2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日から段階的に施行されます。
「男女とも育児休業をより取得しやすくする」のが今回の法改正のポイントで、出生時育児休業(産後パパ育休)制度の創設や、雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化などが盛り込まれます。育児・介護休業法の改正は令和に入ってからすでに2回目なので、管理体制に見落としがないように今一度、確認しておきましょう。
前回の改正をまとめた記事もありますのでぜひご覧ください。
それでは、今回の改正の新設・変更点のポイントと企業が準備すべき内容を、できるだけわかりやすく解説していきます。
育児・介護休業法改正の背景
今回の法改正の趣旨は ’出産・育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため’ とされています。
少子高齢化と人口減少、労働力の減少のなか、現状では働く女性の約5割が出産・育児を理由に退職しています。2020年5月に閣議決定された「少子化社会対策大綱」では第1子出産後の女性の就業継続率を2025年に70%まで引き上げたい、とされました。
また男性の家事・育児時間が長いほど、妻である女性の就業継続率が高くなり、第2子以降の出生率も高くなることがわかっているため、男性の育児休暇の取得率も2020年度調査結果の12.65%から、2025年までに30%まで引き上げることが目標とされています。
男性の育児休暇については、希望していながら取得できなかった人の割合は2020年度の調査で29.9 %にものぼり、取得しなかった人のうちの約半数が「会社に制度がない」「休暇を取得しづらい雰囲気だった」と回答していて、まだまだ社内環境が整っていない実情が伺えます。
参考:育児・介護休業法の改正について
参考:労働者調査 結果の概要
法改正がおこなわれると会社として対応すべきことも多く、面倒な部分に気が行きがちですが、近年の採用市場では「育児休業が利用しやすい会社かどうか」も重要視されています。必要最低限の準備をするだけでなく、よりよい環境整備に取り組んでいきたいところです。
参考:積水ハウス男性育休白書2021特別編
https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/special/
改正のポイント(施行日順)
今回の改正法の施行は2022年4月から3回に分けておこなわれますので、施行日順に改正のポイントを紹介していきます。
2022年4月1日施行 | ・育児休業を取得しやすい雇用環境の整備 ・個別周知・意向確認の措置 ・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 |
2022年10月1日施行 | ・出産直後の育児休業の枠組み『産後パパ育休』の創設 ・育児休業の分割取得が可能に |
2023年4月1日施行 | ・育児休業取得状況の公表の義務化 |
2022年4月1日施行
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
以下の4つの中からできれば複数、最低でも1つを実施します。
①育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
全社員か、少なくとも管理職全員に対して研修を実施します。編集可能な研修資料のサンプルデータが厚生労働省のホームページに用意されていますので、ダウンロードして活用できます。
<社内研修資料>
社内研修資料について|男性の育休に取り組む|育てる男が、家族を変える。社会が動く。イクメンプロジェクト
②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口や相談対応者の設置)
相談窓口や相談対応者を設置し、社員へ周知します。窓口は形式的なものではなく実質的な対応が可能なもの、とされています。設置したら適切な周知をおこない、従業員が利用しやすい体制を作っていきましょう。
③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
「自社の」事例なので、これまでに育休事例がなければ作成することはできません。育児休業取得を希望する社員が躊躇しないよう、性別・役職・部署・雇用形態に偏りが出ないように気をつけて作成し、提供します。
<参考様式>
④自社の労働者への育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
育児休業に関する制度の内容や、取得の促進につながるような事業所の方針がわかるものを事業所内やイントラネットに掲載し周知します。
<参考様式>
個別周知・意向確認の措置
本人またはその配偶者から妊娠・出産の申し出があったら、育休や関連する制度についてすみやかに周知・説明し、育児休業制度の取得意向を確認することが事業主の義務となります。その際、取得を控えさせるような形での周知・意向確認では認められない、とされているので、確認の仕方にも配慮しましょう。
参考様式:個別周知・意向確認書記載例、事例紹介、制度・方針周知 ポスター例
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
休業及び介護休業の取得要件のうち「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件を廃止 する。ただし、労使協定を締結した場合には、無期雇用労働者と同様に、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外 することを可能とする。
引用:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の 一部を改正する法律の概要
有期労働者の育児・介護休業の取得要件として、就業規則に『(1)引き続き雇用された期間が1年以上』の記載がある場合は、その記載を削除しておく必要があります。
ただし無期雇用労働者と同様に、あらかじめ労使協定を結んでいれば、雇用1年未満の従業員・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員等は制度の対象外とすることができます。
就業規則の変更(育児休業の場合)
現行 | 2022年4月1日〜 |
(1)引き続き雇用された期間が1年以上 (2)1歳6か月までの間に契約が満了すること | (1)撤廃 (2)1歳6か月までの間に契約が満了すること 無期雇用労働者と同様の取り扱い(引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は労使協定の凍結により除外可) 育児休業給付についても同様の緩和 |
