法定雇用率の概要や最新の数値を把握して、適切な障がい者雇用を実現したい。

本記事は上記のような方に向けて、法定雇用率の概要や達成状況などを踏まえつつ、最新の数値や実雇用率の計算方法、未達成時のペナルティなどをご紹介します。

障がい者を把握する方法や、法定雇用率を達成するための取り組みも併せて解説しているため、ぜひご一読ください。

法定雇用率とは

まずは法定雇用率の概要や達成状況などについて確認しましょう。

法定雇用率の概要と対象企業

法定雇用率とは、企業が雇うべき障がい者の割合を義務として定めたものであり、障害者雇用促進法における障害者雇用率制度によって規定されています。

障がい者の社会参加を促し、障がいの有無に関わらず誰もが職業を通じて活躍できる共生社会を実現することを目的として、1976年に創設されました。

2024年7月時点における民間企業の法定雇用率は2.5%となっているため、従業員を40人以上雇用している企業は全て対象となり、1人以上の障がい者雇用が必要となります。

法定雇用率の達成状況

2023年時点で法定雇用率を達成している企業の割合は50.1%に留まっており、半数の企業がまだ法定雇用率を満たせていない状況です。

ただし民間企業で雇用されている障がい者数自体は、2022年よりも3万人近く増加し、642,178人に達しています。

実雇用率については2.33%であり、前年比0.08%と微増ではあるものの、徐々に改善している状況と言えるでしょう。

<参考:令和5年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省

法定雇用率は段階的に引き上げられる

法定雇用率は1976年に創設されて以降、現在に至るまで段階的に引き上げられています。

直近でも引き上げられており、2024年4月には2.3%から2.5%へと引き上げられました。

さらに、2026年7月からは2.7%まで引き上げられる予定となっており、その場合は従業員37.5人以上の企業も法定雇用率の対象として加えられることになるでしょう。

<参考:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について|厚生労働省

法定雇用率の計算方法

ここからは法定雇用率を自社が達成できているかを確認する流れや計算式などをご紹介します。

法定雇用率を達成できているかを確認する流れ

法定雇用率を達成できているかを確認するには、まずは自社で雇用すべき障がい者の人数を計算しなければなりません。

雇用すべき人数を把握できた後は、現時点で雇用している障がい者の人数をルールに則ってカウントし、法定雇用数との差異を確認しましょう。

自社における法定雇用数を確認するには

自社における法定雇用数を確認するには、以下の計算式を用います。

法定雇用数={常用労働者数+(短時間労働者数×0.5)}×法定雇用率(2.5%)

例えば常用労働者が100人、短時間労働者が20人の場合は、以下のように雇用すべき障がい者数を求められます。

{100+(20×0.5)}×2.5%=2.75人

小数点以下は切り捨て となるため、上記の場合2人の障がい者を雇用しなければなりません。

【補足】常用労働者と短時間労働者の定義 

「常用労働者」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ1年を超えて雇用される見込みのある労働者、または1年を超えて雇用されている労働者を指します。

上記条件に当てはまれば、アルバイトやパート従業員も該当します。

1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者は、「短時間労働者」としてカウントしなければなりません。

短時間労働者は1カウントではなく、0.5をかけてカウントする点も留意しておきましょう。

自社における障がい者数および実雇用率を確認するには

自社における法定雇用数を把握した後は、自社で雇用している障がい者数を把握します。

障がい者数カウントにおける考え方

自社で雇用している障がい者数を正しく把握するには、法定雇用率の対象となる障がい者を理解する必要があります。

法定雇用率の対象となるのは、以下の障がい者です。

  • 身体障害者手帳を所持する身体障がい者
  • 療育手帳あるいは判定書などを所持する知的障がい者
  • 精神障害者保健福祉手帳を所持する精神障がい者

また身体障害者手帳を持つ難病者、精神障害者保健福祉手帳を持つ発達障がいや高次脳機能障がいを持つ人も対象となります。

また障がいの度合いや勤務時間などによって、カウントの比重が異なります。具体的なカウントルールは以下のとおりです。

引用:障害者雇用率制度について|厚生労働省

実雇用率の計算方法

障がい者の実雇用率を確認する計算式は以下のとおりです。

実雇用率=(障がい者である常用雇用労働者数+障がい者である短時間労働者数×0.5)÷(常用雇用労働者数+短時間労働者数×0.5)

例えば以下のような条件の企業の場合、実雇用率は以下のようになります。

  • 障がい者である常用雇用労働者数:6人
  • 障がい者である短時間労働者数:2人
  • 常用雇用労働者数:200人
  • 短時間労働者数:20人
実雇用率={6+(2×0.5)}÷{200+(20×0.5)}=3.33%

