ウェルネス経営という言葉を聞いたことがあるものの、具体的な意味や健康経営との違いなどについて理解できていない。
本記事は上記のような方に向けて、ウェルネス経営の概要や健康経営などとの違いを踏まえつつ、実践するメリットや取り組み例をご紹介します。
ウェルネス経営を実践する流れやポイント、事例についても解説しているため、ぜひご一読ください。
ウェルネス経営とは
まずはウェルネス経営の概要や健康経営との違いなどについて解説します。
ウェルネス経営の概要
ウェルネス経営とは、会社として従業員の健康増進を積極的にサポートし、活き活きと働ける環境の整備を行う経営手法です。
そもそもウェルネス(Wellness)とは「よりよく生きようとする生活態度」や「活き活きしている状態」を表す言葉であり、アメリカのハルバート・ダン博士によって提唱されました。
企業の業績を支えるのは、基本的に製品・サービスの品質であると言えますが、この品質を決定付けるのは従業員の働きぶりです。
従業員の健康増進や労働環境整備に努めることで、高いパフォーマンスを発揮してもらい、結果として業績向上へと繋がる経営手法であると言えるでしょう。
健康経営・ウェルビーイング経営との違い
健康経営は経済産業省によると、「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されています。
ウェルネス経営は従業員の健康増進や幸福実現を目指し、従業員視点で取り組むものですが、健康経営は企業視点で戦略的に従業員の健康に投資するという特徴があります。
ただし具体的な取り組み自体は共通するものが多く、同義として扱うケースもある点は留意しましょう。
一方、ウェルビーイング経営は、従業員や関係者全員が、心身も社会的にも満たされるように組織環境を整えていく経営手法です。
ウェルネス経営はウェルビーイング経営に内包されるものであり、ウェルビーイング経営の内、健康増進などにフォーカスしたものがウェルネス経営と言えるでしょう。
ウェルネス経営が注目される背景
高度経済成長期から2000年台にかけて、日本企業では長時間労働や残業をしている従業員を評価する傾向がありました。
しかし人口減少や労働者の価値観の変化などにより、心身を削って働くよりも、効率的かつ健康的に働くことを重視する考え方が現れます。
実際、2014年の労働安全衛生法改正で、2015年12月から常時従業員を50人以上雇用している事業所はストレスチェックの実施が義務化されました。
また2016年に健康経営優良法人認定制度が開始されるなど、従業員の健康増進は徐々に企業における重要な経営課題として扱われるようになります。
2019年には「働き方改革関連法」が施行され、残業時間の規制や同一労働同一賃金などの制度が次々と導入されました。
こうした時代の流れを受け、従業員の健康増進を推進するウェルネス経営が注目されるようになったと言えるでしょう。
ウェルネス経営に取り組むべき企業とは
ウェルネス経営は、基本的にどのような企業でも有効となる経営手法です。規模の比較的小さな中小企業では特に有効と言えるでしょう。
中小企業は人数が少ない分、従業員一人ひとりのエンゲージメント(企業に貢献したいという意欲)やパフォーマンスが業績に直結しやすいためです。
その他、従業員の安定した働きが品質の根幹となるサービス業や飲食業などを営む企業も、ウェルネス経営による効果を実感しやすいと言えます。
ウェルネス経営に取り組むメリット
続いてウェルネス経営に取り組むメリットについてご紹介します。
メリット①:体調悪化に起因した休職や退職の防止
ウェルネス経営に取り組むことで、従業員の体調悪化に起因した休職や退職を防止できます。
ウェルネス経営では従業員の健康促進のために、労働環境の改善や福利厚生の充実などに取り組むことになります。
これらの取り組みを通じて、従業員の心身の健康増進や幸福感を高めることで、体調不良を訴える従業員を減らすことができ、休職や退職の防止を実現できるでしょう。
メリット②:ブランドイメージの向上
ブランドイメージを向上させられる点も、メリットとして挙げられます。
働き方改革や人的資本経営(従業員を資産として捉え、積極的に投資する経営手法)といった考え方が一般的になった現代では、従業員の健康をないがしろにする企業は一気にブランドイメージが低下してしまうでしょう。
その点、ウェルネス経営に取り組む企業は、従業員を含めたステークホルダーからのプラスの評価や信頼を得やすく、企業のブランドイメージの向上も見込まれます。
メリット③:従業員エンゲージメントの向上
ウェルネス経営は従業員エンゲージメントの向上に繋げられます。
ウェルネス経営では従業員の視点に立ち、健康増進や活き活きと働いてもらう環境を実現するために、様々な施策を講じたり社内制度を整えたりします。
