ダイバーシティ&インクルージョンに変わる概念として、昨今注目されているDEIですが、「正直よくわかっていない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事ではDEIについて、意味や注目される背景、取り組むメリットなどをわかりやすくご紹介します。
DEI推進における具体施策やポイントも解説しているため、ぜひ最後までご確認ください。
DEIとは
まずはDEIの概要やSDGsとの関係などについて確認しましょう。
DEIの概要
DEIとは「ダイバーシティ」「エクイティ」「インクルージョン」の頭文字を合わせた総合的な概念であり、企業や組織における多様性や公平性を重視する考え方を指します。
各要素の意味は以下のとおりです。
ダイバーシティ Diversity | 企業や組織における「多様性」を表す。国籍や文化的背景、能力や価値観、宗教観や主義などの要素を含む。 |
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エクイティ Equity | 企業や組織における「公平性」を表す。従業員に対して、機会や資源を公平に配分することなどを指す。 |
インクルージョン Inclusion | 企業や組織における「包括性」を表す。各従業員の個性や多様性を受け入れ、意思決定などのプロセスに参画させることを指す。 |
Equityが加わった背景
DEIの基になったダイバーシティ&インクルージョンでは、公平ではなく平等を前提としていました。
しかし平等な環境においては、たとえば「すでに能力のある者」も「まだ能力が発展途中である者」も平等に与えられるため、差や違いがより顕著になり、本末転倒となってしまうリスクが生じました。
そこで元々の違いや不均衡を前提として、それぞれに合った支援や機会を提供する「公平性」を重視する考え方が注目されるようになり、DEIへと変化したと言えるでしょう。
DEIとSDGsとの関係
SDGsには全部で17の目標が含まれていますが、そのうち以下の3つの目標はDEIと深い関わりを持ちます。
- 目標5:ジェンダー平等を実現しよう
- 目標8:働きがいも経済成長も
- 目標10:人や国の不平等をなくそう
SDGsでは年齢や性別、人種や民族、生まれや宗教などに関わらず、全ての人が能力を高め、平等な機会を得られるようにすることを目標として掲げています。
そのためDEIはSDGsと共通する内容も多く、SDGsを達成する上で欠かせない基盤であると言えるでしょう。
<参考:SDGsってなんだろう? | SDGsクラブ | 日本ユニセフ協会(ユニセフ日本委員会)>
日本におけるDEIの現状
JMRAインターネット調査品質委員会の調査レポートによると、「日本は経営陣の多様性が低い」というデータが出ています。
経営陣の多様性の低さは、組織全体の多様性活用の方針にも影響することから、従業員の多様性も低い結果になっています。
またDEI推進に向けた取り組みを行っている割合にも課題があると言えるでしょう。
同レポートでは、他にも従業員が「企業にとって重要な存在である」という自己評価を持てていないことが示唆されているなど、DEIにおいて日本は多くの課題があることが示されています。
<参照:DEIグローバル調査結果に見る日本市場の特徴と課題|インターネット調査品質委員会>
DEIが注目されている背景
続いてDEIが注目されている背景をご紹介します。
背景①:グローバル化
昨今、インターネットや技術の発展に伴い、市場や人材のグローバル化が急速に加速しています。
その分、外国人労働者をはじめ、生まれ育った環境の異なる人材を活用する機会や必要性も高まってきていると言えるでしょう。
そういった背景の中で、企業内においても多様性を受け入れ、あらゆる人材に対して公平に機会を与える動きや考え方が重要視されるようになりました。
背景②:労働者の多様化
Z世代やミレニアル世代をはじめ、日本人労働者の中でも多様化が進んでいます。
若い世代を中心に、「身を削って仕事に取り組むべき」といった価値観を持つ労働者は減少し、ワークライフバランスや時間対効果を重視する価値観を持つ労働者が増えてきていると言えるでしょう。
こういった様々な価値観を持つ労働者を受け入れ、活用するには、DEIの考え方を取り入れた環境へと整備することが求められます。
背景③:少子高齢化による生産年齢人口の減少
日本は少子高齢化が加速しており、1995年を境に生産年齢人口が減少しています。
