「103万円の壁」という言葉を聞いたことがあるものの、具体的な意味や企業の対応にどう関わるのかについて、把握できていないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこでこの記事では103万円の壁について、概要や超えた場合に生じる影響を踏まえながら、関連する企業対応についてご紹介します。

106万円の壁や130万円の壁など、その他の年収の壁についても併せてご紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。

103万円の壁とは

まずは103万円の壁の概要や対象となる収入などについて確認しましょう。

103万円の壁の概要

103万円の壁とは税金に関する年収の壁の一つであり、所得税の支払いが発生する年収額を指します。

所得税が発生する基準が103万円となっているのは、確定申告や年末調整で収入から控除できる給与所得控除(55万円)と、基礎控除(48万円)の合計金額であるためです。

103万円まではこの二つの控除を年収から差し引くと所得が0円以下となり、所得税が発生しない仕組みになっています。

103万円の壁の対象となる収入 

103万円の壁の対象となるのは、1月から12月までの収入の総額です。賞与は含みますが、非課税となる通勤手当は含まれません。

給与収入が仮に103万円未満であっても、家賃収入や配当といった収入がある場合、対象年収にカウントされるため、合算した場合に103万円を超える可能性があります。

103万円の壁を超えた場合に生じる影響

103万円を超えた場合に生じる影響としては、以下の3つの観点があります。

本人への影響 所得税の課税対象となり、所得に所得税率を掛けた金額を収める必要が生じる。また住民税の対象となる。
配偶者への影響 配偶者の税法上の扶養から外れることになり、配偶者側で配偶者控除が適用できなくなる。 ただし103万円を超えても、150万円までは配偶者特別控除の満額(配偶者控除と同額の38万円)が適用できるため、実質の税負担額は変わらない。
親への影響 親の扶養内で働いていた労働者が103万円を超えた場合、扶養控除が適用できなくなるため、親の税負担が増加する。

参考:No.1191 配偶者控除|国税庁

参考:No.1195 配偶者特別控除|国税庁

【補足】103万円の壁を超えたらいくら払う?

103万円の壁を超えた場合、一定の税率に従って所得税を支払わなければなりません。

例えば課税所得が100円〜1,949,000円までは税率5%となるため、収入が105万円となった場合、所得税は以下のように計算できるでしょう。

所得税:(105万円―控除額103万円)×5%=1,000円

なお住民税は給与所得が約100万円を超えると支払い義務が生じますが、給与所得控除55万円と基礎控除43万円を併せて98万円を控除できます。

そのため105万円の場合は課税所得が7万円(105万円―98万円)となり、そこに住民税率10%(所得割)をかけた7,000円に加え、均等割(森林環境税含む)の5,000円を住民税として納めなければなりません。

つまり年収105万円の場合はトータルで13,000円(所得税1,000円+住民税12,000円)ほどの税負担が生じます。

※住民税の対象となる金額、また住民税均等割額については自治体によって異なるケースがあります。

103万円の壁以外の年収の壁について

ここからは103万円の壁以外に設けられている年収の壁についてご紹介します。

年収の壁の種類

年収の壁にはそもそも年収が影響する対象別に、以下の3つの種類が設けられています。

  • 税金に関する壁:税金の支払いに関係する年収の壁
  • 社会保険に関する壁:社会保険への加入義務が生じる年収の壁
  • 配偶者手当に関する壁:配偶者の収入が変動する年収の壁

それぞれ見ていきましょう。

税金に関する年収の壁

税金に関する年収の壁は、税金の支払いや控除などに影響する年収の壁です。

本記事のテーマである103万円の壁以外に、以下の壁が設けられています。

100万円の壁住民税の支払い義務が生じる年収。ただし自治体によって非課税となる基準が異なるため、100万円以下でも対象となるケースがある。
150万円の壁配偶者特別控除における満額38万円が適用できる上限額。ここを超えると配偶者特別控除の金額が減少していく。
201万円の壁配偶者特別控除が適用できなくなる年収額。

参考:No.1195 配偶者特別控除|国税庁

社会保険に関する年収の壁

社会保険に関する年収の壁は、社会保険への加入義務が生じる年収額を指します。具体的には以下の2つの壁が設けられています。

106万円の壁被保険者の総数が常時51人以上の企業に勤めている場合に、社会保険の加入対象となる年収額。ただし以下の要件も同時に満たした場合に限る。
・1週間の所定労働時間20時間以上
・2か月を超えて使用される見込みがある
・学生ではない1
130万円の壁106万円の壁の対象企業以外に勤めている場合に、社会保険の加入対象となる年収額。

