男性の育児休業取得が広がる一方で、「繁忙期に休まれると困る」「男性が育休を取る必要があるのか」など、職場で否定的な言動が生じるケースもあります。こうした言動は、男性育休に関するハラスメント(パタハラ)に該当する可能性があるため注意が必要です。
企業には、育休の取得などを理由とした不利益な取り扱いの禁止に加え、ハラスメントを防止するための措置が求められています。
本記事では、男性育休に関するハラスメントの定義や具体的なNG事例、企業が抱えるリスクについて解説します。2025年の法改正や企業が取り組むべき防止対策も紹介するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
男性育休ハラスメント(パタハラ)の定義と防止義務

男性の育休取得をめぐるハラスメントを防ぐには、どのような言動が問題になるのかを正しく理解することが重要です。ここでは、パタハラの定義や企業に求められる対応、発生する主な原因について解説します。
パタハラとは?マタハラとの違いと国内の現状
パタニティハラスメント(パタハラ)とは、男性従業員が育休や時短勤務などの制度を利用する際に、上司や同僚から嫌がらせを受け、就業環境が害されることです。
妊娠・出産や育休などに関して女性が受けるマタニティハラスメント(マタハラ)とは、対象が男性である点が異なります。男性の育休取得が広がるなか、パタハラは企業が防止に取り組むべき課題の一つです。
厚生労働省の調査によると、育児に関する制度を利用しようとした男性労働者のうち、24.1%がハラスメントを経験しています。行為者は上司が57.5%と最も多く、役員が23.3%、同僚が20.8%でした。
こうした状況を踏まえ、企業には制度を整えるだけでなく、管理職や従業員の理解を深め、男性が育休を取得しやすい職場環境を整備することが求められます。
参照:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書|厚生労働省
不利益取扱いの禁止と企業が講ずべき防止措置義務
企業は、育休の申出や取得を理由として、従業員に不利益な取り扱いをしてはなりません。さらに、育休などの制度利用に関するハラスメントを防止するため、必要な措置を講じる義務があります。
育児・介護休業法では、育児休業の申出や取得を理由とした解雇をはじめ、降格や減給、不利益な配置転換などを禁止しています。また、企業にはハラスメントに関する相談体制の整備や社内への周知、相談者のプライバシー保護などの対応が必要です。
これらの防止措置義務は企業規模を問わず適用されます。そのため、中小企業でもパタハラを個人間の問題として扱うのではなく、企業として防止・対応できる体制を整えておくことが重要です。
参照:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-GOV法令検索
男性育休ハラスメントが発生する主な原因
男性育休ハラスメントが発生する背景には、性別による固定観念に加え、人手不足や業務の属人化といった職場環境の問題があります。
例えば、「育児は女性が担うもの」「男性が育休を取るのはあり得ない」といった無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)が職場に残っていると、男性の育休取得に否定的な言動が生じやすくなります。
また、少人数で業務を回している職場では、従業員が長期間休むことで、周囲の負担が増えるケースも少なくありません。特定の従業員しか担当できない業務があるなど、業務が属人化している場合は、育休取得への反発につながる可能性があります。
パタハラを防ぐには従業員の意識を変えるだけでなく、人員配置や業務分担を見直し、育休を取得しても業務を継続できる体制を整えることが重要です。
【2025年改正】男性育休ハラスメント防止と法改正

