「時間休制度はアルバイトも対象にしたほうがよいのか」といった悩みを抱える方もいるのではないでしょうか。
時間休は有給休暇を1時間単位で取れる制度であり、柔軟な働き方の実現にもつながる一方で、導入や対象範囲の設定には注意が必要です。
本記事では、アルバイトへの時間休制度導入の条件や運用時に押さえておきたいポイントを解説します。時間休制度に関するよくある質問にも回答しているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
時間休とは?制度の趣旨と概要

時間休とは、有給休暇の一部を1時間単位で取得できる制度です。労働基準法第39法では、労働者の心身の疲労回復やゆとりある生活の実現を目的に、年次有給休暇の付与が義務付けられています。
しかし、有給取得率は長年にわたり5割を下回っており、日単位では取得しにくいケースもあります。そこで、有給をより柔軟に取得できる方法として、時間単位で取得できる「時間休制度」が導入されました。
時間休制度は、企業に義務付けられているものではなく、労使協定を締結した場合に限り運用可能です。また、時間休として取得できるのは、年間で最大5日分と定められています。
育児や介護、通院など、短時間での対応が必要な場合における柔軟な休暇取得手段として活用されています。
アルバイトも時間休の対象にできる条件

アルバイトを時間休の対象にできるかどうかは、会社が制度を導入しているか、有給が発生しているかといった点がポイントになります。以下で、それぞれ詳しく見ていきましょう。
会社が制度として時間休を導入している
アルバイトに時間休を認めるには、企業が制度を導入している必要があります。時間休の制度を導入するには、就業規則への記載と労使協定の締結が必要です。労使協定では、以下のような取り決めが求められます。
項目 | 内容 |
---|---|
対象となる労働者の範囲 | 時間休が使える対象者の範囲を決める |
時間休の付与日数 | 年5日以内の範囲で設定する |
時間休1日分の時間数 | 1日分の有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを定める(例:所定7時間30分の場合は8時間となる) |
1時間以外の時間を単位 とする場合の時間数 | 2時間単位など、1日の所定時間を上回らない範囲で整数の単位として定める |
対象となる労働者の範囲に関しては、アルバイトやパートを含めるかどうかを明記する必要があります。時間休の対象者を限定する場合は、「事業の正常な運営に支障があるとき」など、合理的な理由が必要です。
なお、育児や介護など、取得の目的によって対象から除外することは認められていません。また、時間休として取得できるのは、有給休暇の5日分のみであり、それ以上は制度上取れない仕組みです。
労使協定の締結は、過半数で組織する労働組合、または過半数代表者との合意が必要になります。なお、この労使協定は所轄の労働基準監督署への届け出は必要ありません。
参照:時間単位の年次有給休暇制度を導入しましょう!|厚生労働省
年次有給休暇が発生する条件を満たしている
アルバイトにも時間休制度を使えるようにするには、有給休暇が発生している必要があります。有給がない場合、時間休は取得できません。
雇用形態を問わず、有給休暇が発生するには、「6ヶ月以上の継続勤務」と「全労働日の8割以上の出勤」が必要です。この条件を満たした場合、週の所定労働日数に応じて有給休暇が付与されます。
パートやアルバイトなどの短時間勤務の従業員には比例付与のルールが適用され、勤務状況に応じた日数の有給休暇が付与されます。比例付与とは、以下のいずれかに該当する場合、所定労働日数や時間に応じて有給休暇を調整して付与する方式です。
- 1週間の労働が30時間未満
- 所定労働日数が4日以下
- 年間の所定労働日数が216日以下
アルバイトを時間休の対象にするか検討する際は、有給休暇が発生しているかどうかの確認が欠かせません。制度を設計するうえでも、まずは有給休暇の発生条件を正しく理解しておくことが必要です。
参照:年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています|厚生労働省
雇用形態別|時間休制度の対象範囲とポイント

時間休を誰に適用するかは、企業の制度設定と労使協定の内容により異なります。正社員だけでなく、アルバイトやパート、時短勤務者、派遣社員など、さまざまな雇用形態に対して時間休が認められる可能性があります。
以下の表は、会社が時間休制度を導入している場合を前提に、それぞれの雇用形態ごとの判断ポイントをまとめたものです。
雇用形態 | 時間休の可否 | ポイント |
---|---|---|
正社員 | 可 | 労使協定で対象に含まれているか有給休暇があるか |
アルバイト | 可 | 労使協定で対象に含まれているか有給休暇があるか |
パート | 可 | 労使協定で対象に含まれているか有給休暇があるか |
時短勤務者 | 可 | 労使協定で対象に含まれているか有給休暇があるか所定労働時間に応じて時間休の上限時間が変わるか |
派遣社員 | 可 | 派遣元で制度が導入されているか労使協定で対象に含まれているか有給休暇があるか |
時短勤務者も有給が発生しており、労使協定の対象に入っていれば時間休の対象です。なお、年間の時間休の取得上限は、時短勤務者の所定労働時間×5日で計算されます。たとえば、1日の所定労働時間が6時間であれば、年間の上限は30時間です。
派遣社員の場合は、たとえ派遣先が時間休制度を導入していても、適用されるかどうかは派遣元の就業規則や労使協定によって決まります。
基本的には、会社が時間休制度を導入しており、労使協定で対象に含まれている必要があります。加えて、有給が発生していれば雇用形態にかかわらず、時間休の取得が可能です。
アルバイトの時間休制度運用で押さえておきたい注意点

