- タレントマネジメントとは何か知りたい
- タレントマネジメントの導入ステップを知りたい
- タレントマネジメントの事例を知りたい
この記事は上記のような方に向けて、タレントマネジメントの概要やメリットなどを踏まえつつ、導入ステップやポイントをわかりやすく解説します。
最後に企業における成功事例もご紹介しているため、ぜひご一読ください。
タレントマネジメントとは
まずはタレントマネジメントの概要や注目される理由、実施の目的についてご紹介します。
タレントマネジメントの概要
タレントマネジメントとは従業員(タレント)の持つスキルや能力、個性を最大限活用するために、従業員情報の管理や能力開発、配置などを行う一連のマネジメント手法を指します。
タレントマネジメントの概念は、1997年に大手経営コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「The War for Talent」に端を発し、同名の書籍が世界中でヒットしたことで大きく広まりました。
タレントマネジメントとピープルマネジメントとの違い
タレントマネジメントと混同しやすい概念として、ピープルマネジメントが挙げられます。
ピープルマネジメントは、現場におけるマネージャーが自身の部下である従業員一人ひとりに対して、個別的に行うマネジメントを指します。
対してタレントマネジメントは、企業全体における人材採用・能力開発の取り組みを指し、ピープルマネジメントの前提として取り組まれる、より大きな概念と言えるでしょう。
タレントマネジメントが注目される理由
日本では1995年以降生産年齢人口が減少しており、新たに人材を採用することが難しくなっています。
そういった状況においては、タレントマネジメントに取り組み、既存従業員により長く活躍してもらえるように制度や環境を整えることが重要になるでしょう。
また労働者の価値観の変化や競争環境のグローバル化によって、従業員を重要な資本として捉えつつ、各人の適性に応じた活用や育成を行うことで、競争力を高める必要性が生じたことも理由として挙げられます。
タレントマネジメントの目的
タレントマネジメントの大きな目的は自社の中核を担う人材、つまり経営を担える人材(以下、経営人材)を育てることによって、人事領域から経営を支援することです。
その大前提の基に、従業員の採用や教育開発、適正な配置を行うことになります。
またこれらの取り組みを通じて従業員の定着を図り、長く安定して勤務してもらうことも重要な目的の一つと言えるでしょう。
タレントマネジメントの種類と主な管理項目
続いてタレントマネジメントの種類と、主な管理項目について確認します。
タレントマネジメントの種類
タレントマネジメントは、対象とする従業員によって以下2つの種類に分かれます。
包括的タレントマネジメント
包括的タレントマネジメントとは、全社員を対象とするタレントマネジメントです。
自社に所属している社員全員の特性を見極めながら教育や配置などを行うため、企業全体の能力を底上げできますが、工数がかかるという難点があります。
排他的タレントマネジメント
排他的タレントマネジメントとは、特定の人材のみを対象として実施するタレントマネジメントです。
経営人材の候補となるエース人材のみを対象とするなど、一部の人材に対して実施する特性上、効率的に行えますが、企業全体の能力を底上げすることは難しいでしょう。
タレントマネジメントの管理項目
タレントマネジメントでは、従業員に関する様々な情報を管理し、育成や配置などを行います。
具体的には以下のような項目を管理することになるでしょう。
- 年齢や性別
- 所属部署や役職
- 能力やスキル
- 保有資格
- 価値観
- キャリア志向
- 業務実績や成果
- 人事評価内容
これらの情報を踏まえ、育成や適性のあるポジション・役割を任せることで、人的リソースの最大活用を目指します。
タレントマネジメントに取り組むメリット
次にタレントマネジメントに取り組むメリットを確認しましょう。
メリット①:人材配置の最適化
一つ目のメリットは、人材配置の最適化です。
タレントマネジメントに取り組むことで、各従業員の適性や能力、キャリアにおける志向性などを把握できます。
把握した情報をベースにポジションや役割を任せることができるため、各人材にパーソナライズされた配置を実現できるでしょう。
メリット②:生産性の向上
次に挙げられるメリットは、生産性の向上です。
タレントマネジメントの仕組みを導入し、人材の適材適所が実現されることによって、各従業員の業務パフォーマンスが高まることが期待できます。
そのため業務全体の効率は勿論、生産性の向上にも繋げることが可能です。
メリット③:経営人材の獲得
経営人材を獲得できるという点もメリットとして挙げられます。
タレントマネジメントに取り組み、経営人材の要件などを明確にすることで、そこから逆算して人材育成や能力開発を実施できます。