その結果、従業員の満足度やエンゲージメント向上も期待でき、業績アップといった経営面での効果も得られるでしょう。
メリット④:採用力の強化
採用力の強化に繋がる点もウェルネス経営の大きなメリットです。
ウェルネス経営において社内の労働環境や福利厚生を充実させることは、既存従業員だけでなく、求職者にとっても効果的なPRポイントになります。
採用専門サイトや求人などにおいて、ウェルネス経営を実践している点や具体的な取り組み事例などを訴求することで、その点に価値を感じる求職者を効率的に集めることができるでしょう。
ウェルネス経営における具体的な取り組み例
ここからはウェルネス経営における具体的な取り組みの例をいくつかご紹介します。
1.福利厚生の充実
まず挙げられるのは福利厚生の充実です。
福利厚生には健康保険などの法定福利に加え、企業が任意で設けることができる法定外福利があります。
健康メニューを提供する食堂設置や運動施設の利用補助、リフレッシュ休暇や給与前払い制度といった法定外福利の充実は、ウェルネス経営においても重要な取り組みと言えます。
自社の状況や従業員の要望を踏まえ、適切な法定外福利制度を構築しましょう。
2.DXの促進
次に挙げられるのはDXの促進です。
DXとはDigital Transformationの略称であり、AIやIoTなどの先端技術を活用することで、業務の効率化やビジネスモデルの変革を目指す取り組みです。
各現場でDXを促進することによって業務効率化を実現でき、従業員の残業時間や業務負荷を効果的に削減できます。
その結果、心身の健康を維持できる適切なワークライフバランスを実現してもらえるでしょう。
3.年次有給休暇の取得推進
年休取得を企業や部門全体として推進し、従業員が遠慮することなく有給を取得できる風土や制度を整えることも、ウェルネス経営の実践に繋がります。
特に2019年4月から、年次有給休暇が10日以上付与される従業員については、年5日の年休を取得させることが義務化されました。
ウェルネス経営の一環として年休を取得しやすい環境を構築することで、こういった義務についても順守できるでしょう。
4.健康などをテーマとしたセミナーの開催
続いて挙げられるのは健康などをテーマとしたセミナー開催です。
従業員の健康は労働環境だけでなく、従業員自身の健康への理解や知識にも大きく影響されます。
そのため従業員向けに健康維持や増進するための方法、健康的な食生活などを学べるセミナーを開催することも有効な取り組みとなるでしょう。
これらのセミナーを通じて、従業員自身の健康への意識も高められ、自発的な健康維持・増進を促すことが可能です。
5.相談しやすい体制の構築
次に挙げられるのは、相談しやすい体制の構築です。
身体的な健康面については目に見える特徴や状態として表出するため、従業員自身も企業側も把握しやすいと言えます。
しかし精神的な健康については、従業員も企業も把握しづらく、「知らない間に状態が悪化していた」といった事態も起こり得るでしょう。
こういった事態を防ぐには、産業医や心理カウンセラーによる相談室などを設置し、従業員が悩みを気軽に相談できる体制を構築することが重要になります。
6.多様な働き方が実現できる社内制度の構築
取り組み例の最後に挙げられるのは、多様な働き方を実現できる制度の構築です。
結婚や出産といったライフステージ、子育てや親の介護といった家庭環境などに左右されることなく、仕事に取り組める環境を構築することも重要な施策となります。
在宅ワークやフレックスといった社内制度を整備し、多様な働き方を実現できる環境を構築することで、従業員の精神・身体的な負荷を軽減できるでしょう。
ウェルネス経営の進め方
次にウェルネス経営の進め方について、大きな流れをご紹介します。
ステップ①:社内に向けて方針を提示する
ウェルネス経営に取り組む際は、まず社内に向けて方針を提示する必要があります。
- なぜウェルネス経営に取り組むのか
- どういった取り組みや制度の構築を考えているのか
- それによってどういった状態を目指すのか
上記のような点を具体的に整理し、社内に対して提示しましょう。
また必要に応じて「そもそもウェルネス経営とは何か、どういったメリットがあるのか」について説明することも有効です。
ステップ②:現状の分析
社内に対して方針を提示した後は、現状分析を行います。
ウェルネス経営の方針と照らし合わせながら現在の状況を整理し、課題を抽出しましょう。
過去に実施したストレスチェック結果などを確認しつつ、新たにアンケートやインタビューを行い、従業員の健康面を把握します。
その上で、現在の社内制度も確認しながら、課題点や新たに構築すべき制度の方向性などを検討することになるでしょう。
