育児・介護休業法が2025年に改正されるということは耳にしたものの、具体的にどのように変わるのかまでキャッチアップできていない方もいらっしゃるでしょう。
そこでこの記事では育児・介護休業法の概要をおさらいした上で、2025年の改正内容を4月1日施行分と10月1日施行分に分けて、わかりやすく解説します。
最後に育児・介護休業法の改正に向けて必要な企業対応についてもご紹介しているため、ぜひご一読ください。
育児・介護休業法とは
改正内容について確認する前に、育児・介護休業法の概要についておさらいしましょう。
育児・介護休業法の概要と目的
育児・介護休業法とは、育児や介護に従事する労働者を支援し、業務との両立を実現することを目的として定められている法律です。
正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」となっており、1992年に施行されました。
育児・介護休業法が制定されるまで、仕事と育児・介護の両立が困難な実状があり、多くの労働者が育児や介護を理由として仕事を辞めてしまうという事態が生じていました。
しかし同法制定以前から将来的に人口減少することは予測されており、現行制度では労働者の確保が難しくなることから、制定されたと言えるでしょう。
育児・介護休業法における主な制度
育児・介護休業法では以下のような制度が設けられています。
育児休業 | 労働者が1歳未満の子を養育するために行う休業であり、子が1歳に達する日までの連続した期間取得できる。関連して産後パパ育休などの制度も設けられている。 |
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介護休業 | 要介護状態にある対象家族を介護するための休業であり、対象家族一人に付き通算93日まで取得できる。 |
子の看護休暇 | 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、年度ごとに5日まで、子供の看護のために休暇を取得できる。 |
介護休暇 | 要介護状態にある対象家族の介護を行う労働者は、年度ごとに5日まで、介護のために休暇を取得できる。 |
その他、育児や介護のための労働時間の制限、所定労働時間の短縮に関する措置などの項目が設けられています。
育児・介護休業法の改正の流れ
育児・介護休業法は1992年に施行されて以降、これまで幾度も改正を重ねています。
そもそもはじめは育児休業法として制定されており、介護までは対象としていませんでしたが、1995年の改正によって現在の名称へと変わりました。
そこから1999年の改正で介護休業制度の義務化や深夜業制限の創設、2002年の改正で時間外労働の制限や、短時間勤務措置の対象年齢引き上げなどが網羅されることになります。
2005年から2022年に至るまでに継続的に改正が行われ、子の看護休暇の義務化やパパ休暇の創設、介護のための所定外労働制限、有期雇用労働者の育休取得要件の緩和などが盛り込まれてきました。
そして2025年に育児・介護休業法は再び改正されることになります。
今回の改正は、男女双方の育児・介護と仕事の両立を支援するために、柔軟な働き方や離職防止を実現するための環境整備などを目的としています。
参考:【育児・介護休業法の改正履歴】過去から現在に至るまでの改正履歴(変遷)をまとめて解説
2025年の育児・介護休業法の改正ポイント【4月1日施行】
ここから2025年に行われる育児・介護休業法の内容について解説します。まずは4月1日施行となる改正のポイントについてご紹介します。
ポイント①:子の看護休暇の見直し
一つ目のポイントは、子の看護休暇の見直しです。
従来子供の看護休暇は、小学校入学前の子供を対象としていましたが、今回の改正において、小学校3年生修了まで拡大します。
また看護休暇の理由として、病気・怪我や予防接種・健康診断に加え、感染症に伴う学級閉鎖などや入学式、卒園式なども加えられます。
ポイント②:所定外労働制限の対象拡大
二つ目のポイントは、所定外労働制限の対象拡大です。
これまで残業免除などの請求可能対象となる労働者は、3歳未満の子を養育する労働者でしたが、改正法では小学校就学前の子を養育する労働者まで拡大されます。
ポイント③:短時間勤務制度の代替措置にテレワーク追加
次に挙げられるのは、短時間勤務制度の代替措置の追加です。
具体的には3歳未満の子を養育する労働者の短時間勤務制度について、従来の育児休業に関する制度に準ずる措置や始業時間の変更などに加え、テレワークが代替措置として追加されました。
ポイント④:育児のためのテレワーク導入
続いて挙げられるのは育児のためのテレワーク導入です。
3歳未満の子供を養育する労働者について、テレワークを選択できるように措置を設けることが努力義務化されます。
ポイント⑤:育児休業取得状況の公表義務対象の拡大
育児休業取得状況の公表義務対象が拡大される点もポイントです。
育児休業取得状況を公表する義務は、従来従業員数が1,000人超の企業が対象でしたが、今回の改正で従業員数300人超の企業まで拡大します。
なお公表内容としては、「男性の育児休業等の取得率」または、「育児休業等と育児目的休暇の取得率」となっています。
ポイント⑥:介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
介護休暇を取得できる労働者の要件についても緩和されます。
これまで介護休暇の取得除外対象となる労働者として、「週の所定労働日数が2日以下」と「継続雇用期間6か月未満」の2つが設けられていましたが、後者の条件が撤廃されます。
ポイント⑦:介護離職防止のための雇用環境整備
次に挙げられるのは、介護離職防止のための雇用環境整備です。
介護休業などの申し出が円滑に行われる環境を構築するため、以下のいずれかの措置を講じる義務が課されます。
- 介護休業・介護両立支援制度などに関する研修の実施
