派遣スタッフを受け入れる際、就業前に面接を実施したり履歴書を確認したりしたいと考える企業もあるのではないでしょうか。
しかし、派遣先企業が特定の派遣スタッフを選別する「特定行為(正式には特定目的行為)」は、原則として禁止されています。知らずに事前面接や選考を実施すると、法令に抵触するおそれがあるため注意が必要です。
本記事では、派遣における特定行為の定義や禁止されている理由、具体的なNG例を解説します。職場見学で特定行為を避けるための注意点やOK・NG質問例もまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
労働者派遣における特定行為の法的定義

労働者派遣における特定行為とは、派遣先企業が労働者派遣契約を結ぶ際に、特定の派遣スタッフを選別・指定する目的で行う行為のことです。具体的には、就業前の面接や履歴書の提出要請などが該当します。
派遣スタッフの雇用主は派遣元企業であり、派遣する人材の決定権も有しています。派遣先企業は、業務に必要なスキルや経験などの条件を派遣元企業へ提示しますが、特定の個人を指定して派遣を求める行為は認められていません。
参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-GOV法令検索
労働者派遣において特定行為が法律で禁止されている理由

労働者派遣における特定行為は、派遣先企業と派遣スタッフの雇用関係を適切に保ち、労働者の不利益を防ぐために禁止されています。ここでは、特定行為が禁止されている理由を以下の2つに分けて解説します。
- 派遣先企業には採用決定権がないため
- 労働者の不利益を防ぐため
以下で、詳しく見ていきましょう。
派遣先企業には採用決定権がないため
労働者派遣では、派遣元企業と派遣スタッフが雇用契約を結び、派遣先企業は業務上の指揮命令を行います。派遣する人材を決定するのは雇用主である派遣元企業であり、派遣先企業に採用決定権はありません。
そのため、派遣先企業が事前に面接を実施してスタッフを選定すると、雇用主としての採用活動にあたる『採用類似行為』とみなされる可能性があります。これは、労働者派遣の原則である「雇用と指揮命令の分離」に矛盾するため、派遣先企業による特定行為が禁止されています。
労働者の不利益を防ぐため
特定行為が禁止されているもう一つの理由は、派遣スタッフの権利や就業機会を守るためです。派遣先企業が人選に関与すると、派遣元と派遣先の双方が雇用主のような立場となり、雇用に関する責任の所在が曖昧になりかねません。
また、派遣先企業による選考が認められると、年齢や性別など、業務遂行能力とは関係のない理由で派遣スタッフが選別される可能性もあります。こうした不合理な排除から労働者を守り、適切な就業機会を確保する観点からも、特定行為は禁止されています。
派遣の特定行為に該当する4つのNG事例

派遣先企業に選考の意図がなかったとしても、就業前の面談や書類の確認などが特定行為に該当する場合があります。そのため、派遣スタッフを受け入れる際は、どのような行為が禁止されているのかを具体的に把握しておくことが重要です。
ここでは、特定行為に該当する主なNG事例を4つ紹介します。
1.面談や顔合わせによる実質的な事前選考面接
派遣先企業が就業前に派遣スタッフと面談や顔合わせを行い、実質的に選考する行為は特定行為に該当します。例えば、志望動機を質問したり、面談後に「結果は後日連絡します」と伝えて受け入れの可否を判断したりする行為です。
また、職場見学や顔合わせは、派遣スタッフ本人が就業先の環境を確認するために自発的に希望する場合に行われるものです。派遣先企業が選考を目的として職場見学を求めたり、その場で採否を判断したりしないよう注意しましょう。
2.履歴書や職務経歴書の提出要請
派遣先企業が選考を目的として、就業前に履歴書や職務経歴書の提出を求める行為も特定行為に該当します。派遣元企業に対して、これらの書類を送付するよう依頼することも認められていません。
また、「スキルシート」という名称であっても、以下のような派遣スタッフを特定できる情報が含まれている場合は注意が必要です。
- 氏名
- 性別
- 生年月日
- 年齢
- 家族構成
個人を特定できる情報を含むスキルシートの提出を求めると、特定行為を誘発するものとして指導の対象となる可能性があります。
3.適性検査や筆記試験の実施
派遣先企業が就業前に適性検査や筆記試験を実施する行為も、特定行為に該当します。実務スキルや適性を確認する目的であっても、試験の結果をもとに派遣スタッフの受け入れ可否を判断することは認められていません。
筆記試験だけでなく、性格診断などを実施して選考の判断材料とする行為にも注意が必要です。試験の結果によって派遣スタッフを選別すること自体が、特定の人材を選ぶ行為にあたります。
4.年齢や性別の制限を設けた派遣スタッフの条件指定
派遣元企業に対して、年齢や性別を指定して派遣スタッフを求める行為も特定行為に該当します。例えば、「20代〜30代の若手」「女性のみ」「男性のみ」など、特定の属性を条件として人材を指定するケースです。
こうした条件指定は、派遣スタッフを特定する行為となるだけでなく、労働施策総合推進法における年齢差別の禁止や、男女雇用機会均等法における性別を理由とする差別の禁止にも抵触するおそれがあります。
参照:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律|e-GOV法令検索
参照:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e-GOV法令検索
派遣の特定行為が違法と判断された場合のペナルティ

