2013年4月に施行された改正労働契約法により、有期雇用で働く労働者について『無期転換ルール』が設けられました。現在ではこのルールにより、有期雇用の労働者は一定の条件を満たすことで無期雇用への転換が可能となっています。
本記事では、労働者から質問を受けたときのために、無期転換ルールの概要や特例について解説していきます。
無期転換ルールが作られた背景
有期雇用の労働者が、企業にとって不可欠な労働力となっているケースは多く見られます。この労働契約法改正以前の調査でも、有期雇用労働者の約3割が5年以上同じ職場で契約を更新し続けており、恒常的な労働力となっていることが明らかになっています。
一方、労働者にとっては、有期雇用で勤続期間が長くなると、雇用契約が更新されなくなる不安や、慣れ親しんだ職場で働けなくなる不安が大きくなっていくことが想像されます。
このような状況を踏まえ、有期雇用特有の「雇止め※」への不安を解消し、労働者が安心して働き続けることができる社会実現のために、労働者の意思で無期雇用契約に移行することのできる『無期転換ルール』が設けられました。
※雇止め=有期労働者の契約更新をおこなわず、雇用関係を終了すること
<参考資料>
・厚生労働省 平成23年有期労働契約に関する実態調査(個人調査)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/156-3a-1.pdf
・厚生労働省 有期契約労働者の無期転換ポータルサイト>事業主・人事労務担当者向け 導入支援策>無期転換ハンドブック
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000518484.pdf
無期転換ルールの概要
無期転換ルールは、有期労働契約を通算5年を超えて更新した場合に、労働者からの申込みがあれば、期間の定めのない無期労働契約が成立するというルールです。
このルールは、パートやアルバイト、契約社員、派遣社員など、すべての有期雇用労働者に適用されます。
たとえば派遣の場合、契約更新が5年を超える見込みになった時点で「無期転換申込権」が発生し、スタッフからの申し出があった場合は、派遣会社が申し出を拒否することはできず、更新時に労働契約を無期のものへ転換する必要があります。
無期転換申込権は「5年を超える見込み」となった時点で発生するため、契約期間が1年の場合は5回目の更新後に、3年の場合は1回目の更新後に発生することになります。
通算契約期間の数え方・クーリング期間とは
無期転換ルールの判断基準となる通算契約期間(通算5年)の数え方については、一定の期間を超えて途切れる場合はリセットする、という「クーリング」と呼ばれるルールがあります。
クーリングが適用される無契約期間(=クーリング期間)はそれまでの通算契約期間ごとに定められていて、たとえ1年以上の通算契約期間があったとしても、途切れる期間が6ヶ月を超えてしまうとカウントはリセットされます。ただし、育児休業など休暇制度を利用している期間については、労働契約自体は継続しているため通算契約期間に含めることとなります。
無契約期間前の通算契約期間 | クーリングが適用される無契約期間 |
---|---|
2ヶ月以下 | 1ヶ月以上 |
2ヶ月超〜4ヶ月以下 | 2ヶ月以上 |
4ヶ月超〜6ヶ月以下 | 3ヶ月以上 |
6ヶ月超〜8ヶ月以下 | 4ヶ月以上 |
8ヶ月超〜10ヶ月以下 | 5ヶ月以上 |
10ヶ月超〜 | 6ヶ月以上 |
たとえば下の図のように、1年契約を1回更新して通算2年働いたあと、6ヶ月未満の無契約期間を挟んで再び有期労働契約で2年、もう1度6ヶ月未満の無契約期間を挟んで1年働いた場合、通算契約期間は 最初の2年 や 途中の2年 も含めて「5年」となります。
無期転換ルールの特例
無期転換ルールには、一定の条件下での特例が設けられています。
Ⅰ.高度専門職・継続雇用の高齢者に関する特例
下記①②の特例は2015年4月から施行された「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法」によるもので、この適用を受けるためには、事業主が雇用管理措置の計画を作成した上で、都道府県労働局長の認定を受けることが必要です。①の場合はプロジェクトごとに、①②両方の適用を受けたい場合は①②それぞれ別の計画で認定申請が必要なので注意しましょう。
Ⅰ-① 高度専門職
・高収入(そのプロジェクトで支払われる見込みの賃金の額が1年間あたり1,075万円以上)で高度な専門的知識等を有し
・その高度の専門的知識等を必要とし、5年を超える一定の期間内に完了する業務(=5年以上かかるが、あらかじめ完了時期が決まっているプロジェクトなど)に従事する
有期雇用労働者は、そのプロジェクトに従事している期間は無期転換申込権が発生しません。(上限10年)
<高度専門職の範囲>
1.博士の学位を有する者 2.公認会計士、医師、歯科医師、獣医師、弁護士、一級建築士、税理士、薬剤師、社会保険労務士、 不動産鑑定士、技術士または弁理士 3.IT ストラテジスト、システムアナリスト、アクチュアリーの資格試験に合格している者 4.特許発明の発明者、登録意匠の創作者、登録品種の育成者 5.大学卒で5年、短大・高専卒で6年、高卒で7年以上の実務経験を有する農林水産業・鉱工業・ 機械・電気・建築・土木の技術者、システムエンジニアまたはデザイナー 6.システムエンジニアとしての実務経験5年以上を有するシステムコンサルタント 7.国、地方公共団体等によって知識等が優れたものであると認定され、上記①から⑥までに掲げる者 に準ずるものとして厚生労働省労働基準局長が認める者 |
