最低賃金の引き上げに伴い、企業としてどのように対応すればいいのか、悩まれている経営者の方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では最低賃金の概要をおさらいしつつ、2024年における都道府県別最低賃金ランキングや企業への影響、必要な対応などをご紹介します。

最低賃金について注意すべきポイントや、最低賃金が上がり続ける状況での採用のあり方についても触れているため、ぜひ最後までご確認ください。

そもそも最低賃金とは?

まずは最低賃金の基本的な知識について、おさらいしましょう。

最低賃金の概要

最低賃金とは、使用者が労働者に対して支払わなければならない賃金の最低額です。

労働条件の改善を図りつつ、労働者の生活の安定や労働力の質向上などを目的として、最低賃金法によって定められています。

最低賃金の種類

最低賃金と一口に言っても、大きく以下の二つの種類に分かれます。

【1.地域別最低賃金】

都道府県ごとに設けられる最低賃金であり、職種や産業などに関係なく、都道府県内で働く全ての従業員を対象として設けられている

【2.特定最低賃金】

特定産業で設定される最低賃金であり、最低賃金審議会が地域別最低賃金より高い水準で定める必要があると判断した産業で適用される

【補足】地域別最低賃金はなぜ違うのか?

地域別最低賃金が地域ごとに異なる理由としては、地域によって物価なども違うことから、労働者の生計費やそれに伴って必要な賃金なども変わるためです。

また企業における賃金支払い能力なども考慮した上で、地域別に定められています。

最低賃金の適用対象

対象となる賃金

最低賃金の対象となるのは、毎月支給する基本給に当たる賃金であり、以下のような手当などは除外したものを対象とします。

  • 皆勤手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 結婚手当
  • 賞与
  • 割増賃金

対象となる労働者

最低賃金は基本的に雇用形態などに関わらず、全ての労働者に適用されます。

そのため正社員だけでなく、アルバイトやパートなど非正規社員についても、最低賃金を遵守した契約を締結する必要があります。

ただし特定最低賃金については、18歳未満または65歳以上の労働者や、技能習得中の労働者など、一定要件に当てはまる従業員については対象として扱いません。

最低賃金の計算方法

最低賃金の計算方法、つまり確認するための方法については、給与の支給方式によって変わります。具体的には以下のとおりです。

時間給の場合時間給≧最低賃金額(時間額)
日給の場合(日給÷1日の所定労働時間)≧最低賃金額(時間額) <特定最低賃金が適用される場合>日給≧最低賃金額(日額)
月給の場合(月給÷1か月の月平均所定労働時間)≧最低賃金額(時間額)
出来高や請負などの場合(賃金総額÷当該賃金計算期間中の総労働時間数)≧最低賃金(時間額)

2024年度地域別最低賃金ランキング

ここで2024年度の地域別最低賃金について、ランキング表を掲載するので参考にしてください。

順位県名最低賃金(円)適用日
1東京1,163令和6年10月1日
2神奈川1,162令和6年10月1日
3大阪1,114令和6年10月1日
4埼玉1,078令和6年10月1日
5愛知1,077令和6年10月1日
6千葉1,076令和6年10月1日
7京都1,058令和6年10月1日
8兵庫1,052令和6年10月1日
9静岡1,034令和6年10月1日
10三重1,023令和6年10月1日
11広島1,020令和6年10月1日
12滋賀1,017令和6年10月1日
13北海道1,010令和6年10月1日
14茨城1,005令和6年10月1日
15栃木1,004令和6年10月1日
16岐阜1,001令和6年10月1日
17富山998令和6年10月1日
18長野998令和6年10月1日
19福岡992令和6年10月5日
20山梨988令和6年10月1日
21奈良986令和6年10月1日
22群馬985令和6年10月4日
23新潟985令和6年10月1日
24石川984令和6年10月5日
25福井984令和6年10月5日
26岡山982令和6年10月2日
27和歌山980令和6年10月1日
28徳島980令和6年11月1日
29山口979令和6年10月1日
30宮城973令和6年10月1日
31香川970令和6年10月2日
32島根962令和6年10月12日
33鳥取957令和6年10月5日
34愛媛956令和6年10月13日
35佐賀956令和6年10月17日
36山形955令和6年10月19日
37福島955令和6年10月5日
38大分954令和6年10月5日
39青森953令和6年10月5日
40長崎953令和6年10月12日
41鹿児島953令和6年10月5日
42岩手952令和6年10月27日
43高知952令和6年10月9日
44熊本952令和6年10月5日
45宮崎952令和6年10月5日
46沖縄952令和6年10月9日
47秋田951令和6年10月1日
参考:地域別最低賃金の全国一覧 |厚生労働省

