アルムナイ採用に取り組むうえで、「退職者の個人情報を使うのは問題ないのか」と不安を抱える方もいるでしょう。入社時や在籍中に収集した情報は、原則として雇用管理を目的としています。そのため、退職後にアルムナイ採用で活用するためには、個人情報保護法に基づいた手続きが必要です。
本記事では、退職後に個人情報を適切に利用するための条件や、アルムナイ採用の導入ステップを解説します。チェックリストも掲載しているので、制度導入の際に活用していただけますと幸いです。
アルムナイ採用の基礎知識

アルムナイ採用を活用するためには、全体像を把握しておく必要があります。ここでは、アルムナイ採用とは何か、企業が注目する背景とあわせて解説します。
アルムナイ採用とは
アルムナイ採用とは、退職した元社員や元派遣社員を対象に再び業務に関わってもらうための仕組みです。近年は雇用の流動化が進み、転職を理由に企業を離れた人材とのつながりを継続する「アルムナイネットワーク」を整備する企業が増えてきています。
再雇用だけでなく、業務委託やプロジェクト参画、知人紹介など、退職者との関わり方は多様化しています。アルムナイ採用は、元従業員が即戦力として活躍できる期待もあり、採用コストが抑えられる点も強みです。
企業が注目する理由
アルムナイ採用が注目されているのは、企業側の人材確保における課題解決と退職者とのつながりを活かせるメリットが大きいからです。
近年の日本では、正社員だけでなく派遣社員やアルバイトなど、雇用形態を問わず労働人口の流動化が進み、ステップアップを目的とした転職や再就業が一般的になっています。一方で、少子高齢化によって新たな人材確保が難しく、従来の新卒や中途採用だけでは安定的に人員を維持しにくい状況にあります。
また、自社や就業先で経験を積んだ人材が契約満了や転職などで流出してしまうケースもあるでしょう。しかし、外部でスキルを磨いた元従業員とのネットワークを維持しておくことで、再就業につながる可能性も生まれます。
さらに、営業機会の創出や業務連携など、アルムナイネットワークの整備はさまざまな面でプラスの効果が期待できるでしょう。このような背景から、アルムナイ採用は実務面のメリットが大きく、多くの企業で注目が高まっています。
アルムナイの個人情報を退職後に利用するための条件

退職者の個人情報は雇用管理の目的から外れるため、そのままではアルムナイ採用に活用できません。適法に利用するためには、個人情報保護法に基づいた条件を満たす必要があります。
ここでは、退職者の情報をアルムナイ採用で利用するための条件を解説します。
同意を得たうえで利用目的を明確化する
退職者の個人情報をアルムナイ採用で利用するには、利用目的を明確にしたうえで再同意を得ることが必須です。在職中に収集した個人情報は「雇用管理」を目的としており、退職後にアルムナイ採用に活用する場合は、個人情報保護法上の「目的外利用」に該当します。
目的外利用の同意は書面やメール、Webフォームなどで取得する方法が一般的で、内容や日付を記録として残しておくと安心です。また、同意が得られなかった退職者の個人情報はアルムナイ採用には利用できません。
企業側が新たな利用目的を明示し、退職者本人が納得したうえで同意を得る必要があります。
保管期間と管理方法を適切に設定する
退職者の個人情報をアルムナイ採用に活用するには、保管期間と管理方法を適切に設定することが大切です。
個人情報は、必要な範囲で安全に管理する義務があり、保管期間を超えた保存や管理不備は違法となる可能性があります。労働関係書類(雇用契約者や履歴書など)は労働基準法で退職後5年(当面の間は3年)の保管義務があり、派遣社員のスキルシートや職歴データも個人情報に該当します。
アルムナイ採用の目的で管理する場合は、改めて保管期間と削除ルールを設定し、アクセス権限の制限や削除依頼への対応窓口など、運用ルールの明確化も必要です。
参照:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会
退職後にアルムナイの個人情報を活用するメリット

アルムナイの個人情報を適切に活用するメリットには、即戦力となる人材の採用や採用コストの削減が挙げられます。以下で詳しく見ていきましょう。
即戦力となる人材を採用できる
アルムナイ採用を活用するメリットは、効率的に即戦力となる人材を採用できる点です。
自社の元社員や派遣スタッフであれば、企業や就業先の組織、文化に精通しており、基本的な研修を省略できます。また、離職後に転職先で習得した新たなスキルや経験を身につけて再入社するケースもあり、以前より高いパフォーマンスが期待できるでしょう。
過去の同僚や顧客との関係性を活かして成果を上げられるほか、社外で得た人脈や取引先とのネットワークが活かされ、新たなビジネスにつながる可能性もあります。再教育の手間を抑えつつ即戦力を確保できる点は、企業にとって大きなメリットです。
採用コストが削減できる
採用コストを抑えられる点も、アルムナイの個人情報を活用するメリットの一つです。
アルムナイ採用は一般的な中途採用と異なり、広告費用や求人媒体の利用料が不要で、人材紹介手数料も発生しません。さらに、過去に就業実績があり、人物像やスキルをある程度把握しているため、選考プロセスも簡略化できます。
受け入れ後の育成期間や研修コストも最小限に抑えられ、短期間で戦力化しやすいでしょう。無駄な費用をかけずに効率的な採用ができる点は、企業にとって魅力的なメリットです。
企業ブランドの向上に期待ができる
アルムナイの個人情報を適切に活用すると、企業ブランドの向上につながる可能性があります。退職後も企業との関係を維持し、柔軟に再受け入れできる環境があることで「オープンな企業文化」を印象づけられます。
また、「退職した従業員が再び働きたいと感じるほど魅力がある会社」といったポジティブな評価につながる点もメリットです。社内外への好循環が生まれ、既存の従業員のエンゲージメント向上や離職防止にも寄与するでしょう。結果として、企業全体のブランド価値が高まる効果が期待できます。
個人情報保護法をもとにアルムナイ採用を導入する4つのステップ

