2020年(令和2年)6月に施行された「パワハラ防止法」により、職場でのパワハラ対策が義務付けられました。中小企業には2022年(令和4年)3月末まで猶予期間が設けられているため現在は「努力義務」となっていますが、来年4月には猶予期間が終了し、いよいよ本格的な対策が求められるようになります。
今回は中小企業向けに、パワハラに該当する行為や、パワハラ防止法によって義務化された対策措置の内容などについて解説します。
「職場におけるパワハラ」の定義
まず、職場におけるパワハラとはどういうものか、を確認しておきましょう。「人によって解釈が違うのでは?」と思われがちですが、実は厚生労働省の資料にはその定義が記載されており、以下の3つの条件すべてを満たした言動がパワハラとみなされます。ただし、客観的にみて業務上で必要な指示や指導である場合はパワハラには該当しません。
職場におけるパワーハラスメントは、職場において⾏われる
引用元:【厚生労働省】職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕
① 優越的な関係を背景とした⾔動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で⾏われる適正な業務指⽰や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
「職場」は労働者が業務を行う場所を指し、通常就業している場所以外でも、労働者が業務を行う場所であれば「職場」に含まれます。例えば、出張先や業務中に使用する車の中、取引先との打ち合わせや接待の場所も「職場」だと考えられます。
「労働者」は、正規雇用の労働者だけでなく、アルバイト・パートや契約社員などといった非正規雇用の労働者も含まれ、事業主が雇用するすべての労働者を指します。派遣社員については、派遣元事業主と派遣先事業主の両社とも、パワハラ対策が必要となります。
「就業環境が害される」とは、肉体的または精神的な苦痛により就業環境が不快なものとなり、労働者が能力を発揮できず就業に支障が生じることを指し、「平均的な労働者」が一般的に不快と感じ、支障が生じると感じるかどうかを基準に考えます。基本的に頻度や継続性が考慮されますが、強い苦痛を与える言動の場合は1回でも就業環境を害する場合があり得ます。
「職場におけるパワハラ」6つの類型(タイプ)
⑴ 身体的な攻撃
暴力や傷害にあたる殴る蹴る・相手に物を投げつけるといった行為は、パワハラに該当すると考えられます。
もちろん、誤ってぶつかってしまう、ということも考えられますので、状況をみながら判断することにはなります。
⑵ 精神的な攻撃
性的指向や性自認を含め、労働者の属性に関する侮辱的な言動、相手の人格を否定するような言動や、他の人も見聞きできる状況・メールで能力の否定や罵倒をするような行為は、パワハラに該当すると考えられます。
ただし、繰り返される遅刻や業務上での重大な問題行為に対して、強く注意することはパワハラに該当しないと考えられます。
⑶ 人間関係からの切り離し
業務から外し長期間別室で隔離したり、自宅での研修を強要したり、集団で無視することで職場から孤立させるような行為は、パワハラに該当すると考えられます。
新しく採用した労働者に短期間別室で研修などを受けさせたり、何かしらの処分を受けた労働者が業務復帰のために一時的に別室で研修を受けることは、該当しないと考えられます。
⑷ 過大な要求
過酷な環境で勤務に直接関係のない作業を長期間にわたって強制したり、明らかに成し遂げることが不可能なことを命じたりして、仕事の妨害をする行為はパワハラに該当すると考えられます。
労働者の育成のために、現状与えている業務よりも少しレベルの高い業務を任せることは、パワハラに該当しないと考えられます。
⑸ 過小な要求
(4)とは逆に、合理性なく相手の能力や経験よりも明らかに程度の低い業務を強制したり、仕事を与えないことも、パワハラに該当すると考えられます。例えば、退職勧奨中の管理職労働者に誰にでもできるような作業を命じる、嫌がらせのために仕事を与えない、などの行為はパワハラと見なされます。
相手の能力に配慮した上で、業務内容や業務量を軽減することは、パワハラには該当しないと考えられています。
⑹ 個の侵害
労働者を職場外でも必要以上に監視したり、機微な個人情報を本人の了解なしに暴露するなど、私的なことに過度に立ち入る行為はパワハラに該当すると考えられます。
ただし、相手への配慮を目的として家族の状況などをヒアリングしたり、本人了解の上で必要な情報を人事労務担当に伝えることは、パワハラに該当しないと考えられます。
義務化される措置の内容
2022年(令和4年)4月以降は中小企業においても、ハラスメントを防止するために以下のような措置を講じる義務が発生します。
(1) 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
パワハラに該当する行為や、パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、パワハラを行った者へは厳正に対処する旨の方針や対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発する必要があります。
(2) 相談(苦情)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
あらかじめ相談窓口を定めて(ない場合は新たに設置して)労働者に周知します。相談窓口の担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるよう、研修の実施や、人事部門と連携できるような仕組みを整えましょう。企業内のリソースで難しい場合には、相談窓口業務を外部に委託することもできます。
自社の労働者が気軽に相談できるような環境・仕組み作りが必要です。
(3) 事後の迅速かつ適切な対応
パワハラが発生した場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者に対する配慮の措置と、行為者に対する措置を速やかに適正に行います。また同じ事案が発生することのないよう、再発防止に向けた措置を講じる必要があります。
(4) そのほか併せて講ずべき措置
相談者・行為者などのプライバシー(性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含む)を保護するために必要な措置を講じ、周知・啓発する必要があります。
また労働者が安心して相談や協力ができるよう、相談したこと・事実確認に協力したことなどを理由とした不利益な取扱いを禁止し、その旨を労働者に周知・啓発しましょう。
参考:【厚生労働省】2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!
パワハラ対策を怠った際の罰則
現状、パワハラ防止法には、罰則規定がなく違反しても罰則が科されることはありません。
ただし、厚生労働大臣が必要だと認めた場合は指導や勧告の対象となり、これに従わない場合には企業名が公表されることもあります。
まとめ
いかがでしたか?今回は、職場でのパワハラに該当する行動や、パワハラ防止のために求められる措置について説明しました。
防止対策の義務化まであと1年の猶予があるため、「まだまだ先の話…」と思っていたりしませんか?一度損なわれた企業イメージを取り戻すには長い時間がかかりますので、何かあってからの対応では手遅れになってしまいます。リスク回避のためにも後回しにせず、早いうちに準備を進めておきましょう。