労働者派遣事業者には、労働者派遣法に基づいて『派遣元責任者』の配置が義務付けられています。今回はこの『派遣元責任者』について、職務や要件をまとめました。
派遣元責任者とは
派遣元責任者は、派遣労働者の適切な雇用管理と保護を図るために、派遣元事業主に専属する者の中から選任されます。派遣労働者100人に対して1人以上の派遣元責任者を選任することが義務付けられており、派遣社員からの苦情への対応や、派遣先との連絡調整、派遣元管理台帳の作成などの労務管理をおこないます。
派遣元責任者の職務
派遣元責任者の職務内容は以下のとおりです。
(1)派遣労働者であることの明示等
雇用契約書などに派遣労働者として雇い入れること、紹介予定派遣の場合は紹介予定派遣であることを明示します。
厚生労働省『派遣労働者として雇い入れようとする時の明示(例)』
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000760601.pdf
(2)就業条件等の明示
派遣労働者に就業条件や派遣受入期間の抵触日などを明示します。就業条件は以下の内容を含める必要があります。
契約期間、就業場所、業務内容、始業・就業時刻、休憩時間、残業の有無、年間の休日、給料、支払い方法、支払日、昇給の有無、退職に関すること など |
厚生労働省『就業条件明示書(例)』
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/haken_jouken_r031215.pdf
(3)派遣先への通知
派遣先企業に派遣労働者に関する名前、性別、年齢、雇用期間などの情報を通知します。
厚生労働省『派遣先への通知(例)』
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/var/rev0/0109/1043/tsuuchi.pdf
(4)派遣元管理台帳の作成、記録及び保存
派遣労働者の名前、派遣先名、派遣期間など、法令で定められている事項を派遣元管理台帳に記録します。派遣元管理台帳は、派遣を終了した日から3年間保管しておくことが義務付けられています。
厚生労働省『派遣元管理台帳(記入例)』
https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/library/ibaraki-roudoukyoku/jyukyu/form/motokanri2905.pdf
(5)派遣労働者に対する必要な助言及び指導の実施
派遣労働者に対し、労働者派遣事業制度の趣旨、内容、労働者派遣契約の趣旨、労働基準法の適用に関することや苦情の申出方法などに関して、必要な助言や指導をおこないます。特に労働者派遣法の改正があった場合は、改正内容についての資料等を明示して周知を実施します。
(6)派遣労働者から申出を受けた苦情の処理
派遣労働者から申出を受けた苦情や派遣先から通知があった苦情に対し、適切に処理をおこないます。
(7)派遣先との連絡・調整
派遣業務で問題や苦情などが発生した場合に、それの解決を図るため、派遣先企業と連絡・調整をおこないます。
(8)派遣労働者の個人情報の管理に関すること
派遣労働者の個人情報が正確かつ最新のものに保たれているか、紛失、改ざんがされていないか、個人情報を取り扱う職員以外がアクセスしていないかについての管理や、必要なくなった個人情報の破棄や削除をおこないます。
(9)派遣労働者についての教育訓練の実施及び職業生活設計に関する相談の機会の確保に関すること
2015年の労働者派遣法の改正以降、派遣労働者のキャリアアップを図るため、派遣事業者には段階的かつ体系的な教育訓練の実施と希望者に対するキャリア・コンサルティングが義務付けられています。
策定されているキャリア形成支援制度に沿って教育訓練が実施されるように管理をおこなうほか、キャリアコンサルティング窓口としての連絡・調整や、派遣労働者が希望する場合はキャリアコンサルティングを実施します。
<教育訓練について>
教育訓練の機会 | 就職時の教育訓練が必須 少なくとも最初の3年間は毎年1回以上の教育訓練が必要 キャリアの節目など一定期間ごとにキャリアパスに応じた研修等を用意 |
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実施時間 | フルタイムで1年以上の雇用が見込まれる場合は毎年8時間以上 |
厚生労働省『キャリアアップに資する教育訓練計画の策定について』
https://jsite.mhlw.go.jp/yamanashi-roudoukyoku/content/contents/000399896.pdf
(10)安全衛生に関すること
派遣労働者の安全衛生を確保するため、以下の内容について、社内の安全衛生管理者や派遣先と連絡・調整をおこないます。
- 健康診断
- 安全衛生教育
