東京都では2021年7月12日以来継続されてきた緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置も9月末をもってようやく全面解除となりました。その後のワクチン普及という安心感もあってか、これまで3度経験した緊急事態宣言の「解除後」と比べても、ここ最近は「コロナ前の日常」を思い出すような人混みに遭遇する機会が増えてきたように感じます。
さて、このような状況において、コロナ禍で大きな痛手を受けた飲食業で働く従業員の就業状況に回復はみられたのでしょうか?
マイナビグループである株式会社エーピーシーズは、給与前払い福利厚生『速払いサービス』を12年以上運営しており、現在、導入企業から日々お預かりしている従業員の勤怠実績データは月間で約24万人分、給与となる勤務実績金額は約200億円分にのぼります。
このお預かりしている勤怠実績データをもとに、今回は飲食業で働くアルバイト・パート従業員の「稼働人数」「勤務実績金額」をコロナ禍の前後で比較し、緊急事態宣言が全面解除されてから2ヶ月が経過した飲食業界の就業実態について、これまでの経緯とともにまとめました。
これまでの動き(東京23区)
緊急事態宣言 | まん延防止重点措置 |
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第1回:2020/4/7~5/25 第2回:2021/1/8~3/21 第3回:2021/4/25~6/20 第4回:2021/7/12~9/30 | 2021/4/12~9/30 (緊急事態宣言期間中を除く) |
飲食業全体
稼働人数・勤務実績金額はまだ2020年と同水準
□稼働人数 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
□勤務実績金額 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
飲食業全体でみると、1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月、5月は稼働人数・勤務実績金額ともに2019年の5割以下と急激に落ち込んでいます。
2回目以降の緊急事態宣言下では、稼働人数には大きな変化は見られないものの勤務実績金額は下がっており、時短営業の影響をうけ従業員一人ひとりの勤務時間が短くなったと考えられます。
2021年10月から緊急事態宣言が解除され人流が大きく増加したような体感はありますが、飲食業全体の稼働人数・勤務実績金額は2020年同月とほぼ同程度であり、まだそれほど回復していないことがわかります。
採用市場は活性化
全国求人情報協会(全求協)が11月25日にリリースした以下の調査結果では、飲食関連(給仕・調理)の求人は2020年に比べて35%〜40%もの増加となっており、同月の日本経済新聞(電子版)でも飲食企業の求人急増や人手不足が報じられています。
<全国求人情報協会-求人広告掲載件数等集計結果>
https://www.zenkyukyo.or.jp/outline/research/
以上のことから、飲食企業の採用意欲・営業意欲は戻りつつあるが、それを満たすほどの人員は戻ってきておらず、「採用したくても採用できない」 「営業時間を増やしたくても人が足りない」状態が発生していると考えられます。
人手不足の解消には時間がかかる可能性も
2020年6月に緊急事態宣言が解除されたあと、エーピーシーズが2,241名のユーザーを対象に独自調査した『コロナウイルスの影響に関するアンケート』では、全体の36%が「新しい仕事を探している」「すでに新しい仕事に就いている」と回答、このうち51%が「一時的なものではなく元の仕事に戻るつもりはない」と回答しています。コロナ禍で転職を余儀なくされた人々の「元の職種に戻ろう」とする意欲は高いとは言えず、飲食企業の人手不足は短期的なものではなく、長引く可能性も考えられます。
業態別①レストラン・カフェ
ダメージは大きかったが、コロナ以前の8割程度まで回復
□稼働人数 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
□勤務実績金額 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
レストラン・カフェ業態の2020年5月の両数値の落ち込みは、緊急事態宣言と休業要請の影響の甚大さを表しています。
いったん制限が解除された2020年6月以降は2019年同月の50%程度までは持ち直しますがその後も70%を超える事はなく、2021年に入ってからも緊急事態宣言の発令ごとに数値が落ち込んでいます。
2021年10月の宣言解除以降は回復傾向にあり、稼働人数・勤務実績金額ともにコロナ禍中の2020年同月を上回ってきていますが、コロナ禍前の2019年同月と比較するといずれも8割程度しか回復していない状況です。
稼働人数よりも勤務実績金額の回復傾向が多少強いのは、最低賃金の改正と、思うように採用活動が進まず、一人ひとりの労働時間が増加していることが原因と考えられます。
業態別②居酒屋・ダイニングバー
わずかに回復したが、現在もコロナ禍前の半分以下
□稼働人数 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
□勤務実績金額 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
居酒屋・ダイニングバー業態の2020年1回目の緊急事態宣言下では、稼働人数が2019年比で3割以下、勤務実績金額は1割まで下がり、ほとんど営業できていない状況が伺えます。
宣言解除された2020年6月以降も時短要請や自粛ムードが続き、稼働人数で50%台、勤務実績金額で40%台にとどまり、2021年に入ってからはそれをさらに下回る就業状態が続いています。
2021年10月以降は多少の回復は見られますが、稼働人数・勤務実績金額いずれもコロナ禍前の2019年11月の半分に届かず、飲み会離れした顧客を思うように呼び戻せていないようです。
業態別③ファストフード
他業態に比べると影響は少なめ
□稼働人数 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
□勤務実績金額 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
ファストフード業態では、1回目の緊急事態宣言下こそ勤務実績金額が2019年の7割程度まで下がりましたが、その後は他業態ほどの大きな変動はなく、特に稼働人数はほぼ平年並みの水準を維持しています。
昼食がメインの売上となっている店舗が多いこと、店内飲食だけでなくテイクアウトやデリバリーなど小回りが効きやすい営業方法をとっている店舗が多いことが要因として考えられます。
業態別④デリバリー
コロナ禍でプラスに動いた唯一の業態、現在はコロナ以前と同水準
□稼働人数 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
□勤務実績金額 ○コロナ前(2019年)との同月比
赤:1/2以上が緊急事態宣言下となった月
デリバリー業態は、在宅時間が増えるコロナ禍で一気に需要が高まりました。
2020年5月の1回目の緊急事態宣言のタイミングでも、飲食系のなかで唯一、勤務実績金額を大きく伸ばしています。稼働人数にはほとんど変動がないことから、既存従業員ひとり当たりの勤務時間が長くなった、と考えられます。
その後も緊急事態宣言が出されるタイミングに合わせて勤務実績金額が増加し、他の業態とはまったく違う動きをみせています。
各宣言がひととおり解除された2021年10月、11月は「そろそろ外食したい」という意識の表れか、コロナ禍前の水準に落ち着いているようです。
まとめ
飲食業で働くアルバイト・パート従業員のコロナ禍の就業実態についてまとめました。
ワクチンの普及や各宣言の解除、酒類の提供解禁など明るい話題も多く大幅な回復を予想していましたが、外食や飲み会にはまだ慎重な空気があること、業界全体で人手不足が発生していることから、コロナ禍以前の状態に戻るにはもう少し時間がかかりそうです。
好きな仕事に思う存分打ち込んで、帰り道に仕事仲間や友人と安心して外食を楽しめるような生活が一刻も早く戻ることを願っています。