就業規則は中小企業や小規模事業者にも必要なのか?という疑問を抱えている方に向けて、本記事では就業規則の概要や作成義務の対象となる条件などに加え、中小企業にとっても重要な理由を解説します。
就業規則に記載すべき事項や作成ステップ、変更に関する内容まで解説しているため、ぜひ最後までご確認ください。
就業規則とは
まずは就業規則の概要や作成義務が発生する条件などについてご紹介します。
就業規則の概要
就業規則とは、従業員の労働条件や職場内で守るべきルールなどを定めた資料です。
事業を適正に運営し、従業員同士は勿論、企業と従業員間のトラブルなどを防止するために策定されます。
就業規則は、労働基準法89条によって規定されており、一定要件を満たす企業は作成が義務付けられています。
就業規則の作成義務が発生する条件
就業規則は、常時10人以上の事業所は作成義務が課されます。
仮に企業全体としての従業員が10人を超えていても、事業所が複数あり、各事業所において5人ずつ在籍している状況などであれば、就業規則の作成義務はありません。
就業規則に関するその他の義務と罰則
就業規則の作成義務が課される企業は、以下の義務についても対応する必要があります。
意見聴取義務 (労働基準法90条) | 作成した就業規則について従業員などから意見を聴取する |
---|---|
届出義務 (労働基準法90条) | 就業規則に聴取した意見をまとめた資料を添えて労働基準監督署に届出する |
周知義務 (労働基準法106条) | 作成した就業規則を従業員に周知する |
これらの義務に違反した場合は、労働基準法120条の規定に基づき、30万円以下の罰金が科されます。各義務における具体的な手続きは後ほどご紹介します。
就業規則に記載する事項
続いて就業規則に記載する事項について、以下の3つのカテゴリに分けてご紹介します。
1.絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項とは、就業規則において必ず記載しなければならない事項です。具体的には以下の項目が挙げられます。
労働時間に関する事項 | 始業及び終業の時刻休憩時間休日休暇就業時転換に関する事項 |
---|---|
賃金に関する事項 (臨時の賃金を除く) | 賃金の決定方法賃金の計算方法賃金の支払い方法賃金の締め切りと支払い時期昇給 |
退職に関する事項 (解雇を含め) | 退職が認められる条件解雇に該当する事由 |
2.相対的必要記載事項
相対的必要記載事項とは、該当する制度などを設けている場合に記載しなければならない事項となっており、以下のような項目が挙げられます。
- 対象者や決定方法なども含めた退職金に関する事項
- 臨時賃金や最低賃金に関する事項
- 食費や作業用品などの従業員負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の疾病扶助に関する事項
- 表彰や懲戒に関する事項
- その他の事項(旅費規定や福利厚生など)
<参考:中小企業と就業規則|愛知県 労働局>
3.任意記載事項
任意記載事項とは、企業の希望で就業規則に記載する事項であり、先に紹介した事項と異なり記載義務はありません。
任意的記載事項の例としては以下のような項目が挙げられるでしょう。
- 就業規則を定めた目的
- 就業規則の適用範囲
- 就業規則における用語の定義
- 経営理念や社是
- 採用の手続きや雇い入れの際の提出書類
- 副業に関する取扱いや規定
<参考:中小企業と就業規則|愛知県 労働局>
就業規則の適用範囲と効力発生日について
次に就業規則が適用される範囲や効力が発生する日の考え方について確認しましょう。
就業規則の適用範囲
就業規則は事業所ごとに適用されます。
また就業規則内に対象者を別途明記しない限り、正社員だけでなく契約社員やアルバイトなど、雇用形態に関わらず全ての労働者に対して適用される点も留意しておきましょう。
就業規則の効力発生日の考え方
就業規則の効力は、規則施行日に生じると考えることが一般的です。
施行日が定められていない場合は、従業員に対して就業規則を周知した日を効力発生日として扱うことになるでしょう。
就業規則が中小企業にとっても重要な理由
就業規則は常時10人以上雇用している事業所において作成義務が生じます。
しかし作成義務がない中小規模の企業であっても、就業規則は作成すべきと言えるでしょう。その理由として以下のような点が挙げられます。
理由①:様々な労使間トラブルを防止できる
就業規則の大きな役割の一つとして、労使間トラブルの防止が挙げられます。
就業規則がない場合、懲戒解雇に該当する事由や副業ルールなどを明確化できません。
そのため、仮に問題行動を起こした社員がいても解雇できなかったり、副業者の増加によって業務に悪影響が生じたりしてしまい、労使間でのトラブルが起きやすくなるでしょう。
そのため中小企業、たとえ10人未満の小規模事業者であっても就業規則を作成し、上記のようなトラブルを防止することをおすすめします。
理由②:社内風紀や秩序を維持できる
就業規則は社内風紀や秩序の維持にも役立ちます。
就業規則がない場合、ハラスメントの発生をはじめ、社内風紀が乱れてしまう可能性があります。
社内風紀や秩序の乱れは、従業員の満足度やエンゲージメントにもネガティブな影響を与え、最悪の場合は退職者の増加といった事態にも繋がりかねません。
これらのリスクを防止するには、企業規模に関わらず、就業規則の作成が重要となるでしょう。
理由③:助成金を活用できる
就業規則を作成することで、助成金を活用できる点も見逃せません。
例えば働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、就業規則の作成が支給対象取り組みの一つとして挙げられています。
またキャリアアップ助成金では、申請要件の一つに就業規則作成や届出が挙げられています。
就業規則の作成や届出を通じて支給される助成金を上手く活用すれば、事業発展に繋がる設備や人員への投資も実施できるでしょう。