派遣先企業による特定行為が法令違反と判断された場合、行政指導などの対象となる可能性があります。さらに、違反の内容によっては、企業の社会的信用にも影響を及ぼしかねません。
以下で、特定行為に関連して想定される法的なリスクについて解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
行政指導や是正勧告および社名公表のリスク
派遣先企業による特定行為などの法令違反が発覚した場合、労働局から是正指導や行政指導を受ける可能性があります。指導を受けた企業は、違反状態を解消し、適切な運用へ改善することが求められます。
さらに、指導を受けても改善が見られないなど悪質なケースでは、企業名が公表される可能性もあるため注意が必要です。社名の公表に至れば、企業の社会的信用だけでなく、今後の採用活動や企業イメージにも影響を及ぼすおそれがあります。
参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-GOV法令検索
職安法違反による刑事罰や不採用への損害賠償リスク
派遣先企業が事前選考を繰り返し、実質的に派遣スタッフの採用決定権を握っていると判断された場合、職業安定法第44条で禁止されている「労働者供給事業」に抵触するリスクがあります。
職業安定法第44条に違反した場合、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があるため注意が必要です。また、違法な選考によって不利益を受けた派遣スタッフから、個別の事情に応じて損害賠償を請求される可能性も考えられます。
特定行為そのものに直接この刑事罰が科されるわけではありません。しかし、運用の実態によっては別の法令違反につながる点も理解しておく必要があります。
派遣前の職場見学で特定行為を回避するための4つの注意点

派遣前の職場見学は、派遣スタッフが就業先の環境や業務内容を確認するために行われます。派遣先企業が選考する場ではないため、質問内容や当日の進め方には注意が必要です。
ここでは、職場見学で特定行為を避けるために押さえておきたい4つのポイントを解説します。
1.求職者が働く環境を自ら確認する場であると認識する
職場見学は、派遣先企業が派遣スタッフを選考・評価する場ではなく、本人が就業環境を確認するための場です。業務内容や職場の雰囲気などを実際に確認することで、安心して働ける環境かどうかを判断できます。
そのため、職場見学は派遣スタッフ本人の希望による自主的な訪問が原則です。派遣先企業は選考の場と捉えず、見学時の受け答えなどをもとに受け入れの可否を判断しないよう注意しましょう。
2.質問内容は実務に必要なスキルや経験の確認に限定する
職場見学で派遣スタッフに質問する場合は、業務の遂行に必要なスキルや経験の確認に限定することが重要です。
例えば、業務で使用するシステムの操作経験や、担当業務に必要な実務スキルなどであれば確認できます。一方、志望動機や前職の詳細な退職理由など、採用の判断材料となるような質問は実質的な事前面接にあたるため認められていません。
派遣先企業は、質問内容が業務遂行に必要な範囲を超えていないかを意識しましょう。
3.個人情報に関する質問はしない
職場見学では、業務遂行能力に関係のない個人情報について質問しないよう注意が必要です。例えば、以下のような情報が挙げられます。
- 氏名
- 年齢
- 学歴
- 家族構成
- 結婚の予定
- 居住地
こうした内容の質問は、派遣スタッフの特定や選別につながる可能性があります。また、会話のなかで本人から自発的に話した場合でも、派遣先企業の担当者がさらに詳しく質問するのは避けましょう。
4.派遣元担当者の同席を徹底する
職場見学は、派遣元担当者・派遣スタッフ・派遣先担当者の3者で実施することが重要です。派遣元担当者が同席することで、職場見学が選考の場にならないよう適切に進行しやすくなります。
派遣スタッフだけで派遣先企業を訪問すると、選考につながる質問が交わされるなど、トラブルになりかねません。さらに、人事部で質問内容やNG例をあらかじめ整理し、派遣元担当者や当日対応する現場責任者と共有しておきましょう。
【一覧】派遣前の職場見学におけるOK・NG質問例

