2026年4月1日から、女性活躍推進法の改正により「男女間賃金差異」の公表義務が拡大される見込みです。従業員数101人以上の企業が対象となるため、多くの派遣会社も新たに対応が必要になるでしょう。

男女の賃金差が職務内容やスキル差に基づくものであっても、公表後に説明が不十分だと不公平感や離職につながる可能性があります。

本記事では、法改正のポイントと派遣会社が押さえておきたい実務対応をわかりやすく解説します。賃金制度の設計方法もまとめているので、今後の準備に役立てていただけますと幸いです。

女性活躍推進法とは?改正ポイントと派遣会社への影響

女性活躍推進法とは、企業における女性の活躍を後押しするための法律です。ここでは、改正ポイントとあわせて派遣会社にどのような影響があるのか、詳しく見ていきましょう。

女性活躍推進法の目的と概要

女性活躍推進法は、企業における女性の能力発揮を後押しするために制定された法律です。この法律は、女性が職業生活の中で十分に活躍できる社会を実現することを目的としています。

女性活躍推進法は2016年4月に制定され、企業には女性活躍に関する状況把握や課題分析したうえで改善に向けた行動計画を策定・公表することが求められています。また、女性の活躍に関する情報公表も企業の重要な責務です。

さらに、2022年4月の法改正により、従業員301人以上の企業に加え、101~300人の中小企業も「課題分析」「行動計画の策定」「公表」が義務化されました。この法改正によって、より幅広い企業が女性活躍の推進に取り組むことが求められています。

2026年度施行の改正ポイント

女性活躍推進法の改正ポイントは、2026年4月1日から従業員数101人以上の企業に対して、「男女間の賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務化される点です。あわせて、女性活躍推進法の有効期限が当初の2026年3月31日から2036年3月31日まで延長され、長期的な取り組みが求められるようになりました。

これにより、派遣会社によってはあらためて自社における男女間の賃金差異について数値を整理し、その差が生じる理由を合理的に説明できる体制が求められるようになります。女性活躍推進法の情報公表には複数の選択項目がありますが、派遣会社にとっては特に「男女間の賃金差異」への対応が重要になります。

参照:【改正】労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、女性活躍推進法~特設ページ~|厚生労働省

女性活躍推進法の改正で派遣会社が注意すべき点

女性活躍推進法の改正により、派遣会社は男女間の賃金差が生じやすい点や、公表後に不公平感から不満や離職につながる可能性に注意しましょう。以下で、それぞれ詳しく解説します。

男女間の賃金差が生じる場合がある

女性活躍推進法の改正により、派遣会社は男女間の賃金差が生じる場合の理由を事前に整理し、合理的に説明できる体制を整える必要があります。

派遣社員の賃金は、同じ就業先であっても従事する職務内容や求められるスキルによって異なる場合があります。希望する職種が男女比に差が出る業界では、この違いがそのまま賃金差につながるケースもあるでしょう。

たとえば、厚生労働省の「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」によると、高度なITスキルを求められる「情報処理・通信技術者」の派遣労働者平均賃金(日額)は、20,430円です。一方で、「一般事務職」の派遣労働者平均賃金は、11,893円であり、約8,500円の差が生じています。

IT系職種は男性比率が高いことから、結果的に「希望職種」や「従事業務」の違いによって男女間の賃金差が生じるケースが見られます。

男女間の賃金差がある場合でも、職務内容やスキルの違いに基づく合理的な理由を説明することで、理解や納得を得られるでしょう。派遣会社としては賃金差の理由を事前に準備し、根拠を明確にしておくことが重要です。

参照:令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)|厚生労働省

賃金差の公表が不満や離職につながる可能性がある

男女間の賃金差を公表すると、派遣社員が不公平感を抱き、モチベーション低下や離職につながる可能性があります。賃金差の理由が仕事内容やスキルの違いであっても、説明が不十分だと「男女差別ではないか」といった誤解を招きやすくなるためです。

特に女性社員の比率が高い職種では、男女の賃金差に納得できないことが離職のきっかけになる場合もあります。派遣会社は、賃金差が生じている背景を事前に整理し、派遣社員に説明できる体制を整えておきましょう。

女性活躍推進法改正に対応するための賃金制度の設計方法

女性活躍推進法の改正により、派遣会社としては、男女間の賃金差が生じる場合にも説明できる賃金制度の整備が不可欠です。ここでは、評価項目の整理や等級制度の設計方法などを解説します。

賃金差異を説明するための評価項目を整理する

男女間の賃金差異を説明するためには、派遣社員の職務内容やスキルなどを評価する項目を事前に整理しておくことが重要です。

同じ派遣先で働いていても、担当する業務や求められるスキルの違いにより、賃金が異なるケースがあります。評価項目があいまいなままだと、賃金差異の理由を説明しにくく、納得してもらうことが難しくなります。

