経営理念は、従業員のエンゲージメント向上や定着に大きく影響する要素の一つと言え、経営理念の明確化や浸透に取り組む企業も昨今増えています。
そこでこの記事では、経営理念の概要や企業理念との違いを踏まえつつ、重要性や浸透させるポイントをわかりやすく解説します。
最後に経営理念浸透の成功事例もご紹介しているため、ぜひご一読ください。
経営理念とは
まずは経営理念とは何かを踏まえながら、企業理念などとの違いを見ていきましょう。
経営理念の概要
経営理念とは、経営者が企業を経営・管理していく上で、大切にしたい価値観や考え方を表した概念です。
「どういった考えや価値観に基づいて経営していくのか」を示すことで、経営判断の軸とするとともに、企業活動における認識を従業員との間ですり合わせ、全社での方向性を統一するために策定されます。
経営理念は経営者個人の考え方を表したものであるため、経営者が変われば経営理念も変化する点は留意しましょう。
経営理念と企業理念の違い
経営理念と類似した概念として企業理念があります。
企業理念は企業としての存在価値やあり方を表した概念であり、多くは創業者の意思や哲学などが込められています。
たとえ経営者が変わっても、大きく変わることはありません。
ただし、実際のところ経営理念と同じような位置付けで捉えられているケースも多く、厳密に区別することは難しいと言えるでしょう。
経営理念はアルバイトの定着にも役立つ
経営理念は経営者の考えや価値観を社内に提示する上で有効な概念ですが、何も正社員だけに作用するものではありません。
アルバイトやパートなどの非正規社員にとっても、経営理念の存在やその内容は大きく影響を与えます。
意義のある経営理念を掲げ、社内へ浸透させることができれば、正社員は勿論、アルバイト従業員の
モチベーションや定着率の向上を実現できるでしょう。
経営理念の浸透が重要である理由
ここで経営理念の浸透が重要である理由をご紹介します。
理由①:従業員の認識や意志を統一できる
一つ目の理由は従業員の認識や意志を統一できるという点です。
経営理念は企業経営の在り方を明示するものであるため、しっかりと社内に浸透させることで、従業員間の認識のバラつきなどを防ぐことができます。
また企業として向かうべき方向性や従業員の意志も統一できるため、組織としての一体感を醸成できるでしょう。
理由②:行動指針や判断基準が明確になる
次に挙げられる理由は、行動指針や判断基準が明確になるという点です。
経営理念は「経営者が企業経営においてどういった点を重視しているのか」を表したものであるため、従業員の業務における行動指針の前提として活用できます。
また業務上難しい判断を迫られた際、経営理念を判断基準として活用することで、上司などの判断に依存せずに、自主的に行動してもらえるようになるでしょう。
理由③:エンゲージメントや定着率が高まる
エンゲージメントや定着率が高まる点も、重要な理由として挙げられます。
従業員にとって共感しやすい経営理念を掲げて浸透させることで、自社で働くことの意義などを感じてもらえるようになり、従業員エンゲージメント(企業に貢献したいという意欲)の向上も期待できます。
エンゲージメントの高い従業員は離職しにくく、定着率の改善も実現できるでしょう。
理由④:企業ブランドを確立できる
続いて挙げられるのは、企業ブランドを確立できるという点です。
経営理念は企業ブランドの重要な構成要素の一つであるため、明確化しておくことで、ブランドとしてまとめていく際に理念整理をする手間を省くことができます。
また経営理念が十分に浸透している場合、社内に対して実施するインナーブランディングの効率が飛躍的に高まることも期待できるでしょう。
その結果、外部に対して実施するアウターブランディングにもスムーズに移行でき、企業ブランドを確立しやすくなると言えます。
経営理念が浸透しない主な原因
ここで経営理念が浸透しない主な原因を確認しましょう。
原因①:経営理念を掲げて満足してしまう
経営理念が浸透しない原因としてまず挙げられるのは、経営理念を掲げただけで満足してしまうという点です。