将来的に経営を担える人材を社内で養成できるため、外部から経営人材を採用する工数や費用を抑えることが可能です。
メリット④:従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントの向上に繋がる点も見逃せません。
タレントマネジメントでは、各従業員の適性や能力、志向に合わせて最適な教育や配置を行うため、企業に対するエンゲージメント(企業への愛着度)を高める効果も発揮します。
そのため、中長期的な活躍や離職防止も実現できるでしょう。
メリット⑤:採用力の強化
メリットの最後に挙げられるのは、採用力の強化です。
タレントマネジメントの仕組みを取り入れることで、適材適所や充実した能力開発の機会を提供できます。
これらの点は求職者に対しても高い訴求力を発揮するため、採用情報などに上手く盛り込むことで、採用力の強化にも繋げられるでしょう。
従業員にとってのメリット
タレントマネジメントは企業だけでなく、従業員にとってもメリットがあります。
たとえば、以下のようなメリットが挙げられるでしょう。
- 適性や志向に合わせたキャリアアップの機会を得られる
- 自身の能力を最大限発揮できる領域で業務に従事できる
- 適性のある業務に従事できることから高い人事評価を得やすい
これらのメリットを通じて、従業員の満足度やモチベーションも高まり、自社にとってもポジティブな効果をもたらします。
タレントマネジメントの導入ステップ
ここからはタレントマネジメントの導入ステップを確認しましょう。
ステップ①:タレント要件の明確化
タレントマネジメントに取り組む際、まず行うべきはタレント要件の明確化です。
経営人材にとって必要な能力や資質といった要件を明確化し、タレントマネジメントにおいて目指すべき指標として策定します。
策定したタレント要件については、社内関係者全員で共有しておくことで、タレントマネジメントの取り組みに一貫性を担保できるでしょう。
ステップ②:現状分析
続いて現状分析を行います。
先のステップで策定したタレント要件を踏まえつつ、現在雇用している従業員について、能力や適性、資質や志向性などの情報を整理しましょう。
その上でタレント要件に合致した人材がいるか、経営人材の候補者はどれくらいいるのか、といった現状を把握します。
ステップ③:タレントの特定
特定人材のみを対象とする排他的タレントマネジメントの場合、ここで対象とするタレントを特定します。
タレント要件に基づき、近い資質を持つ人材や現在活躍しているエース人材などを中心に対象を絞り込んでいきましょう。
包括的タレントマネジメントの場合は全ての従業員が対象となるため、本ステップは割愛し、次のステップへと進みます。
ステップ④:タレントプールの構築
次にタレントプールの構築を行います。
タレントプールとは、従業員に関する情報を一元管理するデータベースのことであり、先に挙げた管理項目を中心に情報を蓄積します。
包括的タレントマネジメントの場合は全ての従業員のデータを格納することになるため、膨大なデータ容量を管理できるシステムを構築しなければならない点は注意してください。
ステップ⑤:採用や配置・育成計画の立案
タレントプールを構築した後は、現状とタレント要件の差異を踏まえて、採用や配置、育成計画を立てることになるでしょう。
すでにタレント要件に近い人材がいる場合は、その人材に対して「どういった配置・育成を実施すれば、経営人材へと育てることができるのか」を検討します。
既存従業員とタレント要件の差異が大きい場合、外部からの採用も視野に入れて計画を立案する必要があるでしょう。
ステップ⑥:各施策の実施
次のステップは各施策の実施です。
立案した各計画に基づき、対象となる従業員の配置転換や能力開発・育成に取り組みつつ、必要に応じて採用活動なども展開します。
各施策によって得られた成果は、データとしてタレントプールに追加しましょう。
ステップ⑦:効果検証と施策の改善
ステップの最後に行うのは効果検証と施策改善です。
従業員の変化や成長に関するデータをタレントプールに蓄積しつつ、定期的に効果検証を実施し、採用施策や人員配置、育成プログラムなどの改善に取り組みましょう。
施策実施と効果検証、施策の改善を一つのサイクルとして捉え、継続的に回していくことがタレントマネジメントの基本となります。
タレントマネジメントで失敗しないためのポイント
続いてタレントマネジメントの取り組みで失敗しないためのポイントをご紹介します。
ポイント①:課題と目的を明確にする
一つ目のポイントは課題と目的を明確にするという点です。
タレントマネジメントを導入する際は、まず人材面での課題を整理した上で、理想とすべき人材要件を踏まえた目的や目標を明確にしておく必要があります。
課題や目的が曖昧な状態でタレントマネジメントに取り組んでも、各施策の一貫性を担保できず、効果も減じてしまうでしょう。
ポイント②:経営層や社内の理解を得る
