最低賃金という言葉を皆さん一度は聞いたことがあると思いますが、具体的にどのような制度で、いま自分がいる地域ではいくらなのか、すぐに説明できる方は多くないのではないでしょうか。
採用活動が活気を取り戻しつつある現在、いざ自分が採用担当となり求人情報を扱うようになるのなら、より詳しい知識が必要になってきますよね。
そこで今回は、求人を作成する際に知っておきたい最低賃金の仕組みや、実際に採用をおこなう前に確認しておきたい賃金額の確認方法・計算方法などをお伝えしていきます。
最低賃金とは?
最低賃金は、国が最低賃金法によって賃金の最低額を保証し、使用者はこの金額以上の賃金を労働者に支払わなければならない、とする制度のことをいいます。
最低賃金を保証することで、低賃金労働者の生活を改善・安定させて労働能率の増進や労働力の質的向上を図ったり、賃金の不当な切下げ・製品の買い叩きを防止して事業間の公平な競争を確保したりすることが目的とされています。
最低賃金の種類は?
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があります。
違いを見ていきましょう。
地域別最低賃金
各都道府県ごとに定められているのがこの地域別最低賃金です。
私たちがふだんよく耳にする「最低賃金」とはこの地域別最低賃金を指していることが多く、業務でも必ず確認しておく必要があります。
毎年10月頃に更新されています。
特定最低賃金
特定最低賃金は「特定(産業別)最低賃金」とも表記されるもので、ほとんどが「〇〇県〇〇業最低賃金」というような名称で、特定の地域内の特定の産業について設定されます。
基本的に地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されており、2021年3月末現在、全国で227件の特定最低賃金が定められています。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が同時に適用される労働者には、高いほうの最低賃金額が適用されます。
適用される対象者は?
地域別最低賃金の対象者
産業や職種、雇用形態に関係なく、各都道府県内の事業場ではたらくすべての労働者とその使用者が対象となります。
減額の特例
なお、下記に当てはまる労働者については、都道府県労働局長の許可を受けることを条件に最低賃金の減額が認められています。
- 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
- 試の使用期間中の方
- 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
- 軽易な業務に従事する方
- 断続的労働に従事する方
減額は使用者のみの判断ではおこなえず、特例許可申請書を所轄の労働基準監督所長を通し都道府県労働局長に提出し、承認される必要があります。
特定最低賃金の対象者
特定最低賃金は特定の産業の基幹的労働者※1とその使用者が対象となります。
※1基幹的労働者……当該産業に特有・主要な業務に従事する労働者で特定最低賃金ごとに規定されています。
なお、下記に当てはまる労働者には特定最低賃金は適用されません。
- 18歳未満または65歳以上の方
- 雇い入れ後、一定期間未満の技能習得中の方
- その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方
最低賃金はどうやって決まる?
地域別最低賃金の場合
毎年、中央最低賃金審議会から提示される引き上げ額の「目安」をもとに、各都道府県の地方最低賃金審議会にて地域の実情を踏まえた議論のうえ、都道府県労働局長が決定します。地域別最低賃金は、地域における<労働者の生計費><労働者の賃金><通常の事業の賃金支払能力>を総合的に考慮して決められています。
最低賃金関連のニュースは夏の終わり頃から増えてくるため、毎年必ず確認しましょう。
特定最低賃金の場合
関係労使の申出に基づき、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について、最低賃金審議会の調査審議を経て設定されています。
最低賃金を下回った場合は?
労働者へ支払う賃金が最低賃金を下回った場合は、すみやかに不足分を支払う必要があります。
そのうえで支払われない場合は法律に基づいた罰則が定められています。
仮に労使間の合意があったとしても、最低賃金以下の賃金は無効とされ、最低賃金の適用が優先されます。
賃金算定期間の途中に新しい最低賃金の発効日がある場合は、翌月や更新を待つことはできず、発効日以降の勤務については新しい最低賃金を適用しなければなりません。
地域別最低賃金の場合
50万円以下の罰金(最低賃金法)
特定最低賃金の場合
30万円以下の罰金(労働基準法)
最低賃金の周知義務について
最低賃金には、支払額の義務だけでなく、周知の義務も定められています。
(周知義務)
引用元:https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73053000&dataType=0&pageNo=1
第八条 最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
上記の最低賃金法第八条に記載されているとおり、ただ口頭で伝えるだけでなく、見えやすい場所に掲示するなどの方法をとる必要があります。
最低賃金をチェックしよう
では、実際に支払っている賃金や求人原稿を例として、具体的にチェックしていきましょう。
最低賃金の対象となる賃金
対象となるのは毎月支払う基本的な賃金です。
賞与や通勤手当などは対象になりませんので注意が必要です。
- 結婚手当などの臨時に支払われる賃金
- 賞与などの1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 残業代などの所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金
- 休日割増賃金などの所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金
- 深夜割増賃金などの午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
最低賃金の確認・計算方法
時間額(時給)を計算し、その時間額が最低賃金以上となっているかを確認します。
日給制や月給制の場合は時間額に換算して確認をおこないましょう。
月給制 | 時間額=月給額÷1年間における1ヵ月の平均所定労働時間数※2 |
日給制 | 時間額=日給額÷1日の所定労働時間 |
時給制 | 時間額=時給 |
出来高払制 歩合給制など | 時間額=歩合給の総額÷当該賃金算定期間においての出来高や 請負制によって労働した総労働時間数 |
それぞれの時間額を計算し、合計した物が最低賃金以上になっているかを確認します。
ケーススタディ
まとめ
いかがでしたか?
仕組みや計算方法はわかりやすくお伝えできたでしょうか?
時給制であれば見落とすことはほとんどないかと思いますが、月給制や歩合給制を採用している場合、最新情報のチェックを怠ると、更新にともなってうっかり最低賃金を下回ってしまうこともあるかもしれません。最低賃金見直しの時期がきたら必ず一度は時間額を計算し、確認しておくことをおすすめします。
また、毎年10月頃に更新される最新の地域別最低賃金も別記事でまとめていますので、そちらもぜひご覧ください!