2025年には、育児と仕事を両立しやすい環境を整えるため、育児・介護休業法の改正が段階的に施行されました。企業は男性育休の取得を認めるだけでなく、従業員が育児をしながら働き続けられる環境を整備することが重要です。
以下で、2025年に施行された主な改正内容や新たな給付金制度について解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
取得率公表の対象企業が拡大
2025年4月から、男性の育児休業等の取得状況について、公表義務の対象が従業員数1,000人超から300人超へ拡大されました。対象となる企業は、男性の「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれかを、年1回公表する必要があります。
男性の育休取得状況が社外からも確認できるため、制度の整備に加えて、従業員が実際に利用しやすい職場環境づくりも重要です。育休を取得しやすい職場づくりは、採用活動や企業イメージの向上にもつながります。
柔軟な働き方を実現するための措置の義務化
2025年10月から、3歳から小学校就学前の子どもを養育する従業員が柔軟に働けるよう、企業には複数の措置を講じることが義務付けられました。
具体的には、始業時刻などの変更やテレワーク、短時間勤務などの選択肢から、2つ以上を導入する必要があります。対象となる従業員は、企業が用意した措置のなかから、自身の状況に応じて1つを選択して利用できます。
育児と仕事の両立方法は家庭によって異なるため、複数の選択肢を設け、従業員が働き方を選べる環境を整えることが重要です。
個別周知・意向確認の義務化と両立配慮
2025年10月から、企業には仕事と育児の両立に関する従業員の意向を個別に確認し、働き方に配慮することが義務付けられました。
具体的には、本人または配偶者の妊娠・出産の申出時と、子どもが3歳になる前の適切な時期に、勤務時間帯や勤務地、両立支援制度の利用期間などについて意向を確認します。
制度を形式的に案内するだけでなく、従業員から聞き取った希望や家庭の事情を踏まえ、可能な範囲で働き方に反映させることが求められます。
給付金制度の新設
2025年4月には、育児休業中の収入減少を抑え、両親の育児参加を促すために「出生後休業支援給付金」が新設されました。
一定の要件を満たし、原則として両親がともに14日以上の育児休業を取得した場合、最大28日間、既存の育児休業給付に13%相当が上乗せされます。これにより、給付率は休業開始前賃金の80%相当となり、社会保険料の免除などを考慮すると手取り10割相当の収入が確保される仕組みです。
育休取得による収入面の不安を軽減できるため、男性が育児に参加しやすい環境づくりを後押しする制度といえます。
関連記事:【2025年施行】改正育児・介護休業法の社内周知義務について解説
現場で起こりがちな男性育休ハラスメントのNG事例3選

男性の育休取得に対する否定的な発言だけでなく、人事評価や配置、復帰後の対応などもハラスメントに該当する可能性があるため注意が必要です。
ここでは、職場で起こりがちな男性育休ハラスメントのNG事例を3つ紹介します。
事例1.育休の取得を阻害・妨害する非難発言
育休の取得をためらわせるような発言は、パタハラに該当する可能性があります。例えば、以下のような発言です。
- 「繁忙期に抜けるのは無責任だ」
- 「男性が育休を取るなら、今後の昇進はない」
- 「育休を取るなら、周りに迷惑をかけることも考えてほしい」
上司だけでなく、同僚による「男が育休なんて良い身分だ」といった嫌がらせも該当する可能性があります。管理職がこうした言動を把握しながら放置すると、育休を取得しにくい職場環境につながります。制度の利用を妨げる言動を認めず、問題が生じた場合は適切に対応する姿勢が必要です。
事例2.取得・復帰を理由とする不利益な人事処遇
育休の取得や職場復帰を理由として、不利益な人事処遇を行うことも認められません。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- 育休からの復帰後、本人の希望や適性を考慮せず配置転換する
- 育休を取得したことだけを理由に、人事評価を引き下げる
- 育休取得者の昇給を不当に制限する
育休取得を理由とした解雇や降格、減給などの不利益な取り扱いは、育児・介護休業法で禁止されています。人事上の判断を行う際は、育休の取得そのものを不利益な評価につなげないよう注意が必要です。
事例3.復帰後の嫌がらせ
育休から復帰した従業員に対する嫌がらせも、パタハラに該当する可能性があります。例えば、以下のようなケースです。
- 「また急に休まれると困る」などと繰り返し嫌味を言う
- 復帰後に仕事を与えず、簡単な業務だけを任せる
- 会議や情報共有から意図的に外し、職場で孤立させる
復帰した従業員が以前と同様に働ける状況であるにもかかわらず、育休取得を理由に仕事を制限したり、職場から排除したりする対応は適切ではありません。復帰後も安心して働ける環境を整え、嫌がらせを把握した場合は速やかに対応する必要があります。
男性育休ハラスメントによる企業リスク