経営理念は掲げただけで、自然に浸透していくものではなく、浸透させるために様々な施策や行動をしなければなりません。
もし浸透させるためのプロセスや努力を怠ってしまうと、経営理念は簡単に形骸化するでしょう。
原因②:抽象的でわかりにくい
抽象的でわかりにくい経営理念も浸透しにくいと言えます。
掲げている経営理念が抽象的すぎたり、難しい言い回しで表現してしまったりした場合、たとえ浸透させるための施策を展開しても、従業員が十分に理解できない可能性が高まります。
従業員が経営理念について深いレベルで理解しなければ、浸透したとは言えません。
原因③:経営理念と実態がずれている
次に原因として挙げられるのは、経営理念と実態がずれているという点です。
どれだけ素晴らしい経営理念を掲げていても、実際の経営方針や計画、マネジメントの仕方が理念からずれている場合、従業員に経営理念が浸透することはありません。
むしろネガティブな印象を抱かれてしまい、離職やパフォーマンスの低下に繋がってしまうでしょう。
原因④:行動指針や社内制度に落とし込めていない
原因の最後にご紹介するのは、行動指針や社内制度に落とし込めていないという点です。
経営理念を浸透させると言っても、毎朝ミーティングで唱和したり、経営者が口頭で何度も伝えたりするだけでは決して浸透しません。
従業員が取るべき行動指針や評価制度などに落とし込まなければ、経営理念は形骸化してしまいます。
経営理念を浸透させるためのポイント【策定編】
ここからは経営理念を浸透させるポイントについてご紹介します。
まずは経営理念を策定する段階でのポイントを確認しましょう。
ポイント①:端的でわかりやすい表現にする
一つ目に挙げられるのは、経営理念を端的でわかりやすい表現にするという点です。
複雑で抽象的な表現をしたり、下手に英語やカタカナ用語などを用いたりすると、結局何が言いたいのかわからない理念になってしまいます。
そのため経営者の考えを端的に示すことは勿論、従業員の視点でわかりやすくシンプルな表現で策定することが、浸透させる上での大前提となるでしょう。
ポイント②:企業の実態や時代のニーズを踏まえて策定する
次に挙げられるのは、企業の実態や時代のニーズを踏まえた経営理念を策定するという点です。
策定した経営理念が企業の実態からかけ離れていたり、時代錯誤になっていたりすると、いくら努力したところで浸透することはありません。
そのため企業の実態を見極めつつ、時代の状況・ニーズなどもしっかりと盛り込んだ経営理念を掲げることが重要になるでしょう。
ポイント③:背景やストーリーを別途策定する
経営理念の背景やそこに込めた想いなどをストーリーとして策定することも、重要なポイントになります。
経営理念は基本的に、1〜3文程度の長さのテキストで表すことが多くなるため、理念に込めた思いや背景などを全て含めることができません。
理念に込めた背景やその考えに至るまでのストーリーを解説した資料を別途用意し、補完することで、より効果的に浸透させることができます。
経営理念を浸透させるためのポイント【考え方・行動編】
続いて経営理念を浸透させる上で重要となる、経営者の考え方・行動のポイントをご紹介します。
ポイント④:継続と一貫性を意識する
経営理念を浸透させるには、継続と一貫性を意識する必要があります。
経営理念の浸透は一朝一夕に実現できるものではなく、継続的に一貫して伝えていくことで、少しずつ浸透していくものです。
経営者もその点を十分に理解した上で、中長期的な視点を持って浸透に取り組む必要があるでしょう。
ポイント⑤:率先垂範する
次に挙げられるのは率先垂範するという点です。
経営者自身が経営理念で掲げている内容に基づいた言動をしていなければ、従業員に浸透させることはできません。
経営理念を繰り返し伝えるとともに、経営者自身が経営理念を率先垂範し、従業員の手本となることが求められます。
ポイント⑥:まずは管理職への浸透に注力する
管理職への浸透に注力することもポイントとなります。
経営理念の社内浸透を図る際、全従業員に一気に浸透させることは難しいと言えます。