この例では実雇用率が3.33%となっているため、法定雇用率を上回っていると言えるでしょう。

障がい者を把握する方法

法定雇用率を確認するには、自社にどれくらいの障がい者が働いているかを把握する必要があります。障がい者を把握する方法は以下のとおりです。

利用目的を明示する

障がい者を把握するには、まずは障がい者を把握する目的を従業員に対して明示しなければなりません。

目的以外での情報利用をしない旨などを周知した上で、提供してほしい情報内容なども併せて伝えましょう。

その他、利用目的の達成のために障害者手帳の確認を行うことがある旨や、手帳返却や等級変更時は申し出てほしい旨なども事前に伝えておく必要があります。

従業員全員に対して申告を依頼する

障がい者の把握においては、雇用している従業員全員に対して申告を依頼します。

企業側の判断で障がい者であると見込んだ労働者に絞って申告を依頼することは、不適切な対応として認識され、トラブルに繋がりかねません。

そのため申告を依頼する際は、一斉メールや書類の配布、全従業員への回覧板に記載するといった方法で実施しましょう。

個人を特定して申告を依頼できるケース

ただし以下のようなケースでは個人を特定して申告を依頼できます。

  • リハビリサービスを利用したい旨の申し出をした従業員
  • 障がい者支援制度などを利用したい旨の申し出をした従業員

上記のように従業員が企業に対して自発的に提供した情報を根拠として、障がい者であると判断できる場合は、個人を特定して申告を依頼しても問題ありません。

障がい者数を把握する際の禁忌事項

厚生労働省は障がい者数を把握する際の禁忌事項として以下の点を挙げています。

  • 利用目的の達成に必要のない情報の取得
  • 労働者本人の意思に反する、障がい者である旨の申告又は手帳取得の強要
  • 障がい者である旨の申告又は手帳取得を拒んだことに起因した解雇その他の不利益な取扱い
  • 正当な理由のない、特定の個人を名指ししての情報収集
  • 障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金又は報奨金の申請の担当者から労働者の障がいに関する問い合わせを受けた場合における、本人の同意のない情報提供

上記に挙げられている禁忌事項は、どのようなケースや状況においても実施が禁止されているため、注意しましょう。

<参考:プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインの概要|厚生労働省

法定雇用率が未達成の場合のペナルティ

続いて法定雇用率が未達成となった場合のペナルティについてご紹介します。

1.障害者雇用納付金の徴収

法定雇用率が未達成の場合、障害者雇用納付金として不足人数あたり月額5万円を納付することが求められます。

ただし納付金を収める必要があるのは常用労働者100人以上の企業であり、99人以下の企業は未達成時でも納付する必要はありません。

2.是正勧告などの行政指導

法定雇用率が未達成の企業は、障がい者雇い入れ計画の作成命令や計画の実施などについて、ハローワークから行政指導が入ります。

命令が出された翌年1月を基準として2年間の計画を立てた上で、この計画に沿って障がい者雇用に取り組まなければなりません。

計画の実施状況が悪い企業に対しては、適正な実施を求める是正勧告が行われます。

3.企業名の公表

ハローワークによる行政指導を受けているにも関わらず、状態が改善されない場合は、企業名の公表を前提とした特別指導が行われます。

不足数の多い企業に対しては、厚生労働省本省による直接指導も実施されることになるでしょう。

<参考:障害者雇用率達成指導の流れ|厚生労働省

法定雇用率を達成した場合のメリットは?

法定雇用率を達成している企業には、調整金の受給といった金銭的なメリットが設けられています。具体的には以下のようなメリットが挙げられるでしょう。

障害者雇用調整金法定雇用率を達成している常用労働者100人以上の企業に対して、超過一人当たり月額29,000円支給
障害者雇用報奨金法定雇用率を達成している常用労働者100人以下の企業に対して、超過一人当たり月額21,000円支給

上記の調整金や報奨金は、法定雇用率未達成の企業から徴収した障害者雇用納付金を源泉としています。

法定雇用率と関連して押さえておきたい制度

ここからは法定雇用率を把握する際に、併せて認識しておくべき制度についてご紹介します。

1.除外率制度

除外率制度とは、障がい者の就業が困難な業種において実雇用率を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除できる仕組みです。

