派遣会社には、マージン率の公開が義務付けられています。マージンとは、派遣先が支払う派遣料金から派遣社員の賃金を差し引いた金額のことです。マージン率は、派遣料金に対するマージンの割合を示します。

人材派遣会社によりマージン率は異なるものの、単に数値が低いからといって良いとは限りません。費用の内訳やサポート体制なども含めた総合的な判断が重要です。

本記事では、マージン率の公開方法や手順について解説します。マージン率以外に公開を求められている項目や注意点、記載例も紹介しているので、ご活用いただけますと幸いです。

派遣会社に公開が求められるマージン率とは

派遣会社には、労働者派遣法に基づき2012年からマージン率の公開が義務付けられています。マージン率に含まれる費用や最新の平均値について解説するので、参考にしていただけますと幸いです。

マージン率に含まれているもの

マージン率には、派遣料金のうち、「派遣社員の給与」以外のすべての費用が含まれています。ただし、マージン率のすべてが派遣会社の利益になるわけではありません。

一般社団法人日本人材派遣協会のデータによると、一般的な構造として派遣料金のうち約70%が派遣社員の給与、残り約30%がマージン率です。おおよその内訳は、以下のとおりになります。

内訳項目内容参考割合(目安)
社会保険料事業主負担労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金など10.9%
有給休暇費用派遣社員の年次有給休暇にかかる費用4.2%
諸経費募集広告費・オフィスの賃料・派遣会社の社員の給与など13.7%
営業利益派遣会社の利益分1.2%

ただし、上記はあくまで目安であり、実際のマージン率や各項目の割合は派遣会社の規模や運営体制などによってさまざまです。マージン率が低ければ良いとは限らないため、公開情報は総合的に判断しましょう。

参照:データ|一般社団法人日本人材派遣協会

マージン率の平均値

厚生労働省の「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」によると、2023年4月1日から2024年3月31日までの、マージン率の平均は約36.1%です。

この数値は、派遣料金の平均25,337円(8時間換算)から、派遣労働者の平均賃金16,190円を差し引いたうえで算出しました。計算方法についてはこのあと詳しく解説します。

マージン率は企業によって差があるものの、この数値は派遣業界における目安になるでしょう。

参照:令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)|厚生労働省

派遣会社のマージン率の公開方法3ステップ

派遣会社はマージン率以外だけでなく、派遣労働者数や平均賃金など、いくつかの情報を公開する義務があります。マージン率の公開方法について3ステップで解説するので、見ていきましょう。

1.公開すべき項目を確認する

まずは、公開すべき項目を確認してください。労働者派遣法第23条第5項では、派遣元事業主に対し、事業所ごとの情報を関係者へ提供する義務があると定めています。関係者とは、主に派遣労働者(応募者含む)および派遣先を指します。

派遣会社は以下の7項目を公開しなければなりません。

  • 派遣労働者数
  • 派遣先の数
  • 派遣料金の平均額
  • 派遣労働者の賃金平均額
  • マージン率
  • 労使協定を締結しているかどうか
  • 派遣労働者のキャリア形成支援制度の概要

労使協定を締結している場合は、その対象者の範囲と有効期限の終了日まで記載する必要があります。また、キャリア形成支援制度の概要とは、相談窓口の連絡先や教育訓練などの計画内容を指します。

これら7つは、派遣労働者や派遣先企業にとって重要な情報です。正確かつわかりやすい情報提供を心がけましょう。

参照:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-GOV法令検索

参照:マージン率等の情報提供について|厚生労働省

2.マージン率を計算する

ここでは、マージン率の計算方法を紹介します。マージン率は、以下の方法で算出可能です。

(派遣料金の平均額−賃金の平均額)÷派遣料金の平均額×100

たとえば、派遣先の企業が派遣元(派遣会社)に1日(8時間)あたり16,000円を支払っており、派遣社員に支払われる賃金が11,200円(時給1,400円)とします。この場合のマージン率の計算式は以下のとおりです。

(16,000−11,200)÷16,000×100=30%

この30%に、前述の社会保険料の事業主負担や有給休暇費用、営業利益などが含まれています。なお、今回は1社の契約金額をもとに計算しました。しかし、実際の公開時には、自社が契約を結んでいる複数の派遣先に対する派遣料金と賃金それぞれの平均額を用いてマージン率を算出する必要があります。

3.公開方法を選ぶ

続いては、マージン率の公開方法を選びましょう。2021年4月1日より、マージン率は「インターネット上での公開」が原則となりました。

派遣元企業が自社のWebサイトを持っている場合は、閲覧しやすいかたちで常時掲載することが求められています。自社のWebサイトがない場合は、厚生労働省職業安定局「人材サービス総合サイト」へ掲載し、なおかつ事業所内への掲示や派遣スタッフ向けのパンフレットの配布など、適切な方法で情報を提供しなければなりません。

