2022年の地域別最低賃金が発表され、全国の加重平均額(※)は961円、上げ幅は31円と過去最大になりました。

※加重平均額…賃上げの影響を受ける常用労働者数を計算に反映させた平均額で、労働者数の多い都道府県の最低賃金がより強く影響します

物価高騰で仕入れ額などにも影響が出ているなか、人件費も上がることで「何か対策を!」と危機感を抱いている方も多いかもしれません。本記事では、地域ごとの最低賃金と改定日、最低賃金の引き上げによって想定される課題についてまとめました。

全国の最低賃金・改定日一覧

地域都道府県最低賃金額引上げ額改定日
改定前(円)改定後(円)
北海道北海道889920+312022/10/2
東北青森県822853+312022/10/5
岩手県821854+332022/10/20
宮城県853883+302022/10/1
秋田県822853+312022/10/1
山形県822854+322022/10/6
福島県828858+302022/10/6
関東茨城県879911+322022/10/1
栃木県882913+312022/10/1
群馬県865895+302022/10/8
埼玉県956987+312022/10/1
千葉県953984+312022/10/1
東京都1,0411,072+312022/10/1
神奈川県1,0401,071+312022/10/1
甲信越山梨県866898+322022/10/20
長野県877908+312022/10/1
新潟県859890+312022/10/1
北陸富山県877908+312022/10/1
石川県861891+302022/10/8
福井県858888+302022/10/2
東海岐阜県880910+302022/10/1
静岡県913944+312022/10/5
愛知県955986+312022/10/1
三重県902933+312022/10/1
関西滋賀県896927+312022/10/6
京都府937968+312022/10/9
大阪府9921,023+312022/10/1
兵庫県928960+322022/10/1
奈良県866896+302022/10/1
和歌山県859889+302022/10/1
中国鳥取県821854+332022/10/6
島根県824857+332022/10/5
岡山県862892+302022/10/1
広島県899930+312022/10/1
山口県857888+312022/10/13
四国徳島県824855+312022/10/6
香川県848878+302022/10/1
愛媛県821853+322022/10/5
高知県820853+332022/10/9
九州福岡県870900+302022/10/8
佐賀県821853+322022/10/2
長崎県821853+322022/10/8
熊本県821853+322022/10/1
大分県822854+322022/10/5
宮崎県821853+322022/10/6
鹿児島県821853+322022/10/6
沖縄沖縄県820853+332022/10/6
全国加重平均930961+31
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27516.html

全国加重平均額の推移と引き上げの背景

2018年2019年2020年2021年2022年
全国加重平均額874円901円902円930円961円
前年度からの
引き上げ幅
+26円+27円+1円+28円+31円
引き上げ率3.07%3.09%0.11%3.10%3.33%

最低賃金の全国加重平均額は、2020年を除いて例年3%程度の引き上げがおこなわれてきています。昨年2021年の引き上げ額は28円(2021年時点の過去最高額、引き上げ率3.1%)でしたが、今年はそれをさらに3円上回る31円(過去最高額、引き上げ率3.3%)の引き上げ額となりました。

各都道府県の最低賃金は、中央最低賃金審議会から提示される引き上げ額の「目安」をもとに、都道府県労働局長が決定しています。今年の中央最低賃金審議では、物価高騰で労働者と使用者の両方に負担がかかっているなか、例年よりも高い水準にするのか・低い水準にするのかの議論がおこなわれていました。

参照:https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

最終的には

  • ここ2年低下傾向だった賃金上昇率が上昇傾向に変わっているが、4月以降の物価高騰は十分に勘案されていない可能性もあること
  • 生計費の指標となる消費者物価指数のうち「持家の帰属家賃を除く総合」が3%程度、必需品的な支出項目の「基礎的支出項目」が4%を超える上昇率となっているため、3%を一定程度上回る水準が望ましいこと
  • 政府が「できる限り早期に全国加重平均1,000 円以上」を目指していること
  • 企業の利益や業況に改善傾向は見られるものの、コロナ禍や原材料費等の高騰により、中小企業等では賃上げが難しい企業も少なくないと考えられるため、引き上げには一定の限界があること

等の要素が勘案され、今回の引き上げ額の「目安」は引き上げ率換算で3.3%、都道府県ごとの引き上げ額は30~31円とすることが示されました。

その後、結果として各都道府県で30~33円の引き上げが実施され、全国加重平均は961円、大阪府の最低賃金が全国3例目の1,000円超えとなりました。今後も同水準の引き上げが続く場合、早くて再来年2024年には全国加重平均が1,000円台に到達する見通しです。政府は「できる限り早期に全国加重平均1,000 円以上とする」としているためその可能性は高いと思われますので、使用者側も「毎年3%上がるもの」と考えて準備しておく必要がありそうです。