男性育休ハラスメントを放置すると、被害を受けた従業員だけでなく、企業にも大きな影響を及ぼします。以下で、具体的にどのようなリスクが生じるのかを解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
賠償金と経営者の使用者責任
パタハラによって従業員の権利や人格的利益を侵害した場合、行為者だけでなく、企業側も損害賠償責任を問われる可能性があります。
2026年6月の東京地裁判決では、育休を取得した男性従業員に対し、同僚が「無責任すぎて言葉も出ない」などのメッセージを送った行為を不法行為と認定しました。経営者と同僚には、慰謝料など22万円の連帯支払いが命じられています。
メッセージは終業後に送られたものでしたが、業務との密接な関連性があるとして、経営者の使用者責任も認められました。勤務時間外や私的な連絡手段での言動であっても、企業の責任につながる可能性がある点には注意が必要です。
企業名の公表と社会的信用の失墜
企業がパタハラの防止措置を適切に講じず、行政からの勧告にも従わない場合、企業名が公表される可能性があります。
さらに、訴訟などによってパタハラへの対応が明らかになれば、企業の社会的信用を損なうおそれもあります。実際に「医療法人稲門会事件」では、育休の取得を理由に昇格試験の受験機会を与えなかったことについて、裁判所が違法と判断しました。
法的な責任だけでなく、従業員や求職者、取引先などからの信頼にも影響する可能性があるため、日頃から適切な防止・対応体制を整えておく必要があります。
参照:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律|e-GOV法令検索
参照:医療法人稲門会(いわくら病院)事件|全国労働基準関係団体連合会
若手社員の離職
パタハラを放置すると、被害を受けた本人だけでなく、周囲の従業員の離職につながる可能性があります。育休を取得しにくい雰囲気がある職場では、将来的に制度を利用したい従業員も「自分も同じ扱いを受けるのではないか」と不安を感じかねません。
特に、仕事と家庭の両立を重視する若手社員にとって、育休を取得しやすい環境は勤務先を選ぶうえでの判断材料の一つです。
さらに、退職者によるSNSや口コミサイトへの投稿を通じて職場環境への不満が広まれば、採用活動にも影響を及ぼすおそれがあります。人材の定着と採用の両面から、パタハラを防ぐ職場づくりが求められます。
男性育休ハラスメント防止のための4つの対策とアプローチ

男性育休ハラスメントを防ぐには、従業員への周知だけでなく、育休を取得しても業務を継続できる体制づくりが欠かせません。ここでは、企業が取り組みたい4つの対策とアプローチを紹介します。
1.正当な調整とハラスメントの線引きの明確化
企業は、育休取得を妨げる言動と、業務上必要な調整との線引きを明確にしておく必要があります。
例えば、「繁忙期だから育休を取らないでほしい」と取得を制限する発言は認められません。一方で、育休の取得を前提として、引き継ぎの方法や業務スケジュールについて話し合うことは、適切な業務調整といえます。
管理職が対応に迷わないよう、具体的な事例を用いた研修などを実施し、適切な対応方法を共有しておきましょう。
2.相談窓口の設置と対応フローの整備
パタハラの早期発見・対応につなげるため、従業員が相談しやすい窓口を設置します。「社内では話しづらい」と感じる従業員のプライバシーに配慮し、弁護士や社会保険労務士などに窓口を委託することも選択肢の一つです。
また、相談を受けた後の対応フローは、以下のように明文化しておきましょう。
- 客観的な事実関係を確認する
- 被害者の迅速な救済・配慮を行う
- 就業規則などに基づき行為者に対応する
- 再発防止策を実施する
手順や担当者をあらかじめ定めておくことで、相談を受けた際も迅速かつ一貫して対処できます。
3.業務の引き継ぎスケジュールのルール化
育休取得による周囲への業務のしわ寄せを防ぐには、早い段階からの引き継ぎ準備が欠かせません。
従業員から妊娠・出産や育休取得の申し出があった段階で、担当業務を洗い出し、引き継ぎ先やスケジュールを決めます。あわせて、マニュアルの作成や複数の従業員で担当できる体制づくりを進めると、属人化の解消にもつながります。
育休取得者だけに準備を任せるのではなく、上司や人事担当者も早期に関わり、計画的に引き継ぐ仕組みを整えることが大切です。
4.手当や評価制度の充実
育休取得者の業務を引き受ける従業員への負担にも配慮が必要です。業務量が増えたにもかかわらず、待遇や評価に反映されなければ、不公平感が生まれ、育休取得者への不満につながる可能性があります。
例えば、休業中の業務を担う従業員に対して「応援手当」などを支給する方法があります。また、人事評価において、業務をカバーした貢献を適切に評価する仕組みも有効です。
育休を取得する側だけでなく、支える側の負担や貢献にも目を向けることで、職場全体が制度を利用しやすい環境につながります。
まとめ
男性の育休取得が広がるなか、企業にはパタハラを防ぎ、従業員が安心して制度を利用できる職場環境を整えることが求められています。パタハラを防止するには、相談窓口の設置や管理職への周知だけでなく、業務の属人化を解消し、育休取得者を周囲が支えられる体制をつくることも欠かせません。
本記事では、男性育休ハラスメントの定義や企業に生じるリスク、具体的な防止対策について解説しました。育休を取得する従業員と支える従業員の双方に配慮しながら、自社の人員や業務状況に合った仕組みを整えていきましょう。


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