育成就労制度について耳にしたことはあるものの、具体的にどのような制度なのか理解できていない。
この記事は上記のような方に向けて、育成就労制度の概要や技能実習制度との違いを踏まえつつ、対象となる業種やメリットなどについてご紹介します。
最後に育成就労制度の問題点についても紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。
育成就労制度の概要
まずは育成就労制度の概要や重視される視点、関係機関などをご紹介します。
育成就労制度とは
育成就労制度とは、現在の技能実習制度に変わって、新たに設けられる外国人雇用の制度です。
国際貢献を目的とした技能実習制度とは異なり、日本国内で長く就労する外国人労働者の確保と育成を目的とした制度となっており、対象とする業種や転籍に関する条件などが見直されます。
2024年3月15日に閣議決定した後、同年6月14日に可決されたことにより、技能実習制度は廃止され、新たに育成就労制度が創設されることが決まりました。
育成就労制度の施行スケジュール
育成就労制度を含めた改正出入国管理法は、可決後3年後までに施行されるとしています。
同法は2024年6月に可決されたため、2027年の運用開始が目途となり、そこに向けて様々な要件の検討や詳細決めが行われることになるでしょう。
育成就労制度で重視される視点
技能実習制度から育成就労制度に見直されるにあたって、以下の3つの視点が重視されました。
- 外国人の人権を保護し、労働者としての権利を高める
- 外国人が適切にキャリアアップし、活躍できるわかりやすい仕組みを作る
- 外国人を含めた全ての人が安心して暮らせる共生社会を実現する
技能実習制度における諸問題を踏まえ、上記の点が新たな制度を創設する上での課題として設定され、育成就労制度の具体的な方向性が検討されたと言えるでしょう。
育成就労制度における関係機関
次項から育成就労制度についてより詳しく解説しますが、前提知識として、育成就労制度における関係機関を簡単に押さえておきましょう。
監理支援機関
監理支援機関とは、技能実習制度における監理団体の役割を担う機関であり、外国人労働者の受け入れに関する調整や就労開始後の監理といった役割を担います。
監理支援機関になるには、監理団体としての許可とは別に、育成就労制度における新たな要件を前提とした許可を得なければなりません。
要件として外部監査人の設置が求められるなど、従来の監理団体よりも独立性や中立性を担保することが求められます。
受け入れ機関
受け入れ機関とは、育成就労外国人を受け入れる企業のことです。
受け入れ機関としての要件も厳格化される見込みとなっており、育成就労計画の認定は勿論のこと、特定技能制度における分野別協議会への加入といった要件が検討されています。
優良な受け入れ機関に対しては、各種申請書類の簡素化や届出頻度軽減といった優遇措置が設けられる予定です。
送出機関
送出機関は、受け入れ機関に対して外国人労働者を送り出す役割を持つ機関です。
育成就労制度では、悪質な送出機関を排除するために、二国間取り決め(MOC)を作成した国からのみ受け入れます。
送出機関への手数料については、受け入れ機関と外国人労働者が適切に分担する仕組みを導入する予定となっています。
外国人育成就労機構
外国人育成就労機構とは、外国人技能実習機構を改組した機関です。
受け入れ機関に対しての指導機能に加え、外国人への支援や保護といった役割を担います。
また育成就労制度で来日する外国人労働者だけでなく、特定技能外国人の相談援助などの業務も行うこととされています。
技能実習制度との違いと特定技能制度との関係性
ここで改めて技能実習制度との違いや特定技能制度との関係性についてご紹介します。
技能実習制度との違い
まずは育成就労制度と技能実習制度との違いを見てみましょう。
両制度における主な違いとしては以下の点が挙げられます。
育成就労制度 | 技能実習制度 | |
制度の目的 | 国内における人材の確保と育成 | 技能転移による国際貢献 |
在留期間 | 原則3年 | 最長5年(技能実習1号から3号までの累計期間) |
対象職種・分野 | 育成就労産業の職種・分野※特定技能制度の特定産業分野と原則一致 | 移行対象職種(90職種165作業 )※特定技能制度における特定産業分野と不一致 |
転籍(転職)の可否 | やむを得ない場合に加え、本人意向による転籍が可能 | 原則不可 |
<参考:法改正の概要(育成就労制度の創設など)>
<参考:技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(90職種165作業)>
特定技能制度との関係性
特定技能制度とは、2019年に創設された外国人雇用の制度であり、技能実習とは異なり純粋な人材確保を目的として設けられました。
特に人材不足が過酷とされている産業分野での外国人労働者の受け入れを可能とし、「最大5年の在留期間が定められた特定技能1号」と「在留期限が実質無期限となる特定技能2号」の二つの在留資格によって構成されます。
育成就労制度は、特定技能への転換を前提とした制度と言え、対象とする職種も一致しています。
育成就労自体の在留期間は3年ですが、特定技能2号まで移行することで長期的な就労が可能です。
