2025年6月に成立した年金制度改正法では、社会保険の適用拡大や在職老齢年金の基準引き上げ、標準報酬月額の上限見直しなど、企業の労務管理に大きく影響する内容が含まれています。特に、非正規雇用者の社会保険加入の拡大は、多くの企業で採用計画や人件費の見直しが必要となる重要なポイントです。

本記事では、2026年から順次施行される年金制度改正法の主なポイントと施行スケジュールを整理し、企業が取るべき対応についてわかりやすく解説します。年金制度改正法への準備に役立つ内容をまとめているので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

【2026年施行】年金制度改正法の6つのポイント

2025年6月に成立した年金制度改正法では、社会保障制度の持続性を高めるため、複数の重要な見直しが行われます。ここでは、企業の労務管理に大きく関わる内容を中心に、2026年から順次施行される年金制度改正法の6つのポイントを見ていきましょう。

1.社会保険の加入対象の拡大

2026年から順次施行される年金制度改正法では、社会保険の加入対象が拡大されます。

従来は、従業員数50人以下の企業で働く短時間労働者は社会保険の対象外とされていました。改正後は、従業員数50人以下の企業で働く短時間労働者も2027年10月から段階的に社会保険の加入対象になります。加入対象になるのは、週の所定労働時間が20時間以上、月収8.8万円以上、勤務期間2か月超などの条件を満たす短時間労働者です。

これにより、非正規雇用者の厚生年金・健康保険加入が進み、将来の年金受給額の底上げが期待されています。

参照:社会保険の加入対象の拡大について|厚生労働省

2.在職老齢年金制度の基準引き上げ

2026年から順次施行される年金制度改正法により、在職老齢年金制度の基準が引き上げられます。

在職老齢年金制度は、年金受給者が働いて一定の収入を得た場合に年金の一部が支給停止される仕組みです。2025年6月に成立した年金制度改正法により、2026年4月から支給停止の基準が月50万円から62万円に引き上げられることになりました。

これにより、働きながら収入を得ている年金受給者の年金が減額されるケースが減り、高齢者がより安心して働ける環境が整います。また、結果として、就労意欲の向上や人手不足の緩和につながる点も期待されています。

参照:在職老齢年金制度の見直しについて|厚生労働省

3.厚生年金等の標準報酬月額の上限引上げ

厚生年金等の標準報酬月額の上限引上げも、年金制度改正法のポイントの一つです。年金制度改正法により、2027年9月から、厚生年金の保険料や給付額を算出する際に用いられる標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられます。

具体的には、月額65万円とされていた上限が、2027年9月から68万円、2028年9月から71万円、2029年9月から75万円へ段階的に引き上げられる予定です。高所得者はこれまでより保険料の負担が増えるものの、その分、現役時代の収入水準に応じた年金を受け取りやすくなります。

参照:厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて|厚生労働省

4.遺族年金の男女格差解消

2026年から順次施行される年金制度改正法により、遺族年金における男女の受給条件の差が解消される見込みです。

従来の遺族厚生年金は男女間で受給要件に差があり、男性遺族が受給できるケースは限られていました。改正後は、この男女差が解消され、一定の条件を満たす場合には男女を問わず遺族年金を受け取れるようになります。

あわせて、収入制限の撤廃や同一生計要件の見直しなどにより、子どもが遺族基礎年金をより受け取りやすくなるよう支給条件が緩和されます。

参照:遺族厚生年金の見直しについて|厚生労働省

5.基礎年金の給付水準底上げ

2026年から順次施行される年金制度改正法で検討されているのが、基礎年金の給付水準底上げです。基礎年金の給付水準の底上げが検討されている背景には、少子高齢化による現役世代の負担増を抑えつつ、低所得高齢者の生活を支える目的があります。

具体的には、一定所得以下の高齢者に対して「加算措置」や「支給調整」の見直しを行い、実質的な受給額を引き上げる方針です。ただし、国庫負担の確保や制度運営の透明性向上などの課題については、今後も引き続き検討が必要であるとされています。

参照:将来の基礎年金の給付水準の底上げについて|厚生労働省

6.私的年金制度の見直し

2026年から順次施行される年金制度改正法のポイントとして、私的年金制度の見直しも含まれています。

具体的には、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢が65歳未満から70歳未満に引き上げられる予定です。定年延長や再雇用で働き続ける高齢者が増えるなか、この引き上げにより、個人型確定拠出年金(iDeCo)を老後資金づくりの手段として利用しやすくなります。

【2026年施行】年金制度改正法の主な項目とスケジュール一覧

2026年から順次施行される年金制度改正法において、企業への影響が大きい内容は「社会保険の加入対象の拡大」「在職老齢年金制度の基準引き上げ」「厚生年金等の標準報酬月額の上限引上げ」の3つです。いずれも人件費の増加や給与体系の見直しなど、企業運営に直接関わる内容となっています。

