労使協定の届出を各事業所で実施しており、届出のたびに大きな負荷となって困っている。
本記事は上記のような課題を抱えている方に向けて、本社による一括届出をご紹介します。
概要やメリット・デメリットに加え、対象となる協定や具体的な流れなどをわかりやすく解説しているため、ぜひ最後までご確認ください。
労使協定の一括届出とは

まずは労使協定の一括届出の概要やメリットについて確認しましょう。
労使協定の一括届出の概要
労使協定の一括届出とは、事業場単位で労使協定を届出するのではなく、本社が一括で届ける手続き方法を指します。
労使協定の届出は事業場単位で実施することが原則になっていますが、協定ごとに設けられている特定要件を満たすことで本社による一括届出が可能です。
労使協定を一括届出するメリットとデメリット
労使協定を一括届出する場合の最大のメリットは、手続きの負担を削減できるという点です。
事業場単位で届出をした場合、それぞれの手続きを管理する必要があり、それだけ労使協定に関する業務に関する工数がかかってしまいます。
その点、本社一括で届出した場合は手続き工数を一本化できるため、結果的に工数削減に繋がるでしょう。
また各事業場における書類の印刷代など、余分なコストを削減できる点もメリットです。
ただし、一括届出の多くは電子申請のみとなっている点はデメリットと言えるでしょう。
そもそも労使協定とは
労使協定とは、企業と労働者代表との間で取り交わす個別の労働条件に関する書面契約です。
労働基準法の規定に収められない働き方を対象とし、双方合意の下で同法における既定の一部を除外することを目的に締結します。
労使協定と混同しやすいものとして、労働協約がありますが、これは賃金や労働条件、団体交渉などの労使関係ルールを労働組合と企業で定めるものです。
労働協約は労働組合員のみに適用されますが、労使協定は全従業員が対象となるといった違いもある点は押さえておきましょう。
労使協定の主な種類
労使協定には労働基準監督署に届出が必要なものと不要なものに分かれています。それぞれ代表的なものを確認しましょう。
労働基準監督署に届け出が必要なもの | 労働基準監督署への届出が不要なもの |
---|---|
任意貯蓄(貯蓄金管理に関する協定届)1か月単位の変形労働時間制1年単位の変形労働時間制1週間単位の非定型的変形労働時間制フレックスタイム制(清算期間が1か月以内のときは不要)時間外・休日労働(36協定)事業場外労働のみなし労働時間制(労働時間が法定労働時間を超えていなければ不要)専門業務型裁量労働 | フレックスタイム制に関する労使協定(清算期間が1か月を超えない場合)年次有給休暇の計画的付与に関する協定時間単位での有給休暇の付与に関する協定年次有給休暇の賃金を標準報酬日額で支払う場合の協定育児休業、看護休暇および介護休業ができない者の範囲に関する協定休憩の一斉付与の例外に関する協定賃金から法定控除以外の控除を行う場合の協定 |
本社による一括届出が可能な労使協定など

ここからは本社による一括届出が可能な労使協定についてご紹介します。
1.時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)
時間外労働・休日労働に関する協定、いわゆる36協定は本社一括による届出ができます。
36協定の本社一括届出を行うための条件は以下のとおりです。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・労働保険番号 ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・労働者数(満18歳以上の者) ・協定成立年月日(労働者側)協定当時者 |
2.1年単位の変形労働時間制に関する協定
1年単位の変形労働時間制に関する協定も、以下の条件を満たすことで本社一括による届出ができます。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・常時使用する労働者数 ・該当労働者数(満18歳未満の者) ・協定成立年月日(労働者側) ・協定当事者 |
3.1か月単位の変形労働時間制に関する協定
1か月単位の変形労働時間制に関する協定も本社一括届出が可能な労使協定の一つです。
以下の要件を満たすことで本社一括届出ができます。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・常時使用する労働者数 ・該当労働者数(満18歳未満の者) ・協定成立年月日(労働者側) ・協定当事者 |
4.1週間単位の変形労働時間制に関する協定
1週間単位の変形労働時間制に関する協定についても、以下の要件を満たすことで本社一括届出が可能です。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・常時使用する労働者数 ・該当労働者数(満18歳以上の者) ・協定成立年月日(労働者側) ・協定当事者 |
5.事業場外労働のみなし労働時間制に関する協定
事業場外労働のみなし労働時間制に関する協定は、以下の要件を満たすことができれば、本社一括での届出ができます。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・該当労働者数 ・36協定の届出年月日 ・協定成立年月日(労働者側) ・協定当事者 |
6.専門業務型裁量労働制に関する協定
専門業務型裁量労働制に関する協定についても、本社一括による届出が可能です。
具体的には以下の要件を満たす必要があります。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・労働保険番号 ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・該当労働者数 ・時間外労働に関する協定の届出年月日 ・協定成立年月日(労働者側) ・協定当事者 |
7.企画業務型裁量労働制に関する決議届
企画業務型裁量労働制に関する決議届も、以下の要件を満たすことで本社一括による届出が可能です。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・労働保険番号 ・事業の種類事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・常時使用する労働者数 ・労働者数 ・決議の成立年月日 ・時間外労働に関する協定の届出年月日 ・委員会の委員数 ・任期を定めて指名された労働者側委員の氏名、任期 ・その他委員の氏名 ・委員会の委員の半数について任期を定めて指名した労働組合の名称または過半数代表者の職名お よび氏名 |
8.企画業務型裁量労働制に関する報告
企画業務型裁量労働制に関する報告も、以下の要件を満たせば本社一括による手続きができます。
⚫︎電子申請による届出であること ⚫︎協定事項のうち以下の事項以外が同一であること ・労働保険番号 ・事業の種類 ・事業の名称 ・事業の所在地(電話番号) ・常時使用する労働者数 ・制度の適用労働者数 ・同意した労働者数(同意を撤回した労働者数) ・労働者の1か月の労働時間の状況 ・労働者の健康および福祉を確保するための措置の実施状況 |
9.就業規則届
就業規則を本社一括で届けるには以下の要件などを満たす必要があります。
届出を行う場合の基本条件 | 電子媒体による届出を行う場合 |
---|---|
⚫︎以下のいずれも満たしていること ・本社で作成された就業規則と各事業場の就 業規則の内容が同一であること ・各事業場分の労働者代表の意見書が添付されていること | ⚫︎電子媒体の種類が以下のいずれかであること ・CD-ROM ・CD-R ・CD-RW ・DVD-R ・DVD-RW ⚫︎電子媒体が以下のいずれかで動作すること ・Windows Vista ・Windows7 ・Windows8 ・Windows10 ⚫︎電子媒体の文書形式が原則HTML形式であること |
参照:「36協定届」や「就業規則(変更)届」など労働基準法などの電子申請がさらに便利になりました!|厚生労働省
労使協定などの一括届出を行う方法