育成就労制度が導入される背景
続いて育成就労制度が導入される背景についてご紹介します。
背景①:労働力不足
背景としてまず挙げられるのは労働力不足です。
日本では1995年以降、生産年齢人口が減少し続けており、2040年には5,978万人にまで減少することが推定されています。(※2020年時点では7,509万人)
そういった状況では、企業が生産性の向上や人材確保の努力をしても限界があり、外国人労働者の中長期的な活躍が、人材不足解消にとって必須となると言えるでしょう。
背景②:国際的な人材獲得競争
次に背景として挙げられるのは国際的な人材獲得競争の激化です。
昨今、技術の発展や移動手段の利便性向上などにより、グローバルに活躍する人材が増えています。
その影響を受け、国際レベルでの人材獲得競争が激化しており、魅力的な外国人就労制度を整えなければ、他国に優秀な外国人労働者が流れてしまうでしょう。
実際、近年では台湾や韓国を就労先に選ぶ外国人労働者も増えており、国内制度を整えることが急務となっています。
背景③:技能実習制度の問題点
背景の最後に挙げられるのは、技能実習制度の問題です。
技能実習は国際貢献が目的であるにも関わらず、実態としては多くの企業が労働力確保を目的に利用していました。
また悪質な環境や低賃金で働かされる実習生も多く、外国人労働者の保護が不十分であるといった指摘が多く寄せられており、これらの問題を改善する必要があったと言えるでしょう。
育成就労制度のメリットとデメリット
次に育成就労制度のメリットとデメリットについて確認しましょう。
育成就労制度のメリット
育成就労制度のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
メリット①:長期的に雇用できる
一つ目に挙げられるのは、長期的に雇用できるという点です。
技能実習は帰国を前提とした制度であるため、手塩にかけて育成しても、いずれは帰ってしまうケースが多くなります。
しかし育成就労制度は特定技能への移行を前提としており、特定技能2号まで進むことで長期的に活躍してもらえるため、人手不足解消にも繋げられるでしょう。
メリット②:日本語能力のある外国人労働者を雇用できる
次に挙げられるのは、日本語能力のある外国人労働者を雇用できるという点です。
育成就労制度では外国人労働者の日本語能力向上にも力を入れており、決められたタイミングで日本語能力に関する試験をクリアするといった要件が設けられています。
そのため、ある程度日本語が理解できる外国人労働者を雇用でき、就業開始後の日本語能力向上も期待できるでしょう。
メリット③:効果的な育成ができる
効果的な育成ができるという点も見逃せません。
育成就労制度から特定技能に移行するにあたり、日本語や技能などに関する試験に合格する必要があります。
そのためこれらの試験合格を指標として、技能や日本語能力を学習させることができるため、効果的に外国人労働者の育成に取り組むことが可能です。
育成就労制度のデメリット
一方で以下のようなデメリットが挙げられます。
デメリット①:受け入れ可能な分野が狭まる
一つ目のデメリットは、受け入れ可能な分野が狭まるという点です。
育成就労制度の対象職種は特定技能分野と原則一致するとされているため、基本的には既存の技能実習制度よりも対象とする分野や職種が少なくなります。
そのため技能実習では受け入れができていた業種であっても、育成就労に変わることで、外国人労働者の受け入れができない可能性がある点は留意しましょう。
デメリット②:コストがかかる
次に挙げられるのは、コストがかかるという点です。
育成就労制度に限らず、外国人労働者に対しても同一労働同一賃金が適用されるため、日本人を雇用する場合と同等以上の給与を支払う必要があります。
また送出機関への手数料や日本への渡航費なども負担する必要があるため、その分のコストもかかってくると言えるでしょう。
デメリット③:転職の可能性がある
デメリットの最後に挙げられるのは、転職の可能性があるという点です。
技能実習制度では転籍(転職)は原則不可となっていましたが、育成就労制度では転籍要件が緩和されたため、転籍を希望する外国人労働者が増えることが見込まれます。
そのため、せっかく雇用しても、より魅力的な仕事を提供する他社に転職される可能性がある点は留意しましょう。
育成就労制度の対象となる業種
ここからは育成就労制度の対象業種について解説します。
育成就労制度の対象となる業種
育成就労制度の対象となる業種は特定技能制度と原則一致しているため、基本的には以下の特定産業分野における業種・職種が対象となります。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
繰り返しになりますが、特定技能制度と技能実習制度は対象とする業種や職種に違いがあり、育成就労制度もその違いを引き継ぐことになります。
そのため技能実習から育成就労制度への移行に伴い、対象とする業種・職種分野が大きく狭まる点は留意しましょう。
<参考:特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description) | 出入国在留管理庁>