アルムナイ採用を導入する際は、個人情報保護法に沿って運用手順を整えることが必要です。ここでは、導入時に確認すべき4つのステップを紹介します。
1.アルムナイ採用の目的を明文化する
アルムナイ採用を運用するには、まず制度の目的と活用する退職者情報の範囲を明確にする必要があります。目的があいまいなままだと退職者への説明や個人情報の取り扱い基準が不明確になり、法的にも運用面でもリスクが生じるためです。
再雇用の案内や業務委託案件の紹介、イベント・社内情報の共有など、どの場面で退職者情報を利用するのか整理しましょう。あわせて、個人情報の利用範囲や対象とする退職者の基準も設定します。
目的を明文化しておくことで、退職者への説明や社内運用ルール策定がスムーズになります。
2.同意取得と利用目的の通知を行う
退職者の個人情報をアルムナイ採用に活用する場合、利用目的を明確にしたうえで再同意を得る手続きが欠かせません。在職時に収集した個人情報は「雇用管理」を目的としており、アルムナイ採用で使う場合は「利用目的の変更」に該当します。
個人情報保護法に基づいて退職者に利用目的を具体的に説明し、同意を取得しましょう。同意取得はメールや書面、Webフォームなどで行い、同意内容と取得日を記録に残しておくと安心です。なお、同意が得られない場合は情報を利用せず、アルムナイ採用の対象外として扱います。
3.個人情報の管理ルールと責任者を設定する
アルムナイ採用を適切に運用するためには、退職者の個人情報を安全に取り扱うための管理体制を整えることが欠かせません。個人情報を扱う人や保管場所が増えるほど、情報漏えいや不正利用のリスクが高まります。
以下の項目を文書化し、社内の管理ルールとして共有しましょう。
- 保存期間
- アクセス権限
- 利用範囲
- 削除ルール など
また、管理責任者を明確にし、情報の取り扱いに細心の注意を払う体制を整える必要があります。退職者情報を社内システムや外部ツール、クラウドで管理する場合は、権限設定やログ管理を行い、閲覧者を最小限に絞ることで安全性が高まります。
4.情報更新・削除などの運用フローを整える
退職者情報の更新や削除ルールなどの運用フローを整えることも、アルムナイ採用を導入する際には重要です。アルムナイの情報は一度登録して終わりではなく、更新が滞ると誤案内やトラブルにつながりやすくなるため、定期的な更新と不要データの削除が必要になります。
具体的には、以下のような運用ルールを事前に整えておきましょう。
- 定期的な情報更新のフロー
- 退職者からの訂正や削除依頼への対応手順
- 依頼窓口の明確化
- 対応履歴の記録
このような仕組みを整えておけば、ミスや漏れを防ぎトラブルを回避しやすくなります。
参照:個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)|個人情報保護委員会
退職後の個人情報をアルムナイ採用に活用する際のチェックリスト

退職後の個人情報を活用するためには、法的要件と運用体制が整っている必要があります。運用があいまいなままだと、目的外利用や管理不備につながり企業側のリスクが高まるためです。
以下の項目がすべて満たされているか、チェックしてください。
- アルムナイ採用で利用する目的を明確にし、退職者へ適切に通知または公表している
- 「雇用管理目的」からの「利用目的の変更」にあたるため、再同意の取得プロセスが整備され、記録として残されている
- 個人情報の保管ルールと管理権限、アクセス範囲が明確化されている
- 退職者からの情報訂正や削除依頼に対応できる連絡窓口がある
- 運用ポリシーを定期的に見直す体制がある
これらが整っていれば、安全性と透明性を確保したアルムナイ採用の運用につながるでしょう。
まとめ
アルムナイ採用は、即戦力の確保や採用コストの削減につながる有効な手法です。一方で、退職後の個人情報を扱う場合は、個人情報保護法に基づいた適切な手続きが欠かせません。利用目的の明確化と再同意の取得など、管理体制を整えておくことで、安全性と透明性を両立した制度運営が可能になります。
本記事では、アルムナイ採用で退職者の個人情報を活用できる条件や導入のステップを解説しました。自社のルールを見直しながら、退職者との良好な関係を維持できる制度づくりを進めていきましょう。

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