Ⅰ-② 継続雇用の高齢者
定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者は、その事業主による雇用が継続する間は無期転換申込権が発生しません。
※高年齢者雇用安定法に規定される「特殊関係事業主(いわゆるグループ会社)」に継続雇用される場合は、その特殊関係事業主が認定を受ける必要があります。
参照:厚生労働省 高度専門職・継続雇用の高齢者に関する無期転換ルールの特例について
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000818696.pdf
Ⅱ.大学等及び研究開発法人等の研究者、教員等に対する特例
大学及び研究開発法人の研究者や教員等については、研究能力の強化や教育研究の活性化等の観点から、無期転換申込権の発生までの期間が10年とされています。(2014年4月施行)
参照:大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する労働契約法の特例について
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000488206.pdf
無期転換後の労働条件や雇用形態
無期転換後の雇用形態としては、以下のような3つのパターンが想定されます。1パターンに決めておかなければならない、というものではありませんので、「無期転換社員」でスタートしてから「限定正社員」または「正社員」といったように、本人の希望や会社の状況に合わせて段階的な登用制度を設けることも可能です。
(a)無期転換社員
労働条件はそのまま、雇用契約期間のみを無期へ変更します。企業側の手続きも最小限で済み、労働者も環境に大きな変更を感じることなく、これまで通り働くことができます。
(b)多様な正社員(限定正社員)
従来想定されてきたいわゆる“正社員”とは異なり、仕事の範囲を限定した「職務限定正社員」や、転居を伴う転勤が発生しない「勤務地限定正社員」、「労働時間限定正社員」など、労働条件の一部を限定した正社員として雇用します。育児や介護・家事など制約のある労働者にも適用しやすく、ワークライフバランスに寄り添った働きやすい環境をつくれるうえ、労働者の働きがいや長期的な目標意識も喚起できるため、無期転換ルールの受け皿としてとても有用で、多くの企業に採り入れられている制度です。
(c)正社員
職務・勤務時間・勤務地等に制約のない、従前型の“正社員”として雇用します。すでに5年以上の雇用実績があるため、職場とのマッチングや能力についての心配はなく、採用活動の手間やコストをかけずに長期的な労働力を確保できます。「正社員としての働き口がなかった」等の理由で有期契約での雇用を選択していた労働者がいるなら、積極的に検討してみましょう。
無期転換をしない(雇止めをする)方法はある?
すでに無期転換権が発生している有期雇用労働者から無期転換の申し出があった場合、その申し出を拒否する方法はありません。労働者が申し出をした時点で無期労働契約が成立するので、無期雇用に転換される直前に契約を終了させても、無期労働契約を解除したことにはなりません。また、無期転換が決まっている労働者を有期契約の満了時や期間中に無理に解雇することは「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない」場合には無効になる、とされています。
さらに、無期転換ルールを避けることを目的に無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは「労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではない」とされていて、同じタイミングで条文化された「雇止め法理」により、一定の場合にはその雇止めが無効とされる場合があります。
労働契約法改正のあらまし
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000033690.pdf
e-GOV労働契約法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128
まとめ
無期転換ルールは、有期雇用労働者の就業の不安を取り除くために設けられた制度です。この制度がうまく働いて、労働者がより意欲的に仕事に取り組めるようになれば、企業にとっても大きなメリットとなります。
ただ、このルールが制定されてから10年が経った現在でも、内容を十分に理解できず、活用しきれていない労働者が多くいるのが実情のようです。身近に無期転換について迷っているスタッフを見つけたら、ぜひ積極的に声をかけ、相談に乗ってあげてください。
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