管理職が対応すべき労務管理にどのようなものがあるのか知りたい。

本記事は上記のような方に向けて、労務管理の概要や労働基準法における管理職の定義なども踏まえ、対応すべき労務管理についてご紹介します。

最後に労務管理を実施する際のポイントもご紹介しているため、ぜひご一読ください。

そもそも労務管理とは

まずは労務管理の概要や目的、人事管理との違いについてご紹介します。

労務管理の概要

労務管理とは全ての従業員の勤怠や労働条件の管理、安全衛生などについて行う業務です。

労働基準法41条に定められた管理職(管理監督者)が実施主体となり、責任をもって遂行することが求められます。

労務管理は企業の重要な資産である従業員に関わる重要な業務と言え、適切に実施しなければ、事業存続にも大きな影響を与えかねません。

そのため、企業は労働基準法などの関連法令に基づき、正しい労務管理を行う必要があるでしょう。

労務管理の目的

労務管理の目的には大きく「従業員の働きやすい環境の構築」と、「トラブルや労災などの防止」が挙げられるでしょう。

従業員が適切に働くことができるインフラを整えることで、業務パフォーマンスや生産性向上を図ります。

また労働時間や賃金といった契約の適切な維持は勿論、安全衛生やハラスメント対策などにも適切に取り組むことで、労使間のトラブルや労働災害リスクなどを抑止する役割もあります。

労務管理と人事管理の違い

労務管理と近い概念として、人事管理があります。

人事管理は「人事」という言葉があるように、従業員一人ひとりにフォーカスし、採用や教育、評価などを取り扱う業務です。

一方、労務管理は先述のとおり、全ての従業員が安心して、適正に働ける環境を構築する業務と言えます。

ただし、企業によっては労務管理と人事管理がほとんど一体化しており、人事管理と呼びながら労務管理まで網羅しているといったケースもあります。

また単純な勤怠管理などを「労務管理」としているケースもありますが、勤怠管理はあくまで労務管理における対象の一つに過ぎません。

労働基準法における管理職:管理監督者とは

労務管理の実施主体となるのは、労働基準法によって定められた管理職:管理監督者です。

ここからは管理監督者の定義や、一般的な管理職との違いについて確認しましょう。

管理監督者の定義

労働基準法における管理監督者は、「労働条件の決定その他の労働管理について、経営者と一体的な立場にある者」と定義されています。

管理監督者は一般従業員とは異なり、労働基準法における労働時間や休憩、休日に関する規定の対象外となります。

ただし深夜労働や年次有給休暇に関する規定は、管理監督者も対象となる点は留意しましょう。

管理監督者の判断基準

労働基準法における管理監督者であるかどうかは、単なる役職ではなく、以下の4つの観点から総合的に判断されます。

  1. 労働時間などの規制の枠を超えて対応しなければならない重要な職務内容であるか
  2. 1を遂行する上での重要な責任と権限を有しているか
  3. 実際の勤務態様が労働時間などの規制になじまないものであるか
  4. 賃金などの待遇において、その地位にふさわしい待遇がなされているか