それに伴い人材採用の難易度も高まっており、これまで採用母数として捉えていなかった外国人労働者や障がい者、シニアといった多様な人材を視野に入れる必要性が生じました。
こういった人材に活躍してもらうには、社内の理解を促し、環境や制度などを整理する必要があり、DEIの考え方が必要になったと言えるでしょう。
背景④:人的資本開示の義務化
日本では特定条件を満たす企業は人的資本の情報開示が義務付けられています。
たとえば金融商品取引法においては、有価証券報告書の提出が必要な企業は以下のような項目を開示しなければなりません。
- 人材育成に関する事項
- 従業員エンゲージメントに関する事項
- ダイバーシティに関する事項
- コンプライアンス・労働慣行に関する事項
DEIを推進していない場合、これらの開示情報を通じてネガティブな評価をされる恐れもあり、多くの企業がDEI推進を検討するようになったと言えるでしょう。
DEIを推進するメリット
次にDEIを推進するメリットについてご紹介します。
メリット①:新しいアイデアやイノベーションの創出
DEIを推進することで、社内における価値観や考え方に多様性が担保されます。
その結果、DEIに取り組む前では思いつかなかったアイデアを得られる可能性が高まると言えるでしょう。
特に多様な意見の衝突や摩擦は、イノベーション創出の種にもなるため、事業の飛躍的な発展に繋がるケースもあります。
メリット②:企業価値やイメージの向上
DEIに取り組み、社内における多様性や公平性が育まれることで、企業としての価値が高まります。
その結果、従業員の満足度が向上し、ロイヤルティ(企業への忠誠度)や社内からの評価の向上に繋がることが期待できます。
また社内だけでなく、顧客や株主、投資家といった社外関係者からも、ポジティブな評価やイメージを得ることができるでしょう。
メリット③:人材不足の解消
DEIを通じて、多様な人材が活躍できる風土や環境が整うことで、これまで採用の俎上に乗らなかった人材でも活躍してもらえるようになります。
そのため採用母数を拡大でき、より広範な人材に対してアプローチできるようになると言えます。
また企業価値やイメージの向上によって、求職者への訴求力も高まることも期待でき、人材も確保しやすくなるでしょう。
メリット④:人材定着率の向上
DEIが浸透した企業では、各従業員の能力や適性に応じて公平に機会が与えられ、どのようなバックグランドであっても、適正に評価されます。
その結果「ここで長く働きたい」と考える従業員が増加することが見込まれ、人材定着率が向上するでしょう。
人材定着率が高まれば、退職手続きにかかる工数や欠員補充のための採用費用なども削減可能です。
メリット⑤:海外進出の基盤となる
DEIが浸透した企業では、多様な国籍や価値観を受け入れる土壌が育まれているため、海外における事業も推進しやすくなります。
現地採用した外国人労働者のマネジメントも的確に実施でき、海外進出の成功確率を高めることが可能です。
グローバル化が求められる現代において、DEIは海外進出基盤を固めるための大きなポイントと言えるでしょう。
DEI推進施策の具体例
ここからはDEI推進における具体的な施策例をいくつかご紹介します。
多様な働き方の実現
多様な働き方の実現は、DEIを進める上で欠かせない取り組みと言えるでしょう。
フレックスや裁量労働、リモートワークなど、多様な働き方を取り入れることで、これまでの固定時間では働くことができなかった人材が活躍できるようになります。
家庭環境で就業時間に縛りがある労働者や、遠方在住の労働者でも活躍できる基盤を整える取り組みを通じて、人材不足の解消や企業の発展に繋げることができるでしょう。
子育てや介護と業務を両立できる制度の構築
子育てや介護に起因して退職してしまう従業員は後を絶ちませんが、DEIにおいては、こういった従業員でも活躍できる制度を構築することが求められます。
先に挙げたリモートワークを推進したり、短時間でも任せられる役割や業務を構築したりすることで、子育て・介護に従事する従業員でも、他の従業員と同じように働くことができるようになるでしょう。
特に子育てによって活躍の場が狭まっている女性の活躍推進は、DEIやSDGsにおいても重要な取り組みとなります。
アンコンシャスバイアスに関するセミナー開催
DEIを推進する上でアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)について、どれだけ理解し、防止できるかは大きなポイントになります。