最低賃金引き上げで生まれる企業の課題と対策

課題1:人件費が上がる

現行の最低賃金で雇用している従業員がいる場合は、必然的に人件費が高くなります。

<フルタイム勤務(例として月160時間)の場合>

都道府県改定前改定後差額(月)差額(年)
東京都最低賃金1,041円1,072円+4,960円+59,520円
月給166,560円171,520円
福岡県最低賃金870円900円+4,800円+57,600円
月給139,200円144,000円
沖縄県最低賃金820円853円+5,280円+63,360円
月給131,200円136,480円
参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27516.html

上の表のように、最低賃金で雇用している従業員がフルタイムだった場合は、1人あたり年間で約60,000円の値上がりとなります。今後も毎年3%程度引き上げられることが予想できますので、早い段階から“業務効率向上”などの対策を考えておく必要があります。

課題2:従業員の確保が難しくなる

もともと最低賃金よりも高い水準の賃金で求人をおこなっていたとしても、最低賃金の底上げによって他の求人との差が小さくなり、現在と同じままの条件では応募が減ってしまう可能性があります。

また、新人との賃金差が少なくなってしまうことでモチベーションが下がったり、転職を考えたりする既存従業員が出てきてしまうかもしれません。最低賃金と同じ幅で全体を引き上げることが難しい場合は、賃金以外の対策を考える必要があります。

扶養内で働く従業員がいる場合は要注意!

アルバイト・パート従業員が多い企業の場合は扶養内で働く従業員の労働時間に注意しておく必要があります。“扶養内”の意味はいくつかありますが、たとえば社会保険料の支払が発生しない範囲で働くには年収を106万円未満に収める必要があるため、時給が上がった場合は働ける時間数が減ってしまいます。年末が近づくにつれ急なシフト削減や調整が必要となる可能性も考えられますので、従業員配置の見直しなど、対策を考えておいたほうが良いでしょう。

対策①従業員のスキル向上

地道ではありますが、従業員一人ひとりのスキルを向上させられるような取り組みを実施し、結果として生産性を高めること・業績を向上させることにつなげて、最低賃金以上の給与を払えるような会社の状態を作ることが、最も望ましい解決方法です。以前ご紹介した「業務改善助成金」などの補助金も、うまく活用すると良いかもしれません。

対策②DXの推進と従業員配置の再考

DXはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、「ビジネス戦略とITシステムを迅速かつ柔軟に対応させて成長すること」を指し、その過程には電子化やデジタル化、IT化を含みます。DX推進チームを作るなど積極的に取り組みをおこない、生産性を向上させていきましょう。

合わせて、従業員が足りない部署・余っている部署など、人員配置が偏っていないか適宜チェックすることも重要です。DXが進むと自動化される業務も増えていきますので、知らない間に過不足が生まれてしまう可能性もあります。より人手の必要な業務へ適切に従業員を配置できるよう調整し、偏りをなくしていくことで会社全体の業務効率向上が望めます。

対策③求人条件の見直し

賃金の大幅な見直しが難しければ、法定外福利厚生なども組み合わせて、求人の条件全体を見直してみるのもいいかもしれません。法定外福利厚生には資格取得費用などをバックアップする“スキルアップ手当”や、同僚への気づかいなどの貢献度を独自インセンティブで還元することで定着率向上やモチベーションアップが期待できる“ポイント制度”などがあり、アルバイトやパートが多い事業所であれば食費が浮く“まかない制度”などが人気です。特に大手求人媒体でも人気条件の上位をキープし続けている“給与前払い制度”は低コストで導入が可能なので、検討してみるのもおすすめです。

対策④採用コストの低い採用手法にも力をいれる

これを機に採用コストが低い「ソーシャルリクルーティング」「リファラル採用」に取り組んでおくのもいいかもしれません。

ソーシャルリクルーティングはSNSを使った採用活動のことで、求職者からの応募を待つだけでなく、企業側からもアプローチをおこないます。採用活動におけるSNSの利用率は年々高まっており、低い採用コストでマッチ率の高い採用が可能だと注目されています。ただし、一定の成果を上げるには中長期的な戦略が必須であるため、興味があればすぐに準備に取り掛かりましょう。

リファラル採用はいわゆる“お友達紹介”や“縁故採用”の現代版で、最近では「紹介されたら即採用!」ではなくスキルやマッチングを重要視し、応募以降は通常と同じ選考過程を踏むことが多いようです。こちらも低い採用コストでマッチ率の高い採用が見込めますが、その土壌となる制度作り・紹介しやすい環境作りが非常に重要です。「いついつまでに○人!」と期限が決まっているような緊急性のある求人は、紹介者となる従業員にも過度のプレッシャーや心理的負担をかけてしまう可能性があり、あまり向いていません。取り組むなら早め早めに準備を進めておき、紹介者の負担にならないような環境・施策を整備しましょう。

まとめ

コロナ禍と物価高騰に苦しむ企業にとって、今年は追い討ちのようなタイミングでの賃金引き上げとなりました。“嫌なニュース”と捉える見方もあるかもしれませんが、ポジティブに捉えれば、業務効率化などに取り組む絶好のチャンスとも言えます。本記事が少しでも手助けとなり、対策のヒントを見つけるきっかけとなれば幸いです。

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