近年、福利厚生サービスとして注目を集めている「給与前払いサービス」。このサービスには、労働基準法が深く関連していることはご存知でしょうか?
労働者にとって何よりも大切な「給与」に関わるサービスですから、導入する企業としてはコンプライアンスの面が気になりますよね。そこで今回は、給与前払いサービスに関連する労働基準法の内容について、基礎的な部分を説明していきます。
そもそも給与前払いサービスとは?
給与前払いサービスとは、企業が導入する福利厚生サービスです。導入することで、労働者に対して「給与の前払い」を実現できます。
労働者にとっては、急ぎで現金が必要な時に大変便利ですし、企業にとっても、労働者を不要な金融トラブルから守ることのできる、頼りになる福利厚生サービスだといえます。
給与前払いサービスに関しての詳しい説明は、「給与前払いサービスとは?仕組みや導入を検討する際の注意点を詳しく解説」をご確認ください。
給与前払いサービスに関連する法律用語
新しいサービスを導入・検討する際は、そのサービスが法令を遵守しているのか、確認(コンプライアンスチェック)が必要ですよね。しかし最低限の知識がなくては、たとえ問題があったとしても見抜くことができません。
給与前払いサービスに関しては、賃金に関連する法律「労働基準法」についての理解が必要不可欠です。
詳しい内容に入る前に、頭に入れておきたい基本用語を3つご紹介します。よく出てくる言葉なので、ぜひ押さえておいてくださいね。
基本用語①賃金とは?
まずは基本中の基本、労働基準法の「賃金」に関連する部分を確認してみましょう。
「賃金」は、労働基準法で以下のように定められています。
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
引用元:【総務省】電子政府の総合窓口 e-gov 労働基準法 第十一条
「賃金」は、○○手当などの名称や、月々の給料か・賞与かに関係なく、「使用者が労働者に支払うものすべて」を指していることがわかります。
基本用語②労働者・使用者とは?
さて、先ほどの労働基準法第11条で登場する「労働者」「使用者」とは一体誰でしょう?この「労働者」「使用者」についても、同じ労働基準法では次のように定められています。
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
引用元:【総務省】電子政府の総合窓口 e-gov 労働基準法 第九条
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
引用元:【総務省】電子政府の総合窓口 e-gov 労働基準法 第十条
つまり、雇用されて賃金を支払われる人が「労働者」ということですね。そして「使用者」は、会社本体だけではなく、代表・取締役などの経営に携わる人々や、『人事部や直属の上司など労働者に関わる業務に携わっている人々すべて』を広範囲で指していることがわかります。
賃金の支払いに関連する法律
次は労働基準法の内容について、特に賃金の「支払い」に関連する部分を確認していきましょう。
(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない
引用元:【厚生労働省】賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。
一文で一気に読むと少し難しく感じますが、この文の内容を要素ごとに書き出したものが「賃金支払いの5原則」です。
- 通貨支払いの原則
- 直接払いの原則
- 全額支払いの原則
- 月1回以上の原則
- 一定期日払いの原則
今回はこの「賃金支払いの5原則」から、とりわけ給与前払いサービスに深く関連する【通貨払い・直接払い・全額払い】の3項目について取り上げます。
①通貨払いの原則
賃金は、通貨での支払いが義務付けられています。
「通貨」とは「現金」を意味します。労働者の同意を得ることで、労働者の指定する本人名義の銀行口座や証券口座への振込による支払いも認められています。
海外では、ペイロールカード(給与を支払うために用いるプリペイドカード)による給与支払いがすでに普及しています。しかし、日本ではまだペイロールカードなど電子マネーによる給与の支払いは認められていません。
②直接払いの原則
賃金は、本人に直接支払うことが義務付けられています。
使用者はたとえ労働者本人からの申し出であっても、『家族や代理人などの第3者への給与支払いはできない』ということです。
銀行口座への振込でも、家族を含め他人名義の銀行口座で受け取ることはできず、使用者名義の銀行口座から労働者本人名義の銀行口座への支払いが行われています。
③全額払いの原則
賃金は、支払われるべき額を必ず全額支払うように義務付けられています。使用者の都合で勝手に天引きしたり、額を減らしたりすることはできません。
しかし例外として、所得税や社会保険料など法令で定められているものと、労使協定を結んだ場合に限り、根拠や内容が明確であるもの(購買代金、福利厚生費用、組合費など)については、賃金から控除することが認められています。
給与前払いサービスの手数料を福利厚生費用として賃金控除することは、きちんと労使協定を結んでいれば、『法律には違反しない』ということです。
まとめ
いかがでしたか?今回は、給与前払いサービスに関連する法律の基本用語と、労働基準法の中の賃金支払いに関する基礎知識を説明しました。
給与前払いサービスを導入される際には、コンプライアンスリスクにも注意を向け、検討しているサービスが法令を遵守している仕組みなのかどうか、事前にしっかり確認することをお勧めします。