- 労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する事項の実施状況の確認
- 事故等が発生した場合の内容・対応状況の確認
参考:厚生労働省『労働者派遣事業関係業務取扱要領 第6 派遣元事業主の講ずべき措置等』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/hakenyouryou_00003.html
派遣元責任者の要件
派遣元責任者は自社の役員や従業員から選任する必要があり、要件は以下のとおりです。
- 未成年者でなく、労働者派遣法で定められた欠格事由に1つも該当しない
- 住所や居所が一定しないなど、生活の根拠が不安定でない
- 適正な雇用管理をおこなえる健康状態である
- 成人してから3年以上の雇用管理経験がある
- 派遣元責任者講習を受講して3年以内である
- 外国人の場合は一定の在留資格がある
- 派遣元責任者が苦情処理などの場合に、日帰りで往復できる地域に労働者派遣をおこなうものである
「欠格事由」について
以下の条件に1つでも該当する方は、派遣元責任者にはなれません。
- 禁固刑又は労働基準法違反などにより懲役・罰金の刑に処され、その執行を受けることができなくなってから5年を経過していない
- 心身の故障により労働者派遣事業を適正におこなうことができない
- 破産者で復権していない
- 労働者派遣事業の許可を取り消されてから5年を経過していない
- 暴力団員でなくなった日から5年を経過していない
- 未成年
「3年以上の雇用管理経験」について
以下のいずれか1つについて、3年以上の経験が必要です
- 人事又は労務の担当
- 事業主、役員、支店長、事業所長など、監督もしくは管理の地位
- 派遣事業における派遣労働者・登録者等の労務担当
- 職業安定行政又は労働基準行政
- 民営職業紹介事業
- 労働者供給事業
参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=360AC0000000088
派遣元責任者講習とは
派遣元責任者講習は、派遣元責任者になるための要件として受講が義務付けられている講習で、主に派遣元責任者の職務や必要な事務手続きについて学習します。講習は1日で終了し、受講後には受講証明書が発行されます。講習は複数の講習機関が実施していますが、講習機関が違っても受講証明書の内容は同じです。
受講対象者
基本的に派遣元責任者に選任されている、または選任予定の方ですが、受講にあたっての要件や必要資格などはなく、労働者派遣事業の知識を得たい方も受講できます。
受講方法
講習機関が実施している各地の講習スケジュールを確認して申し込みます。一部の講習機関ではオンラインによる受講もできます。講習当日は受付確認書(受講証)、公的機関が発行した顔写真入り身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)、筆記用具などを持参しましょう。
<派遣元責任者講習の講習機関一覧>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000044436.html
製造業務専門派遣元責任者とは
製造業務専門派遣元責任者は、製造業の派遣をおこなう場合に必要となる派遣元責任者です。製造業務では危険な機械や有害物質を取り扱うことがあるため、先に紹介した派遣元責任者とは別に、製造業務専門の派遣元責任者の選任が義務付けられています。
製造業務に従事させる派遣労働者が1人でもいる場合は選任が義務付けられており、100人以下で1人以上、101人以上200人以下では2人以上、以降通常の派遣元責任者と同様に100人増加ごとに1人ずつ増えていきます。
派遣元責任者との兼任について
製造業務専門派遣元責任者と派遣元責任者については、派遣法施行規則第29条第3号にて『製造業務専門派遣元責任者のうち一人は、製造業務に従事しない派遣労働者を併せて担当することができる』とされており、1人なら兼任可能とされています。
例えば派遣労働者が250人で、そのうち製造業が120人、製造業以外が130人の場合、製造業務専門派遣元責任者と派遣元責任者が2人ずつ必要になりますが、製造業務専門派遣元責任者のうち1人は通常の派遣元責任者を兼務することが可能なため、実際には製造業務専門派遣元責任者2人と派遣元責任者1人の計3人を配置すればいい、ということになります。
参考:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=361M50002000020
まとめ
いかがでしたか?
労働者派遣法では派遣労働者が安全かつ適切に働くための規定が多く設けられており、この法律を厳守しながら、派遣労働者にとって働きやすい環境を作るのが派遣元責任者の役割です。とても重要度の高い職務であり、定期的な講習の受講も必要となりますので、忘れてしまっている部分がないか定期的に確認してみてください。