労働者派遣における就業条件明示書について、「労働条件通知書との違いや何を記載すべきかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では就業条件明示書の概要や労働条件通知書との違いを踏まえつつ、記載事項や作成時のポイントを解説します。
最後に派遣労働者に交付する際のポイントもご紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。
派遣における就業条件明示書とは
まずは就業条件明示書の概要や類似する書類との違いについてご紹介します。
就業条件明示書の概要
就業条件明示書は、派遣元企業が派遣労働者の雇用時に交付する書類であり、業務内容や就業場所、就業時間や苦情申出先などが記載されています。
労働者派遣法第31条の2によって、派遣時の待遇説明が義務付けられているため、派遣元企業が派遣労働者を雇用する際は必ず交付しなければなりません。
就業条件明示書の保管期間
就業条件明示書は、労働条件通知書などと同じく労働に関する重要書類として扱われるため、労働基準法109条の規定に基づき、5年間の保管が義務付けられています。
仮に就業条件明示書の保管を怠った場合は、同法120条の規定により30万円以下の罰金に処されるため注意しましょう。
労働条件通知書との違い
就業条件明示書と混同しやすい書類として、労働条件通知書があります。
労働条件通知書は労働基準法第15条に基づき、雇用主が労働者を雇用する際に交付することが義務付けられている書類です。記載すべき事項としては以下の点が挙げられます。
- 労働契約期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業場所および従事すべき業務に関する事項
- 始業および終業時刻、所定労働時間、休憩時間などの事項
- 賃金の決定、計算や支払い方法、昇給などに関する事項
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲や退職手当の決定などに関する事項
- 臨時に支払われる賃金や賞与、最低賃金額などに関する事項
- 労働者に負担させるべき食費や作業用品などに関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の疾病扶助に関する事項
- 表彰および制裁に関する事項
- 休職に関する事項
雇用契約書との違い
雇用契約書は、労使間において雇用契約の内容について合意することを目的として取り交わす書類です。
就業条件明示書や労働条件通知書と異なり、交付が義務付けられているわけではないため、取り交わさないケースもあります。
ただし契約書として双方合意の上で取り交わしておくことで、就業後のトラブルを防止できるため、基本的には準備することが多くなるでしょう。
就業条件明示書に記載すべき事項
就業条件明示書に記載すべき事項は労働条件通知書と共通しているものもありますが、労働者派遣ならではの項目も当然設けられています。
ここでは厚生労働省が発行している記入例を基に記載事項を確認します。
業務内容 | 派遣労働者が実際に従事する業務について記載 |
---|---|
業務に伴う責任の程度 | 業務遂行にあたって付与される役職や権限を記載 |
派遣先事業所の名称及び所在地 | 派遣先企業の正式名称や住所、連絡先を記載 |
就業場所 | 派遣労働者が実際に就業する部署や住所、連絡先を記載 |
組織単位 | 期間制限の対象となる組織単位を記載。多くの場合、最小単位よりも大きな組織単位(係ではなく課など)を想定 |
指揮命令者 | 派遣労働者に指揮命令を行う者の所属部署や役職、氏名を記載 |
派遣期間 | 実際の派遣期間、派遣先企業の事業所及び組織単位における期間制限に抵触する最初の日を記載する |
就業日 | 就業する曜日に加え、休暇期間なども記載 |
休憩時間 | 休憩時間を記載 |
安全及び衛生 | 派遣先企業や派遣元企業に課される安全衛生に関する規定を適用する旨を記載 |
派遣労働者の苦情の処理 | 派遣元・派遣先双方の苦情申出先担当者と苦情の処理方法などを記載 |
契約解除に当たって講ずるべき雇用安定措置 | 派遣元企業が派遣労働者の責に帰すべき事由以外で労働者派遣契約を解除する場合は、派遣先企業と連携し、新たな就業先の斡旋を行うことなどを記載 |
派遣元責任者 | 派遣元企業における責任者の所属部署や役職、連絡先を記載 |
派遣先責任者 | 派遣先企業における責任者の所属部署や役職、連絡先を記載 |
就業日外労働 | 休日出勤がある場合、月の休日労働日数を明示 ただし派遣元企業で定めている36協定の範囲内で明示する必要がある |
時間外労働 | 派遣先企業において残業がある場合、一日、一か月、年間分それぞれの残業時間数を明示 ただし派遣元企業で定めている36協定の範囲内で明示する必要がある。 |
派遣労働者の福祉増進のための便宜供与 | 派遣先企業が派遣労働者に対して、レクリエーション施設などを提供する旨を記載 ただし労働者派遣法40条第3項で規定されている給食施設、休憩室、更衣室以外についての記載が求められる |
