従業員の確保や離職において課題を抱えており、状況を改善する方法としてインセンティブ制度の導入を検討している。
本記事は上記のような方に向けて、インセンティブ制度の概要や類似制度との違いを踏まえながら、導入のメリットや流れ、ポイントをわかりやすく解説します。
最後にインセンティブ制度の具体事例もご紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。
インセンティブ制度とは
まずはインセンティブ制度の概要や類似概念との違いなどについて確認しましょう。
インセンティブ制度の概要と主な種類
インセンティブ制度とは、給与とは別に「金銭やそれ以外の報酬」などを支給する制度です。
特定の要件を満たした従業員を対象とし、主にモチベーションやロイヤルティの向上を目的として提供されます。
インセンティブの代表的な種類としては、以下のような形式が挙げられます。
物質的インセンティブ | 金銭や物品などを支給するインセンティブ |
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評価的インセンティブ | 表彰やリーダー登用など、評価に反映するインセンティブ |
人的インセンティブ | 希望するチームへの配置や同僚・上司の調整といった、組織や人的なインセンティブ |
理念的インセンティブ | 自社の価値観や理念に沿って、やりがいや社会貢献度の高い業務を任せるといったインセンティブ |
自己実現的インセンティブ | 従業員のキャリアビジョンに合わせた教育機会の提供や、ポジションへの配置といったインセンティブ |
インセンティブ制度が生まれた背景
戦後から高度経済成長期にかけて日本企業を支えていた終身雇用制度は、バブル崩壊とともに機能しなくなりました。
それに伴い、1990年代以降は年齢や勤続年数を基準に待遇を決める年功序列ではなく、従業員が業務で出した結果を重視する「成果主義」を取る企業も現れます。
成果主義が登場したことにも影響を受け、従業員の成果や頑張りを引き出し、適切な評価や報酬配分を行うために、金銭支給を中心としたインセンティブ制度が登場したと言えるでしょう。
インセンティブ制度が適した職種
インセンティブ制度は、基本的にあらゆる職種に対して適用できる制度です。
しかしインセンティブの支給基準となる成果について、数値で表すことができる営業やマーケティングなどの職種は、比較的制度を設計しやすいでしょう。
逆に事務や法務などのバックオフィスに関連した職種は、目に見える形での成果を定義しにくいため、「何をもって成果とするか」を工夫して制度設計を行わなければなりません。
インセンティブ制度と類似制度の違い
インセンティブ制度には、混同されやすい制度がいくつかあります。そこで主な類似制度との違いを確認しておきましょう。
歩合制度との違い
歩合制度は成果一件に対して一律で報酬を支給する制度であり、インセンティブの一種とも言えます。
ただしインセンティブは金銭的な報酬以外も含まれる上、金銭によるインセンティブであっても一律支給ではなく、内容によって金額が変動する点が歩合制度とは異なります。
手当との違い
手当は役職や家族構成など、一定条件を満たした従業員に対して、実績や評価とは関係なく一定額を支給する制度です。
特定成果を挙げたり、高い評価を獲得したりした従業員に支給するインセンティブとは、支給条件が異なります。
ボーナス(賞与)との違い
ボーナス(賞与)は会社や組織の業績に応じて、従業員に対して決まったタイミングで支給される金銭的な報酬です。
対してインセンティブは従業員個人の業績や成果を基に、当該従業員のみを対象として支給されます。
中小企業がインセンティブ制度を導入するメリット
続いて中小企業がインセンティブ制度を導入するメリットをご紹介します。
メリット①:業績の向上
インセンティブ制度の導入は、業績向上に繋がるケースがあります。
従業員の要望を適切に取り入れたインセンティブ制度を実現できれば、従業員のモチベーションを高めることができ、業務におけるパフォーマンス向上も見込まれます。
各従業員のパフォーマンスが高まることで、利益率の改善や売り上げアップなど、企業全体の業績向上に繋げられるでしょう。
メリット②:従業員の成長促進と定着