特定技能制度における対象分野の拡大
育成就労制度への移行に伴って対応職種が減少しますが、その対応策として特定技能制度の対象分野の追加も予定されています。
具体的には上記の12分野に加え、以下の4分野が追加される予定です。
- 自動車運送業
- 鉄道
- 林業
- 木材産業
また「工業製品製造業分野(素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業から名称変更予定)」「造船・舶用工業分野」「飲食料品製造業分野」では、対象業務の追加も予定されています。
<参考:特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定) | 出入国在留管理庁>
育成就労制度における転籍について
続いて育成就労制度における転籍の要件などについてご紹介します。
育成就労制度における転籍の要件
育成就労制度では外国人労働者の権利保護の観点から、技能実習制度よりも転籍要件が緩和されています。
技能実習においては転籍が原則不可となっていましたが、育成就労制度では以下の要件のいずれかを満たすことで転籍が可能となりました。
やむを得ない事情がある場合の転籍
受け入れ機関による人権侵害といった法令違反は勿論、労働条件について実態との乖離があるなど、やむを得ない事情がある場合は転籍が認められます。
本人意向による転籍
以下の要件を満たした場合、本人意向による転籍が認められます。
- 同一区業務区分内であること
- 元の受け入れ機関で1〜2年間就労していること
- 技能検定試験基礎級や分野ごとに設定する日本語能力A1~A2相当の試験に合格
- 転籍先が受け入れ機関としての要件を満たしていること
育成就労制度の転籍手続きについて
育成就労制度において転籍するには、外国人育成就労機構や監理支援機関、現在の受け入れ機関に対して、外国人労働者自身が転籍希望の申し出を行わなければなりません。
申し出を受けた監理支援機関は、転籍要件を満たしているかを確認しつつ、転籍先となる受け入れ機関との雇用契約締結の仲介を行います。
転籍先の受け入れ機関は、育成就労計画の認定申請を行い、外国人労働者の受け入れ準備を行うことになるでしょう。
転籍に関する補償
育成就労制度では、転籍要件が緩和したことにより転職者が増加することが見込まれます。
そのため受け入れ機関としては費用や時間をかけて育成したにも関わらず、別の企業に転職されてしまうリスクを負わなければなりません。
これらのリスクが顕在化した際の影響を最小化するために、転籍が発生した場合、元の受け入れ機関に対しての補償制度の設置が検討されています。
育成就労制度の各育成段階における達成基準
育成就労制度は、外国人の育成に力点を置いた制度であるため、特定のタイミングに応じた日本語や技能に関する試験合格が、達成基準として設けられています。
具体的には以下の4つの達成基準が挙げられます。
受け入れ前の基準
受け入れ前の基準として、就労開始までに日本語能力A1相当以上の試験に合格、あるいはそれに相当する日本語学習を受講することが求められます。
就労開始後1年以内の基準
就業開始から1年経過するまでに、技能検定試験基礎級などの受験が求められます。
また受け入れ前に日本語能力A1相当以上の試験に合格していない場合は、同試験への受験も必要です。
特定技能1号移行時の基準
特定技能1号へ移行する際は、技能検定試験3級相当あるいは特定技能1号評価試験に合格し、日本語能力A2相当以上の試験に合格することが求められます。
特定技能2号移行時の基準
特定技能2号へと移行する際は、特定技能2号評価試験などの合格および、日本語能力B1相当以上の試験への合格が求められます。
育成就労制度の問題点
最後に育成就労制度の問題点を確認しましょう。
問題点①:職業選択の自由の制限が解消されていない
問題点としてまず挙げられるのは、職業選択の自由の制限が解消されていないという点です。
育成就労制度では転籍しやすくなったものの、あくまで同一業務区分での転籍に留まっており、労働者の権利である職業選択の自由について、技能実習と同様制限されたままとなっています。
そのため見直す上での重要な視点に挙げられていた、「労働者としての権利の向上」は十分に果たせていないと言えるでしょう。
問題点②:転籍のハードルも実際は高い
次に挙げられるのは、転籍のハードルも実際は高いという点です。
転籍の要件が緩和されたものの、やむを得ない事情の立証などについては、まだ来日して1〜2年程度の外国人労働者自身が行う必要があります。
しかし、そのタイミングでの語学力では適切に立証することは難しいことが予測され、企業とのパワーバランスも踏まえると、実際の転籍ハードルは高いと言えます。
まとめ
今回は育成就労制度をテーマに、概要や技能実習制度との違い、具体的な内容などをまとめて解説しましたが、いかがでしたか。
育成就労制度は技能実習制度の問題点を踏まえて、外国人労働者にとって魅力的な就労制度の実現を目指し、創設される新しい制度です。
特定技能へ移管することで、長期的な雇用の実現ができるため、国内における人材不足への対策として期待されています。
ぜひこの記事の内容を踏まえつつ、今後の育成就労制度の動向をキャッチアップしていただければ幸いです。