業種ごとに除外率が設定されており、2024年時点における数値は以下のようになっています。

引用:障害者雇用率制度・納付金制度について 関係資料|厚生労働省

ただし2025年4月からは、除外率がそれぞれ10ポイント引き下げられます。

現状10%以下となっている業種については、除外率制度の対象外となる点は注意しましょう。

2.特例子会社制度

特例子会社制度とは、障がい者の雇用に特別の配慮をした特例子会社を設立し、一定要件を満たすことで、その子会社と障がい者数を通算して実雇用率を算定できる仕組みです。

特例子会社制度の認定要件は以下のようになります。

親会社の要件当該子会社の議決権の過半数を有するなど、意思決定機関を支配していること
子会社の要件親会社からの役員派遣など、人的関係が緊密である雇用される障がい者が5人以上、かつ全従業員に占める割合が20%以上(雇用される障がい者に占める重度身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の割合が30%以上)障がい者のための施設や職場環境の改善など、障がい者の雇用管理を適正に行える能力を有している障がい者雇用の促進や安定が確実に達成されると認められること
<参考:「特例子会社」制度の概要|厚生労働省

3.企業グループ算定特例制度

企業グループ算定特例制度とは、厚生労働大臣が一定の要件を満たしたと認定した企業グループは、企業グループ全体で実雇用率の通算ができる仕組みです。

企業グループ算定特例制度を活用するには、親会社と関係子会社それぞれが以下の要件を満たさなければなりません。

親会社の要件当該子会社の議決権の過半数を有するなど、意思決定機関を支配していること親会社が障がい者雇用推進者を選任していること
関係子会社の要件子会社の規模に応じて、それぞれ常用労働者数に1.2%を乗じた人数以上の障がい者を雇用していること中小企業の場合は、以下に掲げる数以上の障がい者を雇用していること常用労働者167人未満:要件なし常用労働者167~250人未満:1人常用労働者250~300人以下:2人障がい者のための施設や職場環境の改善など、障がい者の雇用管理を適正に行える能力を有しているまたは他子会社が雇用する障がい者の行う業務に関し、人的関係・営業上の関係が緊密である障がい者雇用の促進や安定が確実に達成されると認められること
<参考:「企業グループ算定特例」(関係子会社特例)の概要|厚生労働省

4.事業協同組合等算定特例制度

事業協同組合等算定特例制度とは、中小企業が事業協同組合などで共同事業を行っている場合、一定要件を満たして厚生労働大臣の認定を受けることで、組合や組合員である中小企業で実雇用率の通算が可能となる仕組みです。

事業協同組合における要件と、組合員である特定事業主における要件がそれぞれ設けられており、実雇用率を合算するには双方の要件を満たす必要があります。

ここまで紹介してきた他の制度よりも要件が多いため、詳細については以下のページからご確認ください。

<参考:「事業協同組合等算定特例」(特定事業主特例)の概要|厚生労働省

法定雇用率を達成するための取り組み

最後に法定雇用率を達成するための取り組みをご紹介します。

障害者トライアル雇用制度の活用

障害者トライアル雇用制度とは、障がい者を3か月間試行的に雇用し、業務への適正や能力などを見極められる制度です。

本制度を利用して障がい者を雇用すれば、助成金も支給されるというメリットがあります。

具体的には以下の助成金が支給されます。

  • 対象者一人当たり月額最大4万円(最長3か月間)
  • 精神障がい者をはじめて雇用する場合は月額最大8万円(最長3か月間)

ただし雇用する障がい者に要件が設けられているため、詳細は以下のページよりご確認ください。

<参考:「障害者トライアル雇用」のご案内|厚生労働省

人材紹介エージェントの活用

人材紹介エージェントの中には、障がい者採用を専門としてサービス提供を行っているエージェントもあります。

こういった人材紹介エージェントは、各障がいに対して専門的な知見を有しているため、自社の要件を伝えることで、最適な障がい者の紹介を受けることができるでしょう。

また人材紹介エージェントは基本的に成果報酬型であるため、採用が決まらない限り費用は発生せず、費用対効果の高い採用活動を実現できます。

特別支援学校などとの連携

障がい者が通う特別支援学校や、障がい者の社会参加をサポートする就労移行支援事業所などと連携することで、障がい者の紹介を受けることができます。

例えば特別支援学校の学生を実習生として受け入れ、業務を体験してもらうことで、双方の認識を擦り合わせながら採用するといった取り組みが可能です。

また就労移行支援事業所からは、事業所内での訓練を通じて自分の障害を理解し、対処方法なども把握した障がい者の紹介を受けられるため、就業開始後も安定稼働が期待できるでしょう。

まとめ

障がい者の数は増加しており、2023年時点で1160.2万人(全人口の9.2%相当)に達しています。

今後もこの傾向は続くと考えられているため、人材不足が慢性化する企業にとって、障がい者の活用は有効な打ち手となるでしょう。

ただし、いきなり多数の障がい者を雇用・活用していくことは難しいため、まずは法定雇用率を基準に採用を進めながら、障がい者が活躍できる環境を構築していくことが重要になります。

ぜひこの記事を参考に障がい者雇用に取り組んで頂ければ幸いです。

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