インセンティブ制度は従業員の成長促進や定着にも有効に作用します。
インセンティブ制度を導入することで、従業員間での健全な競争や切磋琢磨できる環境を構築できます。
その結果、従業員の業務レベルを効果的に高めることが可能です。
また自己成長の実現や報酬の提供によって従業員満足度が高まるため、定着率も改善できる可能性があります。
メリット③:報酬の適正化
インセンティブ制度の導入は、従業員に対する報酬の適正化にも繋がります。
インセンティブは特定の成果や実績を挙げた人材に対して支給されるため、自社への貢献度が高い人材に絞って高い報酬を提供する環境を実現できます。
逆に成果を出していない人材には支払う必要がないため、従業員への報酬配分を最適化できるでしょう。
メリット④:公平な評価の実現
公平な評価を実現できる点もメリットの一つです。
インセンティブ制度では支給対象を明確にするために、各報酬の支給要件や評価基準についても厳密に定義することになります。
評価基準に沿った運用を徹底することで、評価制度の公平性を担保でき、従業員からの評価に対する信頼も得られるでしょう。
メリット⑤:採用力の強化
インセンティブ制度は採用活動においても強力な武器となります。
求職者のなかには様々な価値観を持った人材がいますが、なかでも報酬や待遇面を重視する求職者は比較的多いと言えるでしょう。
インセンティブ制度は、こういった求職者に対して強力なアピールポイントとなるため、応募数の増加など、採用活動においてポジティブな効果をもたらします。
メリット⑥:会社方針の浸透
インセンティブ制度は、会社方針を浸透させるツールとしても機能します。
会社の方針や価値観は、業務や日頃のやり取り、評価などを通じて徐々に浸透していくため、特に工夫をしなければ相応の時間がかかってしまうでしょう。
その点、インセンティブ制度では評価基準を通じて、「会社としてどういった行動に重きを置くのか」「どういった成果を重視するのか」を明確にできるため、会社方針の浸透を効率的に進めることができます。
インセンティブ制度のデメリット
インセンティブ制度のデメリットとしては以下のような点が挙げられます。
デメリット①:属人化のリスクが高まる
インセンティブ制度は属人化のリスクを高めるという一面を持ちます。
インセンティブ制度を導入することで、各従業員がインセンティブの獲得に向けてスキルを高めることが期待できます。
その一方で、他者がインセンティブを獲得することを防ぐため、自分のスキルやノウハウを共有するのを控えるリスクがある点は留意しましょう。
デメリット②:人間関係が悪化する可能性がある
人間関係が悪化する可能性がある点もデメリットと言えるでしょう。
インセンティブ制度の内容や報酬内における比重次第で、社内競争が激化することが見込まれます。
そうなると各従業員の精神的なストレスが高まり、組織内での協調関係が崩れたり、人間関係が悪化したりする可能性があります。
デメリット③:従業員によってはモチベーションが悪化する
モチベーションが悪化する従業員が現れる可能性もあるでしょう。
インセンティブ制度は特定の成果を挙げた人材に対して支給されるため、対象外となる従業員との間で報酬格差が顕著になります。
そのため、評価基準が不明瞭であったり公平性が担保されていなかったりする場合、対象外となっている従業員のモチベーションが低下する可能性があるでしょう。
デメリット④:従業員の視野が狭くなりやすい
インセンティブ制度は、従業員の視野を狭くするリスクもはらみます。
インセンティブ制度を導入すると、どうしてもインセンティブに関連する業務だけに従業員の意識が集中しがちになってしまいます。
そのためインセンティブの対象ではない業務が疎かになりやすくなるなど、従業員の視野が狭くなり、事業運営に支障をきたす可能性があるでしょう。
デメリット⑤:内発的動機付けが弱まる
「内発的動機付け(仕事のやりがい、会社へ貢献したいという気持ちなど)」が弱まるという点もデメリットと言えるでしょう。
インセンティブは典型的な「外発的動機付け(評価や報酬、待遇など)」であるため、従業員の報酬におけるインセンティブ制度の比重を高めるほど、内発的動機付けが弱まりやすくなります。