次に挙げられるのは、経営層や社内の理解を得るという点です。
タレントマネジメントは人事部門だけで完結するものではなく、対象となる従業員や経営層まで含めた全社的な取り組みとなります。
そのため、あらかじめタレントマネジメントの目的やメリットなどを、上層部や現場従業員に説明した上で、理解を得ておかなければなりません。
ポイント③:タレントプールのデータを更新する
続いてのポイントは、タレントプールのデータを更新するという点です。
タレントプールは放置すると格納された情報も古くなり、やがて実態から乖離してしまいます。そうなるとタレントマネジメント自体も形骸化し、十分な効果を得ることが難しくなるでしょう。
そのためタレントプールのデータは定期的に更新したり、管理項目を見直したりして、常にブラッシュアップすることが重要になるでしょう。
ポイント④:人事評価制度や教育制度と整合させる
人事評価制度や教育制度と整合させる点も重要なポイントです。
タレントマネジメントで経営人材を養成するには、あらかじめ定めたタレント要件と、人事評価制度や教育制度といった社内制度の方向性を整合させる必要があります。
タレントマネジメントと各制度の整合性が担保されていない場合、どれだけ時間をかけてマネジメントに取り組んでも、経営人材の獲得という目的を果たすことは難しいでしょう。
ポイント⑤:運用体制を構築する
次に挙げられるのは運用体制を構築するという点です。
タレントマネジメントはタレントプールの構築に始まり、データの更新や各種社内制度の調整といった工数が定期的に生じます。
これらの対応を継続的かつ安定して行うためには、タレントマネジメントの運用体制を整備し、人員などのリソースを確保しておかなければなりません。
ポイント⑥:タレントマネジメントシステムを活用する
ポイントの最後に挙げられるのは、タレントマネジメントシステムを活用するという点です。
タレントマネジメントシステムとは、従業員のプロフィールや能力・スキル、これまでの業務経験などの情報を一元管理できるシステムです。
人事評価や目標管理などの機能も搭載されているため、タレントマネジメントを効率的かつ効果的に行いたい場合は導入をおすすめします。
タレントマネジメントの成功事例
最後にタレントマネジメントにおける企業事例をご紹介します。
事例①:味の素株式会社
まずご紹介するのは味の素株式会社の事例です。
味の素は、世界各国で活躍するグループ人材の適所適財を実現するために、2016年からグローバル人財マネジメントシステムを導入しました。
グローバル人財マネジメントシステムは、「適所」を実現するためのポジションマネジメントと、「適財」を実現するためのタレントマネジメントの二つからなっており、優秀な人財の発掘や育成の基盤として活用されています。
これらの取り組みによってグローバル環境でも通用する優秀な人財を養成し、経営目標の達成といった成果に繋げていると言えるでしょう。
<参考:多様な人財の活躍推進|味の素株式会社>
事例②:旭化成株式会社
次にご紹介するのは旭化成株式会社の事例です。
旭化成では2006年に制定した人財理念を踏まえつつ、2022年度から社会課題の解決や成長に向けて新たな人財戦略を策定しました。
人財戦略では「終身成長」と「共創力」の二つのキーワードを基に、自律的なキャリア形成や多様な専門性の確保を目指しています。
「高度専門職」というプロ人財の要件を定め、高度専門職任命数を具体的なKPIとして掲げることで、着実にPDCAを回しながらタレントマネジメントに取り組んでいる好事例と言えるでしょう。
<参考:人財 | 社会 | サステナビリティ | 旭化成株式会社>
事例③:サントリーホールディングス株式会社
事例の最後にご紹介するのは、サントリーホールディングス株式会社です。
サントリーでは従業員一人ひとりの成長に重きを置いた、「全社員型タレントマネジメント」に取り組んでいます。
企業成長の源泉を「人」であると捉え、「サントリー大学」と呼ばれる人材育成プログラムを設け、各従業員の能力開発を行っています。
他にも「Suntory Harvard Program」や「次世代経営者研修」といった制度によって、グローバル経営人材を育むことで、国内外の市場において確固たるポジションを築いていると言えるでしょう。
<参考:人材育成と成長機会 | サントリーの人本主義 サントリー>
まとめ
今回はタレントマネジメントをテーマに概要やメリット、導入ステップやポイントなどをまとめてご紹介しましたが、いかがでしたか。
少子高齢化が加速する日本においては、新たに人材を採用する難易度は高まり続けています。
こういった状況下においては、あらゆる企業はタレントマネジメントの仕組みを導入し、従業員の能力開発や適材適所を実現することで、競争力を高めていかなければなりません。
ぜひこの記事を参考に、タレントマネジメントに取り組んでいただければ幸いです。