<参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省>
<参考:キャリアアップ助成金|厚生労働省>
就業規則の作成ステップ
ここからは就業規則の作成手順を以下のステップに分けてご紹介します。
ステップ①:就業規則の原案作成
まずは就業規則の原案を作成します。
ただし何もない状態から原案を作ることは難しいため、厚生労働省が出しているモデル就業規則を参考にするとよいでしょう。
モデル就業規則をベースに、自社の状況や要望などを踏まえてカスタマイズすることで、効率的に原案を作成できます。
<参考:モデル就業規則について |厚生労働省>
ステップ②:意見聴取の実施
就業規則の原案ができた後は、意見聴取の実施を行います。
意見聴取の対象となるのは以下のいずれかです。
- 事業所の労働者の過半数で組織される労働組合
- 上記労働組合がない場合、その事業所の労働者の過半数を代表する者
ここでいう意見聴取とは、意見を求めることであって、内容への同意や協議を求めるものではありません。
従業員側の意見を尊重するという姿勢は必要ですが、その意見を最終的に採用するかどうかは企業側で決めることができます。
ステップ③:意見書などの届出
次に実施すべきは意見書などの届出です。
意見聴取後は、就業規則(変更)届と併せて、就業規則と聴取した意見を記した書面を、所轄の労働基準監督署長まで提出しましょう。
届出方法としては郵送や窓口への持参などが挙げられます。
<参考:届出方法について(就業規則(変更)届)-窓口または郵送で届け出る場合-|福井労働局>
ステップ④:従業員への周知
就業規則の届出が完了した後は、従業員への周知を行います。
従業員への周知方法としては、以下のような方法が挙げられるでしょう。
- 事業所の閲覧しやすい場所に常時掲示、あるいは備え付ける
- 各従業員に書面で交付する
- 全従業員が利用できるシステムなどにデータを格納し、閲覧できるようにする
【補足】就業規則を浸透させるには?
就業規則が役割を適切に果たすには、従業員に対して就業規則を浸透させ、形骸化を防ぐ必要があります。
ただし先に挙げた方法で周知するだけでは、十分に浸透させることはできません。
その点、就業規則に関する説明会や、従業員が少ない場合は個別面談で丁寧に説明するといった取り組みを実施することで、効果的に浸透を図ることができます。
作成時は勿論、内容変更があった際も、これらの取り組みを欠かさずに行うことがポイントです。
就業規則は定期的な見直しが必要
就業規則は一度作成した後も定期的な見直しや変更が必要になります。ここでは古い就業規則がもたらすリスクや変更方法を確認しましょう。
古い就業規則が企業にもたらすリスク
一度作成した就業規則をそのまま放置していては、実態に沿わなくなり様々なリスクが発生します。
例えば労働基準法などの法令改正に対応できず、意図せず法令違反を犯してしまう可能性があります。
また現在の働き方や実態と乖離している場合、就業規則から逸脱した従業員の行動を招き、労使間トラブルも発生しやすくなるでしょう。
そのため法改正は勿論、自社における働き方・制度などに大きな変化が生じたタイミングで、定期的に見直さなければなりません。
就業規則を変更するには
就業規則を変更する手順としては、はじめて就業規則を作成する際の流れと変わりません。
変更内容の原案を作成後、従業員や労働組合に対して意見聴取を行い、就業規則(変更)届や意見をまとめた資料を作成した上で、変更した就業規則と併せて労働基準監督署に提出します。
ただし就業規則(変更)届に変更事項を全て記載できる場合は、変更した就業規則本体は不要です。
不利益変更の場合に必要な対応
就業規則を変更する際に注意しなければならないのは、不利益を伴う変更を行うケースです。
就業規則の変更内容が従業員にとって不利益となる場合、通常の流れで変更してしまうと、従業員から不満などが続出し、労使間トラブルや退職といった事態に繋がりかねません。
そのため不利益変更がある場合は、意見聴取の段階で「なぜ不利益変更が必要なのか」を合理的な根拠を提示しながら説明し、従業員側としっかりと交渉して取り組む必要があるでしょう。
就業規則に関して押さえておくべきポイント
最後に就業規則に関して押さえておくべきポイントをご紹介します。
ポイント①:就業規則よりも労働基準法が優先される
就業規則によって規定される内容よりも、労働基準法が優先される点は押さえておきましょう。
そもそも就業規則は労働基準法で規定されているため、当然法律に順守した内容として作成されます。
しかし意図せず労働基準法を下回るような条件を、就業規則で定めてしまったとしても、その部分については無効となり、労働基準法における基準が適用されます。
仮に意図的に労働基準法を下回る規定を設けても無効となる点は注意しましょう。
ポイント②:雇用形態で規則が変わる場合は雇用形態ごとに作成する
働き方やルールなどが雇用形態に応じて変わる場合は、雇用形態ごとに就業規則を作成しなければなりません。
例えば大元の就業規則について正社員のみを対象として規定しており、かつ契約社員やアルバイト従業員がいる場合は、それぞれに適用される就業規則も別途作成する必要があります。
逆に様々な雇用形態の従業員を活用していても、働き方やルールなどが変わらなければ、一つの就業規則でまとめて適用することが可能です。
まとめ
就業規則は常時10人以上雇用している事業所に対して作成義務が生じますが、たとえその基準に満たない中小企業であっても、作成しておくべき資料と言えます。
就業規則を作成することで、労使間トラブルの防止や社内風紀の維持、助成金活用といったプラスの効果を得ることができます。
相応の作成工数こそかかりますが、かけた工数以上に得られるメリットも多いため、ぜひこの記事を参考に、就業規則の作成や変更に取り組んでください。
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