派遣スタッフへの教育訓練は、派遣先も実施する必要があるのか知りたい。
この記事は上記のような方に向けて、教育訓練の概要や目的、派遣先が実施すべき内容などをわかりやすく解説します。
教育訓練の実施形式や実施する上で注意すべきポイントなどもご紹介しているため、ぜひ最後までご確認ください。
派遣スタッフの教育訓練とは
まずは派遣スタッフの教育訓練の概要や義務化された内容などについて紹介します。
派遣スタッフに実施する教育訓練の概要
派遣スタッフの教育訓練とは、派遣スタッフとして就業する上で必要な知識やスキルを身に付けてもらうために実施する研修や訓練の総称です。
派遣元企業において実施する「キャリア形成支援制度」の一部であり、社会人としての基本的なコミュニケーションスキルやPCスキルなどは勿論、業務に必要な知識や技術を学習してもらいます。
基本的には全ての派遣スタッフが対象となり、派遣元と派遣先が協力しながら取り組むことになるでしょう。
派遣スタッフへの教育訓練実施は義務
2015年の派遣法改正以降、派遣スタッフへの教育訓練を含めたキャリアアップ措置の取り組みは、派遣元企業の義務となっています。
2015年の法改正時点では派遣先による教育訓練は努力義務でしたが、2018年に行われた改正によって、2020年4月から派遣先にも教育訓練に関する義務が課されました。
そのため派遣スタッフを活用する場合、派遣先も適切な教育訓練を実施しなければなりません。
教育訓練実施は義務であるため、派遣スタッフ側も拒否できない点は留意しておきましょう。
派遣スタッフに対して教育訓練を行う目的
派遣スタッフに対する教育訓練を実施する目的としては、以下の点が挙げられます。
目的①:派遣スタッフのスキル向上やキャリア形成
適切な教育訓練を施すことで、派遣スタッフのスキルアップや中長期のキャリア形成などを図ることを目的としています。
目的②:雇用機会の拡大
教育訓練によって派遣スタッフのキャリアを構築することで、どのような企業でも通用するスキルを習得させ、雇用機会の拡大を目指します。
目的③:同一企業内での不合理な待遇差の解消
正社員に対して実施する教育訓練などを派遣スタッフにも提供し、スキルアップや給与改善を実現することで、正社員との間にある不合理な待遇差の解消を図ります。
そもそもキャリア形成支援制度とは
ここで派遣スタッフに実施する教育訓練の前提となっている、キャリア形成支援制度について、簡単に確認しておきましょう。
派遣元企業はキャリア形成支援制度として、以下の4点を踏まえた取り組みの実施が義務付けられています。
1.教育訓練の実施計画の策定
一つ目は教育訓練の実施計画の策定です。
全ての派遣スタッフを対象として、キャリアアップに資する内容の教育訓練計画を策定し、実施することが求められます。
また無期雇用派遣のスタッフについては、長期的なキャリア形成を踏まえた教育訓練計画を策定しなければなりません。
派遣先も派遣元が立てた教育訓練計画を前提に協力する必要があります。
2.キャリア・コンサルティングの相談窓口の設置
次に挙げられるのは、キャリア・コンサルティングの相談窓口の設置です。
派遣元企業は、希望する全派遣スタッフがキャリアについて相談できる窓口を設ける必要があります。
さらにその窓口には、キャリア・コンサルティングに関する知見を持った人材を配置しなければなりません。
3.キャリア形成を踏まえた派遣先の提供
キャリア形成を踏まえた派遣先の提供も、キャリア形成支援制度に含まれます。
派遣スタッフの希望するキャリアを踏まえて、適切な派遣先を提供するために、派遣元は手続きやマニュアル、仕組みなどを整備しなければなりません。
4.教育訓練の時期・頻度・時間数について
教育訓練の時期や頻度、時間数についても規定があります。
派遣スタッフ全員に対して入職時の教育訓練は必須であり、入社後3年間は毎年一回以上実施するなど、一定期間ごとにキャリアパスに応じた研修を用意しなければなりません。
またフルタイムの派遣労働者に実施する際は、毎年8時間以上の訓練提供が義務付けられており、これらの実施において就業時間などに配慮する必要があります。
派遣先が行うべき教育訓練の内容
続いて派遣先が行うべき教育訓練の具体的な内容について解説します。
業務遂行に必要なスキルを付与するための教育訓練
まず挙げられるのが、業務遂行に必要なスキルを付与するための教育訓練です。