たとえば、以下のような評価項目を設定しておくとよいでしょう。

  • 勤務態度
  • 職務の複雑性
  • 必要なスキル(Excelや語学力など)
  • 成果
  • 対応範囲(顧客対応の有無など)

これらの項目を明確にしておけば、「職務内容の違い」「求められるスキルの差」といった合理的な理由として説明できます。賃金差異の理解を得るためには、派遣会社としての評価項目を明確にしたうえで誰にでも説明できる状態にしておくことが欠かせません。

業務内容やスキル別に等級を設定する

男女間の賃金差異を公平に説明するためには、業務内容やスキルに応じて段階的な等級を設定しておくことが重要です。派遣先での仕事内容や求められるスキルのレベルに応じて段階的な等級を設定することで、派遣社員ごとに異なる賃金水準を説明しやすくなります。

たとえば、職務やスキルのレベルに応じて等級を分け、それに基づく賃金テーブルを用意します。さらに、評価制度と連動させて「評価→等級→賃金決定」といった流れが明確になると、賃金差異にも正当性を持たせやすくなるでしょう。

等級制度を整えると、派遣社員ごとに異なる賃金水準を合理的に説明できるようになり、理解を得られやすい体制をつくれます。

評価を等級と賃金に反映する運用フローを整える

男女間の賃金差異を明確に説明するためには、評価結果を等級や賃金に反映させる運用フローの整備が欠かせません。評価の結果が賃金にどう反映されるのか不明確だと、「なぜ賃金が変わったのか」「どうして給料は上がらないのか」といった疑問が生まれ、派遣社員の納得感を得にくくなるためです。

たとえば、年に1回以上の評価を実施し、基準を満たした場合に昇給や等級アップを行う仕組みを導入します。また、評価項目を点数化し、一定以上の評価を得た場合に昇格できるようにすることで、「評価→等級→賃金決定」といった仕組みが明確になります。

評価を反映する運用ルールが整理されていれば、賃金差異が生じている場合でも理由を説明しやすくなり、派遣社員の納得感につながるでしょう。

参照:派遣労働者の待遇改善に向けた対応マニュアル|厚生労働省

賃金差異を派遣社員へ説明するときのポイント

賃金差異を派遣社員に説明するときには、賃金がどのように決まるのか、昇給の判断基準などを明確に伝えることが大切です。以下で、ポイントを詳しく見ていきましょう。

賃金が決まる仕組みを可視化して伝える

派遣社員に対して、自身の賃金がどのような基準や評価項目によって決定されているか、見えるかたちで提示することが重要です。賃金の決め方が不透明のままだと、評価との関連性が見えにくく、不公平感につながりやすくなります。

賃金決定の要素を「職務内容」「スキルレベル」「成果」などに分類し、派遣社員本人にもわかるようにどの項目がどのように評価されるのかを説明しましょう。等級制度や評価シートの有無にかかわらず、「評価→賃金」のつながりを具体例と一緒に示しておくと理解が得やすくなります。

また、賃金差異について問い合わせがあった場合にも、共通ルールに基づいて説明できる仕組みを整えておくことが大切です。

賃金見直しや昇給ルールも事前に伝えておく

賃金差異への不安を和らげるためにも、派遣社員に対して「どのような条件を満たすと賃金が見直されるのか」を事前に伝えておきましょう。将来の昇給や等級アップの可能性が不透明なままだと、「自分はずっとこの賃金のままなのか」といった不安が強まり、賃金差異をよりネガティブに捉えやすくなるためです。

年1回の評価制度や一定基準を満たした場合の昇給、担当業務が変わったときの等級アップなど、賃金が見直される仕組みを明文化して周知しましょう。特に男女間の賃金差異に関しては、「賃金見直しの余地があること」も含めて説明することで、将来への安心感につながります。

まとめ

2026年4月1日の女性活躍推進法の改正により、従業員数が101人以上の企業には「男女間の賃金差異」と「女性管理職比率」の公表が義務化されます。派遣会社では、男女間の賃金差異が生じる合理的な理由を整理し、評価や賃金設定の仕組みを適切に整えることが重要です。

本記事では、女性活躍推進法の改正によって派遣会社が知ってきたい実務のポイントを解説しました。法改正の要点を正しく理解して、派遣社員の納得感を高められる評価体制を構築しましょう。

アルバイト・パート・派遣スタッフ向けマイページアプリ

人材派遣・業務請負に特化した
​apseedsの決定版アプリ

貴社専用のスタッフマイページを管理画面から簡単に作成できます。メニューアイコンも事業所ごとに出し分けたりと自由自在。
貴社のスタッフはアプリをインストールしたら本人認証するだけで、社内のさまざまな情報やツールにアクセスできます。

さあ、貴社のDXの第一歩をはじめましょう。