なお、人材サービス総合サイトはあくまで補完的な役割であり、派遣元が自ら主体的に情報提供の体制を整える必要があります。

参照:マージン率等の情報提供について|厚生労働省

派遣会社のマージン率公開時の注意点

派遣会社がマージン率を公開する際は、「実績がなくても公開する」「毎年更新する」といった点に注意が必要です。ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。

実績がなくても公開する

派遣事業を始めたばかりで実績がない場合でも、労働者派遣法第23条第5項により情報提供が義務付けられているように、マージン率の公開が必要です。

実績がない場合は、派遣労働者数や派遣先の数などを「0」のままで公開してください。今後、派遣先の増加や派遣労働者の就業により実績が出たら、翌年度の更新で反映させるようにしましょう。

なお、派遣事業を始めたばかりで公開方法に不明点や不安があれば、労働局や社労士に相談するのが安心です。

毎年更新する

7つの項目は、法律で義務付けられているため毎年更新してください。事業年度が終了したら、できる限り速やかに前年度分の実績を反映し、公表しなければなりません。

派遣元の企業は、毎年6月末までに「労働者派遣事業報告書」を労働局へ提出する必要があります。労働者派遣事業報告書に記載した内容に基づいて、マージン率や平均賃金などの情報を自社サイトや掲示物に反映させるのが一般的な流れです。

更新の際には、Webサイトや掲示物に「更新年月日」「対象となる事業年度」を明記しておきましょう。また、情報が古いままだと行政から指導を受ける恐れもあるため注意が必要です。

参照:労働者派遣事業関係業務取扱要領|厚生労働省

派遣会社が参考にしたいマージン率公開例

労働者派遣法第23条第5項に基づき、派遣元事業所ごとに以下の情報公開が義務付けられています。都道府県労働局では、マージン率等の情報提供の際に記載すべき項目について、下記のような記載例を示しています。

派遣元の事業所ごとに、マージン率や派遣労働者数などの7項目をまとめた情報公開用資料を作成し、Webサイトやパンフレットで公開しましょう。

【マージン率などの情報について】

1.〇〇年6月1日付け 派遣労働者の数 〇名
※直近の事業報告書における「6月1日現在の状況報告」の派遣労働者の数

2.〇〇年度 派遣先の数 〇社
※直近の事業報告書の派遣先事業所数(実数)

3.〇〇年度 派遣料金の平均額 〇〇,〇〇〇円(8時間 全業務平均)
※直近の事業報告書の派遣料金の平均額

4.〇〇年度 派遣労働者の賃金の平均額 〇〇,〇〇〇円(8時間 全業務平均)
※直近の事業報告書の派遣労働者の賃金額

5.〇〇年度 マージン率平均 〇〇.〇%
※小数第一位未満の端数が出た場合は四捨五入

また、マージン率に含めている教育費訓練の経費、福利厚生費、社会保険料などの事項も示すことが望ましい

6.派遣労働者のキャリア形成支援制度の概要
訓練内容(計画例):〇〇〇〇

訓練種別対象者
(雇入時・派遣中・待機中など)
訓練方法
(OJT・OFF-JT)
費用負担賃金支給
(有給・無給)
〇〇研修雇入時OFF-JT無償有給
△△研修派遣中OJT無償有給

キャリアコンサルティング相談窓口及び連絡先 相談窓口〇〇〇 電話番号055-000-0000

7.その他参考になる事項(福利厚生など)
例:社員の送迎バスあり など

8.労使協定締結の有無0
□労使協定を締結していない
□労使協定を締結している(協定書の有効期間終期 〇〇年〇月〇日)
協定労働者の範囲(例:製造業務に従事する従業員 など)

会社名 〇〇株式会社
許可番号 派〇〇-〇〇〇〇〇〇

上記は、東京労働局のWebサイトに掲載されている書式を参考にした公開方法の記載例です。自社で使用する場合は内容を実情に合わせて編集してください。なお、訓練内容の表はキャリア形成支援制度における訓練計画の記載例を示したものです。

参照:労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例|東京労働局

派遣会社がマージン率を公開しない場合のリスク

派遣会社がマージン率を公開しないと、違法にあたる可能性があります。マージン率の公開を怠ると、労働局からの指導や助言、改善命令、事業停止命令などが行われる恐れがあるでしょう。

マージン率等の情報提供義務違反は、是正指導件数のなかでも上位に入っています。実際には、まず文書による是正指導が行われるのが一般的です。労働局から悪質と判断された場合は、派遣事業許可の取り消しが行われるケースもあるため注意してください。

参照:法令違反の派遣元事業主に対する対応について|厚生労働省

まとめ

労働者派遣法により、派遣会社はマージン率をはじめとした情報の公開を義務付けられています。マージン率には、社会保険料の事業主負担や派遣社員の有給休暇の費用、広告宣伝費などの経費が含まれます。2021年より、マージン率の公開方法は「インターネット上」が原則です。

本記事では、マージン率の公開方法や算出の仕方、注意点について解説しました。正確な情報公開を通じて、派遣先や派遣社員からの信頼を高め、より健全な事業運営につなげましょう。

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