派遣前の職場見学では、業務遂行に必要なスキルや経験について確認できます。一方、採用・選考につながる内容や、業務遂行能力と関係のない個人情報について質問するのは避けなければなりません。
職場見学におけるOK・NG質問例を、以下の表にまとめました。
| 質問内容 | 判定 | 質問例 |
|---|---|---|
| 業務遂行に必要なスキル・経験 | OK | 「ExcelでVLOOKUP関数などを使用した実務経験はありますか」 |
| OK | 「当社で使用している業務ソフトや、類似ツールの操作経験はありますか」 | |
| OK | 「電話対応や顧客対応の経験はありますか」 | |
| OK | 「英語を使用したメール対応の経験はありますか」 | |
| 採用・選考につながる内容 | NG | 「当社を希望した志望動機を教えてください」 |
| NG | 「前職を退職した理由を教えてください」 | |
| NG | 「今後のキャリアプランを教えてください」 | |
| 業務遂行能力と関係のない個人情報 | NG | 「結婚や出産の予定はありますか」 |
| NG | 「お住まいはどのあたりですか」 | |
| NG | 「どのような通勤ルートを予定していますか」 | |
| NG | 「ご家族は何人ですか」 |
職場見学では、質問の内容が業務遂行に必要な範囲かどうかを基準に判断することが重要です。事前に質問内容を整理し、採用面接や派遣スタッフの選別につながる質問をしないよう徹底しましょう。
紹介予定派遣とは?事前選考を希望する場合の有効性

紹介予定派遣とは、派遣先企業での直接雇用を前提として、一定期間派遣スタッフとして就業する仕組みです。派遣期間は最長6か月で、企業と派遣スタッフの双方が適性を見極めたうえで、直接雇用へ移行するかを判断します。
通常の労働者派遣とは異なり、紹介予定派遣では派遣開始前の面接や履歴書の確認などが認められています。将来的な直接雇用を想定し、事前に人材を選考したい企業にとって有効な選択肢の一つです。
事前面接や履歴書確認が合法になる
通常の労働者派遣では、派遣先企業による事前面接や履歴書の提出要請など、派遣スタッフを特定する目的で行う行為は原則として禁止されています。
一方、紹介予定派遣では、派遣期間終了後の直接雇用を予定しているため、派遣開始前に面接を実施したり、履歴書や職務経歴書の提出を求めたりすることが可能です。適性検査などの選考も実施できるため、採用候補者のスキルや経験を事前に把握したうえで派遣を開始できます。
そのため、派遣スタッフの受け入れだけでなく、将来的な直接雇用も視野に入れて人材を選びたい場合は、紹介予定派遣の活用を検討しましょう。
最長6か月の派遣期間で適性や実務スキルを判断できる
紹介予定派遣では、最長6か月の派遣期間を通じて、実際の働きぶりを確認したうえで直接雇用を判断できます。面接だけでは把握しにくい実務スキルや業務への適応力、職場との相性などを見極められる点がメリットです。
また、派遣先企業が直接雇用を希望しない場合、派遣元企業から求めがあれば、その理由を明示する必要があります。派遣期間中は業務への取り組みや評価を適切に記録し、直接雇用の判断根拠を整理しておくことが重要です。
まとめ
派遣先企業が就業前に面接を実施したり、履歴書の提出を求めたりする特定行為は、原則として禁止されています。派遣スタッフを受け入れる際は、現場の担当者にもルールを共有し、意図せず選考につながる行為をしないよう注意が必要です。
職場見学では、業務遂行に必要なスキルや経験の確認にとどめ、採用面接や個人の選別につながる質問は避けましょう。事前選考を希望する場合は、直接雇用を前提とした紹介予定派遣の活用も選択肢の一つです。
本記事では、労働者派遣における特定行為について解説しました。特定行為に関する正しい知識を社内で共有し、法令を遵守した適切な派遣スタッフの受け入れ体制を整えましょう。
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