ステップ③:具体的な制度や取り組み内容の策定
分析結果を基に、具体的な制度や取り組み内容の策定を行います。
ウェルネス経営を実現するために必要な制度の設計や運用方法の確立、施策の具体的な内容を策定しましょう。
企業側の一方的な考えで策定するのではなく、この段階でも従業員の意見を適切に取り入れることが重要です。
そのためウェルネス経営を推進するプロジェクトチームなどを立ち上げ、現場従業員に参画してもらうなどの工夫が必要になるでしょう。
ステップ④:運用と改善
策定した制度や施策の運用を開始します。
運用開始後は各施策の効果測定を実施しつつ、従業員にも定期的にアンケートやインタビューを行い、改善点を抽出していかなければなりません。
運用と改善のPDCAサイクルを着実に回すことで、企業側の独りよがりではなく、従業員から求められるウェルネス経営を実現できるでしょう。
ウェルネス経営を実践する際のポイント
ウェルネス経営の進め方と併せて、実践時のポイントも押さえておきましょう。
ポイント①:外部サービスを活用する
ポイントとしてまず挙げられるのは、外部サービスを活用するという点です。
従業員の健康情報を集約管理できる健康管理システムは勿論、AIが健康に関するアドバイスを行う健康支援アプリなど、従業員の健康増進に役立つ外部サービスは豊富に提供されています。
これらのツールを各制度や施策の中に取り入れることで、自社単独で行うよりも精度の高いウェルネス経営を実践できるでしょう。
ポイント②:助成金を活用する
助成金を上手く活用することも、ポイントとして挙げられます。
ウェルネス経営の取り組み内容によっては、以下のような助成金を利用できる可能性があります。
- 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
- 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)
- 人材確保等支援助成金(テレワークコース)
- くるみん助成金(中⼩企業⼦ども・⼦育て⽀援環境整備助成事業)
これらを上手く活用することで、予算への負担を抑えながら、様々な施策を展開できるでしょう。
ポイント③:定量化した評価指標を設定する
定量化した評価指標を設定する点も重要なポイントです。
ウェルネス経営の効果を正しく把握し、精度の高い改善を行うには、制度設計や取り組みの検討時に、定量化された評価指標を設定しておく必要があります。
残業時間の削減率やリモートワーク利用率、健康診断結果や有給取得率など、具体的な数値として目標を設定しておけば、進捗に応じて的確な改善に取り組むことができるでしょう。
ポイント④:定期的に制度を見直す
ポイントの最後に挙げられるのは、定期的に制度を見直すという点です。
従業員のニーズや価値観は時代とともに変化するため、今年有効だった施策や制度が来年以降も必ず有効とは限りません。
そのためウェルネス経営における制度や取り組みは定期的に見直す必要があります。
定期的な見直しを怠らずに実施することで、従業員や時代の変化に対応したウェルネス経営を実現できるでしょう。
野村不動産に学ぶウェルネス経営の事例
野村不動産はウェルネスを経営の基盤に据え、働き方改革やダイバシティ&インクルージョンを推進することで、社員幸福と企業成長双方の実現を目指しています。
引用:ウェルネス経営への取り組み|企業情報|野村不動産株式会社 | あしたを、つなぐ
上記に示した経営の考え方を基に、ウェルネス推進における様々な施策に取り組んでいます。代表例としては「ウェルネス月間」が挙げられるでしょう。
2018年から毎年12月をウェルネス月間と定め、食育マルシェや健康セミナー、ウォーキングイベントなど、心身の健康を促進するイベントを多数開催しています。
他にもスポーツジム利用料の費用補助や従業員との1on1ミーティングの実施、女性の健康応援Bookの配布などを実施することで、ウェルネス経営を実践していると言えるでしょう。
参考:ウェルネス経営への取り組み|企業情報|野村不動産株式会社 | あしたを、つなぐ
まとめ
企業の業績は従業員の業務品質は勿論、エンゲージメントに左右されると言っても過言ではありません。
従業員のパフォーマンスやエンゲージメントには、心身の健康も大きく関わっており、もし健康面での課題を抱えた従業員が多い場合、企業の業績も悪化する恐れがあるでしょう。
そのためあらゆる企業において、ウェルネス経営を実践し、従業員の健康増進や幸福実現に寄与することが求められるでしょう。
ぜひこの記事を参考にウェルネス経営を実践していただければ幸いです。
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