労働者派遣に関する料金 | 労働者に対して支払う派遣料金額(割増金額など含め)を記載 |
協定対象派遣労働者であるか否か | 対象者の場合は当該協定の有効期間の終了日も明記 |
派遣先が派遣労働者を雇用する場合の紛争防止措置 | 派遣先企業が派遣労働者を派遣期間終了後に雇用する場合は、派遣元企業への通知や紹介手数料を支払うことなどを記載 |
紹介予定派遣に関する事項 | 紹介予定派遣契約の場合、派遣先企業の直接雇用に切り替わった際の労働条件などを明記 |
雇用・社会保険の被保険者資格取得届の提出無の理由 | 社会保険の資格取得届の提出が無しである場合、その理由を記載 |
就業条件明示書を作成する際のポイント
続いて就業条件明示書を作成する際に押さえておくべきポイントを解説します。
ポイント①:労働条件通知書を兼ねて作成する
就業条件明示書を作成する際は、労働条件通知書を兼ねて作成することで資料作成工数を軽減できるでしょう。
派遣労働者を雇用する場合、労働条件通知書に加えて就業条件明示書も必須となるため、正社員を雇用する場合よりも必要な書類が多くなります。
しかし先述のとおり、双方の書類は共通する記載事項もあるため、双方の項目を盛り込んだ「労働条件通知書(兼)就業条件明示書」として作成する方が効率的です。
労働条件通知の追加事項について【2024年4月~】
就業条件明示書で労働条件通知書を兼ねる場合は、2024年4月以降新たに記載事項として追加された項目についても網羅して作成しなければなりません。
具体的には以下の4点を記載事項に追加する必要があります。
1.就業場所・業務の変更の範囲の明示 | 労働契約の締結時と有期労働契約の更新のタイミングごとに明示が必要 |
---|---|
2.更新上限の明示 | 有期労働契約を締結・更新するタイミングごとに、通算契約期間や更新回数の上限の有無と内容の明示が必要 |
3.無期転換申込機会の明示 | 無期転換申込権が発生する更新タイミングごとに、申し込みができる旨の明示が必要 |
4.無期転換後の労働条件の明示 | 無期転換申込権が発生する更新タイミングごとに、無期転換後の労働条件の明示が必要 |
参考:2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました|厚生労働省
ポイント②:二部用意して雇用契約書も兼ねる
労働条件通知書(兼)就業条件明示書を作成する際は、自社保管用と派遣労働者に交付する用の二部用意し、雇用契約書も兼ねられるようにすると良いでしょう。
労働条件通知書(兼)就業条件明示書について、一部だけを用意・交付した場合、後々派遣労働者との間で、「そのような条件は聞いていない」などのトラブルが起こりかねません。
そのため二部用意し、双方が記名捺印を行った上で取り交わせるようにしておくことが望ましいと言えます。
就業条件明示書を交付する方法
最後に就業条件明示書を交付する方法やタイミングなどをご紹介します。
就業条件明示書は原則書面で交付する
就業条件明示書は原則書面で交付する必要があります。
先述のとおり、就業条件明示書は労働条件通知書も兼ねるケースが大半であるため、労働基準法15条の規定に則り、基本的には書面での交付が求められます。
電子化する場合は労働者の合意が必要
就業条件明示書は当該派遣労働者の合意・希望が得られた場合は、PDFデータやメール、FAXやLINEといった手法によって交付することが認められます。
あくまで派遣労働者側の希望や合意があって、はじめて取り得る交付方法であるため、企業側の独断で電子化できません。
もし事前の承諾なく電子化するなど、正しい方法で交付しない場合は、労働基準法第120条の規定によって30万円以下の罰金に処されます。
交付するタイミングについて
労働条件通知書(兼)就業条件明示書は、労働契約を締結する日に交付することが求められます。基本的には内定日や入社日に締結されることが多くなるでしょう。
トラブルを防ぐには内容の説明を行うことが望ましい
労働条件通知書(兼)就業条件明示書を交付する際は、後々のトラブルを防ぐためにも、派遣労働者に対してしっかりと内容説明を行うことが望ましいと言えます。
単に作成した就業条件明示書を交付するだけでは、内容について合意が得られていない可能性があり、「そのような話は聞いていなかった」などのトラブルに発展するリスクが生じるでしょう。
そのため、あらかじめ内容について対面で説明する場を設け、派遣労働者が抱いている疑問点などを解消した上で就業に臨んでもらうことが重要になります。
まとめ
派遣労働者を雇用する場合は、正社員などを採用する場合とは異なり、労働条件通知書に加え就業条件明示書も必要です。
双方の書類は共通する項目も多いため、大抵は労働条件通知書(兼)就業条件明示書として交付することになりますが、当然共通しない項目もあります。
そのため双方の必要な項目が漏れないように注意しながら、適切に作成することが求められるでしょう。
ぜひ本記事を参考に、就業条件明示書の作成や交付に取り組んでいただければ幸いです。
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