アルバイトの時間休制度を運用する場合、対象外とする際の基準や、分単位での取得が認められていない点など、いくつかの注意点があります。以下で、詳しく見ていきましょう。
対象外にする場合は合理的な理由を明確にする
アルバイトやパートを時間休制度の対象から除外するには、合理的な理由が必要です。パートタイム労働法第8条では、アルバイトやパートが正社員と同一業務かつフルタイムで勤務している場合、不合理な待遇差を認めていません。
時間休制度を導入する際、労使協定でアルバイトやパートを対象外にできます。ただし、対象外にする場合は不合理な待遇差とならないよう、業務内容や労働時間の違いなど、客観的かつ合理的な理由を明確にしておく必要があります。
トラブルを避けるためにも、制度の対象範囲と理由を就業規則などに明記し、従業員にも丁寧に説明しておくことが大切です。
参照:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律|e-GOV法令検索
有給5日取得義務の対象外になる
アルバイトやパートに時間休制度を導入する際、「年5日の有給取得義務」の対象にならない点は覚えておきましょう。年5日の有給取得の義務は労働者の心身のリフレッシュを目的に、ある程度まとまった時間の休暇取得のために設けられた制度です。
2019年の労働基準法の改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、企業側に年5日分の取得を確実に実施させる義務が生じました。アルバイトやパートであっても、条件を満たしていれば対象になります。しかし、時間休として取得した有給休暇は年5日の取得義務にはカウントされません。
そのため、制度を運用する企業は、時間休の管理に加えて、日単位または半日単位で取得状況を管理し、年5日の取得義務を確実に果たしているか確認する必要があります。
分単位では取得できない
分単位では時間休を取得できない点も押さえておきたいポイントです。労働基準法上で「時間単位年休」としては認められている最小の単位は1時間であり、それ未満の取得は制度上認められていません。
30分や15分といった分単位では使えず、アルバイトやパートを含むすべての労働者において、時間休は1時間以上の単位での取得が原則です。
なお、労使協定で1時間を超える単位での取得を定められます。制度を導入する際は、あらかじめ取得単位を労使協定内で明確にしておきましょう。
時間休に関するよくある質問
ここでは、時間休に関するよくある質問と回答をまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。
アルバイトを時間休の対象にする必要はありますか?
法律上、企業に時間休制度を導入する義務はなく、アルバイトにまで制度を適用しなければならないと明確に定められているわけではありません。しかし、原則として正社員が時間休の対象となるのであれば、アルバイトも同様に制度の適用を検討すべきです。
もし労使協定でアルバイトを時間休の対象から除外する場合でも、正社員と同等の業務に従事しているアルバイトに対しては、不合理な待遇差とならないよう、客観的かつ合理的な理由を明確にする必要があります。制度導入時は対象範囲を明確にし、従業員へ丁寧に説明できるよう準備しておくことが重要です。
時間休を5日以上使うのは違法ですか?
現状の労働基準法では、時間休の取得上限が5日と定められているため、それを超えて付与することは制度上認められていません。企業が6日以上の時間休を認めた場合、法律違反にあたる可能性があります。
時間休の取得上限が5日とされている理由は、労働者にまとまった休暇を取得させる制度本来の趣旨を踏まえ、過度な時間単位の取得を制限するためです。
ただし、2024年12月に政府の規制改革推進中間答申において、時間休の上限を「有給付与日数の50%程度」に引き上げる案が出されました。今後の制度改正により、2025年以降は時間休の上限日数が引き上げられる可能性があります。時間休制度の運用にあたって、最新の動向を確認しておきましょう。
時間休を導入していない会社もありますか?
時間休は、法的に義務化された制度ではないため、導入するかどうかは企業の判断に委ねられています。実際、導入していない企業も少なくありません。時間休を制度として運用するには、労使協定の締結と就業規則への明記が必要であり、導入には一定の準備が求められます。
特に、時間休の取得は勤怠管理や給与計算が煩雑になるといった理由から、制度の導入を見送るケースもあります。
時間休制度を導入するかどうかは、自社の体制や実務負担を踏まえて慎重に検討しましょう。
参照:年次有給休暇の時間単位取得に関する現状と課題|全国社会保険労務士会連合会
まとめ
時間休制度をアルバイトにも適用する場合は、就業規則への明記と労使協定の締結が必要です。一方で、アルバイトを時間休制度の対象外にする場合、正社員と同等の業務に従事しているケースでは、不合理な取り扱いとされる可能性があります。そのため、企業には明確な理由と基準を示すことが求められます。
本記事では、アルバイトを時間休の対象にする条件や制度運用時に注意すべきポイントを解説しました。働き方に柔軟性を持たせ、誰もが納得できる制度運用を目指しましょう。
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