最低賃金引き上げの推移とタイミング

続いて最低賃金のこれまでの引き上げの推移と、最低賃金が決まるまでの流れについて解説します。

最低賃金引き上げの推移

最低賃金は定期的に引き上げられています。下記グラフは1975年以降のデータとなり、年々地域別最低賃金が上がっていることがわかるでしょう。

引用:図3 最低賃金|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

「2030年代半ばまでに最低賃金の全国加重平均を1,500円まで引き上げる」という政府目標もあるためか、2022年からは毎年引き上げがなされています。

また2024年10月1日に発足した石破政権は、上記の政府目標を2030年半ばから2020年代達成へ前倒しする方針を出しているため、今後より一層高い割合で引き上げられることが予測できるでしょう。

最低賃金はいつ決まる?決定するまでの流れ

最低賃金は毎年6〜7月頃に中央最低賃金審議会にて、改定の目安について諮問が実施された上で、答申が提示されます。

その後、各都道府県に設置された地方最低賃金審議会が、中央から提示された答申と地域事情などを踏まえて審議を実施します。

8月末頃に全都道府県において地域別最低賃金の答申がなされ、その年の最低賃金の改定額が決定する、というのが一連の流れです。

最低賃金の引き上げによる企業への影響

次に最低賃金の引き上げによってもたらされる企業への影響について確認しましょう。

ポジティブな影響

最低賃金の引き上げと聞くと、企業にとってネガティブな影響しかないと思われがちですが、ポジティブな影響ももたらされます。

例えば最低賃金が上昇すれば、労働者が時間あたりに得られる報酬が高まるため、長時間勤務を希望する従業員が増えることが期待できます。

特にアルバイトやパートといった時間給制で雇用する労働者の場合は、その傾向は堅調になるでしょう。

また賃金上昇は求職者にとっても強力なアピールポイントになります。

最低賃金の上昇に対応することで、従来よりも求人募集力が高まり、より多くの応募者の獲得に繋げられるでしょう。

ネガティブな影響

最低賃金の上昇は予算上の負荷を高めることも否定できません。

最低賃金上昇に対応するための原資を捻出できなければ、従来どおりの予算配分ができずに、いずれかの領域で予算を減らす必要性が生じます。

また人件費増加にも直結するため、これまでの採用予算のままでは、必要な人数を確保できなくなる可能性もあるでしょう。

その結果、現場の従業員の業務負荷が高まり、従業員満足度の低下や離職などのリスクが高まります。

加えて年収制限がある扶養内の労働者が、年収制限を超えないように勤務時間を減らす可能性がある点も留意しなければなりません。

最低賃金引き上げで必要な対応

ここからは最低賃金引き上げに際して企業が取るべき対応について紹介します。

対応策①:生産性の向上

最低賃金引き上げに適切に対応しつつ、自社への影響度をできるだけ抑えるには、上昇分の原資を別で捻出する必要があります。

原資を捻出する上で有効な取り組みの一つが、無駄なコストの削減です。

従業員のスキル向上に注力したり、DXを推進したりすることで、業務効率と生産性を高めることができれば、無駄なコストを削減できます。

その分を最低賃金上昇分の予算として充てることで、予算上の影響を最小化できるでしょう。

対応策②:販路拡大

最低賃金上昇に向けた原資確保においては、販路拡大も有効な対応となります。

新規顧客の開拓などに取り組み、そもそもの売上規模や利益を拡大できれば、最低賃金上昇に対応するための原資を確保できるでしょう。

効率的に新規顧客を開拓するには、情報発信によって顧客を引き寄せる「プル型アプローチ」と、能動的に営業をかける「プッシュ型アプローチ」を適切に組み合わせる必要があります。