育児・介護休業等に関する規則の規定例
https://jsite.mhlw.go.jp/aomori-roudoukyoku/content/contents/001064739.pdf
2022年10月1日施行
出産直後の育児休業の枠組み『産後パパ育休』の創設
対象期間 | 出生後8週間以内 |
取得可能日数 | 4週間まで |
申し出期間 | 休業の2週間前まで ただし、雇用環境の整備などについて、 法を上回る取組を労使協定で定めている場合は1か月前までとすることができる |
分割取得 | 2回まで取得可能 (初めにまとめて申し出が必要) |
休業中の就業 | 労使協定を締結している場合に限り 労働者が個別に合意した範囲で休業中に就業することが可能 |
従来の育児休業制度とは別で取得でき、産後間もない期間の休業制度として新設されたのが産後パパ育休とも呼ばれている「出生児育児休業」です。
出生後8週間以内に4週間まで、最大で2回に分割して取得可能で、2回に分ける場合は「いつ休業しいつ就労するのか」を最初にまとめて申し出る必要があります。
通常の育児休業と異なり休業中の就業も部分的に可能となっていて、労使協定をあらかじめ締結し労働者の意向と合意がある場合に限り、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分まで就業させることが可能です。
また、労使協定を結んでいれば雇用1年未満の従業員・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員等を制度の対象外とすることができるのは、通常の育児休業制度と同じです。
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
育児休業の分割取得が可能に
育児休業制度 | これまで | 2022年10月1日〜 |
---|---|---|
対象期間 | 原則子が1歳(最長2歳まで) | 同じ |
申し出期間 | 原則1か月前まで | 同じ |
分割取得 | 原則不可 | 分割して2回取得可能(取得の際にそれぞれ申し出) |
休業中の就業 | 原則就業不可 | 同じ |
1歳以降の延長 | 育休開始日は1歳、1歳半の時点に限定 | 育休開始日を柔軟化 期間の途中で配偶者と交代して育児休業を 開始できるようにする観点から配偶者の休業の終了予定日の翌日以前の日を、本人の育児休業開始予定日とすることができる |
1歳以降の再取得 | 再取得不可 | 特別な事情がある場合に限り再取得可能 |
これまでは、育児休業の分割取得は原則できませんでしたが、今回の改正では夫婦ともに2回まで分割して取得できるようになります。夫婦が育休を交代できる回数が増えるほか、片方が長期の育児休業ができない事情があったとしても、特にサポートが必要な時期や配偶者の職場復帰等のタイミングに合わせて2回取得する、といったこともできるようになりました。
また、保育所に入所できない等の理由で育児休業を1歳以降に延長した際の「育児休業取得開始日」も柔軟化されます。これまでは育休開始日が「1歳」または「1歳半」の時点に限定されていたため、夫婦のどちらかが職場復帰する場合はもう1人が半年間ずっと休業するしかなく、途中で交代することはできませんでした。改正後はこの『各開始日でしか夫婦が育休を交代できない』という制度の問題が解消され「1歳~1歳半」「1歳半~2歳」の各期間内で途中交代ができるようになります。
2023年4月1日施行
育児休業取得状況の公表の義務化
これまでは厚生労働大臣から認定された子育てサポート企業「プラチナくるみん企業」のみが公表していた育児休業等の取得の状況が、従業員数1,000人以上の企業を対象に公表が義務付けられることになります。
公表内容 | 男性の育児休業等の取得率 または 育児休業等と育児目的休暇の取得率 |
公表方法 | 一般の人が閲覧できる場所に掲載 ・ホームページ ・厚生労働省運営「両立支援の広場」 など |
アルバイト・パートには適用される?
アルバイト・パートは「有期雇用労働者」にあたりますので、今回の変更ももちろん適用されます。有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件から「引き続き雇用された期間が1年以上」が削除されたことにより、無期雇用労働者と異なる要件はそれぞれ1項目のみになりました。
育児休業:子が1歳6か月に達する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと
介護休業:介護休業開始予定日から 93 日経過する日から6か月を経過する日までに、労働契約が満了することが明らかでないこと
この条件緩和の狙いは、当然ではありますが「雇用形態に関わらず育児・介護休業を取得しやすくする」こととされています。しかし期待の声もある一方で、株式会社マイナビが実施したアンケートでは、この改正を踏まえて育児・介護休業が「取得しやすくなると思う」と回答した有期雇用労働者(非正規雇用者)は3割弱にとどまっているようです。
「自分からは言いだしにくい」「退職をうながされそう」などといった回答からも、有期雇用労働者にとって「育休は取りづらいもの」というイメージが根深いことが伺えます。
背景の章でご紹介したように、近年の採用市場では「育休が取りやすい会社かどうか」も会社選びの重要なポイントとなってきています。正社員だけでなくアルバイト・パートなどの有期雇用労働者に対しても、育休取得の環境整備や制度周知を徹底し、「育休が取りやすい職場環境」をアピールすることが、今後の人材採用や定着のポイントになっていきそうです。
違反した場合の罰則は?
違反した場合は労働局などの行政から「報告の徴収」「助言」「指導」「勧告」がおこなわれ、従わない場合は企業名などが公表されることになります。求められた報告をしない場合、虚偽の報告をした場合は最大で20万円の過料が課せられます。
まとめ
子育てしながら働くことが「当たり前」となった今の日本では、育児と仕事の両立支援が必要不可欠です。
企業としては、改正のたびに細かい対応が必要だったり、取得者が増えれば社内の急な人員調整が増える……など、大変な面もあるかもしれません。しかし、気持ちよく子育てができる社会づくり・育児休業がとりやすい職場づくりは、大切な人材の定着率向上にもつながります。
長く就業し、会社をよく理解してくれている人材は、企業にとってかけがえのない大きな財産となりますので、ぜひ前向きに取り組んでいきましょう。
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