仮に何らかの理由でインセンティブ制度が廃止になった場合、内発的動機付けの弱い従業員は転職してしまうリスクがある点は注意してください。
インセンティブ制度の設計・導入の流れ
ここからはインセンティブ制度の設計と導入の流れを、6つのステップに分けてご紹介します。
ステップ①:目的の明確化
まずは目的を明確化しなければなりません。
インセンティブ制度には、主に「従業員のモチベーション向上」や「適切な評価の実現」、「報酬の適正配分」などの目的がありますが、実際は企業の状況や課題によって異なります。
そのため自社の課題を整理しつつ、「何のためにインセンティブ制度を導入するのか、導入によってどういった効果を見込んでいるのか」について明確にしましょう。
ステップ②:従業員へのヒアリング
制度内容の方向性をまとめるため、インセンティブの対象部門に所属する従業員に対して現状の不満や要望などをヒアリングします。
従業員数が少なければ対象者全員に対してヒアリングを実施し、従業員数が多い場合はアンケートを行う、あるいは世代や役職別に代表者を数名選出しヒアリングする、といった方法があるでしょう。
ここで得られた意見をカテゴリ別などにまとめ、制度構築におけるアイデアとして活用します。
ステップ③:制度内容の策定
次にインセンティブ制度の内容策定に入ります。
目的や従業員の意見を基に、物質的インセンティブや評価的インセンティブといったカテゴリを選択した上で、具体的な内容や支給における評価基準を策定しましょう。
この際、インセンティブの対象部門に所属する従業員にも打ち合わせや検討会に参画してもらい、現場の意見や視点を取り入れながら進めることがポイントです。
ステップ④:運用体制の構築
具体的なインセンティブ制度の内容や基準を策定できた後は、運用体制を構築します。
インセンティブ制度運用に関する責任者を定めるとともに、実運用を担当するチームを組織するなど、適切な運用体制を構築しましょう。
体制構築と並行して、インセンティブに関するルールブックや説明資料を制作しておくことで、制度の周知や運用をスムーズに進めることができます。
ステップ⑤:インセンティブ制度の周知と運用開始
運用体制が構築できた後は、インセンティブ制度の周知と運用を開始します。
いきなり運用を開始するのではなく、制度説明の期間をある程度設けておき、そのスケジュールに沿って周知を進めていきます。
インセンティブ制度の目的や具体的な内容を社内に向けて説明し、認知を広げつつ、制度への疑問解消を図りましょう。
従業員が制度に対して十分に理解できたあと、実際に制度運用を開始します。
ステップ⑥:経過分析と制度改善
ステップの最後は経過分析と制度改善です。
インセンティブ制度の経過状況をモニタリングしつつ、実際の効果や従業員の反応などをチェックしましょう。
適宜従業員からの意見を集めつつ、その内容や状況を踏まえた改善に取り組むことで、効果的なインセンティブ制度へとブラッシュアップできます。
インセンティブ制度の構築・導入のポイント
続いてインセンティブ制度を構築・導入する際のポイントをご紹介します。
ポイント①:ビジネスモデルや理念と合致させる
一つ目のポイントは、ビジネスモデルや理念とインセンティブ制度の内容を合致させるという点です。
インセンティブ制度における評価基準が、現状のビジネスモデルの評価軸とずれていたり、理念に反するような内容だったりすると、従業員に不信感を抱かせてしまいます。
そのためインセンティブ制度における評価基準は、ビジネスモデルや理念との親和性も考慮した上で、設計することが重要になります。
ポイント②:達成難易度を高める
次に挙げられるのは、達成難易度を高めるという点です。
インセンティブの支給基準を低くしてしまえば、従業員の大半が達成可能となり、企業側の制度運用における負担が増大する上、従業員が切磋琢磨してインセンティブに挑戦する環境も構築できません。
そのためインセンティブにおける評価基準は、不可能ではないものの、それなりの難易度に設定すべきと言えます。
ポイント③:評価における公平性と透明性を担保する
評価における公平性と透明性を担保するという点も重要なポイントです。
仮にインセンティブの評価基準に不公平な要素があり、従業員に対してオープンにされていなければ、対象外となった従業員を中心に不満が溜まり、より一層パフォーマンスが低下するといった事態を招きかねません。
