派遣業界で働くうえで常に注意しておくべきことのひとつに『3年ルール』があります。派遣スタッフを管理していると「職場が気に入ったから長く働きたい」といった要望を受けることがありますが、『3年ルール』では同じ職場への派遣期間が3年に制限されているのです。

本記事では、この『3年ルール』についての解説と、派遣スタッフが同じ職場でそのまま働き続ける方法について紹介します。

『3年ルール』とは

2015年の労働者派遣法改正で、エンジニアなど専門的な業種の派遣を期間制限の対象外とする「26業務」の枠組みが撤廃され、全ての派遣労働に対して「同じ事業所で3年を超えて働くことはできない」ことが定められました。これがいわゆる『3年ルール』と呼ばれるものです。

期間制限を設けた理由は「常用代替の防止」、つまり「派遣労働は臨時的・一時的な働き方、と明確に位置付けるため」とされています。派遣会社や派遣先企業に対し期間を定めない無期雇用への転換や、正社員等として直接雇用する努力を促し、派遣スタッフの雇用の安定を図るために生まれたのが、この『3年ルール』なのです。

参考:厚生労働省『労働者派遣制度の改正に関する建議のポイント』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000040569_6.pdf

3年ルールに当てはまるのはいつから?抵触日ってなに?

2015年10月1日以降に締結した派遣契約にはすべてこの3年ルールが適用されます。3年の期間制限には事業所単位個人単位の2種類があり、それぞれの3年を超える日=抵触日は別々にカウントし、管理します。抵触日は「期間制限に抵触する日」という意味なので、抵触日当日は派遣可能期間に含まれません。たとえば起算日が4月1日なら、派遣可能期間は3年後の起算日前日3月31日まで、抵触日は3年後の4月1日となります。

仮に3年ルールに違反してしまった場合は、30万円以下の罰金や企業名の公表、直接雇用義務の発生といった罰や制裁が科されることになります。

「事業所単位」でのカウント方法

事業所単位での派遣可能期間は、最初(1人目)の派遣スタッフが働き始めた日を初日としてカウントします。途中で派遣の受け入れが途切れたとしても、途切れた期間が3ヶ月を超えなければ派遣可能期間はリセットされず、継続しているものとみなされます。(意図的に3ヶ月1日以上のクーリング期間を空けて再開するような行為は行政指導の対象となる、とされています)

同一の事業所が派遣を受け入れられる期間は最長で3年となっているので。例えば、Aさんが派遣されて1年働いたあと、Bさんが同じ事業所へ派遣されて働く場合、事業所単位の抵触日までの残り期間は2年となります。

Bさんがこれを超えて働くためには、派遣先の事業所が過半数労働組合等から意見聴取をおこない、事業所単位の期間制限を延長することが必要です。

事業所の定義・工場、事務所、店舗等、場所的に独立していること
・経営の単位として、人事・経理・指導監督・働き方などがある程度独立していること
・施設して一定期間継続するものであること

などの視点から、実態に即して判断されます。
※雇用保険の適用事業所に関する考え方と基本的には同一です。

「個人単位」でのカウント方法

派遣スタッフ個人単位でみる場合、同じ組織単位(下図参照)への派遣可能期間は最長で3年です。こちらのカウントにもクーリング期間の考え方が設けられており、同じ派遣スタッフ・同じ組織単位での派遣が途中で途切れたとしても、途切れた期間が3ヶ月を超えない場合、派遣可能期間はリセットされず継続しているものとみなされます。(意図的に3ヶ月1日以上空けて同じスタッフの派遣を再開するような行為は、法律の趣旨に反するため望ましくない、とされています)

派遣スタッフ自身がその職場を気に入った、という状況であっても、部や課などの所属を変えれば同じ会社で働き続けることは可能ですが、同じ組織単位内への派遣の継続は認められません。

所属部署が変わると業務内容はもちろん、周りの人間関係等も変わってしまいますので、別会社であっても業務内容が近い案件のほうが気持ちよく働ける可能性もあります。3年の期限を迎えたあとはどうしたいか、派遣スタッフとは余裕をもって、しっかり話し合っておくことが大切です。

組織単位の定義いわゆる「課」や「グループ」など、
・業務としての類似性、関連性があり、
・組織の長が業務配分、労務管理上の指揮監督権限を有する

 ものとして、実態に即して判断されます。

参照:厚生労働省『派遣で働く皆さまへ』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097169.pdf

3年ルールに例外はある?

例外として、3年ルールが適用されない場合もありますので紹介していきます。

60歳以上の高齢者

派遣会社が無期雇用している派遣労働者

終期が明確な有期プロジェクト

終了日が明確に決められているプロジェクトへ派遣する場合は3年ルール適用外となり、プロジェクト終了まで派遣を継続できます。

日数限定業務

「1ヶ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下 かつ10日以下であるもの」は3年ルール適用外となります。

産休や育休、介護休業中の社員の代わりとして働いている場合

休暇制度を取得している社員の代わりとして派遣されている場合も3年ルールは適用されません。

参照:厚生労働省『平成27年労働者派遣法改正法の概要』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000098917.pdf

それぞれの立場からみた3年ルール

派遣元・派遣先・派遣スタッフ、それぞれの立場から3年ルールの留意点を把握しておきましょう。

派遣元(派遣会社)の場合

派遣スタッフが3年の期限を迎えて、派遣先も派遣受け入れの継続を希望する場合、派遣会社は状況に応じて

  • 同じ派遣スタッフを同じ事業所の他の組織単位へ派遣する
  • 同じ組織単位に他のスタッフを派遣する
  • 派遣先へ、該当スタッフを直接雇用するよう働きかける
  • 派遣スタッフを無期雇用にする