受け入れた派遣スタッフが担当する業務について、適切かつ円滑に従事してもらうために必要な技術や知識を学習させます。
具体的には、自社で同一業務に従事している正社員に対して実施する研修などを、そのまま派遣スタッフに対して提供することになるでしょう。
ただし派遣先で実施すべき教育訓練は、派遣元企業では実施できないものに限り、派遣元企業でも実施できる内容であれば、実施する必要はありません。
派遣元が実施する教育訓練への協力
先の実務に関する教育訓練と併せて、派遣元が実施する教育訓練への協力も求められます。
派遣元が取り組むキャリア形成プログラムに基づき、派遣元から研修やOJTなどの実施について協力依頼が来た場合は可能な限り協力し、便宜を図らなければなりません。
具体的な内容は派遣元などによって異なりますが、こちらも基本的には派遣元企業の環境では実施できない内容になることが想定されます。
【補足】教育訓練を行う派遣先側のメリット
受け入れた派遣スタッフに対して適切な教育訓練を実施し、スキルアップに注力することで、業務パフォーマンスを高めることができます。
また教育訓練の適切な機会を与えてくれる派遣先企業に対しては、派遣スタッフもロイヤリティ(忠誠心や愛着心)を抱きやすくなり、結果的に離職防止や社員化などにも繋げやすくなるでしょう。
派遣スタッフに教育訓練を実施する際の形式
ここからは派遣スタッフに対して教育訓練を実施する際の主な形式をご紹介します。
集合研修(OFF-JT)
一つ目にご紹介する形式は、集合研修(OFF-JT)です。
派遣スタッフを含めた受講者を講義室や会議室などに集め、業務に関する知識やスキルを講師が座学などの形式で教示する教育訓練となります。
講師については該当業務に関するベテラン社員に任せる場合もあれば、外部のプロ講師に依頼する場合もあります。
実践が伴わないという欠点があるものの、次に紹介するOJTと組み合わせて実施することで、現場で学んだスキルや知識を体系化できるでしょう。
OJT
次に挙げられるのはOJTです。
派遣スタッフに専属の教育担当者を付けた上で、実際の業務に従事してもらいながら、必要なスキルや知識について実践を通じて身に付けてもらう形式となります。
実際の業務を通じて学習していくため、習得効果が高いという特長がありますが、業務ごとに「点」で知識やスキルなどを学ぶため、技術や知識を体系化することには向きません。
また教育担当者の教育ノウハウなどにも効果が左右されるため、業務マニュアルなどを別途用意し、それに基づきOJTを実施してもらうといった工夫が求められます。
e-ラーニング
形式の最後にご紹介するのは、e-ラーニングです。
インターネット上で教材テキストや動画などを提供し、派遣スタッフのスキルや知識向上に繋げる形式となります。
学習内容としては集合研修(OFF-JT)に近いですが、自宅や業務用デスクなど、場所を選ばずに受講してもらえるという利点があります。
必要に応じて教材などを復習することもできるため、派遣スタッフにとって利便性の高い形式と言えるでしょう。
派遣スタッフに教育訓練を実施する際の注意点
最後に派遣スタッフに対して教育訓練を実施する際の注意点として、以下の点を紹介します。
注意点①:訓練費用は負担する必要がある
一つ目の注意点は、訓練費用を負担する必要があるという点です。
派遣スタッフに対して教育訓練を実施する際の費用は、派遣先である自社が負担する必要があります。
派遣スタッフや派遣元企業に対して請求したり、受講した時間分を派遣料金から差し引いたりすることはできません。
注意点②:派遣先管理台帳に記載する
次に挙げられるのは派遣先管理台帳に記載するという点です。
業務内で派遣スタッフに対してOJTを実施したり、業務外での教育訓練などを実施したりした場合、その内容や実施日時を派遣先管理台帳に記載しなければなりません。
もしこれらの内容を記載しなかった場合、派遣法61条第3号の規定により、30万円以下の罰金が科せられます。
まとめ
今回は派遣スタッフへの教育訓練をテーマに、概要や派遣先が実施すべき内容などをまとめて解説してきましたが、いかがでしたか。
派遣スタッフは多くの企業にとって貴重な労働力となり、また正社員の候補者にもなり得ます。
そのため派遣先としても派遣スタッフに対しては適切な教育訓練を実施し、業務パフォーマンスを高めるとともに、関係性などを構築しておく必要があるでしょう。
ぜひこの記事を参考に、派遣スタッフへの教育訓練に取り組んでいただければ幸いです。