倒し付与 (例)2024年4月1日の入社と同時に付与 | 4月1日 | 2025年3月31日 |
パターン3:分散して付与 (例)2024年4月1日の入社時に5日、10月1日に5日を付与 | 10月1日 | 2025年9月30日 |
パターン3のように分散して付与する場合、付与日数が10日に達したタイミングを基準日として扱うことになる点は注意しましょう。
ルール⑤:年次有給休暇の最大日数と繰り越し
年次有給休暇の法定上限日数は20日です。
また翌年度まで繰り越すことができるため、5日余った状態で次の付与日を迎えた場合、その5日に加えて、本年度の日数が付与されることになります。
ルール⑥:時季変更権の行使
年次有給休暇は時季指定の義務がある5日を除き、基本的に従業員が指定した日に取得させなければなりません。
ただし事業活動の正当な運営を妨げる場合などに限り、時季変更権の行使が認められ、従業員に対して取得時季の変更を依頼できます。
また取得義務化の対象となる5日について、既に従業員が任意によって5日間の年次有給休暇を取得している場合、時季指定できない点も把握しておきましょう。
ルール⑦:年次有給休暇の給与計算方法
年次有給休暇の給与は、以下の3パターンのいずれかで計算して支払われます。
- 所定労働時間を労働した際に支払われる通常の賃金
- 平均賃金
- 健康保険法に規定された標準報酬月額の1/30に相当する金額
基本的には1もしくは2を基に計算されますが、労使協定を別途締結することで3の計算方法で算出することが可能です。
ルール⑧:年次有給休暇管理簿の作成
企業は従業員ごとに取得時季や日数、基準日などを記載した年次有給休暇管理簿を作成し、年休付与対象となる期間および当該期間終了後3年間は保管する必要があります。
年次有給休暇管理簿を作成していなかった場合の罰則は現状設けられていません。
ただし各従業員の取得状況を把握し、5日の取得義務を果たす上で管理簿の存在は欠かせないため、必ず作成しましょう。
年次有給休暇に関する注意点
年次有給休暇の基本ルールを押さえていただいたところで、運用上の注意点をご紹介します。
注意点①:5日の時季指定を行う際は就業規則規定が必要
一つ目の注意点は、義務化となっている年次有給休暇5日分について時季指定を行う場合は、就業規則への規定が必要であるという点です。
年次有給休暇は本来従業員側が任意で取得するものですが、取得が義務化となった5日については、企業側が時季を指定して取得させなければなりません。
この際、就業規則において時季指定の方法や範囲などを明確に規定する必要があります。
もし就業規則に規定せずに時季指定を行った場合、労働基準法120条の規定により30万円以下の罰金が科されるため、注意してください。
注意点②:時間単位年休や特別休暇は5日にカウントされない
次に挙げられる注意点は、時間単位年休や特別休暇は義務化対象の5日にカウントされないという点です。
仮に時間単位年休を限度の5日分取得しても、義務化の対象として処理できず、別途5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。
企業が独自に設ける特別休暇制度も同様に5日にカウントされないため、年次有給休暇の管理を行う際は注意しましょう。
注意点③:年次有給休暇の買い取りは原則不可
続いて挙げられるのは、年次有給休暇の買い取りは原則不可であるという点です。
たとえ従業員からの申し出を受けて年次有給休暇を買い取っても付与したことにはならず、買い上げた日数に応じて年休日数を減らすことはできません。
ただし法定を上回る年休(特別休暇などを含め)や、時効、退職によって消滅する年休については買い取り可能です。
ただし企業の義務ではないため、仮に対応しなくても法的な罰則などはありません。
注意点④:中途退職者への按分付与はできない
中途退職者への按分付与ができない点も注意点として挙げられます。
たとえば年休付与日が4月1日となっている従業員が、3月時点で5月末退職を希望した場合でも規定通りの日数を付与する必要があります。
5月末退職であることを踏まえ、本来付与される日数を按分し「3日だけ付与する」などの対応をした場合、不利益な扱いとみなされるため注意しましょう。
ただし特別休暇や法定を上回る日数分に対しては、就業規則などに規定しておくことで、按分付与が可能です。
注意点⑤:年次有給休暇取得を理由とした不利益な扱いは禁止
次にご紹介する注意点は、年次有給休暇取得を理由とした不利益な扱いは禁止であるという点です。
労働基準法136条では、「年休取得を理由とした給与の減額」や「年休日を欠勤として扱う」といった不利益な扱いをすることを禁止しています。
年休取得を理由に不利益な扱いをした場合の罰則などは現状設けられていませんが、従業員や社会からの評価が下がってしまうでしょう。
注意点⑥:罰則については対象者ごとにカウントされる
注意点の最後に挙げられるのは、罰則については対象となる従業員ごとにカウントされるという点です。
労働基準法119条や120条に規定されている罰則は、違反対象となった従業員ごとにカウントされます。
たとえば年次有給休暇を適切に取得させなかった従業員が10名いる場合、労働基準法119条の規定により30万円以下の罰金が10名分科されるため、最大で300万円の罰金を支払わなければなりません。
年次有給休暇取得を促進するポイント
最後に年次有給休暇の取得を促進するポイントをご紹介します。
ポイント①:休みやすい環境の構築
一つ目のポイントは休みやすい環境の構築です。
年次有給休暇を従業員に取ってもらうには、年休申請をしやすい環境作りが欠かせません。
管理職を含めた上層部が積極的に年休を使ったり、年休を取れるように業務調整や声掛けをしたりするなど、「年次有給休暇を使ってもいいのだ」と従業員が感じる環境を構築する必要があるでしょう。
ポイント②:計画年休制度を積極活用する
二つ目のポイントは計画年休制度を積極的に活用するという点です。
夏季休暇やゴールデンウィークなどの大型連休と連動させる形で計画年休日を設けたり、部や課といった組織単位で交代付与したりといったように、計画的に年休を付与する仕組みを導入することで、年休取得を促進できます。
ただし、先述のとおり従業員側で任意に取得できる日数を5日は残す必要がある点は留意しましょう。
ポイント③:年次有給休暇取得目標を設定する
次に挙げられるのは、年次有給休暇取得目標を設定するという点です。
年次有給休暇の取得目標を個人や組織単位で設定した上で、目標に対する現状に応じて、対象者に取得を促したり、業務調整をしたりすることも有効な取り組みと言えます。
また取得目標を設定することで、企業として年次有給休暇取得を推進している点もアピールできるため、従業員も遠慮することなく年次有給休暇を活用できるでしょう。
ポイント④:年次有給休暇取得計画表を導入する
ポイントの最後に挙げられるのは、年次有給休暇取得計画表を導入するという点です。
取得目標と併せて取得計画表を導入することで、年次有給休暇の取得忘れといった状況を防ぐことができます。
部・課などの組織において年次有給休暇取得計画表を毎月作成することで、従業員のリソースを踏まえた業務スケジュールなども立てやすくなるため、企業側としても業務への影響を最小限に抑えられるでしょう。
まとめ
今回は年次有給休暇の基本ルールについて、注意点や取得促進のポイントと併せて解説してきましたが、いかがでしたか。
年次有給休暇は従業員の心身の健康を保つことは勿論、業務パフォーマンスを維持・向上させる上で欠かせない制度です。
年次有給休暇を積極的に活用してリフレッシュしてもらうことで、はじめて従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようになり、企業の利益にも繋がります。
ぜひこの記事を参考に、年次有給休暇の正しい運用に取り組んでいただければ幸いです。
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