- 介護休業・介護両立支援制度などに関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- 自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度などの利用の事例の収集・提供
- 自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度などの利用促進に関する方針の周知
なお義務としてはいずれかの措置を講じれば問題ありませんが、できれば複数の措置を取ることが望ましいとされています。
ポイント⑧:介護離職防止のための個別の周知・意向確認
介護離職防止のための個別の周知・意向確認も改正ポイントの一つです。
介護をする必要が生じた労働者に対して、個別で介護休業制度や支援制度について周知するとともに、介護休業の取得や支援制度などの利用意向を確認しなければなりません。
また介護に直面する前の段階にいる労働者に対しても、上記と同じ情報を提供することも求められます。
ポイント⑨:介護のためのテレワーク導入
2025年4月施行における最後のポイントは、介護のためのテレワーク導入です。
具体的には要介護状態の家族を介護する労働者に対して、テレワークを選択できるように措置を取ることが、努力義務化されます。
2025年の育児・介護休業法の改正ポイント【10月1日施行】
次に10月1日施行となる改正のポイントについて確認しましょう。
ポイント⑩:柔軟な働き方を実現するための措置
10月1日施行におけるポイントとしてまず挙げられるのは、柔軟な働き方を実現するための措置です。
3歳から小学校就学前の子供を養育する労働者に対して、以下の措置から2つ以上選択して対応することが求められます。
- フレックスや時差出勤制度といった始業時刻などの変更
- テレワークなど(10日以上/月)※時間単位での取得を可とする
- 保育施設の設置運営など
- 就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年) ※時間単位での取得を可とする
- 1日の所定労働時間を原則6時間とするなどの短時間勤務制度
また3歳に満たない子供を養育する労働者に対しては、子が3歳になるまでの適切な時期に、上記措置について個別の周知・意向確認を行わなければなりません。
ただし利用を控えさせるような周知や意向確認にならないように注意する必要があります。
ポイント⑪:仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
最後に挙げられるのは、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮です。
労働者本人や配偶者の妊娠・出産を申し出た時と、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、以下の事項について労働者の意向を個別に聴取する必要があります。
- 勤務時間帯(始業および終業の時刻)
- 勤務地
- 両立支援制度などの利用期間
- 仕事と育児の両立に資する就業の条件
またここで聴取した意向に基づき、勤務時間や業務量、労働条件などについて適切な配慮をすることも求められます。
育児・介護休業法の改正に向けて企業がすべき対応
最後に育児・介護休業法の改正に向けて企業がすべき対応をご紹介します。
対応①:社内制度・環境の整備
育児・介護休業法の改正に向けて、社内制度や環境の整備に取り組む必要があります。
子の看護休暇の見直しや所定労働時間の制限、テレワークの導入などについては、改正に合わせて就業規則を見直さなければなりません。
また雇用環境整備などの一環として、相談窓口などを社内に設置することは勿論、従業員が休業や休暇などを取得することを見越し、業務を滞りなく推進できる業務体制を構築することも必要になるでしょう。
改正後に育児休業取得状況の公表対象になる企業は、情報の取得方法や公表までのプロセスについて、あらかじめ策定しておくと安心です。
対応②:従業員に対する周知を実施
育児・介護休業法の改正内容や従業員のために設置する措置などについて、社内周知を図りましょう。
厚生労働省の資料をそのまま使っても問題ありませんが、従業員に関係のある情報だけをまとめた資料などを用意しておくことも効果的です。
周知をするとともに、対象となり得る従業員に対しては利用を促し、適切に業務と育児・介護の両立を推進しましょう。
また管理職に対しても法改正の重要なポイントについて研修を行うことで、現場レベルでの制度利用をより一層促すことができます。
【補足】育児・介護休業法における罰則はあるのか?
育児・介護休業法の規定から大きく逸脱している状況が認められた場合、同法56条の規定により厚生労働大臣から報告を求められます。
その際に報告を怠ったり、あるいは虚偽の報告をしたりした場合、同法66条の規定に基づき20万円以下の過料が科されます。
また助言や指導、勧告なども行われますが、勧告が行われたにも関わらず、企業がそれに従わない場合は企業名が公表されるため注意しましょう。
まとめ
育児・介護休業法の改正は従業員の働き方に大きく関わるため、企業としてもしっかりと改正内容をキャッチアップしなければなりません。
特に今後は生産年齢人口の減少に伴い、労働者の確保が難しくなる状況になるため、育児や介護を理由とした退職を最小限に抑えることが重要になります。
従業員のそれぞれのライフステージに合わせて、柔軟な働き方が実現できるように職場環境を整えることも、企業にとって重要な課題になったと言えるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、育児・介護休業法の改正に適切に対応していただければ幸いです。
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