たとえ部長や課長といった役職に就いていたとしても、上記の観点から管理監督者に当たらないケースも往々にしてあるでしょう。

その場合、部長や課長は管理監督者ではなく、各種労務管理の対象となる労働者となります。

「部長に任命したから、残業代は支払わなくていい」といった安易な対応をしてしまうと、労働関連法令違反に直結するため注意しましょう。

管理職(管理監督者)が行うべき労務管理

ここからは管理監督者である管理職が実施すべき主な労務管理の内容についてご紹介します。

1.賃金

労務管理では、賃金に関する規定整備や管理を実施します。

例えば賃金支払いの5原則を理解し、正しい形で従業員に給与を支払うことも、労務管理における重要なテーマとなるでしょう。

また地域別最低賃金や特定最低賃金を把握して適切な給与を設定することや、法定労働時間を超えた際に支払うべき割増賃金の規定なども把握しなければなりません。

2.労働時間・休憩

労働時間や休憩についても労務管理の対象となります。

法定労働時間や休日について正しく理解することは勿論、時間外労働・休日労働に関する36協定を把握した上で、適切な労働時間や勤怠管理を実施しなければなりません。

併せて労働時間に応じた正しい休憩時間の付与も行う必要があります。

3.年次有給休暇

次に労務管理の対象として挙げられるのは年次有給休暇です。

雇用形態ごとに適切な年次有給休暇を付与しつつ、時季変更権や年次有給休暇管理簿の保存ルールなども把握し、適切な運用を行います。

また年10日以上の年次有給休暇が付与される従業員については、付与後1年以内に5日取得させる必要がある点も押さえ、適切に管理することが求められるでしょう。

4.会社都合の休業

会社都合で従業員を休業させる場合の適切な対応も、労務管理で把握しておく必要があります。

所定労働日について、経営不振や設備不良などの兼ね合いで休業させた場合、平均賃金の6割以上の手当てを支払わなければなりません。

平均賃金は休業手当以外にも、各種補償や減給などの基準となるため、計算方法も併せて理解しておきましょう。

5.労働条件の明示

労働条件明示についても労務管理の対象となります。労働基準法15条に基づき、労働条件通知書に記載すべき事項を網羅し、正しい形で従業員に交付しましょう。

また常時10人以上の従業員を使用する事業場では、就業規則の作成と周知が義務付けられています。

該当する場合は就業規則の作成・周知にも適切に取り組み、労働条件が正しく従業員に理解されるように対応する必要があるでしょう。

6.労働契約の終了

労働契約が終了する際、各種関連法令の規定に基づき適切に対応しなければなりません。

解雇は合理的な理由がなければ無効となる点は勿論、やむをえず解雇する際は少なくとも30日前までに予告する必要がある点は理解しておきましょう。

もし解雇予告を行わない場合、解雇までの日数に応じて解雇予告手当を支払う必要がある点も留意してください。

また従業員から請求があった際は、速やかに退職証明書を交付しなければならない点も理解しておきましょう。

7.健康管理・ハラスメント対策

従業員の心身の健康管理も、労務管理における重要なテーマです。

従業員の健康管理のため、健康診断や長時間労働の防止施策の実施、メンタルヘルスケアやハラスメント対策といった対応が求められます。

時間外・休日労働が1か月80時間を超え、疲労が認められる従業員に対しては、医師による面接指導を行うなど、企業として適切な安全衛生に努めましょう。

8.労働災害などへの対応

労働災害の防止や発生時の対応も労務管理における対象となります。

職場の従業員の安全を確保するため、設備の点検や事業所内の危険個所の洗い出しなど、労働災害を防止することが求められるでしょう。

また労働災害が発生した際は労災補償などの適切な対応を行いつつ、労働者死傷病報告の提出なども滞りなく行う必要があります。

参考:労務管理の基本的ルール|山口労働局監督課

労務管理を行う上でのポイント

最後に労務管理を実施する上でのポイントをご紹介します。

ポイント①:労働関連法令を正しく理解する

労働基準法や労働安全衛生法をはじめとした労働関連法令について、管理監督者を含めた企業側が正しく把握しなければ、適切な労務管理はできません。

そのためこれらの法律については正しく理解し、法改正が行われる場合はその内容をキャッチアップする必要があるでしょう。

定期的に社内勉強会を行ったり、企業として法令関連の資料を作成して配布したり、理解を促しましょう。

ポイント②:DE&Iの考え方を取り入れる

適切な労務管理を行う上で、DE&Iの考え方を取り入れることも重要なポイントになります。

DE&I(Diversity・Equity&Inclusion)とは、従業員の多様性を受け入れ、公平性を担保しながら、一人ひとりが個性や能力を発揮できる環境を整えていく考え方です。

現在は多様な考えを持つ労働者が増えており、働きやすいと感じる環境も三者三様となっています。

そのため労務管理においてもDE&Iの考えを取り入れ、多様な従業員を受け入れる土壌を整えていく必要があるでしょう。

ポイント③:PDCAを回す

労務管理を適切に取り組むには、PDCAを回すことも重要なポイントになるでしょう。

長時間労働や従業員の健康など労務管理上の課題がある場合、課題の根本的な原因を踏まえた上で、適切な解決策を検討しなければなりません。

検討した施策を実行した後、効果を検証して更に改善していくPDCAサイクルを回すことで、労務管理のレベルを高めていくことができるでしょう。

ポイント④:労務管理業務を効率化する

労務管理は多岐にわたる業務を伴うため、いかに効率的に行うかも重要なポイントです。

例えば、労務管理には従業員に関する情報を適切に管理したり、労働時間などのデータを的確に把握したりすることが欠かせません。

しかし、これらの作業を全て手作業で行っていては、管理職の負荷が大幅に高まってしまうでしょう。

そのため、労務管理システムなどを導入し、データの把握や分析作業を効率化することをおすすめします。

まとめ

労務管理は、企業が発展していく上で欠かせない重要な業務と言えます。

適切な労務管理が行われていなければ、従業員のパフォーマンスを十分に引き出せず、事業運営に支障をきたす恐れがあるためです。

そのため管理監督者を軸としつつ、人事部門や現場責任者の協力を得ながら、企業全体で正しい労務管理に取り組む必要があるでしょう。

ぜひ本記事を参考に労務管理に取り組んでいただければ幸いです。

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