そのためアンコンシャスバイアスの事例や、防止するための方法などを従業員に啓蒙するセミナーを開催することも、重要な取り組みとなります。
アンコンシャスバイアスについて、経営層から現場まで、あらゆる階層のメンバーが正しく理解できれば、DEI推進をより効果的に進めていくことができるでしょう。
多様な人材の活躍推進
女性や障がい者、外国人労働者やシニア人材などの多様な人材を積極的に登用することはDEI推進に直結します。
これらの多様な人材が活躍できる環境を整備する取り組みを通じて、企業内におけるDEIへの理解も深まるでしょう。
特に生産年齢人口が減少する日本では、外国人労働者やシニア人材を活用する必要性が高まっており、あらゆる企業にとって多様な人材の活用は欠かせない取り組みと言えます。
事務所のユニバーサルデザイン化
ユニバーサルデザインとは、年齢や障がいの有無などに関わらず、あらゆる人が利用できるようにするデザイン手法です。
DEI推進においては多様な人材を活用するため、事務所をユニバーサルデザイン化することも有効な施策となります。
障がい者や高齢者に対する配慮は勿論、外国人労働者などの言語の壁がある人材でも、活躍できるように事務所内の環境や設備を整備するとよいでしょう。
男性従業員の育休取得推進
2022年における育休取得比率は、女性が80.2%、男性は17.1%となっています。
2012年の男性取得率が1.9%であることを踏まえると、少しずつ男性の取得比率が増えていることは間違いありませんが、まだまだ「女性が取得するものである」といった偏見も根強いと言えます。
今後もこういった偏見を払しょくし、男性従業員の育休取得率の向上を目指すことは、DEI推進においても重要なテーマとなるでしょう。
<参照:育児休業をとっている人はどれくらい?|公益財団法人 生命保険文化センター>
DEI推進におけるポイント
最後にDEI推進におけるポイントを解説します。
ポイント①:DEI推進のビジョンや方針を明確にする
DEIを推進するにあたって、何よりも重要になるのがビジョンや方針です。
DEIを推進してどういった状態を目指すのか、なぜ取り組むのかが明確になっていなければ、社内の従業員はDEI推進を主体的に捉えることができません。
そのため、まずはDEIにおけるビジョンや方針を明確にした上で、社内に向けて発信し、現場を含めた従業員の理解を得る必要があるでしょう。
ポイント②:具体的な目標を設定し効果を測定する
DEI推進においては具体的な目標を設定し、効果を測定することも重要です。
目標がなければDEI推進活動の進捗や成果を把握できず、具体的な施策も立案できません。
そのためDEIに取り組む際は、たとえば「外国人労働者の比率を○○%まで高める」「女性管理職の登用率を○○%UPする」といった定量的な目標を設定しましょう。
これらの目標に向けて、具体的な取り組みを実施するとともに効果も測定することで、より効果的なDEI推進へと繋げることが可能です。
ポイント③:人事評価制度などの仕組みを整える
DEIに取り組むと言っても、社内における各種制度がDEIに繋がっていなければ、形骸化してしまうでしょう。
そのため、多様な人材を公平に評価する人事制度や、先に挙げたフレキシブルな働き方を実現する労務管理制度などを実現することが重要になります。
これらの制度や仕組みが整うことで、はじめてDEI推進の基盤が生まれ、効果的な取り組みを実現できるでしょう。
ポイント④:DEIについての社内教育に力を入れる
DEIについて社内の従業員が正しく理解していなければ、効果的な制度や取り組みを考え出すことはできません。
そのため現場の従業員だけでなく、経営層や管理職を含めてDEIについて学ぶ機会を設けることが重要になるでしょう。
こうした社内教育を継続して行うことで、多様性などを受け入れる風土を育むことができます。
まとめ
今回はDEIをテーマとして、意味や注目される背景、具体的な施策例などを紹介してきましたが、いかがでしたか。
少子高齢化が加速する日本においては、これまで労働力の中心として捉えていなかった外国人労働者や高齢者、障がい者といった多様な人材の活用が求められています。
こういった多様な人材が働きやすい環境を作り出すには、DEI推進が欠かせない取り組みとなるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、DEI推進の取り組みにチャレンジしてください。