自社のリソースや商材などに照らし合わせながら、最適なアプローチ方法を確立できれば、販路拡大も実現し、最低賃金にも適切に対応できるようになるでしょう。

対応策③:従業員の労働時間見直し

状況次第では従業員の労働時間を見直すことも求められます。

例えば生活残業が多く生じている状況であれば、まず残業を減らすことでそこに割いていた人件費を削減できるでしょう。

またアルバイトなどを多く活用している場合はシフトを調整したり、シフト当たりの時間を短縮したりすることも有効です。

これらの取り組みによって、従業員一人当たりの総額がそこまで変動しないよう調整できます。

対応策④:助成金や補助金などを活用する 

助成金や補助金などを上手く活用することで、負担を軽減することが可能です。

例えば業務改善助成金は、事業場内で最も低い時間給を一定額引き上げ、生産性向上などのために設備投資を行った際に支給されます。

他にもキャリアアップ助成金やIT導入補助金などは、賃金アップを支給要件などにしています。

こうした助成金を積極的に活用すれば、自社の負担を押さえながら、賃金上昇を進めやすくなるでしょう。

最低賃金に関する注意点

対応策と関連して最低賃金に関する注意点についても確認しましょう。

注意点①:違反時にはペナルティが設けられる

最低賃金を下回った場合、最低賃金法や労働基準法の規定に基づいて罰金が科されます。

まず地域別最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合(特定最低賃金が適用される労働者も含め)、最低賃金法9条・40条の規定によって50万円の罰金に処されるケースがあります。

また特定最低賃金が適用される労働者に対して、特定最低賃金以上の賃金を支払わなかった場合は、労働基準法120条により30万円以下の罰金に処されるでしょう。

【補足】注意すべき違反パターン

時給制のアルバイトやパートは、最低賃金を上回っているかの確認が容易であるため、意図せず違反するケースは稀と言えるでしょう。

対して月額や出来高などは時間給として換算することが少ないため、最低賃金の認識が薄れやすく、知らぬうちに最低賃金を下回っているケースがあるため注意すべきと言えます。

注意点②:周知義務がある

最低賃金は、最低賃金法第8条に基づいて労働者に対して周知することが義務付けられています。

具体的には、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、参入しない賃金及び効力発生日を周知しなければなりません。

もし周知を怠った場合、最低賃金法41条の規定に基づき30万円以下の罰金が科されます。

注意点③:減額特例許可制度がある

最低賃金では、特定要件を満たしている労働者に対して減額特例許可制度が設けられています。

具体的には以下に該当する労働者については、あらかじめ都道府県労働局長の許可を得ておくことで、最低賃金の減額が可能です。

  • 精神や身体の障害によって著しく労働能力が低い者
  • 試用期間中の者
  • 基本的な技能や知識を習得させるための職業訓練を受ける者
  • 軽易な業務に従事する者
  • 断続的労働に従事する者

最低賃金が上がり続ける時代での採用のあり方

最低賃金に適切に対応していくことは、採用活動においても必須要件となります。

ただし最低賃金をはるかに上回る賃金を支給する企業もある中で、最低賃金に対応するだけでは、採用競争に勝ち残ることは難しいでしょう。

そのため自社の目指しているビジョンや価値観、業務のやりがいといった、賃金などのスペックではない部分で勝負することが重要になります。

そこで有効になる考え方の一つが採用ブランディングです。

採用ブランディングでは、自社の価値観や独自の強みなどを盛り込んだ採用コンセプトを策定し、そのコンセプトを軸に採用活動を行います。

採用ブランディングに取り組むことで、単純なスペック面での採用競争から脱却し、自社の価値観などに共感を持つ人材を獲得することが可能です。

たとえ資金が潤沢でない中小企業であっても、大企業との採用競争に勝てるポテンシャルを秘めた施策であるため、ぜひ取り組んでみることをおすすめします。

まとめ

最低賃金は労働者の生活水準の安定を図り、適正な労働環境を守るために必要な制度です。

しかし企業にとっては時に負担となり、適切な対応を講じなければ、利益率の低下や事業の停滞に繋がりかねません。

とはいえ最低賃金は今後も引き上げられることが見込まれるため、企業は生産性向上や販路拡大に継続的に取り組み、最低賃金上昇の原資を確保することが求められるでしょう。

ぜひこの記事を参考に、最低賃金引き上げへの適切な対応を実施していただければ幸いです。

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