その点、公平かつ透明性を担保した評価基準を設計できれば、支給対象外の従業員の納得や理解も得やすくなるでしょう。
ポイント④:評価基準や報酬に段階を設ける
続いて挙げられるのは、評価基準や報酬に段階を設けるという点です。
インセンティブの評価基準や報酬のレイヤーが一つだけの場合、インセンティブを受け取れる人材がごく少数となり、他の従業員のモチベーションが下がりかねません。
そのため、評価基準や報酬にはいくつかのレイヤーを設け、頑張った従業員を適切に労える制度として確立しておくとよいでしょう。
ポイント⑤:金銭面以外のインセンティブも含める
ポイントの最後に挙げられるのは、金銭面以外のインセンティブを含めるという点です。
金銭的なインセンティブのみの場合、従業員間の格差が顕著となり、心理的な負担も大きくなります。
そのため金銭面以外、たとえば人的インセンティブや自己実現的インセンティブなども含めて設計し、心理的な負荷をできるだけ軽減できるように工夫しなければなりません。
インセンティブ制度の事例
最後にインセンティブ制度の事例をご紹介します。
事例①:株式会社オープンハウス・アーキテクト
注文住宅などの建築販売を行っている株式会社オープンハウス・アーキテクトは、2023年11月から時差出勤制度と併せて朝活インセンティブ制度を導入しました。
朝活インセンティブは、勤務時間を7時あるいは8時開始とした場合、1時間当たり600円の手当を支給する制度です。
例えば時差出勤制度で7時勤務を1か月継続した場合、最大26,400円の手当てが支給されます。
出社時間という明確な基準に支えられたインセンティブであるため、従業員間の不公平感もなく、適切にモチベーションを向上させられる事例と言えます。
参考:社員の柔軟な働き方を支援。“時差出勤制度&朝活インセンティブ制度”を試験導入開始。 – オープンハウス・アーキテクト
事例②:株式会社メルカリ
フリマアプリを提供する株式会社メルカリは、2017年9月にインセンティブの一環として、ピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」を導入しました。
mertipとは、従業員同士で感謝や賞賛を送ると同時に、インセンティブとして一定額の成果給を送ることができる仕組みです。
単純な成果報酬によるインセンティブでは、先に挙げた属人化や従業員同士の関係性悪化といった懸念があります。
その点、mertipは従業員で感謝を送り合いながら成果報酬を得られる仕組みであるため、従業員同士の関係性構築にも繋がり、効果的にモチベーションやパフォーマンスの向上を実現している事例と言えるでしょう。
参考:贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。 | mercan (メルカン)
事例③:株式会社オンデーズ
メガネやサングラスの製造販売を行う株式会社オンデーズは、インセンティブ制度として社内仮想通貨「STAPA」を導入しています。
STAPAは世界初の福利厚生マイレージサービスであり、従業員の日頃の頑張りを社内マイルの付与という形で評価できる仕組みです。
溜まったマイルは別の従業員にプレゼントすることは勿論、豪華な商品や体験などと交換できます。
従業員同士の関係構築に力点を置きながらも、従業員の頑張りを適切に労える環境を実現していると言えるでしょう。
参考:快適に働く制度|FIND! OWNDAYSの「人」と「働き方」の”今”を届ける。
まとめ
人口減少によって新たな人材を確保することが難しくなった現代において、既存の従業員にどれだけ長く安定して働いてもらえるかは、あらゆる企業にとっての大きな課題です。
従業員を定着させるには、満足度やモチベーションを高めるための取り組みが不可欠であり、インセンティブ制度はその取り組みの一つとなります。
適切なインセンティブ制度を構築できれば、従業員満足度やモチベーションを効果的に高められるため、ぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。
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