下表では、主な改正内容と施行スケジュール、想定される影響を一覧にまとめています。年金制度改正法への対応計画を立てる際の参考にしてください。

改正内容主なポイント施行スケジュール想定される影響
社会保険の
加入対象の拡大
企業規模要件が段階的に撤廃され、従業員50人以下の企業で働く短時間労働者も加入対象へ・2027年10月〜従業員36人以上の企業
・2029年10月〜従業員21人以上の企業
・2032年10月〜従業員11人以上の企業
・2035年10月〜従業員10人以下の企業
・人件費の増加
・短時間労働者の就労条件の見直し
・採用戦略の再構築
在職老齢年金制度の
基準引き上げ
支給停止の基準が月50万円から62万円へ2026年4月〜・高齢従業員の働き方の再検討
・給与設計の見直し
厚生年金等の
標準報酬月額の
上限引上げ
標準報酬月額の上限が段階的に65万円から最大75万円へ・2027年9月〜上限68万円
・2028年9月〜上限71万円
・2029年9月〜上限75万円へ
・高所得者の保険料負担増加
・人件費の増加

企業は各改正の施行スケジュールを正しく把握し、準備不足によるトラブルを避けることが重要です。特に、社会保険の適用拡大では、パート・アルバイトの就労条件見直しや採用戦略の調整が必要になるケースがあります。また、在職老齢年金制度の見直しによる高齢社員の働き方の変化、標準報酬月額の上限引き上げによる人件費の増加など、企業が検討すべき内容は幅広いといえるでしょう。

参照:年金制度改正法が成立しました|厚生労働省

【2026年施行】年金制度改正法によって企業が取るべき対応

前述の通り、2026年から順次施行される年金制度改正法は、従業員の働き方や企業の採用戦略に直接影響を与えます。ここでは、企業が制度改正に対応するための具体的なポイントを解説するので、ぜひ参考にしていただけますと幸いです。

社会保険適用拡大に伴う採用戦略の再構築

社会保険の適用拡大により非正規雇用者も加入対象となるため、企業は採用戦略の見直しが必要になります。新たに保険料の負担が発生すると、その分の人件費が増加し、既存の人員配置やシフト体制のままでは経営負担が大きくなる可能性があります。

そのため、保険加入によるコストの増加をシミュレーションしたうえで勤務シフトを再検討したり、短時間労働者の勤務時間を最適化したりするなどの対応が必要です。また、業務委託の活用やシニア人材の登用など、企業規模に応じた柔軟な雇用モデルを取り入れることも有効です。

社会保険の適用拡大に対応するため、企業は自社の状況に合わせて採用戦略を見直しましょう。

在職老齢年金対象者の就労条件見直し

在職老齢年金の支給停止基準の引き上げに伴い、企業は高齢従業員の就労条件を見直す必要があります。年金受給額と給与のバランスが変わることで、高齢従業員の働く意欲や希望する働き方にも変化が生じる可能性があるためです。

企業としては、こうした変化に合わせて柔軟に対応できる体制を整えておくことが大切です。まずは、対象社員の給与や勤務日数をもとに年金受給額への影響をシミュレーションしましょう。そのうえで個別面談を実施し、従業員にわかりやすく説明することで、就労意欲を維持しながら勤務条件を調整しやすくなります。

制度改正に応じた丁寧な対応とコミュニケーションが、高齢従業員の安定した就労と企業運営の両立につながります。

労務管理体制のアップデート

制度改正に対応するためには、労務管理体制をアップデートすることが不可欠です。2026年から順次施行される年金制度改正法により、社会保険の加入基準や年金支給の判定ルールが変更されるため、現行の業務体制では誤った手続きや計算ミスなどが発生するリスクがあります。

制度改正にスムーズに対応できるよう、企業は人事・総務・経理などの関連部署で改正内容を共有し、運用ルールを最新の状態にしておくことが大切です。特に、人事・給与・勤怠・社会保険関連のシステムを利用している場合は、ベンダーに法改正への対応状況を確認し、必要に応じてシステムのアップデートを依頼する必要があります。

法令遵守と労務トラブル防止のためにも、制度改正にあわせて労務管理体制のアップデートを図りましょう。

まとめ

2025年6月に成立した年金制度改正法には、社会保険の適用拡大や在職老齢年金の基準見直しなど、企業の労務管理に大きな影響を与える内容が含まれています。特に、非正規雇用者の社会保険加入や高齢従業員の働き方に関しては、早めの対応が欠かせません。制度改正の内容を正しく理解し、採用戦略の見直しを進めることで、企業は無理のない運営と従業員の働きやすさを両立できるようになります。

本記事では、2026年から順次施行される年金制度改正法のポイントや施行スケジュール、企業への影響を解説しました。本記事で紹介した内容を踏まえ、自社に必要な準備を計画的に進めていきましょう。

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