続いて、労使協定などの一括届出を行う方法について確認します。
一括届出には電子申請が必要
ここまで見てきたように労使協定などの一括届出を行うには、基本的に電子申請が求められます。
そのため、まずは「e-Gov電子申請」のアカウントを取得しなければなりません。
e-Govアカウントは以下のページから作成できるため、あらかじめ取得しておきましょう。
電子申請による一括届出の流れ
電子申請による一括届出の流れについて、36協定を例に大まかな流れを確認します。
具体的には大きく以下の5つのステップを踏むことになります。
1.e-Govにログイン
事前準備として取得したアカウントを使用し、e-Govにログインします。
初回ログインのタイミングで、ブラウザのポップアップブロックの解除や信頼済みサイトへの登録、電子申請アプリケーションのインストールも実施しましょう。
2.手続検索から「時間外労働・休日労働に関する協定届(本社一括届)」を選択
ログイン後、手続検索の画面で「本社一括」といった検索ワードで検索すると、該当する手続きが一覧表示されます。
その中から、「時間外労働・休日労働に関する協定届(本社一括届)」を選択しましょう。
3.一括届出事業場一覧を作成する
続いて各事業場の名称や所在地、所轄労働基準監督署長名などを明確化するため、36協定の対象となる事業場一覧を作成します。
一括届出事業場一覧作成ツールは、同じくe-Gov電子申請内の手続検索結果から、該当する手続を選んだ際に表示される詳細画面の「根拠法令」からダウンロード可能です。
4.申請書に必要事項を記入する
次に法人番号や代表氏名、住所といった基本情報に加え、申請様式への記入を行います。
また先ほど作成した一括届出事業場一覧書類を添付することを忘れないようにしましょう。
5.提出先選択と内容確認
最後に本社を管轄する労働基準監督署を提出先として選択し、「内容を確認」をクリックします。
その後、申請内容確認画面が表示されるため、問題なければ画面下部に表示される「提出」ボタンをクリックすると申請完了です。
参考:「36協定届」や「就業規則(変更)届」など労働基準法などの電子申請がさらに便利になりました!|厚生労働省
労使協定などの一括届出を行う際の注意点

最後に労使協定などを一括届出するにあたっての注意点をご紹介します。
1.入力内容を入念に確認する
一つ目のポイントは、入力内容を入念に確認するという点です。
一括届出では電子申請となるため、窓口における申請のように担当者から内容に関する不備などを指摘してもらうことができません。
入力確認の際にエラー表示される機能はあるものの、あくまで未入力などを検出する機能であるため、しっかりと内容を確認した上で申請しましょう。
2.添付ファイル容量に上限がある
二つ目のポイントは、添付ファイル容量に上限があるという点です。
一括届出において電子申請を行う際、一括申請の対象となる事業場のリストファイルなどを添付する必要があります。
ただし電子申請において添付できるファイル数は99個、1ファイルの上限容量50MBなど、添付容量の上限が決められている点には注意しなければなりません。
まとめ
労使協定は労働者の働き方について定義する重要な契約であるため、大半の企業が36協定をはじめ、何かしらの労使協定を締結していることでしょう。
しかし労使協定の届出を事業場ごとに行うと、それだけ工数も増えてしまいます。
その点、それぞれ特定要件を満たす必要はありますが、本社一括届出に切り替えることで余分な工数やコストを削減できます。
ぜひ本記事を参考に本社一括届出を活用してください。