そのため、まずは現場従業員に対して影響力の強い管理職に対して、重点的に経営理念を伝え、浸透させることが重要になります。
管理職の経営理念への理解が深まれば、自ずと現場への浸透も進むと言えるでしょう。
経営理念を浸透させるためのポイント【施策・制度編】
経営理念を浸透させるために必要な施策や制度面に関するポイントも押さえておきましょう。
ポイント⑦:行動指針やマニュアルを策定する
経営理念を浸透させる上で、行動指針やマニュアルは重要な役割を果たします。
経営理念を前提に、具体的な行動指針や業務マニュアルを策定することで、従業員が企業理念を実践しやすい環境を構築できます。
特に業務マニュアルは各業務において経営理念をどのように実践すべきかを伝える上で、非常に有用なツールとなるため、しっかりと作り込みましょう。
ポイント⑧:社内制度に反映させる
社内の各制度に経営理念を反映させることも重要なポイントです。
経営理念に基づいた行動を適切に評価する人事制度は勿論、経営理念を体現した従業員を表彰する制度など、社内制度を経営理念に紐づけて整備することで、現場に浸透させることができます。
現場従業員にとっても、経営理念を実践することへのモチベーションになるため、経営理念と各種社内制度は連動させましょう。
ポイント⑨:各部署に理念リーダーを設置する
次に挙げられるのは各部署に理念リーダーを設置するという点です。
経営理念を深く理解し体現するリーダーを養成し、各部署に配置することで、現場における理念浸透の旗振り役として、活躍してもらうことができます。
管理職を理念リーダーとするケースもありますが、管理職や幹部候補となる優秀な社員にリーダーを任せることで、効果的な浸透を図りつつ、理念を深く理解した管理職の養成も実現できるでしょう。
ポイント⑩:勉強会やグループワークを定期開催する
ポイントの最後に挙げられるのは、勉強会やグループワークを定期的に開催するという点です。
経営理念や実践例などを体系立てて学ぶ勉強会やグループワークを定期的に開催し、従業員に参加してもらうことで、経営理念の浸透を図ることができます。
単に経営者や幹部が教示する座組で実施するのではなく、勉強会における講師やグループワークの中心的な役回りを現場従業員に任せることで、経営理念の自主的な学習も促すことができるでしょう。
スターバックスに学ぶ経営理念浸透の成功事例
大手カフェチェーンであるスターバックスでは、数多くのアルバイト従業員が理念を深く理解し、体現する存在として活躍しています。
その背景には、経営理念の具体的な行動指針への落とし込みと充実した研修制度があると言えるでしょう。
同社は「この一杯から広がる 心かよわせる瞬間 それぞれのコミュニティとともにー 人と人とのつながりを生み出す無限の可能性を信じ、育みます」という経営理念(OUR MISSION)を掲げており、それを前提として以下の行動指針を定めています。
- CRAFT:思いをかたちにする
- RESULTS:成果に責任を持つ
- COURAGE:勇気をもって向き合う
- BELONGING:互いを理解し認め合う
- JOY:楽しむことを力に
さらに同社では入社後約40時間に及ぶ導入研修を実施しており、その中でスターバックスの理念や行動指針、実務に関するノウハウをしっかりと学んでいく仕組みを取っています。
これらの取り組みによって、現場を支えるアルバイトに対して経営理念を深く浸透させ、今日のブランド価値や発展に繋げていると言えるでしょう。
<参考:Our Mission, Promises and Values|スターバックス コーヒー ジャパン>
まとめ
今回は経営理念をテーマに、その重要性や浸透させるポイントをまとめてご紹介しましたが、いかがでしたか。
経営理念は明文化されているかどうかに関わらず、経営者の中に必ず存在します。
ただし経営理念として明文化しなければ、従業員が理念を理解して行動することは難しいと言えるでしょう。
経営理念として明文化し浸透させることで、はじめて企業にとって有益な効果を発揮するようになります。
ぜひこの記事を参考に、経営理念の見直しや浸透に取り組んで頂ければ幸いです。