配偶者手当に関する年収の壁

配偶者手当に関する年収の壁とは、配偶者手当の支給要件に関わる年収額を指します。

税金面での扶養が外れる103万円の壁、および社会保険における扶養が外れる130万円の壁が対象となります。

配偶者手当や家族手当などの支給条件に扶養の有無を設けている企業が多いため、これらの年収の壁を超えた場合は扶養が外れ、手当の支給対象外として扱われることになるでしょう。

年収の壁に関するポイント

次に年収の壁について、パートやアルバイト労働者はもちろん、企業担当者として理解しておくべきポイントをご紹介します。

ポイント①:基本的な損益分岐点は130万円の壁

パートやアルバイトとして働く場合、103万円の壁を超えたとしても配偶者特別控除があるため、税金面での負担はそこまで大きく変わりません。

その点、130万円の壁を超えると配偶者の社会保険の扶養から外れ、社会保険料の負担が生じる上、手当などの対象外となることも多くなります。

そのため年収額によっては手取り額が逆転する可能性があります。

パートやアルバイトとして働く場合、103万円の壁よりも130万円の壁を意識すべきと言えるでしょう。

ポイント②:社会保険適用範囲の拡大に注意

2024年10月以降は社会保険の適用範囲が拡大されたため、場合によっては106万円が損益分岐点となる可能性があります。

先述した106万円の壁の解説でも触れたように、被保険者従業員が51名を超える事業所で働く場合は、社会保険の加入要件が130万円から106万円に変わるためです。

そのため企業によっては、106万円の壁を超えてしまうと、世帯収入に大きく影響を及ぼす可能性がある点は注意すべきでしょう。

参考:社会保険適用拡大 特設サイト|厚生労働省

103万円の壁は撤廃?今後の引き上げ予定は?

国民民主党の玉木代表は103万円の壁を178万円まで引き上げる政策を主張しており、2024年11月20日時点で自民党と公明党、国民民主党の3党は引き上げの方向で合意しています。

103万円の壁が178万円まで引き上げられることで、手取り収入が増えることは勿論、税負担を理由とした働き控えを抑制でき、人材不足の解消も実現できることが期待できます。

ただし178万円に引き上げた場合は大きな税収減に繋がるため、財源を含めた具体的な金額感については今後の協議次第になるでしょう。

103万円の壁に関して企業が対応すべき事項

最後に、103万円の壁に関して、アルバイトやパートの労務管理などに関連して対応すべき事項を押さえておきましょう。

対応①:103万円を超えても損にならないことを説明

103万円の壁について気にしている従業員に対して、103万円を超えたとしても損にならないことを説明すると良いでしょう。

103万円の壁を超えても、先ほど説明したように本人の税負担も年間1〜2万円程度とそこまで大きな負担ではありません。

また税法上の扶養から外れ、配偶者控除が適用できなくなっても、新たに配偶者特別控除が受けられるため配偶者側の税負担も変わりません。

そのため本人年収の増加に併せて、世帯全体の収入としては増えることが見込まれます。

企業としてはパートやアルバイト従業員に対しては、むしろ社会保険加入対象となる130万円や106万円の壁を意識した方が良い旨を説明すべきでしょう。

対応②:適切な勤怠管理を行う

103万円を超えないように適切な勤怠管理を行うことも求められます。

103万円の壁が損にならないことを説明しても、103万円以内での就業を希望するアルバイト・パート従業員が一定以上いることは予想されます。

そのためそういった従業員に対しては適切な勤怠管理に取り組み、103万円を超えないように、現在の給与総額や、あとどれくらい働いてもらえるのかを把握しなければなりません。

もし適切に勤怠を管理できておらず、知らずに103万円を超える収入になってしまえば、労働者とのトラブルに繋がる恐れがあるため注意しましょう。

対応③:103万円を超えた場合は年末調整が必要

103万円を超えた従業員は年末調整が必要になります。103万円以下の場合は所得税の課税対象にはならないため、源泉徴収や年末調整は不要です。

しかし103万円を超えた場合は、アルバイトやパートであっても所得税の課税対象となるため、正社員と同じく年末調整をしなければなりません。

ただし対象者が年末時点で自社に在籍がない場合や、対象者が仕事を掛け持ちしており、他社で年末調整を受ける場合は自社での年末調整は不要です。

まとめ

103万円の壁は所得税負担が生じる年収額であるため、この金額を基準に働き控えをするパートやアルバイト労働者も多く見られます。

しかし実際、家計収入に対する影響が大きいのは、社会保険が絡んでくる「106万円の壁」と「130万円の壁」です。

そのため企業としても103万円の壁はそこまで大きな影響がないことを、従業員にしっかりと説明しながらも、103万円以内の就業を望む従業員については適切な勤怠管理に取り組まなければなりません。

ぜひこの記事を参考に103万円の壁を含めた年収の壁を理解し、適切なアルバイト・パートの雇用管理を実現してください。

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