等の対応を取ることになります。

派遣先とうまくやってくれている派遣スタッフには、そのまま何年でも働き続けて欲しい、と考えてしまうものですが、3年ルールではそれが許されません。(ルールに違反して派遣を続けた場合には、30万円以下の罰金が科せられます。)育成等の仕組みを整え、常に新たなスタッフを送り出せる体制づくりが必要になってくるのはもちろんですが、期限を迎えるスタッフに対する雇用安定措置の準備もしておきましょう。

<雇用安定措置の対象者>

雇用安定措置の対象者派遣元事業主の責務の内容
同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある方①〜④のいずれかの措置を講じる義務
同一の組織に継続して1年以上3年未満派遣される見込みがある方①〜④のいずれかの措置を講じる努力義務
上記以外で派遣元事業主に雇用された期間が通算1年以上の方②〜④のいずれかの措置を講じる努力義務

※2021年4月からは実際に講じた措置内容だけでなく、派遣スタッフが希望する雇用安定措置についても予め聴取し、派遣元管理台帳に記載することが義務化されています

参照:厚生労働省『キャリアアップ措置や雇用安定措置等の派遣元の責務が強化されます』https://www.mhlw.go.jp/content/000700279.pdf
参照:厚生労働省『派遣元事業主の皆さまへ』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097166.pdf

派遣先の場合

受け入れている派遣スタッフが3年の期限を迎える場合、派遣先は必要に応じて

  • 別の組織単位で同じ派遣スタッフを受け入れる
  • 同じ組織単位へ他のスタッフを受け入れる
  • その派遣スタッフを直接雇用する
  • 派遣の受け入れを終了する

等の対応を取ることになりますが、まず派遣の受け入れ自体を継続する場合は派遣可能期間の延長が必要です。事業所単位の抵触日の1ヶ月前までに、過半数労働組合等に意見を聴き、異議があれば対応方針等の説明をおこないます。

意見聴取の方法

派遣可能期間を延長しようとする事業所と期間を通知したうえで、派遣労働者数や無期雇用労働者数の推移等の参考資料も提出して意見を聴きます。聴取後は以下の内容を書面に記載して事業所の労働者に周知し、延長しようとしている派遣期間の終了後3年間保存します。

(記載内容)

  • 意見を聴いた過半数労働組合の名称または過半数代表者の氏名
  • 過半数労働組合等に書面通知した日及び通知した事項
  • 意見を聴いた日及び意見の内容
  • 意見を聴いて、延長する期間を変更したときは、その変更した期間

3年ルールに違反して派遣スタッフを受け入れてしまった場合、その派遣スタッフに対して派遣元と同じ労働条件で直接雇用の契約申込をしたとみなされる「労働契約のみなし申込制度」の対象となります。また、違反を改めるよう勧告されたにもかかわらず改善されない場合は、企業名等が公表されることもありますので注意が必要です。

参照:厚生労働省『派遣先の皆様へ』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000196406.pdf

派遣スタッフの場合

3年ルールの存在によって、無期雇用への転換の可能性や、気に入った職場に直接雇用してもらえる可能性が高まります。ただし、無期雇用や直接雇用は会社都合での解雇が難しく企業にとってもリスクを含む決断となるため、ほとんどの企業ではハードルは高く設定されています。より良い待遇を獲得できるよう、派遣会社とも相談しながら、しっかりスキルやキャリアを高めておくことが重要です。

参照:厚生労働省『派遣で働く皆さまへ』
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000097169.pdf

同じスタッフがそのまま働き続けるには?

それでは、同じスタッフに3年以上同じ職場で働いてもらうには、具体的にどういった方法があるのでしょうか?方法を3つご紹介します。

① 部署を変えてもらう

派遣先の部署を異動してもらう(組織単位を変更する)ことで、さらに3年間、同じ企業や事業所で働いてもらうことが可能になります。周辺の人間関係は多少変わってしまうかもしれませんが、派遣先の通勤環境や社内の雰囲気などをスタッフが気に入っている場合であれば、この方法で継続したい、との希望を受けることもあるでしょう。

② 派遣先に直接雇用してもらう

派遣スタッフがその職場での直接雇用を希望している場合は、直接雇用に切り替えてもらえるよう派遣先へ働きかけます。優秀な派遣人材を失う結果にはなってしまいますが、上の雇用安定措置でご紹介したように、派遣会社は直接雇用が実現するように努めなければならず、禁止や妨害をすることはできません。派遣先が要望を受け入れて直接雇用が実現すれば、スタッフはその後も同じ職場で働き続けることができます。

③ 無期雇用派遣に変更する

3年ルールは有期雇用の派遣労働にのみ適用されるため、派遣スタッフとの契約を無期雇用に変更することで、3年ルールに縛られることなく就業を継続できます。ただし無期雇用になると、その企業や事業所の派遣受け入れが終了したり、働いていない待機期間が発生した場合でも、原則、給与や休業手当等を支払う必要が出てきますので注意しましょう。

まとめ

いかかでしたか?

3年ルールの制限がある以上、スタッフが同じ職場で働き続けたいと言ってきたとしても、上でご紹介した3つの方法で対応できないようであれば、別の職場を紹介するしかありません。向上心が高く、派遣先ともうまくやれるような優秀な派遣スタッフが気持ち良く働き続けられるよう、サポート体制を整えていきましょう。

参考サイト(外部リンク)
株式会社ファーストコンテック|建設業界に特化した人材派遣

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